海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。

おばちゃん危機一髪!

もし、ウエスト・コート・シリーズが映画化されるとしたら、おばちゃんは吉田羊でおじちゃんは伊原剛志がいいかな。NHKの「ふたりっ子」はKTVで放送されたので、芸能音痴のおばちゃんも見ていた。伊原剛志のファンよ。ウフフ、還暦過ぎおばちゃんの妄想。

さて、店舗を経営しているあいだ、修羅場というのはいくつもあった。その中でも最大級がガス事件

ビルが倒壊する!?

土曜日の午後、仕入れが終わってフリーウエイを下っているとおばちゃんの携帯が鳴った。管理会社のフレッドだった運転中だし10分ほどでモールに着くからおばちゃんは電話を取らなかった。ウエスト・コートに着くとまず隣のパン屋にコーヒーを買いに行った。

ジャネットはいなくて、クリスが神妙な顔をしておう、来たか。フレッドからもう話は聞いた?と言うので何が?というと大変だよ。ガス漏れ!お宅からガス漏れだって。

おばちゃんはぽか~んとしてガス漏れ?!実は、その朝の7時クリスがパン屋をオープンした時にはクリスには分からなかったけど、ペストリーを買いに来る客が、店に入るとガスくさいガスくさいと言うんだって。それでクリスがガス会社に電話をして、エマージェンシー班が派遣された。

クリスのユニットからももちろん臭ったが、検知器で調べると漏れ箇所はどうもパン屋ではないらしい。ウチのユニットから漏れているらしい、と。ガス会社はとりあえずウチのガスの元栓を閉めて、クリスは管理会社のフレッドに電話をしたというわけだった。

はぁ、事件はだいたい金曜か土曜に起こるのだ。ガス漏れなら今夜の営業は無理でたぶん日曜日も修理が来ないから週末はこれで終わった!と絶望した。

ウチのユニットに戻ってガス会社に電話をし緊急班はやってきた。ウチのガス管はユニットの裏から建物に引き込まれ天井裏を通って玄関先まで施設されている。ガス会社のおっさんは元栓を開けて、ピカピカする検知器を手に裏口から入ってきた。

そして天井を向いてこの辺が怪しいとスト―レージで言った。この辺?
そうだ、この検知器の数値だとかなりの量が漏れてる。
ガスの元栓はもう一度締めるのでプラマーを呼んで修理してね。

ちょっと待って!ガス管の修理もしてくれるんじゃないの?ガス管なのになんでプラマー(水道屋)なのよ!!!えぇ?
アメリカでは水道屋がガス管の修理をするんだよ。

Shit!こんな土曜日の午後にどこの水道屋が働くかよ。マークだって来ないかもしれない。

マークは管理会社のフレッドがウエスト・コートのテナント御用達しとして新しく選んだプラマーだった。珍しく誠実で料金もぼったくりではなかった。ただ、土曜日の2時に来てくれるかどうか。ところが奇跡のようにマークは捕まったしすぐ来てくれた。

ガス屋はこの辺だって言うの。おばちゃんはスト―レージの天井を指さして、マークは見てみよう。脚立に上って天井のパネルをずらした。フラッシュライトを取り出して、くらい天井裏を照らした。

マークがうわぁ~と叫んで脚立ががたついた。どうしたの?
俺は嫌だ、こんな怖ろしいこと。脚立を転げるように降りると、
俺は帰る!いつクラッシュするか、怖ろしい。こんなことできるか、、、。
と逃げかかるマークをおばちゃんは必死両手で押しとどめて。
まって、待ってどうしたの?落ち着いて!なんなの一体?

するとマークは、ガス管は切断されてるんだ。それも建物の「梁」が落ちてきて切断した。建物の横の一番長い梁が落ちて、建物の壁と縦の柱の間は繋がってなくて、すき間から外が見えると!

クラッシュする!となおも逃げようとするマークを押しとどめて、待って、マークそんな大変な事は報告しなきゃいけない。私がフレッドに説明するよりもあなたが説明して!私じゃムリ。ね、あなたが電話したほうがいいのよ。

マークは少し落ち着いて、分かった。俺が電話を掛ける。おばちゃんは店舗の電話を持ってきてマークに差しだした。マークは管理会社のフレッドに自分が見たものを説明した。電話の向こう側のフレッドも報告に凍ったよううだった。フレッドはすぐ来るって。サンディエゴからなら最短でも50分はかかる。2時半過ぎだった。

マークはフレッドが到着するまでどこかに避難し(当たり前だ)フレッドは4時に到着した。マークから報告を受けると自分でも脚立に上り、懐中電灯で落ちた梁と歪んで外が見える壁と構造を見て、よく日に焼けた白人が白っぽくなって裏路地に出た。アーキテクトを呼ばないと。


建築家は6時に来た。

おばちゃんたちとマークは、フレッドが建築家に避難命令を出さなくてもいいのか?と聞くのを息をひそめて聞いていた。

それはそうだ。土曜日の夕方で本屋も美容院もエクササイズも客がいて営業しているのだ。建物がクラッシュして死人怪我人がでたら、間違いなくモールのオーナーと管理会社は告訴される。何十となく。

地獄の窯のふたが開いてごうごう燃える火が見える。建築家は顔をこわばらせて大丈夫だと言った。本当か?本当に避難(Evacuate)させなくていいんだな? 建築家は、ただ、緊急に応急処置が必要だと言った。
大工がいる、それもすぐに。

建築家とフレッドがまた電話をかけ始め土曜日の夕方だというのに、大工のクルーが一そろい集まった。7時だった。

緊急招集

アメリカ人がたった4時間で緊急事態に集合するなんて想像もつかなかった。それも土曜日の夜7時に。

フレッドと建築家と同じく大工の監督?が梁が落ちてしまった築40年の木造2階建て商業ビルをどのように応急処置を施すのか、おばちゃんとおじちゃんは目立たないように隅で息をひそめていた。

だって、ウチの運命はどうなるのよ!ウチが突っ込んだ開業資金は潰れっちゃったら回収できないじゃない。

建築家はジャッキ・アップだとフレッドに言っていた。ジャッキ・アップ?!
この一階に12もテナントが入ったビルの柱をジャッキアップ?
男たちの集団は薄あかるい裏路地で動き始めた。おばちゃんもおじちゃんも昼過ぎに到着してから何もたべていない。でも空腹も喉の渇きも何も感じなかった。

一時間後に資材が集められ緊張した男たちは口を利かずに動いていた。8時過ぎにはフレッドは帰ったようだった。

おばちゃんたちは帰る決心も付かず、裏口を開けっ放しで作業しているのだから、ほっといて帰ることもできないし。崩壊しそうだったビルの戸締りをして意味があるのか考えると頭がおかしくなりそうだった。

11時にも12時にも作業は終わらなかった。1時過ぎにもう今夜出来ることは全部終わらせたと建築家が言って、疲れ切った男たちは口を利かずに引き上げた。緊張と疲れで無感覚になっておばちゃんたちもウチに帰った。

現場にいたというのに何をどのように処置したのか全く分からなかった。避難命令を出さず、建築家も大工も応急修理が終わったというなら、ウチの営業はできるのだろうか?

いま天井裏に起こっているDisasterは、天井板を閉めて目をつぶれば、一部の人間しか知らず天井板から下は日常が広がっているのだ。おばちゃんは日常の端に立っていいるのか、地獄の窯のフタの上にいるのか見当がつかなかった。

営業再開

怖いのでおばちゃんは日常の端に戻ることにした。マークは切断されたガス管の修理をしていない。明日は日曜日で誰も仕事をするはずがない。と言うことは明日は営業中止。火曜日にマークを呼んでガス管を直して、ガス会社に元栓を開けてもらって、フレッドと協議して果たしてビジネスを再開できるか?

月曜日に顔を出して隣のクリスに大雑把に事情を説明した。クリスはいつも夕方4時過ぎには自宅に帰り、夜は何回もパンだねのガス抜きと仕込みをするのに戻って来るから土曜日の夜の作業は知っていたと思う。

うちとパン屋は壁をシェアしているので、本格修理となればクリスにも当然管理会社から連絡があるはずだ。


フレッドは必要な情報も出し惜しみするタイプだ。おばちゃんなどの言葉に訛りがあるような移民を内心ではバカにしているので、まかり間違っても自分からテナントの心配を解消してやろうなんて親ごころは無かった。いつも命令を上から下すだけだった。

火曜日の午後にマークに来てもらって、折れたガス管をつないでもらった。マークが言うにはガス管の切断原因は建物の梁なので、大家の所有物だから、マークの修理代は大家から出るとフレッドから言われたという。

ふん、当然よね。フレッドは本格修理はプラニング中なのでまだ発表できないという。どのくらい待つのか聞いたら、2週間待てと。

傾いて崩壊するかもしれなかったビルの一階で、応急修理のジャッキアップをして本当に安全なのだろうか?人を入れて営業してよいのだろうか?
考えると危機感でしびれたようになり、思考が停止してしまうのだ。恐怖心を押さえつけて日常の端にしがみついていることにした。

水曜日に出勤してガス屋を呼んでガスの元栓を開けてもらった。午後からやっと営業が再開できた。土曜・日曜と火曜に水曜の午前中。この間が営業不能だった。事業保険を使って休業補償を申請するのだ。

保険屋と戦う

原因は明らかだからおばちゃんは強気だった。保険の査定人はいつも人を詐欺師のように扱う。何にも仕事をしない代理店のジェフを切って、日系の保険屋に変えたにも関わらず、保険屋は保険屋だった。

申請フォームを送るからそれに記入して返送しろと。返送すると、休業補償の算定をするために過去3か月の売り上げとタックスリターンのコピーを送れと言ってきた。おばちゃんはメールに添付してすぐ送った。

補償額が決定したので知らせると査定人エミリーから返事が来た。
少ない!土曜日・日曜日が入っているのに少ない。計算してみると週末も平日も平均して査定しているのが分かった。なめられているね。

すぐエミリーにメールを書いた。アンタの査定に納得できない。ウチのビジネスはエンターテインメントである。週末の売り上げは平日の倍か3倍だ。土・日は土・日の平均で平日は平日の平均で支払うべき。例えば、あなたがテロリストの爆弾で吹っ飛ばされたとして、指を失ったら、親指と小指を同じ金額で査定するのか?

