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携帯自体も出始めでIphoneどころか、BlackberryやNokiaがぽつぽつと使われ始めたころ社会はまだ携帯文化に慣れていなかった。他人と一緒の時に携帯電話をいじるのは、人を無視した無礼なマナーという合意があったような時代。

人は一人でやってきてアメリカ人がでっかい指先でBlackberryをポチポチさわる。よそから電話を受けて他人に耳障りな会話を平気でする。おばちゃん、そういう客が目障りでどうしたもんかなぁと悩んでいた。繰り返すが携帯電が珍しかった時代。

おばちゃんは勤務時間が長く碌に買い物に行けなかったから、オンラインショップを多用するようになっていた。EbayでInstantBuyかアマゾン。どうしてもアメリカにないものは日本で買って転送で送らせていた。

携帯電話の迷惑を何か防げるグッズがないか、検索していたおばちゃんは見つけてしまったのですね。
邪魔ー。携帯電話の電波を邪魔ー。

おばちゃんはふと黒い心がムクムクもたげ色々調べてしまった。当時携帯の電波の状況は安定していなくて、しょっちゅうつながらないとかトラブルがあるようだった。

もし、ウチでつながらなくてもそれはよくある話よね?その会社はイスラエルにあり、邪魔―の他にも怪しげなグッズがいろいろあった。

ただ、アメリカ国土で邪魔ーは許されていない。もし、所持していたら連邦犯罪になるのかも。

邪魔―がOKなのはオーストラリアと日本だった。おばちゃんは会社にメールをして、日本に送れる?と聞いたらば、日本は禁止国じゃないから大丈夫よ。と返事が来た。

そうか、理論上イスラエルで物を買い、日本の転送住所に送って、転送からアメリカに来るよね。おばちゃんは無害のコンピューターパーツを買ってみたら日本経由で普通に届いた。むろんイケナイものは何も買っていない。

ある時はラップトップの調子がおかしいので、予備のハードディスクを買っておこうかと、近場で一つポチる。セラーから送ったよ~、通関があるから、。とメールが来てえっ?通関?何故?同じ州内で、どうして通関?

ハード・ディスクは3日も4日も届かず、1週間以上も経ってからやっと届いた。カナダから。EbayのアイテムのロケーションはCAだった。CAはCaliforniaだろう普通?!カナダの会社ならCANADAって書けよ。

ある時はEbayでエスニック風のパンツ(タイ産)が気に入って、ただ値段がGBPと書いてあったので、Sellerに問い合わせたらブリティッシュ・ポンドだという。アイテムのロケーションはオーストラリアである。変だなぁと思いながらも欲しかったので買ったらなんとドイツから届いた。
ネットには魑魅魍魎が巣食っている。

おばちゃん 時効の分だけ懺悔する

おばちゃんがリタイアをしてからだいぶ経つけど、お客も従業員もまだ現役かなぁ。遠い目。時効になった分だけ懺悔する。

一番の図々しい客は”初めて来てやったからまけろ、オマケをつけろ”といったメキシカンの2人組。
次は、”俺は年寄りだからシニアだからまけろ”と言った台湾人。あんたが”年を食っているからと言って、どうして私がディスカウントをしないといけないのか?”と、おばちゃんが目をじっと見て言ったらくじけて撤収した。

オープンしてまだ間がないときお客が電話オーダーの商品をピックアップに来て”これはオーダーの品と違う、俺はこれじゃないのが欲しいんだ!”でも電話を受けたのはおばちゃんで、絶対商品に間違いはない。客と言い合いになり、客が捨て台詞を吐いたのでおばちゃんもカッとなってそのレシートを丸めて

客にぶつけてやろうとしたら、おじちゃんが後ろから私の挙げた腕をつかんで、次いでおばちゃんの両肩をがしっと羽交い絞めにした。その間に客が悪態をついて外に出て行ったので、レシートをぶつけられずに誠に残念だった。とても客商売のオーナーにあるまじき振る舞いでした。
反省はしていませんが、やっと白状できてすっきりしました。

ローカルのフリーペーパーにディスカウント広告を出しました。店のチラシの金額を書き間違えて$1.50高く書いてしまいました。お客さんが手に取ったチラシを見て、あれ?おかしいな、という顔をした時に値段が間違っているのに気が付きました。アサちゃんにお客さんを任せて、チラシの金額を書き換えてプリントしなおし、お客さんの気がつかない間にこっそりチラシをすり替えました。

