自分でやろう少額裁判  アメリカで裁判をする2

さて、違法レーザー治療で色素沈着が起こってしまって弁護士も一万ドル以下では動いてくれそうもないと思い知らされたおばちゃんはどうなったか?

お肌のダメージは、UCLAの皮膚科専門ですごいクリームを処方され、レーザー焼けはすっぱり治ったばかりか、顔はつるつるピカピカ、皆にどうしたの?と聞かれるほどだった。
そのドクター処方の漂白クリームはめっちゃ高かったし、日本から取り寄せた化粧品やサプリも笑って忘れられる金額ではない。

そのころ、エステティシャンを紹介してくれた知り合いの噂が聞こえてきた。彼女のシミも焼いたあと色素沈着したので当のエステティシャンに戻って相談したら、フォローアップとしてもう一度焼きましょうと提案されもう一度レーザーで焼いたそう。

おばちゃんは、色素沈着はレーザー焼けというものであること。メラニン色素が多いアジア系でしかも年齢が高くなると、色素沈着の確率は70%まで上がる報告があること。
そのそもカリフォルニアでレーザー治療を許されているのはドクターだけで、エステティシャンの行為は違法。皮膚科の治療を受けたほうがいいよとメールで連絡したのだが、遅かったみたい。

私の他に知り合いを何人も紹介していたようで、悪い報告があっちこっちからあり、彼女はノイローゼ状態になってしまった。彼女に専門家医やクリームの情報を送ってエステェティシャンの監督官庁California Board of Barbering and Cosmetologyにクレームをファイルしたことも知らせておいた。信じられないことに、件のエステティシャンはまだこっそり営業を続けているようだった。

CBBCはエステシシャンの免許監督官庁でクレームが認められたところでCBBCがおばちゃんに被害額を補填するわけではない。おばちゃんは強盗でもなければゆすりでもないからレザー治療の費用と回復にかかった実費を本人から返還して欲しいだけだ。
よほどの大事件でもない限り、「慰謝料」と言うものはカリフォルニアでは認められないので、実費だけ。ん~ん、そうするとやはり損害額としては少額裁判に訴えるしかなさそう。

お昼寝をあきらめる Do It My Self

おばちゃんはとにかく勤務時間が長い。自由になる時間がお昼過ぎの2時間くらいしかない。お昼寝をあきらめて、おばちゃんは少額裁判を自分でファイルすることにした。DIYのお国柄、自分裁判のヘルプページは沢山あった。おばちゃんは昼寝の代わりにそれらのページを順番に研究し、しかるべき手順を踏んでいくのである。

第一段階Demand Letter
おばちゃんはセルフヘルプにかかれている通りエステティシャンに実費の返還をリクエストする手紙を送った。レーザー治療によって、色素沈着になったこと。専門家医の診断と治療を受けたことを述べて、レーザー施術の費用と回復にかかった実費を求めた。

3―4日あと電話がかかってきて”色素沈着になったなら、私がもう一度施術をしたのに!”と、違法行為の本人が反省のかけらもなく、さらには専門家の診断は本当か?診断書を見せろと言ってきた。
診断書はもちろん取ってあったが、弁護士の要求でもないので見せる必要はない。手紙にドクターの情報を書いてあるのだから、自分でコピーを取れと言った。取れるはずはないのだが、。

次の日の同じ時間に、また電話がかかってきてカルテのコピーが取れないじゃないか!彼の国の言葉と金切り声でもう何を言っているか分からないのであった。

赤の他人がカルテの開示を要求できるはずはないのに、どうして知らないのだろう?違法施術といい個人情報守秘のルールなどの欠如といい、基本的な法治国家の知識に欠けているようで、おばちゃんは頭をかしげた。バカなんだろうか?取り合えずは第一段階修了である。

第2段階 請求書

時系列に沿って支払った費用と明細を記入しすべてのレシートのコピーも同封した。カバーレターには2週間後を期限として支払いがなければリーガルアクションを取ると締めくくった。

10日後くらいに大き目の封筒が届いた。彼女の弁護士からだった。Kimナンとか事務所だった。弁護士のオッファーは、彼女の施術料の返還と専門家医の治療費だけだった。話にならない。

おばちゃんは専門家医に辿り着く前に、原状回復費用は倍かかっているのである。違法行為がばれればエステティシャンの免許は当然取り消し、カリフォルニアではもビジネスができないのである。
なめられているのだろうか?