エミリーは不承不承あんたの主張を認める。査定はやり直して金額はまた通知する。ただ、二度と下品が例えはしないように。一体どこが下品かしら、ねぇ。


また工事現場だよ。
大規模修復でモール全体が工事が終わったと思ったら今度はおばちゃんのユニットと隣のパン屋が工事現場になる。二つのユニット共有の壁を裏口に近いところで3メーターほどぶっ壊し、本格工事の作業用のワークスペースとなる。邪魔になる器具はすべて撤去せよと命令が来た。

撤去する器具がおばちゃんのビジネスに必要なのかそんなことはフレッドと管理会社にはどうでもいいのであった。営業ができないのであれば、それはそのビジネスの都合であって、事業保険などに請求すれば?管理会社としては大家の財産であるビルを守るために必要な処置を取るだけ。

疑惑の保険エージェント

朝出勤すると、ジャケットをスト―レージに仕舞い、ちょっと身を乗り出すとぶち抜いて丸見えになったパン屋の奥スペースが見える。パティシエのベルギー人がいるのでハイとあいさつをして、クロワッサンはまだある?一日中ベーカリーの甘い匂いがウチのユニットにも漂うのだった。

不自由で腹立たしい4週間が終わって修復が済んだ。どうやら地獄のフタは開くことがなく日常が続くようだ。フレッドではなく管理会社の社長のローランドが一人の男を連れてやってきた。

おう、元気か!これは俺の兄弟で保険屋だ。修理が終わったビルの査定に来た。なに、写真を何枚か撮るだけだから。

ふう~ん。
自分の兄弟が火災保険の引き受けをし、損害の査定もできれば、さぞかし便利だろうね。

おばちゃんはスタートアップの時、ユニットの営業許可を取るためシティの建築部に行って、構造のリモデルはしないことでユニットの使用許可を申請した。

ペイントくらい塗り替えるかもと口を滑らせたら窓口のお兄ちゃんが「壁のペイントの厚さはXXミリまでだったっけ?」と、なん十冊もある規格ブックの一つを開こうとしたので、慌てて止めた。

いや、ペイントは塗り替えないし。全然変えずにやります、と。隣にはブループリントを持って並んでいる申請者の列があった。建築物の構造を1ミリでも変更する場合は、窓口に申請書を出して規格に合った変更かどうかしらみつぶしに調べられ、ダメ出しをされればブループリントを書き直し。

大規模工事なら、中途でシティのインスペクションが入り、パスした場合に次の工事過程に進める。梁の修復工事が始まってからシティのインスペクターは一度でも来ただろうか?

おばちゃんたちは9時半に出勤するので、もしインスペクターが朝に来た場合は分からない。隣のクリスなら5時からパンを焼き始めるから絶対見逃すはずがない。

ローランド達が帰ってから、隣のクリスに声をかけてねぇ、この修理ってシティに申請しなくてもいいのかしら?シティのインスペクターって来た?

インスペクター?一度も見てないよ。ふぅ~ん。おかしい。
おばちゃんたちは情報から遮断されていたから何をどうするということもできず日常が戻ってきて忙殺された。

しばらくたったある夜、自宅に帰った時にドアに名刺が挟まっていた。California Insurance Fraud Investigator裏を返すと手書きで”JohnSmmith帰ったら電話をくれ。

”そそっかしいガバメントのエージェントが番地も確認せずドアに挟んでいったものだろう。ウチはJohnSmmithじゃないし。おばちゃんは貴重な名刺の端を爪で挟んで大事に仕舞った。to be continued

トリスタンとミコ

うちのビジネスにはトリスタンというメキシカンがいて、物静かでよく働いてくれた。

ビジネスを始めたあと、思ったより忙しく手が足りなくなったのでスペイン語と英語で求人広告を書いて、メキシカンが多く住むアパートの近くに張ったりした。問い合わせがあるのだが、どうも採用までたどり着かない。
おじちゃんもおばちゃんも休みが取れず疲れ切ってしまって、
どうしてもフルタイムがもう一人必要だった。

するとトリスタンのほうから飛び込んできた。いきなりドアを開けて「仕事無いけぇ~?」おばちゃんは、これは神のお導き!と気づき
「ようおこし。まぁ、こっちゃへどうぞ」とトリスタンを導き入れ捕まえた。
「いつから働ける?」
「週末だけなら」
「さよか、ほな来週待ってるでぇ!」

平日は他のビジネスで働いているので、週末だけ働くという。しばらく働きを観察していて、おじちゃんに使えるかどうか聞くと、何とかなるだろうとの返事。頃をみて、
「なぁ、トリスタン。あんた別のところでいくらもらってるねん?」
「2000/月で毎年$50ドルずつ昇給する約束アルヨ」
「ほう、さよか。ほなうちもおんなじだけ給料をあげるし、+αでフルタイムで週末まで、どや?」
「シ、セニーョラ、ムチャスグラシアス Si señora. Muchísimas gracias!」契約成立である。

トリスタンは無口なメキシカンだった。どういうことかというと泣かない赤んぼくらい珍しい存在なのだ。メキシカンといえばヒバリかスズメかというくらいにぎやかで囀りまくりあっという間に中国語も韓国語も覚えてしまい、謝謝とかXXハセヨとか黙れと言っても喋りまくる語学の達人か!くらいな人たちだったのに、ウチのトリスタンは静かだった。

「あー、マーム俺、シンコデマヨは来れないである。LAでデモあるヨ」
当時の大統領スモール・ブッシュが移民政策を強化して、怒ったメキシカンがLAでデモを計画していたから。
「さよか。シ、Ok」てな感じで日本語は無理でも英語は覚えるだろうと思っていたら、無口なぶん語学は苦手なのか5センテンス以上の英語は何年たってもなかなかしゃべれないのだった。

トリスタンも自分の語学下手を知っているのか、仕事場にスペイン語/英語辞書を持ち込んでいて暇なときに勉強をしていた。ある時、昼休みに休憩に行っていいよとというとトリスタンは辞書を忘れていった。

おばちゃんは何気なく辞書を見てみると、ペンが挟んであった。
何を勉強していたのかしらん?とペンのあるページをパタリと開くと下線を引いた単語が目に入った。
[rise]
おばちゃん、おう!思いましたね。
給料を上げてほしいんかい?
おばちゃんは、辞書をそっと閉じた。

ミコちゃん

ウチにはミコちゃんという子もいてこのミコちゃんもまた逸話の持ち主だった。面接のときにハキハキと返事をするので採用した。最初のシフトで自らメモ用紙を取り出し、おばちゃんのいうことをせっせとメモを取るので、これは仕事が期待できるな、と勘違いしたのだった。

ミコちゃんは生れた時から2本ぐらいネジがついてなくて、母親からはうるさいほど「お前は不注意」だからといわれて育ったという。新しいことを3つ聞くと最初の1つを忘れるので、メモ用紙は彼女の人生に必須なのだった。

くるくる動くのだが何故か空回りしていることが多い。黙って立ってろというと、頭の中の音楽を聴いているように膝や足が何かのリズムをとっていて、突然雀が飛び立つように動く。

メモ用紙や電卓やペンも頻繁に落とす。客からの預かり物を落として割る。掃除機を引っ張りすぎて壊す。製品を間違える。キャッシャーを打ち間違える。金額も間違える。釣銭も間違える。ありとあらゆる間違いをして、おばちゃんはこんな間違い方もあったのか?という目も覚める奇想天外な間違いを起こしてくれるので、そのしりぬぐいをする。

再び失敗をすることがないように操作マニュアルと業務システムを修正(ミコちゃん仕様)する。とにかくミコちゃんが直感的にすんなり業務ができたら、それは誰でも使える優秀なシステムで普通の新人なら楽勝だった。

ミコちゃんが意図してやっているのではないということはわかっているし、人手が少なかったからすぐ首にはできなかった。ガチャンと音がするとスイマセン!という謝罪が聞こえてミコちゃんなのだった。

ある日、ミコちゃんがシフトでないのに通りすがりで子供を連れて寄ってくれた。子供は5歳でミコちゃんよりしっかりしているように見えた。
ミコちゃんは横浜で高校を卒業して日本人の男性と結婚・離婚して、同じく離婚したお母さんと一緒にアメリカに来た。どういうことかというと、アメリカ人と結婚した知り合いの中国人が、日本にいたお母さんの写真を見せたらアメリカ男が乗り気になって呼び寄せ結婚したという。

中国人のお母さんはと結婚相手とは結婚するまであったことがなく(戦前ではないです21世紀の話)写真結婚みたいなの。そこにミコちゃんと娘がオマケでくっついてきた。

ミコちゃんの色彩センス/美的センスは割とよくて、キレイ目の色の服をスリムな体に合わせて着ていた。ある時は、レギンズとヘソ見せのホルターだけだったので、ミコちゃんこれからジムでも行くの?と聞いたら
いいえ、これは私の普段着です。

中国人の母の血のせいか、ミコちゃんの足はすんなりと伸びてまっすぐだ。
脂肪も全くついていないので、シャムネコのようにしなやかでエキゾチックである。この姿であちこち歩いたら男がよく釣れるだろう。中国人の母はそれを期待しててそのままにしているのかな?

