脳外科医が救急車に乗る

アメリカ人はすべて確定申告をしているという事実はあまり知られていないかもしれない。
年が明け2月が始まるとそろそろ所得税の申告時期だ。
おじちゃんは勤めていた会社が使っている同じ会計事務所に申告書類を作ってもらっていた。
だって、会社の従業員の給与業務を請け負っていた会計事務所なので、所得の資料は全部持っているわけだったし。

3年目にうっかりして一部の書類を会計事務所に送るのを忘れた。申告書類が届かないのでどうしたわけかおばちゃんが会計事務所に問い合わせ、ついでに早くしてねと催促してしまって、そうしたら会計事務所は完成した申告書類を送ってきてそこに手紙が同封しあった。

その手紙には:
給与所得だけのあなたの申告書を作成するのはわが事務所にとってはBrain Surgeon脳外科医が ambulance救急車に乗っているようなものだ。能力の無駄遣いなので、来年は別の会計事務所に行ってね?と書いてあった。おばちゃんは大いに不快になり、どうせウチはまともに控除も無い給与所得者よと拗ねた。

国民全員が申告するわけだから、安い申告サービスも沢山あった。どの町にも支店があるチェーンの申告サービスなどは30ドルくらいで出来る場合もあって、知らなかったとはいえ脳外科医に風邪ひき程度の治療をそれなりの料金でお願いしてたわけだから、まぁ、件の会計事務所の言い分も一理も二理もあるわけ。チェーン申告サービスはシーズン中は混んでいて予約が取りにくい。すぐそばにあってガスステーション並みに気軽なので何年かご厄介になった。

後に起業して、事業の申告をするときに紹介されたのは元IRS(税務署員)だった。
この会計士を使うようになって知ったことは、例のチェーン・申告サービスは一番間違いが多く、税務署からAudit(監査)を掛けられる数もダントツに多いのだと知ってまたびっくり。

彼女によると、税務署が一番目をつけるのは、ホーム・オフィス小企業。自宅をオフィスにして会社の経費として自宅のローンの半分とか3分の1などを会社の経費として申告している場合は、一番レッドフラグが立つのだという。

アメリカに会計士・税理士に関するジョークがある。

小学生:1足す1は? 2です。
大学生:1足す1は?  2です。
会計士:1足す1は?
    手をモミながら、いくつにしたいですか?

ウチの会計士は税務署員上がりなので、決算数字が税務署の注意を引かないように申告できますと言った。「監査保険」をつけてさらに50ドル料金を支払うなら実際監査が入った場合におばちゃんを煩わせることなく会計士がすべて税務署に対応することになっていた。おばちゃんは一度も監査に入られることなく幸せだったが、料金は脳外科医会計士の5倍以上だった。

ニコチンパッチで死にかける

おばちゃんはアメリカで2回死にかかった。
一回目はメタボリック・アシドーシスになった時。2回目はタバコで。

1回目の時、事件の遠い原因だったアルコールはすっぱりやめた。外国でシラフで生きていくのも大変なのに、酔っぱらいながら生き延びられない。だからやめた。

2回目のタバコはちょっと違う。おばちゃんはニコチン中毒という状態に倦んでいた。体も部屋も臭くなり、歯はシミがついて汚い。タバコを切らすのが不安。切れないように在庫を確保しておく。

そういう状態自体がなんかストレス。タバコを止められるなら、やめてみたい。そんな時ニコチンパッチが保険適用になった。

おばちゃんはその時のかかりつけのドクターに行って、ニコチンパッチの処方を頼んだ。
ドクターは処方量を決めるために、おばちゃんにどのくらいタバコを吸うのか聞いた。正直に2箱吸います、と申告した。

夫婦二人で吸うので、おばちゃんたちはスオッチ時計を男女用それぞれ。マルボロの電源付きキャンプ用クーラーボックス大。マルボロの寝袋3袋、おじちゃん用のマルボロキャップ。マルボロのリバーシブルジャケット男用。セブンスターの目覚まし時計など、2人のタバコの空き箱で様々なグッズが
集まってしまうのだった。

ほう?一日2箱も?それは量が多いですね。
XXXミリのパッチかな。

おばちゃんは薬局でニコチンパッチを受け取るとずっしり重かった。サロンパスを円形にして1.3倍くらいの大きさにしたものと思ってくりゃい。うゎー婆さんの膏薬かい。見えないように貼ろう。