ウエブとキャッシャーの金額も書き換えて証拠を隠滅しました。
あれ、確か金額が違っていたはずのような?という顔のお客さんにどうしました?としらばっくれました。反省はしてますが、後悔はしてない。

昼寝の時に英語で電話がかかってきたら「No English」と一言
言って電話を切りました。眠かったんです。ごめんなさい。

C国人が電話予約をすっぽかし次はその旦那が別の電話番号でしれっと予約してきてあまりに腹が立ったので、出禁にしました。
店のWebのヘッダーにお客の名前と電話番号を2つ、しばらく晒しました。ウチ、AdSenceを張ってたのでトラフィックがあったと思います。
10年以上たっているので、時効ですよね?

〇山さんの目と鼻が整形だと噂を広めたのはおばちゃんです。マーちゃんが日本に行ってきてお土産と女性セブンを持ってきてくれて、雑誌は店に置いていたら、〇山さんが女性セブンの美容整形の広告をびりびり破って
持っていき、次に来た時に目と鼻が新品だったので整形だって広めてしまいました。もうみんな知っているから、無罪ですよね?

ドイツ育ちだと言うC国人がドクターのコンフェランスに来たといい、お会計でカードを出してきたけどDeclineされておばちゃんは、別のカードかキャッシュを出してんか?とゆうたら、お財布をホテルに忘れてカードはこれだけでキャッシュは”無い”と言いよるんですわ。

ドイツなまりの英語を話すC国人などという珍人やったけど、大陸産のC国人と同じように、ぐいぐい対応してしもうたんですが、ドイツ育ちのせいか真面目やったんです。

でもアメリカでカード一枚だけ、エマージェンシーのキャッシュも
持ってない。カードのカスタマーセンターに電話を掛けたら、ドイツ時間の夜中でカスタマーサービスがお休みなんや、言いよるんですわ。

カードのカスタマーサービスって24/7dayと違いますのん?電話が繋がれへんってドイツのカードカスタマーサービスあれへんのと違います。
ホテルに帰ってキャッシュを持って来てくれへん?金持ってきたら携帯電話を返すからと、携帯をカタに取りましてん。ちょっと、イケズすぎました?

もっと酷いのはどこで自白したらいいですか?

リタイヤ後はプログラミング

おばちゃんはつくづくプログラミングが出来ればなぁ。とSharpのキャッシャーを嘗め回しながら切望したのだよ。Sharpのキャッシャー内部のメモリには商品のPriceLookUpTableや税の設定、トランザクション・ジャーナルなどのデータが保存されている。

このSharp、腹が立つことに2種類のトランザクションのカウント・ナンバーが組み込まれて、例えて言うと性質は車のマイレージ・カウントと同じなんだ。つまり1つは製造後からの通しナンバーね。キャッシャーがチ~ンと鳴ると数字が一つ大きくなる。こいつは電池を抜いて、全部初期化をすると0になるがそれ以外変えられない。チ~ン で一つ。Shit。
もう一つのマイレージはその日のトータル。集計をして印刷をすればカウンターはゼロに戻る。

もし、トランザクションを同じマシンで打ち直せば?マイレージ1のカウンターがチーンと鳴った分だけ回る。昨日の終わりのナンバーと今日の初めのナンバーは続きでなければIRS(税務署)が気が付く。

IRSというのはポス(キャッシャー)の印刷レコードを信じていて信頼が厚い。書き直せないことになってるからさ。隣のパン屋のクリスもレジからは凧の足みたいなレシートがとぐろを巻いていて、ギフトショップのブランドンのとこも長いレシートのしっぽが出てる。

業務が終わった時にキャッシャーを集計モードにして「ENTER」をパンチすると、印刷レシートがシュルシュル出てきて、おばちゃんは疲れた手で紙を巻いて充実した一日の営業が終わるわけだ。

Sharpはシリアル接続でWindowsXPに繋がっている。付属ソフトをいじり倒すとデータのトランスファーができることが分かった。キャッシャーからコンピューターのSharpのディレクトリ¥DATAに内容がコピーされる。ほう?
マイレージカウンター1は手が出せない。どこに格納されているかもわからない。

おばちゃんは全く同じSharpのキャッシャーをもう一台買った。(なんでや?キャッシャー1が壊れたら業務ができへんやんけ?)ウチのリビングに転がっている自作コンピューターに接続し、1台目の”DATA”を2台目のSharp¥Dataに上書きするとあ~ら、不思議! キャッシャー2がキャッシャー1そっくりになった。

面白いね。あたしって天才!
もちろんこのキャッシャー2も書き換え不能のカウントナンバーがある。チ~ン!