ネイルなどの綺麗な作業は好き!といっていたから、美容系の仕事についたら才能が発揮できたかもしれない。本人はハーバードに入学してジャーナリストになりたいとか、保母さんになりたいとか言っていたが、、、。
ハーバードがどんな大学か知っているとは思えないので論外として、
娘が5歳まで生き延びられたのは、
①娘が丈夫、で
②ミコちゃんの娘で耐性があった、からだと思えるので、
生き物を預かる系とか病院系はやめてほしい。

そんなミコちゃんはトリスタンとシフトが被ることが多かった。

トリスタンを雇ってすぐにトリスタンの最初の子供が生まれて、洗礼とお祝いで一日休みが欲しいというので、おばちゃんは隣のパン屋にケーキをオーダーしてトリスタンに贈った。
その時はたしか25・6歳だと思ったが、その後カトリックのトリスタンは順調に子供を増やし、3人くらいになっていたかもしれない。

トリスタンは文句も言わず、相変わらず真面目に働いていたが、おばちゃんとおじちゃんの目の届かないところでは、他の従業員に割と偉そうな口をきいていたかもしれない。自分がナンバー3だと思っていた節がある。


おばちゃんとしては、よく働いてくれるし感謝していたのだが、ある日ミコちゃんから話があるといわれた。
ミコちゃんは、何度も何度も同じ仕事を繰り返すと、やっと仕事のパターンが体にしみこむようで、一旦そうなると決められたことはこなせるようになっていた。せっかく使えるようになったというのに、
ああ、嫌よこのパターン。辞めるの?

ミコちゃんから聞かされたのは思いもかけない話だった。私、トリスタンからストーカーされているんです。
はぁ!?
トリスタンが好きだって言ってきてスト―レージで抱きしめられてキスされそうになったんです?はぁ!? ウチのスト―レージでか?

それにうちの母と義理のお父さんと一緒に日曜の朝に教会に行くと、出てきたところでトリスタンが待ってるんです。おばちゃん、いったいどうしたらいいですか?

う~んう~ん。
色恋の話はおばちゃんに一番縁遠い話だ。正直、知らんがな。と言いたいが何か事故が起こっても困る。

ミコちゃんは独身だけど、トリスタンはカミさんがいて子供も3人いるし、オペラのような悲劇は起こりそうでもないが。とりあえず、ミコちゃん来週のシフトはお休みして。その間に考える。

考えたところで、
トリスタンの色恋を覚ます方法はおばちゃん知らんし、シャムネコみたいなミコちゃんに風呂敷をかぶしておくわけにいかんし。知り合いのビジネスオーナーに話して、そっちでミコちゃんのシフトを増やしてもらい、
うちはエマージェンシー以外入れないことにした。

ず~っと後になってそのオーナーから聞けば、ミコちゃんはそっちでもなんかやったらしい。何も着ていないようなしなやかな肢体を見せびらかして、誰かがへっついてきたみたい。
どうやらミコちゃんは、メキシカン・ホイホイだったようだ

ブスのターニャ

ターニャはすっごいブスだった。
前の女の子が別の業種に移るので、代わりに仕事ができる子だと紹介してくれたのだった。

紹介者からブスだと聞いていて、ホントにブスだったので笑ってしまった。鼻が思いっきり平たく胡坐をかき鼻の穴も大きかった。一重の目は腫れぼったく細く口も大きくて、ただ色は白かった。

中国系のタイ人なのだという。大柄なのに動きはしなやかで、今まで一番仕事が早かった。素早く動いているように見えないのに、気が付くと仕事が終わっているのだった。

このターニャは妙に客受けが良かった。ブスなんだが愛嬌があって、客から好かれた。接客を見ていると、いかにも客が好きそうなことをいう。適当な調子がいいことを言う。

しばらくいると、化けの皮がすこ~しはがれ始めた。出勤時間が守れない。雨が降ると来るかどうかわからない。これは頭を抱えた。水曜日9時45分に(私がすでに出勤している時間だと知っているので)電話をしてきて、遅れる/風邪を引いた/だの

風邪なら這ってでも来い!と言ったら、前の晩からサンタモニカの家だから、そっち出勤するには、2時間かかると言われれば諦めるしかない。来れば仕事はできるから、首にする決心はつかなかった。

タイ人はもう一人いて、ターニャとも知り合いだったから、ピンに、そもそもなんであいつの家がそんなに遠いサンタ・モニカなんだと聞いた。結婚したアメリカ人のダンナが住んでいる家で、ターニャはシフトがない月曜から火曜にサンタ・モニカに帰るのだという。

OCの他の店でもシフトが入っているのに、なんだか変だ。もうすぐサンクスギビングだけどターニャはどうすんだ、とピンに聞いたら、OCの友達と遊ぶんだと言っていたよ。

私がサンクスギビングにサンタモニカにも帰らないんだって?そうしたら、ピンがやけに慌てて、早口で、夫婦だけど友達とも仲がいいから。
「へ~ぇ、サンクスギビングに夫婦一緒に過ごさず、別行動ね?」

次にターニャが働いているときにサンクスギビングはダンナと一緒じゃないんだって?ダンナとはどこで知り合ったの? どういう人?ターニャは落ち着いて、
「アメリカに来てからの長い友達。ネイティブアメリカンなの。」
”長~い、知り合い”で 結婚したと?!ダンナはもともとサンタモニカに家があったと、、、!ふ~ん。
それでグリーンカードは取れたのか?
「もうすぐ取れる」いくら払ったんだろ?

聞き間違い

世の中には聞き間違いで堂々巡りをしたりすることがある。ブスのターニャは雨が降ると出勤して来るか分からなくて非常に困った。

朝9時半にその日のシフトをキャンセルされてもおばちゃんが代りを探すのは非常に難しい。(それはブスのターニャも分かっていた)なのでウエブを見れば同僚のアクセスも分かるようにしておき、おばちゃんに電話を掛けるより、先に同僚にシフトの代わりを頼めと徹底させた。

ターニャはタイ系中国人だ。中国人はGの発音が弱くてGoが濁音無しの「コ」に聞こえることがある。それで9時45分に電話をかけてきて、今日は具合が悪い。仕事に行けない
ー:I’m not comming today.
  Are you going? Are you comming?と言うので
おば:Yeah I’m here already. もう仕事に来てっから。
ー:No, Are you going?
おば:I’m here. だから、来てっから。この堂々巡りを3分ぐらい続けて、

このバカ・ターニャ何を言っとるのか?とおばちゃんがキレかかった時ふいに分かった。ウチにはアユ子ちゃん(Ayuko)という子がいて、ターニャは
Ayuko is going.
と言っていたのだ。あゆ子ちゃんはターニャから電話を受けいて代りにシフトに入った。

これは聞き間違いと言うより、2世代にまたがっ伝え間違いの話。日本食レストランで昼ご飯をいただいていた時、斜め向かいに2世らしきおばさんが2人で席に着いた。おばさんは英語でチキンの照り焼きとサーモンのおにぎりを頼んだ。

おにぎりに関しては日本語だった。オニ・ギ~リって感じ。サーバーがオーダーの品をテーブルに置くと、おばさんはちょっと切れた。何よこれ、私はサーモンのオニ・ギーリを頼んだのよ。これはオム・スービじゃない。

サーバーの女の子は日本人で困惑して目を白黒させていた。おばちゃんと友達はブフォっと吹き出してしまい他人にたしなめることもできず笑いをこらえた。多分1世のお母さんから、丁寧に言う時は「お」を付けるのよと教わったに違いない。だから「にぎり」には「お」をつけたのだ。

1世のお母さんは「おにぎり」は「おむすび」と言う家庭だったのだね

プラマーの子

アメリカの水回りは要注意だった。
新築だって油断はできない。ウチの風呂の蛇口は赤いラベルが水で青から熱湯がでた。代々の持ち主は気にしていなかったが。

友達の家はコンドで隣の住人の部屋から水がしみ出てきた。さあ大変である。どこの水道菅が悪いのか。コンドの共有スペースの菅か、個人の所有権のある部分の水道菅か?
壁の中なので壁を壊すしかないのだが、水道や(プラマー)を呼ぶ費用、壊す費用をだれが持つか?誰も払いたくないので、誰もプラマーに電話してないのである。
結局、全員でミーティングしてプラマーを呼ぶ費用は壁を接するオーナーで負担して、修理箇所のオーナーが修理費を持つと決まった。