寝る前に最後の一服を吸い、灰皿とライターを処分して休んだ。朝起きると枕もとのタバコの代わりに置いたニコチンパッチの最初の一枚を取り、肩に貼った。頑張ってくれよ~と肩をモミモミした。

おじちゃんを仕事場に送り届けてアパートに帰る途中。突然、尾底骨から何かが脊椎を駆け上がり脳で爆発した!同時に心拍が160くらいになり、視野が外側から欠け始めて
中心の30センチくらいしか見えなくなった。後は真っ暗である。

道路は幹線道路で3車線あるうちの真ん中レーンを60マイルで走っていて、前後左右側には同じく車が走っている。息が苦しくて前がよく見えない。ハンドル操作を間違えればどこかにぶつかる。
不運なことに一番右端のレーンはフリーウエイの登り口で右脇道に入れない。
フリーウエイの入口が過ぎたら車線を右に変更して交通量の少ない脇道へ入ろう。

ニコチンパッチのせいだと直感で分かった。貼ったままにしておけば心不全で死ぬか道路で爆死するだろう。ハンドルにへばりついた右手を離して、シャツの首から手を突っ込み
左肩からパッチをむしり取った。もし腰に貼っていたらおばちゃんは間違いなく死んでいた。
運転席に座った状態でぴったりしたジーンズの下に手を入れるのは難しい。

パッチを捨てても視野は戻らなかった。心拍も早すぎて呼吸が難しい。その状態で右レーンに移り
次の信号で右に曲がった。アパートまではとても持たない。手前のショッピングモールに入りパーキングで止めた。目が見えずハンドルに突っ伏した。

時間はわからない。ようやく視野が戻ってきて目の前には公衆電話があった。25セントを探してよろよろ車を降り、エマージェンシーだとドクターに電話をした。

ドクターにどうしたらよいでしょうと聞くと、ドクターも動転している。クリニックに来てください、というが、そんなことは無理だ。救急車を呼んだ方がいいですか?

ドクターは嬉しくないようだ。タクシーは呼べませんか?
いまこの状態でタクシー会社を調べ電話してこの場所を説明するのはムリだ。もうしばらく休んでアパートに辿り着き、ドクターに電話をかけてもらってアパートにタクシーを派遣してもらった。

どう考えてもニコチンのオーバードースだった。
おばちゃんは診療ベッドに横たわって点滴を射たれながら、赤んぼがタバコを1本食べれば死ぬし、
成人のニコチンの致死量ってどんだけなんだろうか?膏薬みたいなパッチは一体何グラムのニコチンが含まれているのか、とかこの治療費は払えないか、とか つれづれに考えた。

おば:ドクターにどうしたんでしょうね?
ニコチンが多すぎたように思いますが。
医者:でも、あなたは1日2箱吸うヘビースモーカーですよね?
   最強のパッチを処方しました。
おば:はぁ、確かに2箱吸いますが、
   マルボロはマルボロでも「ライト」を吸ってます。
医者:「ライト」って何ですか?知りません。
    僕タバコを吸わないですから。」語尾が裏返っていた。

おばちゃんは、もう消耗しすぎて「どっひぁ~ん!」とも言えなかった。

おじちゃん 免許を取る

おばちゃんは車が必須の地方都市で生まれて免許は18の時からある。一方おじちゃんは東京でずっと働いていたから免許を持っていなかった。
日本で結婚をした当時からおばちゃんは運転手。カリフォルニアに移住しても運転手。

公共機関が発達しているニューヨークとか都市部を除いてカリフォルニアで運転免許を持っていないということは、移動の自由と移動の能力がない。扶養家族の子供と同じような存在になってしまう。

家と職場、学校、習い事、スーパーですら歩いて行ける距離でないことが多い。就学中の子供が2人いるアメリカの平均的なママは一年間に2万5千マイル運転距離があるという。

子供が自分で運転してくれるようになるのは楽になる反面事故を起こしゃしないかと気が休まらない時期でもある。

おばちゃんだって体調が悪いときはある。この国で生きていく限り免許は不可欠なことは分かっていたが解決を先延ばしにしていたのだね。そろそろ言い訳ができなくなった2003年、おじちゃんに免許を取ってもらうことにした。

ペーパーテストは日本語もあるのものの二世が訳したのか「てにおは」がおかしくてテストの設問自体、これは禁止と言っているのか行為を肯定しているのか、どっちかわからんという魔の設問なのだった。

