テンJr.がFIP

テンが3週間前に膀胱炎を発症して、それは抗生物質と消炎剤で収まったのだが、私はどうしても疑問をぬぐい切れなかった。この子はどこかおかしい。何かが内臓に隠れているような気がする。
子猫ってこんなに動かないものだったろうか?
おじちゃんは、ちゃんとご飯は食べるよ。夜中に起きてカリカリを食べていたよ。というのだが。

紫音が午後四時にうるさく鳴いて遊べという。
キッチンカウンターに登って暴れまわる。テンと遊びなさい。テンは寝ていた。子猫にしては寝すぎではないか?土曜日の4時だった。胸騒ぎがするがこの時間に病院に連れて行っても予約がいっぱいだろう。

日曜日の朝、テンに呼び掛けても反応がなかった。
頭をもたげることもしんどそうだ。痩せて発育不良の体は冷たくて頭だけ熱い気がする。おじちゃんを呼んで体温を計ったら39度を超えていた。

もともと体力がある子ではないので、このままにしていたらきっと持たないだろう。病院の診察時間前で電話も保留だったが、連れて行ってドアが開いていたので診察をお願いした。血液検査をお願いします。二日なにもしなかったらこの子は死にますから。

血液検査の結果は数日かかるので、応急手当として抗生剤と消炎剤と点滴を入れた。
帰宅して午後にはテンは走り出してソファーに飛び乗った?!なんと!

おかしい。抗生物質だけの場合はこんなに回復が著しくはない。消炎剤を入れたときに劇的回復を見せるのだ。ただ、腰が砕けて時々歩行がヨれる。血液検査の時に暴れたから血管や健を傷つけたのかもしれない。

次の日も朝一で診察をしてもらい同じ抗生物質と消炎剤を入れた。自宅に帰れば紫音と駆け回った。おかしい、あれほど消耗していたのに。

月曜日に血液検査結果がでてFIPと。
FIPにはドライとウエットタイプがあって、腹水やリンパに液が溜まるウエットタイプのFIPは貯留した体液からウイルスが検出されればFIP同定できる。ドライのタイプはどこにウイルスが潜んでいるかわからず検出が難しいが血液検査の蛋白分布から暫定FIPだと。発育不全はFIPの症状の一つでもあるんですと。

FIPか!?

猫のFIPは不治のエイズ診断と同じようなものだ、中国製の治療薬が輸入される前は。
治療薬が手に入るようになった今でも、薬を持っているクリニックの数は限られ、近いところでは横浜までいかねばならない。

なぜ知っているかというと、山の猫友のノルウエージャンがFIPを発症したからだった。
猫友にシッターを頼まれて世話をしに行ったら、あちこちに粘液を吐いた跡がありバスタブのふちにぶるぶる震えているノルウエージャンがいた。猫友にこの子はおかしいよと報告すると旅行を1日切り上げて帰宅した。それが彼女のFIPの始まりだった。

FIPの治療の問題は治療できるクリニックが限られているということだけではなく、治療薬の高さだった。国の認可薬がない。

猫友の場合は2年前なので84日間の治療薬だけで80万、診察料・検査・通院などでさらに倍かかる。FacebookでもアメリカのFIP治療のサイトがあって、7000ドル以上の薬をどうやって工面するかという問題が焦点だった。

インフレで値上がりして今年ではMutian薬だけで100万円。ペット保険はFIP薬は免責、ペットの売買契約でも、FIPの場合は免責事項が設けられているのが普通だ。FIP なら猫をお取替えします、と。

かかりつけのクリニックの獣医さんは若いが優秀だった。
Mutianでの治療を望むなら横浜の病院を紹介しますが、Mutianではないけど後発薬は持っています。Mutianは84日間の連続投与が必要なのだが、後発薬なら7週間で費用は安くできます。

猫友が横浜のクリニックまで治療に通った苦労は聞いていた。
テンは発見が早かったから後発薬でもチャンスがあるのではないだろうか。6か月の子猫だから早く薬でたたけば治癒が望めるのではないか?

後発薬で治療をお願いした。
何よりも近場で急変があったときにすぐに見てもらえる。猫友によればFIPの治療には薬の匙加減がモノを言うという。猫の体重と体調を見ながら量を増減するのが重要。それならば、毎日でも通える地元のかかりつけなら体重を計りながら薬の微調整が可能だ。

テンが真菌症の治療を始めた時からテンの育成日記をつけていたので、表に手をいれてさらに書き続けることにした。腰が砕けて右足をひきずるようになったのは、血液検査の後からであった。
血管か腱を傷つけたのかと思ったが、先生によれば「左足」から血液を採ったという。FIPの症状の一つには神経系統に巣くって障害を起こす場合がありますと。腰のふらつきはFIPウイルスだったか?

月曜日に処方してもらって抗ウイルスの投薬を始めた。
同時に注射をしてもらった消炎剤の効果が切れ始めると、テンはまた動きが鈍くなってツグラで横になっていた。消炎剤は5日以上連続投与すると腎臓障害を起こすので、熱が高く炎症がひどそうな時に使い、後は抗ウイルスが効いてくるのを祈るしかなかった。

木曜日あたりから食欲が出てきて腰がふらつきながらご飯を食べる。
投薬時間は厳密に守らなければならない。
猫友の主治医は投薬時間の45分までの違いは許容内だが、それ以上の時間の狂いがないようにと指導があったと言っていた。

最初の投薬は朝10時だった、だから夜の投薬も10時。
しかし、私の通院のときに朝10時ではどうしても遅い。それで8日間かけて最大15分ごと投薬時間を早めていき朝9時―夜9時にセットした。

5日目の金曜日には腰のふらつきがよくなり消炎剤なしでも食欲があって元気が出てきた。診察した先生は体調を聞いて薬を増量した。9日目には体重が微増して2450グラムを超えた。

あと6週間。
今月末のジョイスのメモリアル・ランチには行けない。

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