電話帳にはプラマーのナンバーがずらずらある。
おばちゃんもいろんなプラマーに来てもらった。おっさんが一人で人の家を訪れるとしたら、それはプラマーである。

「お前はプラマーの子」というアメリカのジョークがあったりする。アメリカの家は新築は少なくて、代々家に手を入れて売買するのが普通であったからどの家も、密かに爆弾を抱えているのだった。バケーションから帰ってきたら、リビングがプールになっていたという話もよく聞いた。

ジャネットはリビングの床下の水道菅が怪しくて掘り返さないといけなくて憂鬱そうだった。

ショッピングモールはジャネットの家より古いからもっと大変だった。リセッションで空いてしまったテナントを2か月無料にするとかあの手この手のプロモーションで広告した結果、大手のエクササイズ会社が2つぶち抜きで借りることが決まった。内装はほとんど終わりシャワールームとトイレの設置が残っている。

エクササイズ会社のマークは壁の中を走っているサビだらけの水道管を見て、危機感を覚えたに違いない。管理会社のフレッドにこのユニットの水道管は古くて信用できないと文句をいったのだろう、フレッドは安請け合いしてもしだめなら大家が修理費用を持つと言ったらしい。

新しいシャワールームとトイレの配管が完了して、蛇口をひねったら、壁から盛大に水が噴き出したそうだ。
もう一人のフレッド(同じ名前が多すぎ!)はプラマーでパン屋がたまに使っていてた。

このフレッドが恐るべきことに、このショッピングモール建設当時に水道管を設置した本人だった。ジャネットが聞き出したところ、ビルの建設当時から水道管の配管はヘンテコリンで、あっちこっちにつながっていない?行きどまりの?配管があるのだという

。二つばかりパーキングロットまで伸びてそこで盲菅なのだそうだ。ウチのユニットからも建物の外にでる菅があるそうだ。40年前の盲菅が地面の下でどうなっているかただ怖ろしいことである。

さらには、代々のテナントが水道管を継ぎ足し、合流させ、カットし、はては二つのテナントをぶち抜いた後に、また分割したりすると2つのテナントにまたがった管があるわけで隣のビジネスが水を流すと、こっちの水道管から下水に行くとか長年この建物の水道管を扱ってきたフレッドももう何が何やら分からんのだそうだ。

2年後、3つ隣りの本屋のブランドンのトイレが爆発し、ブランドンは新トイレと配管に2万ドルをつぎ込んだのであった。

アメリカで訴える1

弁護士のフジツボ村
それはビジネスが安定し始めて、3年ぶりくらいに半日休んで友達の集まりに出たのであった。自分にご褒美を上げるつもりで。そこで、友達の顔におかしな斑点があるのに気が付いた。勘のいいひとはお分かりだろうが、レーザーである。

日本人は頬・かん骨部分にシミができやすい。美白クリームを試すより、レーザーで焼くのが手っ取り早い。ただ、おばちゃんはその時初見でなんだろうと思ったのである。まずいくらか値段を聞いた。友人は顔全体で$350。カサブタが取れれば赤ちゃんのようなピンクの肌に戻るの!私は早速電話番号を控えた。

次の週に紹介されたエステで施術を受けた。ところが、カサブタがとれたにも関わらず、ピンクの皮膚でもなく薄茶色の肌が見えるばかりである。ダウンタイムがあるから、しばらく待たねばならいそうだが、。結論から言うと、シミはとったがその痕がレーザー焼けで色素が沈着してしまったのである。
Pigmentationという。

おばちゃんはいろんな薬や美容液を試したがついにUCLAの皮膚科の専門医に行った。大損害だわ。調査して分かったのは、カリフォルニア州でレーザー器具を操作できるのは医師だけである。

つまり、施術者のエステティシャンは、もぐりでレーザー治療していたのだ。おばちゃんはエステティシャンの監督庁California Board of Barbering and Cosmetologyにクレームをファイルしたのであったが、はかばかしい返事が来なかった。

CBBCはほっておいて、おばちゃんは弁護士を探し始めた。Medical Malpractice専門の弁護士である。
例によって、友人の弁護士に聞くと一人紹介してくれた。地図のプリントアウトを頼りに探すのだが、該当の番地の枝番がない。

おかしいなぁ、間違ったかな?おばちゃんは何度も弁護士事務所に行ったことがある。どこも、高層ビルか高級テナントに入っていた。
通りは住宅街で目に入る限り、玄関に芝生1階か2階建ての民家。どこにもビルがない。ぐるぐる回ると商業用ビルが見つかった。駐車場に止めて、とりあえず番地を聞いてみようとした。

クリニックのような作りだ。古い。ドアを入ると、驚くべきことにそこは本当にむかし歯医者かなんかクリニックだったようで、まさに昭和のお医者さんのようにすりガラスのちっちゃな引き戸の窓があり、まぎれもなくAttorney At Aawと書いてあって。超混乱しながら引き戸を開け、誰かいませんか?と呼ぶと白人のおばちゃんがハァ~イと出てきた。

おばちゃんにこの住所を探していると尋ねると、該当の場所を教えてくれた。指示通り車を走らせると、そこには。通りの両側は突き当りまでず~と、先ほどと変わらぬ住宅街である。

さっきは気が付かなかったが、それぞれの家のフロントの芝生には全部看板が立っているのだった。
Attorney ,, Law Office, Lawyer, Leagal Servies,,,,見渡す限りの民家はすべて弁護士オフィスであった。ひええっ!

時間が迫っていたので、家?(オフィス)に入るとリビングにテーブルが一つ電話が一つ。白人の秘書がいた。あなたの予約はスーザンだから右のドアを入ってね。もとはクローゼットだったのではないかと思うちっちゃなオフィスにはスーザンがいて私があれこれ事情を説明していると、

天井でゴンゴン足音がする。二階の弁護士。
スーザンは始終キリッっと背筋を伸ばして話を聞いてくれたが、残念だけど、ウチはそもそも1万ドル以下のケースは扱わないから。1万ドル以上のケースに沢山恵まれているようには見えなかった。

二階のベッドルームは2つか3つ。3人から4人の弁護士が一軒家をシェアし秘書を共同で雇って玄関に看板を出しているのか?
一歩家(オフィス)を出ると、見渡す限り道路の緑の芝生の両側には似たような民家が通りのはしまで並んでおり、おばちゃんはそれらの白い家が、岩にへばりついているフジツボのように見えたのであった。

弁護士あるある

弁護士資格を持っていれば一生食っていける優秀な人、でもなければ、すべての弁護士が高収入でベンツに乗っているわけでもない。それは弁護士でも優秀な上位5%の話である。

アメリカの弁護士でオフィスは間借り、車はトヨタ。、いや仕事がなくてタクシー運転手をしているなどの下位もいるのである。

弁護士!と叫ぶ。
契約書を読んでも自分の立場が分からないと、まず弁護士に相談することから始まる。

ある会社は、日本の習慣だった住宅手当をそのまま持ち込んでIRSからそれは給料だろうと突っ込まれて、どうなんでしょうと弁護士に詣でる。

ある人はビザのトラブルで、LAの有名な弁護士TXXXHIを訪れると、デスクの上には本物の砂時計があり、TXXXHIは話を聞く前に砂時計をひっくり返した。この砂時計は私も見た!

斜め向かいはGoogleのビルという超お高いオフィスでOCの弁護士協会BarAssociationから選んだ弁護士は、私がプロボノのクライアントなので、わかったようでよくわからない回答をして、早く切り上げたいのが見え見えだった。プロボノでなかったら10倍の料金が取れるから。

友人はある日曜の朝突然、自宅に引っ越し屋が現れて寝ぼけている顔に奥さんから”私、離婚したいの”と言われた。あれよという間に3人の子供と家具家財が目の前でどんどん運ばれ思考が停止した。次の日、離婚弁護士に電話を掛けて7時間も話を聞いてもらい、1週間後に電話相談の$20,000の請求書を受け取って、さらに呆然とした。

おばちゃんが怪我で入院中の知り合いを見舞って、地下のカフェテリアに寄るとジャケットを着た男が、いろんなテーブルに止まって立ち話し、何かをテーブルに置いて次のテーブルに向っていた。
弁護士である。

入院するほどの怪我だと、車の保険とか相手方とかディープ・ポケットが狙えるのである。

law

ひどい弁護士になると、莫大な弁護士請求書の明細にランチや朝食のドーナツ代などが含まれていて、なんだぁランチまでぇ?弁護士はシレっと、問題を解決するために自分の時間を費やしているのだから当然だと開き直る。

シャークだのスクルージだのぼろくそに言われ嫌われるのも弁護士である。血管をたててアメリカをダメにしたのは、弁護しだ!と真顔で力説するアメリカ人のおじちゃん。
ところが、身内家族が弁護士になると、ころっと評価は変わって、息子よ、よくやった!と父ちゃん喜ぶ。弁護士あるあるである。ウチも息子にほしい。

弁護士の敵は弁護士である。やわで経験が浅い弁護士が クライアント客に書いた婚前契約/プリナップ(Prenuptial Agreement)をカミさん方のタフな弁護士に破られてクライアントはカンカン。”あんたはこの契約書で大丈夫だと言っただろ。みろ、彼女に半分財産を持ってかれたじゃないか!”