仕事のSharp1をジェーン、予備Sharp2をマイケルとする。おばちゃんは、商品値段や新製品をしょっちゅう変えるので、LUテーブルも編集する必要があるのだ。ジェーンを変更したらマイケルも更新しておく。

なんでや? 仕事のジェーン1のケーブルをネズミがかじって使いものにならへん日があるかもしれんやろ!そしたらマイケルをすぐ差し替えられるやんけ!

お客というのは値段表に紙を貼って書き換えたり、修正液で塗り替えたりして値段を上げると、ムカッとする。値段を上げやがって!と。レシートも値段表もSleekで修正などと影もなくきれいなレシートだと値上げしても案外気が付かないもんだ。ここまでいいぃ?

おばちゃんは、同じ仕事をするのが嫌いなの。だから、昔っから字が下手なの。お習字が嫌いなの。わかりきっている作業を、なんで?何度も繰り返さないといけないのか?
そんなわけで、毎年2月になる前にジェーンを眺めながらう~ん、エディターが欲しいなぁと真剣に思う。

知り合いの台湾人のエミーさんがプログラマーで、聞いてみたことがある。

おば:ねぇ、エミーさんこのSharpをクラックしてエディターを作れない?
エミー:言語のソースはわかる?
おば:言語がわかんないとダメ?
エミー:ソースを見せてくれれば何とかなるけど、なければ私には無理。ウイルスソフトを作っているような人ならできるよ。
おば:そっか、残念。プログラミングを勉強していつか自分でエディターを作れるようになるかなぁ?

一日の業務が終わったらエディターを立ち上げてトランザクションを編集する、Refundや打ち直しの跡もない綺麗なトランザクションを印刷をする。美しい仕事よ!

人間のモチベーションとは意外なところから湧いて出るものだ。おばちゃんは割と根に持つタイプなので、商売をやめた今でもエディターの夢はあきらめていない。何年学校に行ったらいいの?

ポンコツ従業員

Don’t scream at me!
とマネージャーは言ったけど、これが叫ばずにいられるかって。客のオーダー表を無くしたのは一体誰なんじゃい。日本では考えられないことが起こるんである。

おばちゃんはビジネスのオープンに向けて発注した機器の納期を何か所かに順番コンファームしていたのである。
ベトナム系や中国系の場合、返事は軽いが仕事はいい加減なので直前でまた確認を取らないと納期に配達されるか確証がない。

アメリカ系の大手チェーン店はまだ仕事がしっかりしていたが、命令系統の中に仕事ができない奴が入っているとどうなるかわからない。カタログを見て機械を決め店舗に現在在庫はないけれどオーダー表にモデルナンバーと連絡先を書けば取り寄せると店員は言ったのである。

おばちゃんはバインダーに挟まれたスペシャル・オーダー表に記入した。ぺら一枚の紙だったがそれまでに20以上のオーダーがすでに書き込まれていたそれがひと月前。

なのに店舗に確認の電話をしたら、スペシャルオーダー?それなんのこと?知らない。聞いてない。分からない。だったので、おばちゃんは激怒して
”マネージャーを出せ”と叫んだのであった。マネージャーが出ると、オーダー表を誰が管理してたのさ。私のオーダーは1週間後に必要なんだから。

そしたらマネージャーが
”私が無くしたんじゃないのよ。怒鳴らないでよ。”
あなたがマネージャーなんだから責任を取ってよ!
分かったわよ、マネージャーの声が裏返っていた。

おばちゃんだって怒鳴りたくは無い。店員を問い詰めても金輪際解決しないし、マネージャーに変わった時点で不満(怒鳴る)を表明しておかないと、後回しにされる。
なんたって私の他に同じ事情の客が20人はいるのだから。修羅場の時には静かな客ほど対応は後回しだ時と場合によって怒鳴るというのは解決の一番の早道だったりして。

