五臓五腑になる入院記

手術室まで歩いていきましょうと看護師さんに従ってガラガラとIVスタンドを押して着いたところはガレージだった。
申し訳ない日本の外科医さんたち。おばちゃんはERやGrey’s Anatomyの白く明るい手術室を見すぎていたのである。

国立病院の手術室は天井が低くだだっ広くメディカル機器のある手術室というより車の修理工場に一番似ていた。車の代わりにおばちゃんが乗った手術台が中央に置かれるわけだ。

先に手前に置かれたベッドに寝ろと言われ深呼吸をさせられる。これから「全身麻酔の処置をします」と言われ、いきなりタンがからまったので言おうとしたらおばちゃんのスイッチが切れた。
ぷっつりブラックアウト。

徐々に視野が暗くなり走馬灯が飛んで、ああ、これから手術なのね。と納得しつつ眠りに落ちるはずだったのに!ただ、電源スイッチが切れただけ。これはずるい。ドラマがない。

次に井戸の上から「おなかの手術が終わりましたよ。わかります?」と声が降ってきて、いやいや目が覚めた。
ずっと寝かせていてくれればいいのに。全部治りましたよ~と回復するまで麻酔を効かせてくれていればいいのに。

当日と次の日は覚えておいてもしょうがない。術後に麻酔が切れて追加を頼んでも猫3匹が前足でおなかをひっかきまわしている夢を見た。
アメリカの知り合いは二人胆石で手術したが一人はアメリカ人の麻酔医がアメリカ人並みにたっぷり麻酔を入れてくれたので、48時間後に退院しても1週間ほどうつらうつらしていたそうだ。
日本の医者はきっちり仕事をしたので、おばちゃんは手術後きっちり目が覚めて痛かった。

腹腔鏡だったので体への浸襲は最低限だったはずだが、どてっぱらに穴が4つあいて五臓六腑の一腑がなくなったのだから、おばちゃんの体の中は結構慌てていたのだろう。
いろんな管がつながれていて痛みと消耗が半端でないので、ウオークインで手術後帰宅なんてありえないと分かった。日本人では無理だよね。

入院

手術は生まれて初めてだし日本の総合病院のシステムもまだよくわかってないから、会話には気を付けた、つもり。その検査は幾らになりますかと費用を聞かない。ドクターと呼ばず先生という。なるべく英語を使わないように言葉を探しながら話したつもりだが、手術の立ち会いに来たおじちゃんは看護師さんに「奥様は日本人ですか」と聞かれたそうだ。
日本の普通はもうわかんないのでしょうがないよね。

最初の総合病院も次の国立病院も胆石症と診断を付けた後「胆石です」
担当ドクターは「で? どうします?」と型にはまったようにまったく同じ質問をされた。

おばちゃんは即答で、できる限り早く切ってください。と答えると担当医は「へ?」と気の抜かれたような態度をとった。これも二人とも同じ。
考えるにきっと「手術を避けるにはどうしたらいいか?」とか「薬で溶かせませんか?」とかの返答が多いのだろうね。

胆石は1週間1か月でできるものでなし何年かかって畜養したものだから本人はいまいち危機感から遠いのだ。今すぐどうこうするよりまず当座の対症療法。食生活にかなりの制限をかけて、それでも発作が続くようなら、覚悟を決めて手術で切る方向に変える。だから手術は60代70代が一番多くなるのだろう。

手術を先伸ばしにして、食べたいものを食べられないならせっかく美食の国に帰ってきた甲斐がないではないか。

石は小さいほうが動きやすいという。
高脂肪コレステロール食物でいつ石が動くかわからないし、炎症を繰り返せば周囲の臓器と癒着ができる可能性が高くなり、待つほど手術のリスクは高まる。癒着のない若年齢で切除すればリスクは低く回復は比較的早かろう。