カミさんが雇った弁護士費用もダンナが払うのである。泣くしかない。
ウチ(法律事務所)が書いたプリナップは破られません!最強です。
プリナップならXXX法律事務所へ。 
弁護士広告である。

知り合いは知らずに入居した家の大家が弁護士だった。トラブルが発生したとき、知人弁護士に相談した。ところが、通常の賃貸契約に見えた契約書はよく読むと、大家側が何でも好きなようにできると書いてある。

ムリ!都合7人の弁護士が契約書を読んだが、みんなサジを投げた。大家は現役LAの弁護士で、彼女の父は大きな不動産を経営するしかも引退したLAの判事だった。ムリ。彼女らの経験の粋を凝らして作成した契約書は鉄壁だった。

おばちゃんも何度弁護士!と叫んだことか。どこのナニ専門の弁護士か?
強ければ料金は高い。専門が広くてなるべく自分で払えそうな弁護士を探すのだ。

自分でやろう少額裁判  アメリカで裁判をする2

さて、違法レーザー治療で色素沈着が起こってしまって弁護士も一万ドル以下では動いてくれそうもないと思い知らされたおばちゃんはどうなったか?

お肌のダメージは、UCLAの皮膚科専門ですごいクリームを処方され、レーザー焼けはすっぱり治ったばかりか、顔はつるつるピカピカ、皆にどうしたの?と聞かれるほどだった。
そのドクター処方の漂白クリームはめっちゃ高かったし、日本から取り寄せた化粧品やサプリも笑って忘れられる金額ではない。

そのころ、エステティシャンを紹介してくれた知り合いの噂が聞こえてきた。彼女のシミも焼いたあと色素沈着したので当のエステティシャンに戻って相談したら、フォローアップとしてもう一度焼きましょうと提案されもう一度レーザーで焼いたそう。

おばちゃんは、色素沈着はレーザー焼けというものであること。メラニン色素が多いアジア系でしかも年齢が高くなると、色素沈着の確率は70%まで上がる報告があること。
そのそもカリフォルニアでレーザー治療を許されているのはドクターだけで、エステティシャンの行為は違法。皮膚科の治療を受けたほうがいいよとメールで連絡したのだが、遅かったみたい。

私の他に知り合いを何人も紹介していたようで、悪い報告があっちこっちからあり、彼女はノイローゼ状態になってしまった。彼女に専門家医やクリームの情報を送ってエステェティシャンの監督官庁California Board of Barbering and Cosmetologyにクレームをファイルしたことも知らせておいた。信じられないことに、件のエステティシャンはまだこっそり営業を続けているようだった。

CBBCはエステシシャンの免許監督官庁でクレームが認められたところでCBBCがおばちゃんに被害額を補填するわけではない。おばちゃんは強盗でもなければゆすりでもないからレザー治療の費用と回復にかかった実費を本人から返還して欲しいだけだ。
よほどの大事件でもない限り、「慰謝料」と言うものはカリフォルニアでは認められないので、実費だけ。ん~ん、そうするとやはり損害額としては少額裁判に訴えるしかなさそう。

お昼寝をあきらめる Do It My Self

おばちゃんはとにかく勤務時間が長い。自由になる時間がお昼過ぎの2時間くらいしかない。お昼寝をあきらめて、おばちゃんは少額裁判を自分でファイルすることにした。DIYのお国柄、自分裁判のヘルプページは沢山あった。おばちゃんは昼寝の代わりにそれらのページを順番に研究し、しかるべき手順を踏んでいくのである。

第一段階Demand Letter
おばちゃんはセルフヘルプにかかれている通りエステティシャンに実費の返還をリクエストする手紙を送った。レーザー治療によって、色素沈着になったこと。専門家医の診断と治療を受けたことを述べて、レーザー施術の費用と回復にかかった実費を求めた。

3―4日あと電話がかかってきて”色素沈着になったなら、私がもう一度施術をしたのに!”と、違法行為の本人が反省のかけらもなく、さらには専門家の診断は本当か?診断書を見せろと言ってきた。
診断書はもちろん取ってあったが、弁護士の要求でもないので見せる必要はない。手紙にドクターの情報を書いてあるのだから、自分でコピーを取れと言った。取れるはずはないのだが、。

次の日の同じ時間に、また電話がかかってきてカルテのコピーが取れないじゃないか!彼の国の言葉と金切り声でもう何を言っているか分からないのであった。

赤の他人がカルテの開示を要求できるはずはないのに、どうして知らないのだろう?違法施術といい個人情報守秘のルールなどの欠如といい、基本的な法治国家の知識に欠けているようで、おばちゃんは頭をかしげた。バカなんだろうか?取り合えずは第一段階修了である。

第2段階 請求書

時系列に沿って支払った費用と明細を記入しすべてのレシートのコピーも同封した。カバーレターには2週間後を期限として支払いがなければリーガルアクションを取ると締めくくった。

10日後くらいに大き目の封筒が届いた。彼女の弁護士からだった。Kimナンとか事務所だった。弁護士のオッファーは、彼女の施術料の返還と専門家医の治療費だけだった。話にならない。

おばちゃんは専門家医に辿り着く前に、原状回復費用は倍かかっているのである。違法行為がばれればエステティシャンの免許は当然取り消し、カリフォルニアではもビジネスができないのである。
なめられているのだろうか?

紹介者の知人は2回も効果のないレーザーを受けその他の知り合いは色素沈着を人に言えず密かに泣いている。ここでセトルしてはこいつはきっと違法行為を続けるだろう。おばちゃんはオッファーを蹴った。

第3段階裁判のファイル
少額裁判所はすごく近かった。昼寝をする代わりに、ちょっと出てくるとおじちゃんに断っておばちゃんは裁判所に着いた。短い行列があって、前のアメリカ人おばちゃんはノースリーブのシャツに短パンでサンダルを履いていた。

窓口からあなたは何日が都合がいいの?あの日はだめだから、この日にして、と旅行のフライトでも取るような調子で裁判の日を決めていた。列の中でおばさんやおっさんはあなたはどんなトラブルなの?と世間話を交わしていた。

どの人も不幸そうであった。おばちゃんは水曜日の午前中が空けられるので水曜日を指定し裁判費用は確か25ドル?を払った。訴状のコピーと送達者のリストを受け取ったて、
何食わぬ顔をして帰った。おばちゃんは一安心して大きな間違いを犯してしまうのである。

送達
次の週の水曜日、おばちゃんは電話を受けて裁判の送達がされていないというのである。しまった~。そうだった。送達をしない限り裁判は開かれない。電話の主は送達サービスで、後2時間のうちに送達を行えば裁判ファイルリングは完了すると言った。時速80マイルくらいで送達サービス・オフィスに行きポリス送達を選んだ。35ドルくらいだったかなぁ?

制服のポリスが、彼女のエステを直接訪れ目の前で彼女の名を確認して裁判の収監状を渡すのである。送達はぎりぎり間に合って、後は待つばかりだった。


開廷
少額裁判には弁護士を連れていけない。ただし、通訳は別である。
おばちゃんは2世のトオル君を選び半日拘束100ドルで雇った。水曜日の午前中、おじちゃんにちょっと出てくると言ってでた。

コートの廊下には開廷を待つ人々が椅子に座って時間をつぶしていた。トオル君とその列の前を通ると中ほどに見たことがあるようなアジア系がおりよく見ると日焼けしてすごくブスになったエステティシャンだった。傍らの同じく若いアジア系男と何かひそひそと話をしていた。英語がほとんどしゃべれなかったから、こちらも通訳だろう。

映画で見るようなコートである。法廷吏が開廷を宣言して、次に呼ぶ氏名は送達がなされていないので、コートを出るように言った。40人ほど着席していたベンチシートから3人ばかり立ち上がった。一人の婆ちゃんは唇を突き出し、この上なく不満そうであった。送達を忘れなくてよかった!とおばちゃんは胸をなでおろした。

和解
裁判長が話す。
裁判と言うのは国の税金を使って行われるものである。(そうだ。そうだ)いまこの場で、セトルできるならそれに越したことはなく法廷外でセトルを望むものは別室があるのでそちらで協議し、決裂したなら裁判に進む。

何人かの名前が呼ばれ、立ち上がってコートを出ていくパーティがいた。
驚いたことに、おばちゃんの名前が呼ばれた!ビックリしているとトオル君がどうします?Mediateしますか?する。あいつらが何をオッファーするか聞いてから裁判に進んでもおかしくないから。

別室には小さなヨレヨレのじい様がテーブルの端に座り、我々とエステティシャンと若い弁護士それとも通訳?(たぶん弁護士事務所の関係者?)が向かい合わせに座った。

仲裁役のじい様にレーザー治療でダメージを被って原状回復を求めていると述べると、相手の通訳?があきれたことに美容レーザー機器のパンフレットを取り出して、じい様に見せこの機械は誰でも買えるし(当たり前だ、買うだけでは違法ではない)いかに安全かと力説した。

もう絶句である。
ギロチンの歯に自分で頭を突っ込んでいるじゃないか?バカなの?じい様にレーザー治療はドクターにしか許されていない。このカリフォルニアでは、。きょとんとするじい様に”違法なの!”