アメリカの会社と言うのは問題の塊だったりする。従業員の能力に差がありすぎるのである。一握りの有能な人材が、無能と普通を引っ張って会社が成り立ってる。信じられないかもしれないが郵便局で簡単な掛け算・暗算ができないのが窓口にいるから。
数学のテストでは電卓持ち込みOKで九九を覚えていないアメリカ人はごろごろいるから。

人材会社?のスキル判定のためにいろいろなテストがあるがこんなテストもある。
・アルファベット順にファイリングをします。
・次の5つの名前のファイルをABC順に並べてください。
な~んてね。アルファベットの順番が分からないという人がいるわけ信じられないかもしれないが。

アメリカ人の自己評価だけはすごく高い。スペイン語とフランス語の挨拶くらいしか知らないのに語学できますと平気で言っちゃう。仕事ができるだろうと思っていると、とんでもないポンコツが混じっているの。

で、マネージャーは次の日に電話をかけてきて機械は探したのでXXの店舗あったから。行ってピックアップして。どうやら彼女は有能の方だったようだ。当たり前だけど、ごめんなさいとか申し訳ないとか謝罪は一切ない。
やればできるじゃん。

おばちゃん危機一髪!

もし、ウエスト・コート・シリーズが映画化されるとしたら、おばちゃんは吉田羊でおじちゃんは伊原剛志がいいかな。NHKの「ふたりっ子」はKTVで放送されたので、芸能音痴のおばちゃんも見ていた。伊原剛志のファンよ。ウフフ、還暦過ぎおばちゃんの妄想。

さて、店舗を経営しているあいだ、修羅場というのはいくつもあった。その中でも最大級がガス事件

ビルが倒壊する!?

土曜日の午後、仕入れが終わってフリーウエイを下っているとおばちゃんの携帯が鳴った。管理会社のフレッドだった運転中だし10分ほどでモールに着くからおばちゃんは電話を取らなかった。ウエスト・コートに着くとまず隣のパン屋にコーヒーを買いに行った。

ジャネットはいなくて、クリスが神妙な顔をしておう、来たか。フレッドからもう話は聞いた?と言うので何が?というと大変だよ。ガス漏れ!お宅からガス漏れだって。

おばちゃんはぽか~んとしてガス漏れ?!実は、その朝の7時クリスがパン屋をオープンした時にはクリスには分からなかったけど、ペストリーを買いに来る客が、店に入るとガスくさいガスくさいと言うんだって。それでクリスがガス会社に電話をして、エマージェンシー班が派遣された。

クリスのユニットからももちろん臭ったが、検知器で調べると漏れ箇所はどうもパン屋ではないらしい。ウチのユニットから漏れているらしい、と。ガス会社はとりあえずウチのガスの元栓を閉めて、クリスは管理会社のフレッドに電話をしたというわけだった。

はぁ、事件はだいたい金曜か土曜に起こるのだ。ガス漏れなら今夜の営業は無理でたぶん日曜日も修理が来ないから週末はこれで終わった!と絶望した。

ウチのユニットに戻ってガス会社に電話をし緊急班はやってきた。ウチのガス管はユニットの裏から建物に引き込まれ天井裏を通って玄関先まで施設されている。ガス会社のおっさんは元栓を開けて、ピカピカする検知器を手に裏口から入ってきた。

そして天井を向いてこの辺が怪しいとスト―レージで言った。この辺?
そうだ、この検知器の数値だとかなりの量が漏れてる。
ガスの元栓はもう一度締めるのでプラマーを呼んで修理してね。

ちょっと待って!ガス管の修理もしてくれるんじゃないの?ガス管なのになんでプラマー(水道屋)なのよ!!!えぇ?
アメリカでは水道屋がガス管の修理をするんだよ。

Shit!こんな土曜日の午後にどこの水道屋が働くかよ。マークだって来ないかもしれない。

マークは管理会社のフレッドがウエスト・コートのテナント御用達しとして新しく選んだプラマーだった。珍しく誠実で料金もぼったくりではなかった。ただ、土曜日の2時に来てくれるかどうか。ところが奇跡のようにマークは捕まったしすぐ来てくれた。