紹介者の知人は2回も効果のないレーザーを受けその他の知り合いは色素沈着を人に言えず密かに泣いている。ここでセトルしてはこいつはきっと違法行為を続けるだろう。おばちゃんはオッファーを蹴った。

第3段階裁判のファイル
少額裁判所はすごく近かった。昼寝をする代わりに、ちょっと出てくるとおじちゃんに断っておばちゃんは裁判所に着いた。短い行列があって、前のアメリカ人おばちゃんはノースリーブのシャツに短パンでサンダルを履いていた。

窓口からあなたは何日が都合がいいの?あの日はだめだから、この日にして、と旅行のフライトでも取るような調子で裁判の日を決めていた。列の中でおばさんやおっさんはあなたはどんなトラブルなの?と世間話を交わしていた。

どの人も不幸そうであった。おばちゃんは水曜日の午前中が空けられるので水曜日を指定し裁判費用は確か25ドル?を払った。訴状のコピーと送達者のリストを受け取ったて、
何食わぬ顔をして帰った。おばちゃんは一安心して大きな間違いを犯してしまうのである。

送達
次の週の水曜日、おばちゃんは電話を受けて裁判の送達がされていないというのである。しまった~。そうだった。送達をしない限り裁判は開かれない。電話の主は送達サービスで、後2時間のうちに送達を行えば裁判ファイルリングは完了すると言った。時速80マイルくらいで送達サービス・オフィスに行きポリス送達を選んだ。35ドルくらいだったかなぁ?

制服のポリスが、彼女のエステを直接訪れ目の前で彼女の名を確認して裁判の収監状を渡すのである。送達はぎりぎり間に合って、後は待つばかりだった。


開廷
少額裁判には弁護士を連れていけない。ただし、通訳は別である。
おばちゃんは2世のトオル君を選び半日拘束100ドルで雇った。水曜日の午前中、おじちゃんにちょっと出てくると言ってでた。

コートの廊下には開廷を待つ人々が椅子に座って時間をつぶしていた。トオル君とその列の前を通ると中ほどに見たことがあるようなアジア系がおりよく見ると日焼けしてすごくブスになったエステティシャンだった。傍らの同じく若いアジア系男と何かひそひそと話をしていた。英語がほとんどしゃべれなかったから、こちらも通訳だろう。

映画で見るようなコートである。法廷吏が開廷を宣言して、次に呼ぶ氏名は送達がなされていないので、コートを出るように言った。40人ほど着席していたベンチシートから3人ばかり立ち上がった。一人の婆ちゃんは唇を突き出し、この上なく不満そうであった。送達を忘れなくてよかった!とおばちゃんは胸をなでおろした。

和解
裁判長が話す。
裁判と言うのは国の税金を使って行われるものである。(そうだ。そうだ)いまこの場で、セトルできるならそれに越したことはなく法廷外でセトルを望むものは別室があるのでそちらで協議し、決裂したなら裁判に進む。

何人かの名前が呼ばれ、立ち上がってコートを出ていくパーティがいた。
驚いたことに、おばちゃんの名前が呼ばれた!ビックリしているとトオル君がどうします?Mediateしますか?する。あいつらが何をオッファーするか聞いてから裁判に進んでもおかしくないから。

別室には小さなヨレヨレのじい様がテーブルの端に座り、我々とエステティシャンと若い弁護士それとも通訳?(たぶん弁護士事務所の関係者?)が向かい合わせに座った。

仲裁役のじい様にレーザー治療でダメージを被って原状回復を求めていると述べると、相手の通訳?があきれたことに美容レーザー機器のパンフレットを取り出して、じい様に見せこの機械は誰でも買えるし(当たり前だ、買うだけでは違法ではない)いかに安全かと力説した。

もう絶句である。
ギロチンの歯に自分で頭を突っ込んでいるじゃないか?バカなの?じい様にレーザー治療はドクターにしか許されていない。このカリフォルニアでは、。きょとんとするじい様に”違法なの!”