すると、通訳?が依頼人は誠実な人柄だが(どこが!)金がなくて要求された金額は払えないと泣き落としにかかった。知らんね。支払いができないなら、和解(Mediate)はなしで裁判に行くわ。裁判になったらおばちゃんはレーザー機械の現物押さえていないし、密室の施術だったので証人がいないので、違法行為の立証にかなり苦労する。

すると、弁護士は全額一括払いでは無理だから分割払いでどうだろう?と、例えば20回払いとか?おばちゃんは20回払い?アホかいな。と一蹴りしようと思って、しか~し彼女が毎月くやし涙にくれながら小切手に私の名前を書く。20回!も

それを想像すると、うっとりとなってそれもいいかな。トオル君がいいんですか?と驚くほどすんなりといいよ。と言った。

仲裁役はそれではセトルメントの書類を作成して双方のサインをしてもらう。法廷外の決着であったとしてもケースは公的に7年?保存されるのである。おばちゃんはショッピングモールに帰ると、おじちゃんに「裁判に行ってきた。勝負には勝ったわ、全額分捕ったよ!」と報告した。
おじちゃんは何が?と狐につままれていた。

OCコートに和解案がファイルされると、CBBC(California Board of Barbering and Cosmetology)がコンタクトをしてきた。裁判の結果を教えてくれと言うのである。

私がCBBCにクレームをファイルしたときは、ほとんど何もアクションを取らなかったくせに。彼女に対してクレームが他からもファイルされたから、だと。

おばちゃんがクレームをファイルしたときに、CBBCが素早くアクションを取っていれば、レーザーの犠牲者は増えなかったのだ。おばちゃんは原状回復の費用はすべて回収することで合意した。それがどういう意味か分かるでしょう?とセトルメントのナンバーを教えた。

TV Series Judge JUdy

ジャッジ・ジュディ
訴訟の送達が終わってから裁判日を待つ間に、実はとんでもない手紙が舞い込んできた。テレビ番組のJudge Judy(ジャッジ・ジュディ)のプロデューサーから。
興味のあるケースなので番組で放映させてもらえないだろうか?というオッファーだった。OKなら取材チームを送ると。

おばちゃんはジャッジ・ジュディは番組のジャッジの中では一番好きだったし、少額で争っているアホみたいなアメリカ人が、しょうもない論理を振り回してジュディーに木っ端みじんにされてふてくされてコートを出てゆく番組を腹を抱えて笑っていたから、手紙を受け取ってから動転してしまった。

おばちゃんのケースもアメリカのリビングで腹を抱えて笑われるほど滑稽なのだろうか?他人事は面白いが、自分が笑われるのはまっぴらであった。オッファーの返事はしなかった。

おばちゃんは誰にも裁判のことを話していなかったから、裁判の当日、開廷を待つ間に同じく待っていた気さくそうな裁判関係者に思い切って番組オッファーの話を明かしてしてみた。

ジャッジ・ジュディからオッファーの手紙が来たんだけど。
あ~、ジャッジ・ジュディ?
あの番組はものすごい数のオッファーを訴人に送るんだよ。
珍しくないよ。
そうなの!?よかった!特別笑われるようなケースじゃなかったんだ。

ランダムで送って、オッファーを受けたケースを番組にするんだ。
でも、例えば私がオッファーを受けたとしても相手方がNoと言えば番組にはならないよね?エステティシャンは違法レーザーがバレれば、免許がなくなるから間違ってもオッファーにOkするわけがない。おばちゃんは疑問が解けて、ひとまず安心した。

おばちゃんはこの事件以来日本のあるお菓子が苦手だ。お菓子の名前がエステティシャンと同じなので、目にするたびに記憶がよみがえってくる。
やりたくてやったわけではないし。

モグラ対決

モグラという動物は見たことがある。
子供のころ田んぼの畔に遊んでいたような気がする。帰国してからはお隣の地所にある湧き水から水を飲んでいた。ムクムクしていてキュートだと思う。

ある日、貴重なダーラの苗を植えようとすると、地面が妙に盛り上がっている。
苗のために穴を掘るまでもなく、ごぼっと地面に穴が開いた。地面の下にトンネルがある。すでに植わっている苗も妙に地面から浮き上がっている気がする。気のせいではなく人差し指を突っ込むと、そにはぽっかりと穴があった。

雨が?水流が地面の下を流れたのだろうか?否、ここんところ雨は降ってないのである。立ち上がって段々庭を観察すると、地面のモコモコはあちこちにある。もしや、これが話に聞いたモグラだろうか?

私の危機管理能力は高い。
ツテも援助もなく外地で生き抜いてきた経験が能力を培った。早速、調べ始める。たかが、小動物駆除に大げさな作戦は必要あるまい。ミニマムのコストで最大の効果を!忌避剤である。

そうよ、そういえば、お向かいさんが先代のおばちゃんは、モグラ除けにナフタリンを庭に埋めていた。と。ナフタリン?以外な言葉が出てきたので、私は眉につばつけて、右から左に流していたのであった。ホームセンターで買ってきた忌避剤は、ナフタリンそのものに匂いがする。なんなら、このまま洋服箪笥にいれてもいいくらいだ。

とりあえず、庭のもこもこトンネルに落とし込んで、モグラを駆除してくれるわ。さて、ウチのモグラだが、忌避剤の説明書を読んでみると、モグラの導線を囲い退避路を絶つと、モグラがパニックになってあばれるという。モグラあばれ

ほんとかいな?と思うが庭に起こっていることはモグラ暴れなのだわ。しかし、モグラの主要路がどれで、退避路がどこかなんて分かるか?知らんがな。

モグラは敏感な動物らしい。匂いにも敏感だが音と振動も嫌なのだという。コストを考えて、ダイソーに走る。目的は風車である。風車が回る時その振動は風車の柄に伝わり、地面に伝わり、モグラに伝わり

モグラの細君が
「こんなブルブルする場所嫌だわ、あなた新しい物件見つけてきて?」
と一家移住間違いなし。モグラのお母ちゃんは風車の振動ごときは屁でもないらしかった。おばちゃんもダイソーで撃退できると信じていたわけではないけど。予算枠をあげて、真剣に作戦を遂行するときが来たようだ。

匂いと振動はすでに試したので、撃退器で音を試してみることにする。JAと園芸センターをとAliExpressを比べるとAliが一番安い。ソーラー電池のMole Repellerを買う。

モグラの主要路らしきトンネルに2機仕掛ける。杭を打ち込んでも地上には甲高いチーという音が聞こえる。お向かいのおばちゃんは聞こえないのだそうだ。聞こえる私の耳はまだ還暦。

そうして半年は静かだった。

今年の春、またモコモコが現れ始めた。メインストリー沿いで、ソーラー撃退器を迂回して植え替えたビオラやベルフラワーが軒並み根が浮いてしまった。撃退器はちゃんと動いているいるので、考えられる原因としては

モグラが慣れたのではないか?
モグラは慣れたのか?
モグラが慣れたんだな?
モグラは慣れたんだ!

線路沿いに住むと、いつの間にか電車の音と振動に慣れてしまうというではないか。ということで、作戦変更。ナフタリン系忌避剤 撤収風車 玉砕ソーラー撃退器 モグラの慣熟性に 退却
ネットを検索すると、面白い記事が上がってきた。冗談かと思ったけれど、

モグラはチューインガムが消化できず食べると死んでしまうという。元々モグラは栄養効率が悪く、四六時中食べていないとすぐ餓死するのだそうだ。記事の書き手は「マルカワのオレンジ・チューインガム」がよく効くという。

おばちゃんが子供のころ食べた、昔懐かし昭和のガムだけど、いったいどこで売っているだろう?
駄菓子屋展にはリンゴ・葡萄・桃・メロン味があったよ。モグラは匂いに敏感なので、素手でさわらないよう注意があった。おばちゃんの庭手袋は泥だらけで、間違っても人の匂いはしないから大丈夫よ。

早速、メイン・トンネルに落とし込む。食べたかな?死んじゃったかな?死骸が庭に転がっているんじゃないかしら。
毎日ドキドキして眠りは浅かったけど、モグラの死骸は一向に転がってたりせずかといって、モコモコは減りもせずグラジオラスの林にジグザグを書いてたりする。
ある晩、寝ながらふと思いついた。昔見たモグラは「おちょぼ口」だった。ミミズを縦に食べるのが精いっぱいの口に直径1センチを超えるマルカワの球体ガムは噛みにくいのではないか?