ガス屋はこの辺だって言うの。おばちゃんはスト―レージの天井を指さして、マークは見てみよう。脚立に上って天井のパネルをずらした。フラッシュライトを取り出して、くらい天井裏を照らした。

マークがうわぁ~と叫んで脚立ががたついた。どうしたの?
俺は嫌だ、こんな怖ろしいこと。脚立を転げるように降りると、
俺は帰る!いつクラッシュするか、怖ろしい。こんなことできるか、、、。
と逃げかかるマークをおばちゃんは必死両手で押しとどめて。
まって、待ってどうしたの?落ち着いて!なんなの一体?

するとマークは、ガス管は切断されてるんだ。それも建物の「梁」が落ちてきて切断した。建物の横の一番長い梁が落ちて、建物の壁と縦の柱の間は繋がってなくて、すき間から外が見えると!

クラッシュする!となおも逃げようとするマークを押しとどめて、待って、マークそんな大変な事は報告しなきゃいけない。私がフレッドに説明するよりもあなたが説明して!私じゃムリ。ね、あなたが電話したほうがいいのよ。

マークは少し落ち着いて、分かった。俺が電話を掛ける。おばちゃんは店舗の電話を持ってきてマークに差しだした。マークは管理会社のフレッドに自分が見たものを説明した。電話の向こう側のフレッドも報告に凍ったよううだった。フレッドはすぐ来るって。サンディエゴからなら最短でも50分はかかる。2時半過ぎだった。

マークはフレッドが到着するまでどこかに避難し(当たり前だ)フレッドは4時に到着した。マークから報告を受けると自分でも脚立に上り、懐中電灯で落ちた梁と歪んで外が見える壁と構造を見て、よく日に焼けた白人が白っぽくなって裏路地に出た。アーキテクトを呼ばないと。


建築家は6時に来た。

おばちゃんたちとマークは、フレッドが建築家に避難命令を出さなくてもいいのか?と聞くのを息をひそめて聞いていた。

それはそうだ。土曜日の夕方で本屋も美容院もエクササイズも客がいて営業しているのだ。建物がクラッシュして死人怪我人がでたら、間違いなくモールのオーナーと管理会社は告訴される。何十となく。

地獄の窯のふたが開いてごうごう燃える火が見える。建築家は顔をこわばらせて大丈夫だと言った。本当か?本当に避難(Evacuate)させなくていいんだな? 建築家は、ただ、緊急に応急処置が必要だと言った。
大工がいる、それもすぐに。

建築家とフレッドがまた電話をかけ始め土曜日の夕方だというのに、大工のクルーが一そろい集まった。7時だった。

緊急招集

アメリカ人がたった4時間で緊急事態に集合するなんて想像もつかなかった。それも土曜日の夜7時に。

フレッドと建築家と同じく大工の監督?が梁が落ちてしまった築40年の木造2階建て商業ビルをどのように応急処置を施すのか、おばちゃんとおじちゃんは目立たないように隅で息をひそめていた。

だって、ウチの運命はどうなるのよ!ウチが突っ込んだ開業資金は潰れっちゃったら回収できないじゃない。

建築家はジャッキ・アップだとフレッドに言っていた。ジャッキ・アップ?!
この一階に12もテナントが入ったビルの柱をジャッキアップ?
男たちの集団は薄あかるい裏路地で動き始めた。おばちゃんもおじちゃんも昼過ぎに到着してから何もたべていない。でも空腹も喉の渇きも何も感じなかった。

一時間後に資材が集められ緊張した男たちは口を利かずに動いていた。8時過ぎにはフレッドは帰ったようだった。

おばちゃんたちは帰る決心も付かず、裏口を開けっ放しで作業しているのだから、ほっといて帰ることもできないし。崩壊しそうだったビルの戸締りをして意味があるのか考えると頭がおかしくなりそうだった。

11時にも12時にも作業は終わらなかった。1時過ぎにもう今夜出来ることは全部終わらせたと建築家が言って、疲れ切った男たちは口を利かずに引き上げた。緊張と疲れで無感覚になっておばちゃんたちもウチに帰った。

現場にいたというのに何をどのように処置したのか全く分からなかった。避難命令を出さず、建築家も大工も応急修理が終わったというなら、ウチの営業はできるのだろうか?

