梅雨明けの猛暑に

猛暑注意というのに外科と眼科に二日間受診した。
日よけをつけてもアッチチというほどオーブンみたいになったな車には参った。冷房を全開でも車はなかなか冷えてくれない。ダッシュボードの温度計が39度を示していた。

眼科は眼底出血の後もレーザーで縫い付けた網膜も異常なし、3か月後にまた再診。
外科も血液検査の結果は異状なし。
ガンマGTPも先月の半分に下がった。血液検査表はあっちこっちにあった「L」と「H」が消えてCマーカーのCEA値も2。

血液検査はこれから3か月ごとでCTスキャンは半年に1回、血液検査が異常なしでも。
胆のうCの場合、マーカーにあまり反応しないのでCEA数値もあてにならない。CEAが高くても再発じゃないかもしれないし、数値が低くても別の臓器に出てるかもしれないし。主治医がそう言う。

おばちゃん:出やすいのは肝臓と腹膜と肺ですか? 
主治医:まあそうね。
おばちゃん:大腸はどうですか?
主治医:あんまりないよ。まあ、出るときはどこだって出るから、脳でも。
おばちゃん:そうでしょうね。んじゃ、3か月後ということで。(ああ、面倒くさい。)

お向かいの中野のおばちゃんも胃のCで確定だそうだ。
7月4日に手術でちゃっちゃとやってくるわ!と電話で話した。Cは取りやすいところにあるそうだし腹腔鏡で切除だというのでまず大丈夫だろう。腹腔鏡は次の日から歩けるし。

中野のおばちゃん:そうよね、大丈夫よね。おばちゃんの声が心なし甘えてくる。


もっとダイジョブと言ってほしいのだ。
お向かいの中野のおばちゃんの友達には同じような高齢の元ドクターが2人いて、胃Cだと報告したら「あら、胃Cなの今は治療が進んでいるからダイジョブよ」と言われただけなのでもっと甘やかして安心させてほしいのだ。

おばちゃん:おばちゃんはもう80歳じゃないですか。大丈夫ですよ。進行が遅いし。きれいに取れれば転移のリスクが低いし。今どき 胃Cの標準治療は確立されているから難しい手術でもなし。全身麻酔なら手術は怖くないですよ。パチンと意識が切れるだけ。

中野のおばちゃん:そうね、進行は遅いし。

おばちゃん:だいたい、おばちゃんは80歳過ぎて、今まで社会にも周りの人にも貢献してきたし、やることやってきて人に自慢できる人生だったじゃないですか?
たとえ閻魔様の前に出たって私は自分の人生をやれるだけやってきました!って胸を張って言えるじゃないですか?ご主人だって息子さんだってもうあっちにいるし。会えますよ。

中野のおばちゃん:そうね。一昨年亡くなった猫のメロンちゃんも会えるし。

おばちゃん:でしょ?だから怖くないですよ。大体長生きするから幸せってってわけでもないでしょ。やることをやったか?ってことじゃないですか?102歳まで生きても友達・知り合いはみんな死んじゃってますよ。自分の子供と孫くらいが見に来るの。

中野のおばちゃん:そうよね。みんな知り合いが死んじゃっててもね。

おばちゃん:でしょう。だから大丈夫ですって。腹腔鏡だからすぐ何でも食べられるってわけではないかもしれないけど、病院食が合わなかったらビタミンゼリーはいいですよ。食べられないときにお勧め。

中野のおばちゃん:バーム・クーヘンとかカステラはどうかしら?

おばちゃん:あれはね、湿り気がないからのどにつっかえるんですよ。飲み物がすぐ手に取れないですからね。飴を持っていくと口がまずいときに重宝しますね。

お向かいのおばちゃんに、励ましだか何だかわからないことを言って励ました。
おばちゃんなんか「それがどうした」と思っている人に安心させてもらおうというと、こういうことになる。

5月の入院中に四人部屋に後から入ってきた「もと医療関係者」がいた。
本来コロナで見舞客がシャットアウトされているはずなのに、彼女にはどういうわけか見舞客がいて会話が全部聞こえたのだ。患者は当の病院に昔務めていたようで、見舞客も現在勤務中の人のようだ。

彼女は消化器系の手術でHCUに入ったのだという。
麻酔から覚めると隣のお婆ちゃん患者が血まみれで錯乱して叫んでいたり、別の老人患者が点滴のくだを引きちぎり隣の!ベッドの別の患者の上で暴れていたりした。全部で4人そんな錯乱患者を見たのだそうだ。

どういうことかというと、患者は手術の同意書にサインをしたのだが、何せ高齢だしちゃんと理解もしていたのか怪しく、その上田舎なんだから先生の言うことは絶対でお任せするしかないと不安を押し込めて内心はおびえて手術に臨んだのだろう。麻酔のさめかかるころにその恐怖心が噴出し錯乱した、ということらしい。