特訓したのでペーパーはパスした。
ペーパーをパスすると日本の仮免と同じく路上で練習運転ができる。ただし免許を取って確か10年の運転歴があるドライバーが同乗しなければいけない。StudentDriverと書いてルーフにガムテープで張っ付けておっきな駐車場でヨタヨタ練習できるわけだ。

幹線道路は50マイルでビュンビュン走ってるし、いきなりそんなところに出たら夫婦で玉砕してしまう。警備員がいそうもない駐車場で一通り曲がれるようになったら、個人のドライビング・スクールでしごいてもらった。

プロなので本番の実地コースを全コース知っている。坂道駐車や車線変更をここはポイントというところを練習してもらって受かった。おじちゃん40歳すぎにして初めて免許を手にした。

ああ、おばちゃんの本当の受難はここからである。毎朝おじちゃんが車の運転席に、おばちゃんは助手席に。通勤コースを同乗して、この辺から進路変更しておけとか、ここは減速してとか、なるべくおじちゃんを刺激しないようにクチクチ教える。

おじちゃんはどうしてもハンドル操作が甘いので、カーブの時などつい手を添えてぐいんと回してしまう場合もある。会社に到着して、おばちゃんが乗って帰ってくる。夜は迎えに行っておじちゃんが運転する。2か月やっておじちゃんが一人で出勤するようになった。携帯を契約して持たせた。

朝出勤したあと20分は電話がかかってくるのじゃないかと気が気ではない。30分経つとたぶん無事についたんだと思う。帰宅の時は帰るコールがあってから15分過ぎにはリビングの窓からパーキングに車が入ってくるかどうか覗く。

そのうち、胃がシクシク痛むようになった。喉の奥が酸っぱい。寝るときは足を曲げて横に寝る。ああ、気持ちが悪い。おばちゃんはかかりつけ医に予約を取った。
How can I help you today?と診察室に入ってきたドクターに
「実はね、ドクター変に聞こえるかもしれないけれど、ウチの主人がこの前やっと運転免許を取ってね、毎日運転するようになったのよ。毎日無事に帰ってくるか心配で心配で、胃がキリキリと痛むんですわ。」
すると
「おぅ!わかるよ」
「わかります?」
「わかるさ、ウチの娘が16でこの間免許を取ったんだ。お互い頑張ろうな」
と制酸剤を処方してくれた。

疑惑のガソリン

ジョイスがメインストリートのシェブロンは行ったことある?と聞くので私はいつもモービルよ。と答えた。

ジョイスがあそこのガス・ステーションは何かおかしいという。ジョイスはそのころ早朝のエクササイズのクラスをとっていて朝5時半にメインストリートを通るのだという。すると茶色一色で車体にロゴが入っていないボロッボロのタンクローリーがガソリンのサプライをしている場面に出くわすのだという。

ねぇ、おかしくない?朝の5時半よ?
シェブロンのサプライ用のタンクローリーじゃないのよ?絶対変よ!
そうだね。内緒でめちゃくちゃ安いスポットのガソリンを買ってるのかしら。

おばちゃんは犬みたいな習性があって、通勤通学で走る道路や、給油するガス・ステーションはいつも同じところだ。一番近くて入りやすいモールのモービルを愛用していた。FastPassをポンプに充てるだけで清算ができるし。

ジョイスの疑惑を聞いてしばらくした後、おばちゃんのガソリン・ビルが急に高くなった。
毎日同じくらいの距離を走り、5日に一回給油をすればよかったものが、4日に一回になった。
おかしいな。この間入れたばかりなのに。

おばちゃんは車が心配になり、ガソリンタンクに穴でもあいたのではないかと疑って日系ガレージに持ち込んだ。このガレージも渡米以来同じところで、車は新車で購入以来ずっと面倒を見てもらっている。

こんなに急に燃費が悪くなるのは何か原因があってメカニックなら発見してくれると思った。
ところが何も悪いところはないという。車でなければ、ガソリンがおかしいのか。

おばちゃんはガス・ステーションをShellに替えてみた。途端に燃費がもとに戻った。
モービルはいつも客がいたしなぜ突然粗悪ガソリンを売るようになったのか理由が分からなかった。
しばらくしてその店舗は売られサークルKに変わった。

いつも同じところで給油するおばちゃんは知らなかったが、人はUnocal74は安いが良くないとか
Arcoは値段は一番安いが品質も最低とか、ガソリンについての議論が色々あるのだった。