いま天井裏に起こっているDisasterは、天井板を閉めて目をつぶれば、一部の人間しか知らず天井板から下は日常が広がっているのだ。おばちゃんは日常の端に立っていいるのか、地獄の窯のフタの上にいるのか見当がつかなかった。

営業再開

怖いのでおばちゃんは日常の端に戻ることにした。マークは切断されたガス管の修理をしていない。明日は日曜日で誰も仕事をするはずがない。と言うことは明日は営業中止。火曜日にマークを呼んでガス管を直して、ガス会社に元栓を開けてもらって、フレッドと協議して果たしてビジネスを再開できるか?

月曜日に顔を出して隣のクリスに大雑把に事情を説明した。クリスはいつも夕方4時過ぎには自宅に帰り、夜は何回もパンだねのガス抜きと仕込みをするのに戻って来るから土曜日の夜の作業は知っていたと思う。

うちとパン屋は壁をシェアしているので、本格修理となればクリスにも当然管理会社から連絡があるはずだ。


フレッドは必要な情報も出し惜しみするタイプだ。おばちゃんなどの言葉に訛りがあるような移民を内心ではバカにしているので、まかり間違っても自分からテナントの心配を解消してやろうなんて親ごころは無かった。いつも命令を上から下すだけだった。

火曜日の午後にマークに来てもらって、折れたガス管をつないでもらった。マークが言うにはガス管の切断原因は建物の梁なので、大家の所有物だから、マークの修理代は大家から出るとフレッドから言われたという。

ふん、当然よね。フレッドは本格修理はプラニング中なのでまだ発表できないという。どのくらい待つのか聞いたら、2週間待てと。

傾いて崩壊するかもしれなかったビルの一階で、応急修理のジャッキアップをして本当に安全なのだろうか?人を入れて営業してよいのだろうか?
考えると危機感でしびれたようになり、思考が停止してしまうのだ。恐怖心を押さえつけて日常の端にしがみついていることにした。

水曜日に出勤してガス屋を呼んでガスの元栓を開けてもらった。午後からやっと営業が再開できた。土曜・日曜と火曜に水曜の午前中。この間が営業不能だった。事業保険を使って休業補償を申請するのだ。

保険屋と戦う

原因は明らかだからおばちゃんは強気だった。保険の査定人はいつも人を詐欺師のように扱う。何にも仕事をしない代理店のジェフを切って、日系の保険屋に変えたにも関わらず、保険屋は保険屋だった。

申請フォームを送るからそれに記入して返送しろと。返送すると、休業補償の算定をするために過去3か月の売り上げとタックスリターンのコピーを送れと言ってきた。おばちゃんはメールに添付してすぐ送った。

補償額が決定したので知らせると査定人エミリーから返事が来た。
少ない!土曜日・日曜日が入っているのに少ない。計算してみると週末も平日も平均して査定しているのが分かった。なめられているね。

すぐエミリーにメールを書いた。アンタの査定に納得できない。ウチのビジネスはエンターテインメントである。週末の売り上げは平日の倍か3倍だ。土・日は土・日の平均で平日は平日の平均で支払うべき。例えば、あなたがテロリストの爆弾で吹っ飛ばされたとして、指を失ったら、親指と小指を同じ金額で査定するのか?

エミリーは不承不承あんたの主張を認める。査定はやり直して金額はまた通知する。ただ、二度と下品が例えはしないように。一体どこが下品かしら、ねぇ。


また工事現場だよ。
大規模修復でモール全体が工事が終わったと思ったら今度はおばちゃんのユニットと隣のパン屋が工事現場になる。二つのユニット共有の壁を裏口に近いところで3メーターほどぶっ壊し、本格工事の作業用のワークスペースとなる。邪魔になる器具はすべて撤去せよと命令が来た。

撤去する器具がおばちゃんのビジネスに必要なのかそんなことはフレッドと管理会社にはどうでもいいのであった。営業ができないのであれば、それはそのビジネスの都合であって、事業保険などに請求すれば?管理会社としては大家の財産であるビルを守るために必要な処置を取るだけ。