腹腔鏡なら切開でないので体への浸襲が低い。そういう条件を考えると胆嚢切除が一番リスクが低くてQOLがいい。ハードルを一つ飛べばあと十年は好きなものを食べられる。

痛みの数量化

ただ、ハードルを越えた先の地面がどれだけ深いか=痛いかは予想がつかなかった。病院経営の方々はこのハードルをできるだけ明解に患者に解説してくださるといいと思う。

手術室に曳かれる前に、若い手術看護師さんは術前講義として硬膜外麻酔の絵図と解説を一生懸命してくれたのだが、ごめんよ、おばちゃんは全身麻酔だから。彼女は自分がすべっていることに気が付いていなかったのでおとなしく話を伺っておいた。

おばちゃんの60年を超える人生の経験を思うと、術前に麻酔の方式を解説してくれても患者の不安はなくならない。手術の成否もあるが、痛みの度合いが推測できなくて不安。

手術の成否は別にして、せめて苦痛の「レベルと時間」があらかじめわかっていると、“終わりなき苦しみ“”越えるべきハードル“になる。苦しみの終わりの見当がつかないと、人生は苦しみの中で炒られることになってしまう。

つまり、いつ終わるかわからないからつらさが苦しみになる。ところが、このくらいのつらさで推定XX日で終わると具体的な見積もりを言われると、苦しみは超えるべきハードルに変わる。常に自分のゴールと目標を明確にしておく。期限を決める。そうすると耐えられる。

痛みのスタンダード化

例えば痛みの比較スタンダードを男女用いくつか用意する。スケール1から10まで作る。
女性用のスケールは出産の痛みを10として、男なら膀胱結石・痛風発作を10とする。
男女共通なら痔の発作とかぎっくり腰の痛みとか歯の歯根根幹治療が必要なかなりいかれた虫歯痛。外科内科皮膚科歯科などでコンフェランスでもやって、痛みの数値化していただきたい。

麻酔が切れた後の痛みの度合いを、腹腔鏡の穴三つの場合なら、出産痛 スケール5とか。
男性の腹部切開なら傷んだ虫歯の痛み10とか、
そして重要なのは耐えるべき「時間」よ。

手術覚醒後1日目 xxxスケール8 終日
術後2日目 xxxスケール6 半日
術後5日目 xxxスケール1 終日笑ってもOKとか。

そうか、xx手術なら大体、3日あの痛みXXXを耐えればいいのかとわかっていれば、手術を受ける不安と恐怖がずいぶん変わるとはず。

飛び越えるハードルの高さと辛さの時間の予想がつけば、じゃあひとつ飛んでみようかと希望の先を考えることができる。想像がつかない苦しみというより、具体的な苦痛のハードルがわかるほうがはるかにいい。

ちなみにおばちゃんは硬膜外麻酔の説明をしたほうでないベテラン看護師に、例えば胆石発作痛と今回の術後の痛みとどちらが強いですか?と聞いたのだが、彼女は困って「人によって痛みの度合いが違いますので」と答えた。
これも事実には間違いない。

ただ、痛みスケール・スタンダードを真剣に構築してくれると患者のためになるのだけどな。痛み経験の患者からアンケート方式で回答をとって統計化しケースを平均化すれば予想できる痛みと辛さがわかるではないか。まあ、こんなことを聞くから変な人と思われるのだろう。

ちなみに腹腔鏡穴4つ、胆嚢除去 術後の痛みのスケールは 手術当日はぎっくり腰9が終日つづき 2日目は根治治療必要虫歯痛なら スケール5が8時間くらい。 3日目は片頭痛2くらい。
同室の方はもっと大きな手術をなさっていて胆石なんかて~んで下っ端だったことを述べておく。

退院する

3日目の昼食にかぼちゃの煮物がでて煮汁にぷかぷか浮いていたので、退院することにした。かぼちゃが嫌いだったからではない。煮汁に泳いでいるかぼちゃは嫌いだ。

ドクターが患者に退院を許す状態は何だろう?と考えたとき、熱はあるかないか(感染がない)、患部・傷口に炎症があるか、食欲はでたか、どのくらい体力がもどったか(トイレはひとりで行けるか)。あたりだろう。