おばちゃんはShellに変えて値段も品質も不満はなかったが、ある時うっかりしてフリーウエイを走っている最中にガスが無いのに気が付いた。ナビで一番近いGSを検索したらCostcoと出たので急遽フリーウエイを降りてCostcoで給油した。

Costcoは買い物ついでに給油する人が多く、いつも安いガソリンに車が行列を作っていたがその日の列は短かった。レギュラー満タンで5日走る、ハズ。
が、ガスの減り方が異常に早い。おかしいじゃないかCostco。おばちゃんは二度とCostcoに寄らなかった。

知り合いには何人もあそこでは給油しないという人がいた。やっぱり?というとあそこでガスを入れるやつは馬鹿だね。値段につられて粗悪をつかまされてそれで気がつかないバカ。

別の知人はあそこで給油するようになって燃費が極端に悪くなったので車を売って買い替えたという。
車の前にガソリンを変えればよかったのよ。何かがおかしいと思ったら調べてみよう。
目先のプライスに騙される奴は馬鹿だと、ウォーレンバフェットも言っている。たぶん。

野茂がんばれ 大谷がんばれ

大リーグの大谷選手が大人気だ。日本人の活躍が嬉しい。
彼のすごい才能が認められてとても誇りに思う。大リーグは登板回数が多いから華奢な日本人は無理をして体を壊しやすい。どうぞ気を付けた活躍してください。

ゴジラやイチローが来るず~と前。野茂が大リーグにやってきた。でっかい体の大リーガーに比べると、華奢でほっそりして寡黙で伏し目がちな彼が心配でならなかった。

若きおばちゃんは、アメリカに少し慣れたとはいえ、永住権が取れるのか、この国に残れるのか不安な毎日だったから華奢な野茂が思い切って大リーグに乗り込んで、真正面から戦いを挑む姿がまぶしくて
NBCのスポーツ・ニュースで名前が呼ばれたりすると、テレビの前でどきどきしたものだった。
野茂の爽やかさがアメリカ人にもわかるのか、人気は上昇していった。

おばちゃんのその当時車では大抵ラジオのFMをつけていた。DJがべレベラ話すこともなく、時の人気ポップをずっと流しているので今でも好きだ。おばちゃんとおじちゃんが驚いたのは、野茂の歌が人気チャートに躍り出てきたことだった。

ああ、これは野茂の応援歌だね。
ほら、”野茂ナイスガイ”って歌ってる。
悲しいかな、歌の歌詞の細部が聞き取れないのである。
彼が頑張っているから、ドジャーズ球団が作ったのかもしれない。!

今の時代のようにアプリもなければ検索もない時代であったから、題名が分からないことが大変残念だった。おじちゃんとおばちゃんは、意を決して一番大きなモールのレコード屋さんに買いに行った。
歌手も題名も分からないのだから、店員に説明するのも大変だった。

ついに、おばちゃんはあきらめて店員の前でサビんとこを歌ったのだね。[Nomo is the nice guy~~~]
店員は分かってくれなかった。おばちゃんたちはすごすごと帰ったのであったが、
のち々 おばちゃんはギャッと叫んで赤面したのである。

No More Mr. Nice Guy  Alice Cooper

ハンバーガー Jack in the box

In & Outのハンバーガーが一番おいしかったと思うのだが、ダブルダブルを食べると猛烈な胸やけに襲われてその日一日役に立たなくなるので、普段は通り道にあるJack In The Boxのバーガーをよく食べた。ちなみに胸やけとは Heart Burn と言う。

その日は私一人でバーガーをToGo(テイク・アウトのこと)するためにJack In The boxへ寄った。
ぶっきらぼうなメキシカンの女の子に、ダブルチーズバーガーを2つ持ち帰りでとオーダーを頼むと、ウェイティングの四角いプラスティックのカードをくれた。96と書いてあった。

おばちゃんピックアップカウンターが見える店の隅に陣取った。斜め後ろにはやはりピックアップを待つ白人の背の高いおじさんがいた。メキシカンのおねぇちゃんがナンバーを読み上げ、
紙袋を客に渡していく。後ろのおじさんも辛抱強く待ってる。

メキシカンが次にナンバーシクスティ・ナインと呼びかけた。
おばちゃんはではない。
メキシカンのおねぇちゃんは客に何度も呼びかける。誰もピックアップに行かない。

おねぇちゃんはカウンターから出て、わざわざおばちゃんの前に来て
シクスティ・ナインだろう?と聞くので
おばちゃんは力強くNoと言った。おねぇちゃんは首をかしげながらカウンターに戻るのだったが、