ははぁ!だから手術の同意書に「患者を拘束することがあります」って書いてあった。仕切られたカーテンの反対側で元医療関係者の話を聞いていた。なかなかためになる。


しかしなぁ?開腹・開胸手術なら全身麻酔で手術中はまったく意識がないし何をされたってわからないし。麻酔が覚めた後に痛みがやってくるのは嫌だが、それは手術が終わった証拠だし、生きている証拠でもある。正直、何が恐ろしいのか錯乱するほどの恐怖なのかはおばちゃんには理解できない。

こっそりここだけで告白するが、全身麻酔の術中〇というのは一番苦痛のない死に方かもしれない。痛みはゼロだしね。いくらお地蔵さんにお願いしてもぽっくりさんなんて宝くじに当たるより難しいかもしれないから。

大変難しい手術で成功はわかりません。覚悟しておいてください~~っていう手術があったとして、患者は表向きはチャレンジすると見せながら、内心密かに「シメタ、ハズレでも楽じゃん」って挑戦する患者がいないわけでもないだろう思ったりする。

術中〇は確かに怖ろし気なイメージがあったが、全身麻酔を経験した後は、はは~ん、こういう抜け道もあったのかと思ったりする。そんなのおばちゃんだけ?

リスクの高い手術に挑戦する日本の外科医はあまりいないかもしれないが。

五臓五腑になる入院記

手術室まで歩いていきましょうと看護師さんに従ってガラガラとIVスタンドを押して着いたところはガレージだった。
申し訳ない日本の外科医さんたち。おばちゃんはERやGrey’s Anatomyの白く明るい手術室を見すぎていたのである。

国立病院の手術室は天井が低くだだっ広くメディカル機器のある手術室というより車の修理工場に一番似ていた。車の代わりにおばちゃんが乗った手術台が中央に置かれるわけだ。

先に手前に置かれたベッドに寝ろと言われ深呼吸をさせられる。これから「全身麻酔の処置をします」と言われ、いきなりタンがからまったので言おうとしたらおばちゃんのスイッチが切れた。
ぷっつりブラックアウト。

徐々に視野が暗くなり走馬灯が飛んで、ああ、これから手術なのね。と納得しつつ眠りに落ちるはずだったのに!ただ、電源スイッチが切れただけ。これはずるい。ドラマがない。

次に井戸の上から「おなかの手術が終わりましたよ。わかります?」と声が降ってきて、いやいや目が覚めた。
ずっと寝かせていてくれればいいのに。全部治りましたよ~と回復するまで麻酔を効かせてくれていればいいのに。

当日と次の日は覚えておいてもしょうがない。術後に麻酔が切れて追加を頼んでも猫3匹が前足でおなかをひっかきまわしている夢を見た。
アメリカの知り合いは二人胆石で手術したが一人はアメリカ人の麻酔医がアメリカ人並みにたっぷり麻酔を入れてくれたので、48時間後に退院しても1週間ほどうつらうつらしていたそうだ。
日本の医者はきっちり仕事をしたので、おばちゃんは手術後きっちり目が覚めて痛かった。

腹腔鏡だったので体への浸襲は最低限だったはずだが、どてっぱらに穴が4つあいて五臓六腑の一腑がなくなったのだから、おばちゃんの体の中は結構慌てていたのだろう。
いろんな管がつながれていて痛みと消耗が半端でないので、ウオークインで手術後帰宅なんてありえないと分かった。日本人では無理だよね。

入院

手術は生まれて初めてだし日本の総合病院のシステムもまだよくわかってないから、会話には気を付けた、つもり。その検査は幾らになりますかと費用を聞かない。ドクターと呼ばず先生という。なるべく英語を使わないように言葉を探しながら話したつもりだが、手術の立ち会いに来たおじちゃんは看護師さんに「奥様は日本人ですか」と聞かれたそうだ。
日本の普通はもうわかんないのでしょうがないよね。

最初の総合病院も次の国立病院も胆石症と診断を付けた後「胆石です」
担当ドクターは「で? どうします?」と型にはまったようにまったく同じ質問をされた。

おばちゃんは即答で、できる限り早く切ってください。と答えると担当医は「へ?」と気の抜かれたような態度をとった。これも二人とも同じ。
考えるにきっと「手術を避けるにはどうしたらいいか?」とか「薬で溶かせませんか?」とかの返答が多いのだろうね。

胆石は1週間1か月でできるものでなし何年かかって畜養したものだから本人はいまいち危機感から遠いのだ。今すぐどうこうするよりまず当座の対症療法。食生活にかなりの制限をかけて、それでも発作が続くようなら、覚悟を決めて手術で切る方向に変える。だから手術は60代70代が一番多くなるのだろう。