すると、通訳?が依頼人は誠実な人柄だが(どこが!)金がなくて要求された金額は払えないと泣き落としにかかった。知らんね。支払いができないなら、和解(Mediate)はなしで裁判に行くわ。裁判になったらおばちゃんはレーザー機械の現物押さえていないし、密室の施術だったので証人がいないので、違法行為の立証にかなり苦労する。

すると、弁護士は全額一括払いでは無理だから分割払いでどうだろう?と、例えば20回払いとか?おばちゃんは20回払い?アホかいな。と一蹴りしようと思って、しか~し彼女が毎月くやし涙にくれながら小切手に私の名前を書く。20回!も

それを想像すると、うっとりとなってそれもいいかな。トオル君がいいんですか?と驚くほどすんなりといいよ。と言った。

仲裁役はそれではセトルメントの書類を作成して双方のサインをしてもらう。法廷外の決着であったとしてもケースは公的に7年?保存されるのである。おばちゃんはショッピングモールに帰ると、おじちゃんに「裁判に行ってきた。勝負には勝ったわ、全額分捕ったよ!」と報告した。
おじちゃんは何が?と狐につままれていた。

OCコートに和解案がファイルされると、CBBC(California Board of Barbering and Cosmetology)がコンタクトをしてきた。裁判の結果を教えてくれと言うのである。

私がCBBCにクレームをファイルしたときは、ほとんど何もアクションを取らなかったくせに。彼女に対してクレームが他からもファイルされたから、だと。

おばちゃんがクレームをファイルしたときに、CBBCが素早くアクションを取っていれば、レーザーの犠牲者は増えなかったのだ。おばちゃんは原状回復の費用はすべて回収することで合意した。それがどういう意味か分かるでしょう?とセトルメントのナンバーを教えた。

TV Series Judge JUdy

ジャッジ・ジュディ
訴訟の送達が終わってから裁判日を待つ間に、実はとんでもない手紙が舞い込んできた。テレビ番組のJudge Judy(ジャッジ・ジュディ)のプロデューサーから。
興味のあるケースなので番組で放映させてもらえないだろうか?というオッファーだった。OKなら取材チームを送ると。

おばちゃんはジャッジ・ジュディは番組のジャッジの中では一番好きだったし、少額で争っているアホみたいなアメリカ人が、しょうもない論理を振り回してジュディーに木っ端みじんにされてふてくされてコートを出てゆく番組を腹を抱えて笑っていたから、手紙を受け取ってから動転してしまった。

おばちゃんのケースもアメリカのリビングで腹を抱えて笑われるほど滑稽なのだろうか?他人事は面白いが、自分が笑われるのはまっぴらであった。オッファーの返事はしなかった。

おばちゃんは誰にも裁判のことを話していなかったから、裁判の当日、開廷を待つ間に同じく待っていた気さくそうな裁判関係者に思い切って番組オッファーの話を明かしてしてみた。

ジャッジ・ジュディからオッファーの手紙が来たんだけど。
あ~、ジャッジ・ジュディ?
あの番組はものすごい数のオッファーを訴人に送るんだよ。
珍しくないよ。
そうなの!?よかった!特別笑われるようなケースじゃなかったんだ。

ランダムで送って、オッファーを受けたケースを番組にするんだ。
でも、例えば私がオッファーを受けたとしても相手方がNoと言えば番組にはならないよね?エステティシャンは違法レーザーがバレれば、免許がなくなるから間違ってもオッファーにOkするわけがない。おばちゃんは疑問が解けて、ひとまず安心した。

おばちゃんはこの事件以来日本のあるお菓子が苦手だ。お菓子の名前がエステティシャンと同じなので、目にするたびに記憶がよみがえってくる。
やりたくてやったわけではないし。

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