そこで、おばちゃんはガムを庭に転がっている石で叩き潰し、またもやメインストリート・トンネルに放りこんだのであった。念のために、ダンナにお願いしてモグラのメインストリートに木の杭をすき間なく木槌で打ち込んで、分断してもらってから、安心してゴージャスなベロニカを植えたのであった。

おばちゃん、うっかりしていたけど、モグラの被害は人類共通であるに違いない。英語のサイトを漁ってみると、駆除にはやっぱり匂いと音が良いという。
モグラはマリーゴールドの花の匂いが好きではないので、庭に侵入しないようにぐるりと植えよ、とある。モグラと一緒で、おばちゃんもマリーゴールドが嫌いだ。この案は使えない。

一縷の望みで、もしかしたらモグラはオリゴ糖が苦手かもしれない。人間の腸で消化できないらしいから、糖質注意のダンナのおやつのオリゴ糖チョコレートをかすめてチューインガムに追加してやろう。今度こそ、餓死するかも。オリゴ糖チョコをトンネルに掘りこんでみる。
アリが来た。

試せることはみんな試した。もう、最終兵器を投入するしかない。モグラ捕獲機は地面のトンネルに埋める。通りかかったモグラが踏むと、バネがハネル。

まず、ダンナが逃げた。私だって、即死したモグラを捕獲機から外したくない。かくて、取り寄せた捕獲機2器はトンネルのメインストリートに一応設置されたけど、地上に出ているバネは一向に閉まらない。

新たなトンネルは、捕獲機を迂回している。バネの取っ手は地上でサビ始めた。今日もウチのモグラは元気だ!

エンドレスの草取り

おばちゃんは山菜取りに誘われても断ろうと思う。何故ならきっと遭するからだ。目の前の山菜しか見えなくなって、一本摘んだら次の一本を探し、さらに前の木の茂みに進む。

気がついたら山の奥深~くに迷い込んで、帰り道も分からず詰め込みすぎた背負子の重みにヘタって、弱弱しく助けを求めるのだ。助けて~。

一般に学業とか、ビジネスとか、スポーツとかは結果が出るものは時間がかかるものだ。
ところが、山菜取りも草取りも結果はすぐ出る。ターゲットは明らかで目的ははっきりしている。次から次へ現れるトロフィーが麻薬のように人を誘うのだ。

おばちゃんはひときわ溺れやすい性格である。
だから山菜は取らず、庭の雑草取りに専念しようと思う。毎朝、起きると花ばさみをもって、花がらを切って庭を一巡回する。

今日のガウラの咲き加減はどうかとか、バコパは暑さにやられていないとか、そろそろ80円の芽が出てきたとか。どの段段庭コーナーに雑草の気配があるか、しかと目にとどめておく。

早めの昼ご飯を食べたら、庭に出陣である。
ドクダミは庭の恥だ。カタバミは敵だ。根を残すと将来に禍根を残す。ほじって根っこが完全に抜けたときの爽快感は、ニキビをつぶした満足感に通じる。

ヒメジョオンは双葉のころは、勿忘草とそっくりだ。若すぎると区別がつかない。2~3日経ってヒメジョオンだと分かったら、躊躇なく抜く。

外来者は軟弱なので、意外と踏ん張らずに抜ける。母子草は白っぽくぽやぽやと花は卵餡のような黄色。温情を掛けると、次の年は母子草の群生が出現する。

庭に出れば、おばちゃんは下を向いている。
鵜の目、鷹の目というが、おばちゃんの目は雑草を探す草取りの目だ。柵ごしにお向かいのおばちゃんと園芸話をしていてもおばちゃんの目は雑草取りモードになっているので、お向かいさんの顔を見るより、ついつい足元や背後の地面に気が行ってしまう。

おっ、お向かいさんの足元にドクダミ発見。背後にはスギナが!もう、抜きたくてしょうがない。

こんなに夢中になれるしかも金がかからない楽しみはそんなにないね。庭を2周くらい草取りをして、四時まえには撤収するのだが、その時はじめて庭を見ていないなかったことに気が付く。見てたのは地面と雑草!服を着替えて、ベランダから庭を鑑賞する。至福を味わう。

お向かいのおばちゃんによると、先代の家主のおばちゃんも同じだったそうだ。ベランダから庭を見る時が一番幸せ。と

ウチの庭には骨がある

ウチの庭にはトリ手羽と魚のカマが落ちている。
庭から生えたわけではなく、我々が食べた後の骨。カリフォルニアの友人が当時、EM(effective microorganisms)菌を利用して、ガーデニングをやっていて、私も何回か招かれたことがある。

米のとぎ汁にEM菌の溶液と糖蜜を入れて発酵させ、液肥として使ったり、生ごみをEM菌で発酵させて肥料として野菜や花つくりをしていた。

山の古家に落ち着いたらEMのぼかしとコンテナを買って生ごみを肥料にする計画だった。

友人はちょっと臭いと言っていたけど、生ごみはEM菌で発酵させると、卵の腐ったような臭い。それでも生ごみを捨てずに活用できるから、エコなんだけど。お茶ッ葉、残した魚の骨と皮、チキンウイング、野菜の皮。まんべんなくぼかしをまぶす。

コンテナが一杯になったら、先代のおばちゃんが残してくれていた大きなバケツに移す。
底に、ためておいた落ち葉、庭の土、発酵生ごみ、でまた落ち葉とバケツをミルフィーユ状態にする。

季節によっても違うけど、2か月くらいたったらちっちゃめのスコップで上下ひっくり返してみる。自然を大切にするグリーンファーマーになったような気がする。

EMで発酵すると、何でも分解されるのかと思っていたが大間違いだった。ぼかしの時点では、卵の殻もブリのカマもチキンウイングも原型をとどめている。アジの小骨は所在が分からなくなるけど、大根の皮も健在だ。この大根の皮はずいぶん長く形が残るね。

バケツのミルフィーユが6か月も経つと、腐葉土と生ごみはだいぶ馴染んで、土と溶けきらない手羽やカマまじり状態になる。

EMのコンテナは2つあるので、ミルフィーユバケツも2つできる。1年くらい寝かして、これから春!っていうときに庭に施す。
結果、ウチの庭は春先すこし臭く、チキンウイングやブリカマが散在する。お向かいのおばちゃんと話をするときに、ツツジの根元にチキンウイングが見えたりすると、そっと足で押しやる。

ブリカマは人に見られても正体は分からない。一度発酵して、太陽光線にあたった方が分解が早く進むようだ。

EMのぼかしが切れてしまったとき里のガーデンセンターのぼかしを代用したら、匂いが随分ましだった。発酵した漬物のような匂い。沢庵みたい! なので、それからは高いEMは使っていない。毎晩、生ごみの始末をするのが、面倒くさいかな。コンテナの蛇口が壊れて、ハエが入り込むので、ちょっとお休み中

日本のイチゴは獰猛である

イチゴが獰猛だなんて知らなかった。日本のイチゴは芸術域に達していて、アメリカ人に一粒食べさせれば感涙するに違いない。今までアメリカ人が食べていたイチゴとは何なのか、野菜か?アメリカのイチゴの中心は真っ白で固く酸っぱい。

ナイフでくりぬいて切りとるのだが、便利な芯ぬきが売っている写真のイチゴの白いところは芯、左のクラックは空洞。穴がもっと大きく空いていたり白い繊維が固い。

日本帰国の時に、これは日本で売っていないからと、イチゴの芯抜きを買ってきて親族に進呈し、親族も驚いて、目の前でちょうど旬だったとちおとめの芯を抜こうとした。とちおとめ 潰れましたわ。
そもそも、日本のイチゴの芯は大きくもないし抜く必要もない。それほど実はジューシーで甘くてかおりがある。

だが、芸術的なイチゴは高い!芯を抜いて、ざく切りにして丼に入れてヨーグルトをぶっかけて夕ご飯替わりに食べるような食べ方はできない。エイ!と目をつぶって8粒599円のとちおとめを買い、大事に大事に味わう。
もっと食べたい!

それで2株苗を買って、ポットに植えてみた。
1年目、数粒実を付ける、野生動物に半分やられる。残りをありがたく頂戴する。イチゴはポットで年越しした。

2年目、ポットからやたら子株が伸びる。伸びた子株が地面で根付く。イチゴ蔓 石垣のヘデラと戦う。ヘデラ戸惑う。イチゴ蔦ヘデラを乗り越え、地面があれば軟着陸、根付く。
初夏、数粒実をつける。野生動物に半分やられる。残りをありがたく頂戴する。

3年目、ダンナがイチゴ棚を作る、石垣に居ついたイチゴが、イチゴ棚に伸びて居つく。イチゴ棚が2段になる。イチゴ蔓、石垣のそこら中を這い、隙あらば根付こうとする。ヘデラとイチゴ蔓絡み合って分からんようになる。

食欲が勝ってヘデラを始末する。イチゴますますたけり狂う。イチゴ棚4つになる。イチゴ棚からパラシュートのように地面に降りて地面がイチゴ小株だらけになる。イチゴ実をつけたかもしれないが、食べてない。イチゴ ついにジャングルになる。今年 ジャングルを始末し

石垣と棚4つに収まるだけにする。結論 日本のイチゴは超美味だが獰猛である。

とりあえず植えてみようエリゲロン

おばちゃんのポリシーは「とりあえず植えてみよう」

オンラインの多年草・宿根草カタログで「スパニッシュ・デイジー」を見た瞬間欲しいと思ってしまった。苗は安くなく送料が痛かったけど、3株頼んだ。

届いた苗は随分根が回っていて、初心者のおばちゃんは根のほぐし方も植え方もどこに植えるかもよく分かっていなかったから、梅の根元に適当に穴を掘って埋めて、水をジャージャーかけた。一輪二輪花は咲いたけれど、オンラインの写真のようにピンクと白の小花の競典とはならなかった。なんだか、しょぼしょぼしたまま枯れた。高かったのに!その後スパニッシュ・デイジーはエリゲロン(源平小菊)と呼ばれていることを知った。
ピンクと白の2色が同じ茎から咲くのできっと源平なのだろう。なかなか優雅な名前である。