手術を先伸ばしにして、食べたいものを食べられないならせっかく美食の国に帰ってきた甲斐がないではないか。

石は小さいほうが動きやすいという。
高脂肪コレステロール食物でいつ石が動くかわからないし、炎症を繰り返せば周囲の臓器と癒着ができる可能性が高くなり、待つほど手術のリスクは高まる。癒着のない若年齢で切除すればリスクは低く回復は比較的早かろう。

腹腔鏡なら切開でないので体への浸襲が低い。そういう条件を考えると胆嚢切除が一番リスクが低くてQOLがいい。ハードルを一つ飛べばあと十年は好きなものを食べられる。

痛みの数量化

ただ、ハードルを越えた先の地面がどれだけ深いか=痛いかは予想がつかなかった。病院経営の方々はこのハードルをできるだけ明解に患者に解説してくださるといいと思う。

手術室に曳かれる前に、若い手術看護師さんは術前講義として硬膜外麻酔の絵図と解説を一生懸命してくれたのだが、ごめんよ、おばちゃんは全身麻酔だから。彼女は自分がすべっていることに気が付いていなかったのでおとなしく話を伺っておいた。

おばちゃんの60年を超える人生の経験を思うと、術前に麻酔の方式を解説してくれても患者の不安はなくならない。手術の成否もあるが、痛みの度合いが推測できなくて不安。

手術の成否は別にして、せめて苦痛の「レベルと時間」があらかじめわかっていると、“終わりなき苦しみ“”越えるべきハードル“になる。苦しみの終わりの見当がつかないと、人生は苦しみの中で炒られることになってしまう。

つまり、いつ終わるかわからないからつらさが苦しみになる。ところが、このくらいのつらさで推定XX日で終わると具体的な見積もりを言われると、苦しみは超えるべきハードルに変わる。常に自分のゴールと目標を明確にしておく。期限を決める。そうすると耐えられる。

痛みのスタンダード化

例えば痛みの比較スタンダードを男女用いくつか用意する。スケール1から10まで作る。
女性用のスケールは出産の痛みを10として、男なら膀胱結石・痛風発作を10とする。
男女共通なら痔の発作とかぎっくり腰の痛みとか歯の歯根根幹治療が必要なかなりいかれた虫歯痛。外科内科皮膚科歯科などでコンフェランスでもやって、痛みの数値化していただきたい。

麻酔が切れた後の痛みの度合いを、腹腔鏡の穴三つの場合なら、出産痛 スケール5とか。
男性の腹部切開なら傷んだ虫歯の痛み10とか、
そして重要なのは耐えるべき「時間」よ。

手術覚醒後1日目 xxxスケール8 終日
術後2日目 xxxスケール6 半日
術後5日目 xxxスケール1 終日笑ってもOKとか。

そうか、xx手術なら大体、3日あの痛みXXXを耐えればいいのかとわかっていれば、手術を受ける不安と恐怖がずいぶん変わるとはず。

飛び越えるハードルの高さと辛さの時間の予想がつけば、じゃあひとつ飛んでみようかと希望の先を考えることができる。想像がつかない苦しみというより、具体的な苦痛のハードルがわかるほうがはるかにいい。

ちなみにおばちゃんは硬膜外麻酔の説明をしたほうでないベテラン看護師に、例えば胆石発作痛と今回の術後の痛みとどちらが強いですか?と聞いたのだが、彼女は困って「人によって痛みの度合いが違いますので」と答えた。
これも事実には間違いない。

ただ、痛みスケール・スタンダードを真剣に構築してくれると患者のためになるのだけどな。痛み経験の患者からアンケート方式で回答をとって統計化しケースを平均化すれば予想できる痛みと辛さがわかるではないか。まあ、こんなことを聞くから変な人と思われるのだろう。

ちなみに腹腔鏡穴4つ、胆嚢除去 術後の痛みのスケールは 手術当日はぎっくり腰9が終日つづき 2日目は根治治療必要虫歯痛なら スケール5が8時間くらい。 3日目は片頭痛2くらい。
同室の方はもっと大きな手術をなさっていて胆石なんかて~んで下っ端だったことを述べておく。

退院する

3日目の昼食にかぼちゃの煮物がでて煮汁にぷかぷか浮いていたので、退院することにした。かぼちゃが嫌いだったからではない。煮汁に泳いでいるかぼちゃは嫌いだ。

ドクターが患者に退院を許す状態は何だろう?と考えたとき、熱はあるかないか(感染がない)、患部・傷口に炎症があるか、食欲はでたか、どのくらい体力がもどったか(トイレはひとりで行けるか)。あたりだろう。