おばちゃんの自己チェックでは:熱はない。抗生物質の点滴は術後2か目で終わっている。傷口はきれい。トイレは自分で行けたし、売店でプリンとパウンドケーキとチョコレートを買って食べてる。食欲は戻った・病院食以外は。
次の日の回診に担当医にリクエストを言うだけだ。

次の日はまず、髪をとかして整えた。洗面用具になぜかアイラインだけあったからアイラインを引いた。眼鏡をかけて人間に見えるようにした。回診のドクターに
「熱がないです。」
「トイレに自分で行けます」
「ご飯は食べてます。(嘘)」
「痛みは体をよじった時くらい」
とどめに、パジャマをパッとめくって傷口を見せると、ドクターが「うん、傷口はきれいだね」というので
すかさず「明日退院していいですか?」というと、つられて「うん」とドクターが言った。
よかったうれしい。と喜ぶおばちゃん。

ここでもう一つ「ドクターの腕がいいから回復も早いわよね」と言える性格だったらビジネスで大成功してたろう。

手術後3日くらいで自分で運転して帰るつもりだったので、術後4日目なら順当ね。

蛇足


おばちゃんは確認することが一つあった。自宅に帰ってからおじちゃんに聞いてみた。
担当医は合併症があったか無いか手術について何と言っていたか?

驚くべきことに胆嚢の持ち主であった本人のおばちゃんに手術過程結果について何も解説がなかったから。

トロフィー

予想した通り、おじちゃんは私にへんてこな顔をして、実はドクターからお話がありますって呼びこまれて、ビンに入れた胆石を見せられて要りますか?って聞かれたらしい。
担当医曰く「結構大きく育ったのがあったんで」と。

おじちゃんはもちろん否定して、「うちのカミさんははたぶん興味がないから捨ててください」と言った。ドクターはちょっと残念そうだったと言っていた。

やっぱりね。父が脳腫瘍を摘出した時も、担当医は摘出した腫瘍を母や姉に見るかと聞いたから。

ドクターのトロフィーなんだから胆石をガロン瓶にコレクションすれればいいのに。削ったあごの骨を客寄せディスプレーみたいにしてる韓国の整形外科医みたいに。


mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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1件のコメント

  1. 本当に大変でしたね。まだまだ、痛みがあって食事も大変ですね。しばらくは無理をなさらずに、ゆっくり猫とお昼寝などなさった方がいいですよ。

    私は日本に一時帰国する度に胃腸の内視鏡の検査はするんですが、麻酔は海外のように全身ではなくて、意識があります。医師によると、海外は全身麻酔をして内視鏡検査をして、多少色々ぶつけたり傷をつけても暫く経たないとわからないのだとか。。なので、腕の悪い医師にとっては全身麻酔は都合がいいとか(胃腸内視鏡の事だけです)。

    • お気遣いありがとうございます。
      今朝は庭で花殻を始末してました。
      痛み止めもいらなくて好きなものを食べられるようになって本当に幸せ。
      とんかつは来週。牛丼かハンバーグは5月に再デビューの予定です。
      小室問題が大きく動きそうですね。
      今月末はNYBEの発表じゃないですか。
      うかうかしていられませんね。よ~し!

  2. りんどう

    mikie様

    いつも記事のアップありがとうございます。術後経過も順調で本当によかったですね。
    いい気候の良い季節です。大事になさりながらもmikie様らしくお元気にお過ごしください。

    • 通りすがり

      日本の病院はアメリカと違ってナースが優しくて、手厚い看護を受けられると思ったら、麻酔と術後の痛みが問題だったとは。痛み止めが不要になるまで回復されたそうで、良かったです。

      私はアメリカで2回手術をしましたが、確かに全身麻酔がよーく効いて、術後も強力な痛み止めをたくさんもらったので、痛みは上手く?コントロール出来た覚えがあります。でも、後でギョッとする請求書が来るんですよね。。。

      KK問題だけでなく、皇位継承問題も動きがありそうです。どうか無理をなさらず、でも記事のアップも楽しみにしています。

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