疑惑の保険エージェント

朝出勤すると、ジャケットをスト―レージに仕舞い、ちょっと身を乗り出すとぶち抜いて丸見えになったパン屋の奥スペースが見える。パティシエのベルギー人がいるのでハイとあいさつをして、クロワッサンはまだある?一日中ベーカリーの甘い匂いがウチのユニットにも漂うのだった。

不自由で腹立たしい4週間が終わって修復が済んだ。どうやら地獄のフタは開くことがなく日常が続くようだ。フレッドではなく管理会社の社長のローランドが一人の男を連れてやってきた。

おう、元気か!これは俺の兄弟で保険屋だ。修理が終わったビルの査定に来た。なに、写真を何枚か撮るだけだから。

ふう~ん。
自分の兄弟が火災保険の引き受けをし、損害の査定もできれば、さぞかし便利だろうね。

おばちゃんはスタートアップの時、ユニットの営業許可を取るためシティの建築部に行って、構造のリモデルはしないことでユニットの使用許可を申請した。

ペイントくらい塗り替えるかもと口を滑らせたら窓口のお兄ちゃんが「壁のペイントの厚さはXXミリまでだったっけ?」と、なん十冊もある規格ブックの一つを開こうとしたので、慌てて止めた。

いや、ペイントは塗り替えないし。全然変えずにやります、と。隣にはブループリントを持って並んでいる申請者の列があった。建築物の構造を1ミリでも変更する場合は、窓口に申請書を出して規格に合った変更かどうかしらみつぶしに調べられ、ダメ出しをされればブループリントを書き直し。

大規模工事なら、中途でシティのインスペクションが入り、パスした場合に次の工事過程に進める。梁の修復工事が始まってからシティのインスペクターは一度でも来ただろうか?

おばちゃんたちは9時半に出勤するので、もしインスペクターが朝に来た場合は分からない。隣のクリスなら5時からパンを焼き始めるから絶対見逃すはずがない。

ローランド達が帰ってから、隣のクリスに声をかけてねぇ、この修理ってシティに申請しなくてもいいのかしら?シティのインスペクターって来た?

インスペクター?一度も見てないよ。ふぅ~ん。おかしい。
おばちゃんたちは情報から遮断されていたから何をどうするということもできず日常が戻ってきて忙殺された。

しばらくたったある夜、自宅に帰った時にドアに名刺が挟まっていた。California Insurance Fraud Investigator裏を返すと手書きで”JohnSmmith帰ったら電話をくれ。

”そそっかしいガバメントのエージェントが番地も確認せずドアに挟んでいったものだろう。ウチはJohnSmmithじゃないし。おばちゃんは貴重な名刺の端を爪で挟んで大事に仕舞った。to be continued

プラマーの子

アメリカの水回りは要注意だった。
新築だって油断はできない。ウチの風呂の蛇口は赤いラベルが水で青から熱湯がでた。代々の持ち主は気にしていなかったが。

友達の家はコンドで隣の住人の部屋から水がしみ出てきた。さあ大変である。どこの水道菅が悪いのか。コンドの共有スペースの菅か、個人の所有権のある部分の水道菅か?
壁の中なので壁を壊すしかないのだが、水道や(プラマー)を呼ぶ費用、壊す費用をだれが持つか?誰も払いたくないので、誰もプラマーに電話してないのである。
結局、全員でミーティングしてプラマーを呼ぶ費用は壁を接するオーナーで負担して、修理箇所のオーナーが修理費を持つと決まった。

電話帳にはプラマーのナンバーがずらずらある。
おばちゃんもいろんなプラマーに来てもらった。おっさんが一人で人の家を訪れるとしたら、それはプラマーである。

「お前はプラマーの子」というアメリカのジョークがあったりする。アメリカの家は新築は少なくて、代々家に手を入れて売買するのが普通であったからどの家も、密かに爆弾を抱えているのだった。バケーションから帰ってきたら、リビングがプールになっていたという話もよく聞いた。

ジャネットはリビングの床下の水道菅が怪しくて掘り返さないといけなくて憂鬱そうだった。

ショッピングモールはジャネットの家より古いからもっと大変だった。リセッションで空いてしまったテナントを2か月無料にするとかあの手この手のプロモーションで広告した結果、大手のエクササイズ会社が2つぶち抜きで借りることが決まった。内装はほとんど終わりシャワールームとトイレの設置が残っている。