次の春、散歩から帰る途中の道にどう見ても「エリゲロン」らしい草が生えている。
花はまだ咲いていなかったけど、ひと夏中見た葉っぱはまぎれなくエリゲロンだった。別荘地の粗い砂利道にエリゲロンが野生で生えている?狐につままれているようで、それでも3把抜いてリベンジに梅の根元に植えてみた。

同じ土壌と気候で育った野育ちは瞬く間に育ち、花を咲かせた。真正のエリゲロンだった。花は咲いたばかりでは白で時間がたつとピンクになり、次次に咲いてくるので、株は白とピンクの花盛りになる。咲いている最中にこぼれ種は飛んで次々に領土を増やしていった。

秋口になっても勢いは衰えず、細い花茎が伸びると、地面に付いて子株ができた。エリゲロンは雑草並みに丈夫で、若干紅葉しつつ山の冬も苦も無く越した。

次の年の春は狂乱だった。
石垣のすき間というすき間から、砂利道の間からエリゲロンが生えてきた。
おばちゃんは嬉しかった。ウチの庭が花でいっぱいになる。エリゲロンはさらに順調に増え、秋には花でいっぱいというよりは、
何やらそこら中、モソモソと茂みが生い茂っているという感じになってきた。優雅で小粋であるはずの理想とはちょっと違う現実?おばちゃんはどうしていいか分からない。せっかく植えて立派に育ったお花をどうしたらいいか。

最初が3把植えただけで今年はすでにジャングル。来年はスーパージャングル間違いなし!それで一部残してエイやッと刈ることにした。

結果は、次の春もしっかりエリゲロンは生えてきて、それなりの美を誇ったのであった。結論、エリゲロンは間引いても大事ない

移住4年目

ジャネット広報局

隣のベーカリーのジャネットおばちゃんは、ここのショッピングモールの私設・広報局だった。先代のベーカリーが、現オーナーのクルスに売る時、ジャネットも付いていた。先代からの勤めなので、テナントの歴代のオーナーも管理会社の従業員もすべて知っていた。

アメリカ人には珍しく、愛嬌があって親しみやすくモールのみんなから愛されていた。管理会社の前のマネージャー:ごうつくばりのアーノルドもジャネットには強く当たらなかった。ただし、おばちゃんはゴシップがチョコレートと同じくらい好きだった。

ヘア・サロンのサラの息子がスピード違反でポリスに追いかけられて、ショッピングモールに逃げ込んできて、サラのヘアサロンの目の前で逮捕された時は、一部始終をかぶり付きで見ていた。

サパー・タイムという食品ビジネスはオープン当時から不振で1年持たずある日曜日にトラックをテナントに横付けして、備品を運び出している現場にトコトコと見聞に出かけ、あの人たちSneakOut (夜逃げ)するんですって、と他のテナントに言いふらした。

金髪でブルーグレーの瞳に、いつも寝ぐせが突っ立っているくせ毛のショートヘアで、ポチャッと小柄だった。

ある土曜の昼下がり、帳簿をつけていた私。ウチは角地で窓の外は駐車場だ。その駐車場に、するっとパトカーが2台止まった。続いて覆面が一台止まった。車から制服が5~6人と私服が2人ほど降りてモールの正面に回った。おかしい。

私はフロントのドアを開けると、ポリスの後姿を観察した。ポリスたちは、ビル中ほどのテナントのドアを開け入っていった。1,2,3、4、、6番目のドアは鍼灸師のマイクのところだ。

私は隣のベーカリーに飛び込んで、ねぇジャネット、ポリスが鍼灸師のマイクのところへ行ったわよ。何だろう?
ジャネットは目を輝かせて、私に任せて!と鍼灸クリニックに偵察に出かけた。私は帳簿に戻ったが、ジャネットが戻ってきた。マイクが逮捕されたの!ハラスメントですって!はぁ?

外へ出てみると、モールのパーキングはエライことになっていた。クリニックの前にピカピカを光らせた救急車が止まり、クリニックから誰かがストレッチャーに載せられて運び出されてきた。

施術中の患者?はハリを突っ立てたままで、バスタオルをかけられていた。マイクは開けたまんまのドア元にしゃがみこんで、手は後ろに回されている。

うつむいた顔が歪んでいた。泣いていたようだ。ジャネットのおばちゃんは我慢できず、ずんずん歩いて泣いているマイクに話しかけ同情するようにハグした。そしてポリスとも2,3言話すと、また戻ってきた。
ポリスは逮捕したっていうの。でもマイクは何もやってないって言ってるの。それで私、マイクに聞いたの。ねぇ今どんな気持ちって?

逮捕されて泣いている本人に、今どんな気持ち?って聞くあんたの料簡が分からない。

次の朝、コーヒーを買いに行くとカウンターにはCounty Register。おばちゃんは頬っぺたをますますピンクにして夕べの7時のchannel 7ニュースでもやってたわよ。見た?長話をするわけにもいかないので、新聞を借りた。

マイクの鍼灸クリニックは、何回かポリスに不必要な肉体接触があったと患者から通報されていたのだという。リポートの回数もあったので、ポリスがオトリを送り込んでそのオトリがセクシャル・アサルトあり!とポリスに報告して突入となったのだそうだ。

運び出された患者がオトリで、刺したままの針は医師か鍼灸師しか抜いてはいけないんだそうだ。新聞にはマイクの妻の証言が載っていて、あの人は良き夫でありよき父なんです。セクシャル・アサルトなんてなにか患者さんの勘違い何だと思います。

ジャネットのおばちゃんは開店するビジネスに挨拶に行き、閉めるビジネスには寂しくなるわとハグしコロコロとよく笑いながら、ゴシップを話し
コーヒーを売るのであった。

馬酔木

伊豆の山の家の隣の地所には2mを超える馬酔木がある。
ほんのりピンクのベル型の花が、春に見事な花をつける。花穂を切ってかんざし代わりにしたのは遥か昔少女の頃だ。
馬酔木には毒があるので、素手でさわってはいかん。いたずらをせぬように表庭には植えず、裏庭に植えるのだ。と父から教わった。

サブプライムから始まったリセッションからようやくアメリカが回復し始めたころ、主人と私がやっているショッピングモールが、外観のリノベーションを決めた。こういう場合、アメリカのビジネスは休まない。
All businesses are open during construction というでっかいサインやバーナーをだして、顧客に知らせる。
経済が回復期にあるからこそ、ショッピングモールもリモデルをし競争相手に劣るまいと、改修工事があちこちで見られたものだ。

半年ほどで建物も駐車場も改装が終わったが、駐車場に植える木で大家が拒否権を発動した。若いオリーブを駐車場に1ダースくらい。店子の前に何本かStrawberry Treeを植える計画だったのだが、オリーブは大家には十分Fancyではなかったそうで、マグノリアに取り換えられた。

あの、風と共に去りぬのMagnoliaマグノリアか。多少ワクワクしながら待つと、何のことはないビワのような葉をした地味~な木だった。

店子には飛び切り大きいStrawberry Treeを選んだのだと言っていた。
植えられて初めて、Strawberry Treeが馬酔木だと分かった。日本と寸断かわらない馬酔木がアメリカにもあると知ったのが驚きだった。

さてその馬酔木だが、ベトナム人経営のネイルサロンの前の馬酔木は元気がない。気候が合わないのかと私はさして気に留めなかったが、。

ところで、ウチと隣のベーカリーは仲が良かった。毎朝、私はコーヒーと朝ごはんのペストリーを買って、ジャネットからモールのゴシップを聞く。ベーカリーは玄関が全面ガラス張りで、駐車場がすべて見渡せるので
モールで起こる事件はジャネットがすべて知っている。

お向かいのイタリアンが強盗に会ったときとか、タコ屋が元従業員に金庫の現金を盗まれたとか、ヘアサロンの従業員が駐車場のポールにぶつかって、ポールがギギギーバタンと倒れた場所が、ヘアサロンのオーナーのサラの車だったとか、、。

20年も同じベーカリーで働いているので、店子のオーナー達をすべて知っているのだ。そして、毎朝コーヒーを買いに来る店子のオーナーや従業員から新しいゴシップを仕入れる。

そのジャネットがヒヒっと笑って言うにはネイルサロンの前の馬酔木が元気がないのは原因があるのだという。

毎朝、ネイルサロンのベトナム人の女の子達がカップに入れた何かを木にかけているのだという。ジャネットおばちゃんは気になって、コーヒーを買いに来たネイルサロンの女の子に何をかけているのか聞いたらしい。

熱い湯だった。
なんでもベトナムでは馬酔木は縁起が良くない木なんだそうだ。イケナイ木が玄関にあるのが困るので、皆で湯をかけて枯らそうとしているらしい。

ケ・ケ・ケと思った。
私が知るころには他の店子のオーナーもほとんど事情を知っていたはずだが、誰一人として管理会社や地主には知らせなかった。モールのどのビジネスも、全面改装の工事の間は売り上げを減らした。

どんなに不自由や減収を訴えようが、家賃をビタ・1セント負けなかったのでみんな大家と管理会社を恨んでいたのだった。馬酔木はとうとう枯れた。

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