おばちゃんの自己チェックでは:熱はない。抗生物質の点滴は術後2か目で終わっている。傷口はきれい。トイレは自分で行けたし、売店でプリンとパウンドケーキとチョコレートを買って食べてる。食欲は戻った・病院食以外は。
次の日の回診に担当医にリクエストを言うだけだ。

次の日はまず、髪をとかして整えた。洗面用具になぜかアイラインだけあったからアイラインを引いた。眼鏡をかけて人間に見えるようにした。回診のドクターに
「熱がないです。」
「トイレに自分で行けます」
「ご飯は食べてます。(嘘)」
「痛みは体をよじった時くらい」
とどめに、パジャマをパッとめくって傷口を見せると、ドクターが「うん、傷口はきれいだね」というので
すかさず「明日退院していいですか?」というと、つられて「うん」とドクターが言った。
よかったうれしい。と喜ぶおばちゃん。

ここでもう一つ「ドクターの腕がいいから回復も早いわよね」と言える性格だったらビジネスで大成功してたろう。

手術後3日くらいで自分で運転して帰るつもりだったので、術後4日目なら順当ね。

蛇足


おばちゃんは確認することが一つあった。自宅に帰ってからおじちゃんに聞いてみた。
担当医は合併症があったか無いか手術について何と言っていたか?

驚くべきことに胆嚢の持ち主であった本人のおばちゃんに手術過程結果について何も解説がなかったから。

トロフィー

予想した通り、おじちゃんは私にへんてこな顔をして、実はドクターからお話がありますって呼びこまれて、ビンに入れた胆石を見せられて要りますか?って聞かれたらしい。
担当医曰く「結構大きく育ったのがあったんで」と。

おじちゃんはもちろん否定して、「うちのカミさんははたぶん興味がないから捨ててください」と言った。ドクターはちょっと残念そうだったと言っていた。

やっぱりね。父が脳腫瘍を摘出した時も、担当医は摘出した腫瘍を母や姉に見るかと聞いたから。

ドクターのトロフィーなんだから胆石をガロン瓶にコレクションすれればいいのに。削ったあごの骨を客寄せディスプレーみたいにしてる韓国の整形外科医みたいに。


アイタタタ、タ

胆石だと診断されたのが2週間前。

石だと思うのですけどとドクターに言ったら、まあ検査してみましょうと。
「胆石です。」だから、石だと言ったのに。

去年の10月、豚カツを食べて夜中に七転八倒して救急車を呼ぼうと思った。その時石かもしれないと思い食生活を昭和初期風にしたら落ち着いて、危ないものを食べない限りケロッとしていた。

12月のクリスマス・イブにブログのお引越しで頑張ったからご褒美を上げるつもりで「雪苺娘」を二つ買った。
夕食後に一つ食べたら悶絶した。まだ、一つ残っているのに。
石を抱えている限りもう「雪苺娘」は二度と食べられないのか。くやしい。どこも傷んでいない雪苺娘をゴミ箱に捨てながら石を切ろうと決意した。(おじちゃんは血糖値が高いのでケーキは食べない)
今年の初めに受診してあちこち回されて胆石だと診断された。だから最初っから石ですって言ってるのに。

で、どうします?
どうもこうも、雪苺娘が食べたいので切ってくださいとお願いしたら、今コロナで入院手術の予定が立ちません。と。
そこをなんとか!とは誰かのようにごり押ししない。

ただ、いつ痛みが起きるかもうわからないし痛み止めで治まらなくなったらどのようにしたらいいですか?と聞くと
その時はもう病院に来ちゃってください。胆石症が悪化すると破裂しちゃうこともあるので、緊急で切ります。

おばちゃんは、ついアメリカに住んでいた時の癖で、緊急で手術するときと、スケジュールして手術するときと費用はかわりますか?って。金額を確かめた。いや、費用は変わりません。

変な患者だと思われたかもしれない。
とにかく、今は緊急性のある患者の手術が優先なのでおばちゃんの番がいつになるかわからない。春は免許証を書き換えたり、携帯の機種変更をしたりワクチンの3回目を射ったり庭開きで忙しいのに。

そしたら、夜中の4時ごろから痛み始めた。
痛み止めを飲んで、くそ~と寝返りばっかりうって、うとうとして夢を見た。担当医が、にやにやしながらいや~偶然ですね。
3月3日であなたが3月生まれの3の付く3ぞろえの患者さんです~。アタリ。手術です、とか言われて目が覚めた。

目が覚めたら3月3日だから3ぞろ目の日。緊急入院用のバッグなんか用意しておいたほうがいいのかな。ラップトップは持っていくように心づもりしているのだが。
もし、ブログの更新がぱったり止まったら石を切りに入院中だと思って。


  • footer