エクササイズ会社のマークは壁の中を走っているサビだらけの水道管を見て、危機感を覚えたに違いない。管理会社のフレッドにこのユニットの水道管は古くて信用できないと文句をいったのだろう、フレッドは安請け合いしてもしだめなら大家が修理費用を持つと言ったらしい。

新しいシャワールームとトイレの配管が完了して、蛇口をひねったら、壁から盛大に水が噴き出したそうだ。
もう一人のフレッド(同じ名前が多すぎ!)はプラマーでパン屋がたまに使っていてた。

このフレッドが恐るべきことに、このショッピングモール建設当時に水道管を設置した本人だった。ジャネットが聞き出したところ、ビルの建設当時から水道管の配管はヘンテコリンで、あっちこっちにつながっていない?行きどまりの?配管があるのだという

。二つばかりパーキングロットまで伸びてそこで盲菅なのだそうだ。ウチのユニットからも建物の外にでる菅があるそうだ。40年前の盲菅が地面の下でどうなっているかただ怖ろしいことである。

さらには、代々のテナントが水道管を継ぎ足し、合流させ、カットし、はては二つのテナントをぶち抜いた後に、また分割したりすると2つのテナントにまたがった管があるわけで隣のビジネスが水を流すと、こっちの水道管から下水に行くとか長年この建物の水道管を扱ってきたフレッドももう何が何やら分からんのだそうだ。

2年後、3つ隣りの本屋のブランドンのトイレが爆発し、ブランドンは新トイレと配管に2万ドルをつぎ込んだのであった。

おばちゃんは偽札を受け取ったことがある

偽ドル札を3回受け取ったことがある。
1回目 100ドル
おばちゃんは店をやっていて、従業員もいたからこのときは誰が100ドル札を受け取ったのか分からなかった。給料として従業員に支払い、従業員が日系スーパーで使おうとして突っ返された。「全~然だめですって、この札。さわった瞬間ニセだって。」

おばちゃんは瞬間血が上り、何回もさわっているのに気配が分からなかった自分を恥じ、給料分としてさらに100ドル渡さねばならず、商品分と合わせて損したことが焙られるように悔しかった。もぉう、くやしかった。すぐポリスに連絡し、次の日ポリスはやってきた。

偽札を出してどこがダメなのか聞くと、
「ほ~ら見てここ。すかし。この透かしリンカーンじゃん」
「リンカーン?ってか」
100ドル札の大統領は太ったおっさんのワシントン。
透かしもワシントンであるはずが、5ドル札の痩せたリンカーン?
ポリスはニカニカ笑って
「まず5ドル札のインクを落として、その上に100ドル札を刷ってんの」
だから、偽札チェックペンでこすっても、本物の反応しか出んのよ。これは証拠として押収するから。
「ウチの偽札はそれからどうなるの?」
ニセ札づくりは連邦犯罪なので、FBIに渡すんだと。被害届のコピーをくれて帰った。FBIが来ればいいのに、テレビでしか見たことないから。

ウチの損害は事業保険でもカバーできなかった。保険屋のジェフが知らない間に、免責額をあげて250ドルにしてたからだ。

2回目は50ドル。
これは女の子が受けとったと思う。偽札チェックペンは通用しないから、必ず透かしを確認せぇと周知させたつもりで、忙しいところを狙われた。この時も泣いた。

3回目の100ドル札は
忘れもしない私がつかまされた。
木曜日だったか、従業員はアサインしてなくておばちゃん一人で切り盛りしていたが、お客が立て込んでいた、6時半ごろふらっと見たことがないスレンダーな黒人女性が入ってきた。安い商品で持ち帰りオーダー。

オーダーができるまで、女性は静かに座っていた。現金を受け取った瞬間、あれっ、分厚いな?と思ったのだけど忙しさのあまりレジに入れてしまった。その夜のレジ締で100ドルをさわった瞬間、やられたと思った。おばちゃんはその頃にはベテランになっていたので、札をさわったたら、この紙は違うと思った。透かしがそもそもなかった。おばちゃん、脱力。

以降、ウチのビジネスはホログラムのある”50ドル100ドル札以外”の高額紙幣は受け取らないポリシーを発令した。さらにFry’sでウエブカムを買ってきて、配線しドアに向けて設置した。

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