おばちゃんは手に持ったナンバーカードを確かめて、
ほ~ら「96」じゃない。
後ろから白人のおじさんも覗き込んでいるのが分かった。おばちゃんはカードを見ながら、何気なく左に回転させた。
「69」
おばちゃん、思わずOh!と言いながら顔を上げると1連の動作を見ていた背後のおじさんと目があった。おじさんもOh!と口を開けていた。

赤面しながらメキシカンのお姉ちゃんにIt’s mine.と言って素早く紙袋を受け取った。

ナンバーカードは天地が分かるものにしましょう。お願いです。

ランチ お弁当

アイ子さんはアメリカ人と結婚して落ち着いた後、義理妹がバージニアから近くに引っ越してきた。
お互い息子がいるのでおしゃべりでもしませんかと義理妹にランチに誘われ、アパートにお邪魔した。

リビングでおしゃべりしていてそろそろお昼だしお腹も減ったのだが、部屋に入った時から料理の匂い
は全くしなかった。冷蔵庫にでも 料理がしまってあるのかしら。

義理妹がお腹が減った?ランチにする?と言うのでキッチンに行くと義理妹は冷蔵庫を開け
パン、ハム、チーズを取り出すと、はい、好きなものを挟んで、と言う。

これがランチ?!
義理といえども人を招いたんだからちょっとましなものが出てきてもよかったんだけど、、。
アメリカだし、アメリカ人だし。アイ子さんはモソモソとサンドイッチを食べた。

私が最初のころ通ったカレッジでは教室からキャフェテリアへはかなり距離があって、ランチを買って帰ると次の授業に間に合わない。それで、お弁当を持っていくことにした。

ごく普通の日本的お弁当である。
タッパに白いごはんと、卵焼き、ウインナー、ゆでたブロッコリー夕べの残りのチキンとか、。

作文のクラスが終わって、私がお弁当を取り出し持ってきた本を読みながら箸で食べ始めると、
机の端に誰かが立った。そしてその隣に影が増えた。気が付くと私の机をぐるりと人垣が取り囲んでいた。

クラスにはアジア系が多かったのだが、中国系やコリアンのおばちゃんたちが私のお弁当をしげしげと観察していた。私が顔を上げると好奇心ではちきれそうになったクラスメートたちが
これはナニ?
玉子焼き、ちょっと甘い、
えっ卵が甘いの?デザート?
違う。甘辛いBakedEgg.
なんで卵が甘いの?
そういうもんなんだよ。
口ぐちに質問されるので食べるどころではない。

ほうれん草のお浸しを持って行ったときは、この緑の野菜は何か?から始まり、料理法を逐一説明させられて、えっ!ほうれん草を茹でるの?炒めるんじゃなくて!茹でるんだって!と言葉がさざ波のように人波に広がり、ほうれん草を茹でて何がおかしい!と
一人県民ショウを演じたいわけじゃない、
私はランチを食べたいだけなんだよ。

お弁当に懲りて次は季節だった柿をむいてタッパに詰めていった。タッパを開けた瞬間また人垣ができ、これはナニ?私:Persimmonです。
Persimmonって?人垣同士が質問しあいKakiじゃね?
そうだ、そうだKakiだわ。
チャイニーズ・スーパーにも売ってたわよ。
どうやら台湾ではPersimmonよりKakiの方が理解が早いようだった。

若きおばちゃんは好奇心の人垣に疲れたのでカレッジのランチに何を食べたらよいか悩んだ。
スーパーでこれだ!と思ったのがバナナ。とにかくバナナなら誰も寄ってこないだろう。
あら?今日のランチはバナナなの?でも簡単でいいわよね。と教師に言われた。
お前も見てたんかい!

午後一のクラスが終われば、2時前には家に帰れる。それから何かを食べることにしようかな。
ただ朝から2時までは食べないままではつらいので、おばちゃんはおにぎりを作った、大き目の。

朝おじちゃんを仕事に送っていきそのまま学校に行く。運転しながらおにぎりを食べる。これなら誰にも文句を言わせない。

そうしたら、ある日おじちゃんが同僚の板橋から言われたんだって、”俺は出勤するときにお前のカミさんと道ですれ違うんだが、お前のカミさんが大口を開けてなんか食ってる。
あれは何だ!”

幹線道路でお互い時速55マイルですれ違ってんのよ、。どうして私だってバレるのよ、
何を食べたっていいじゃない!


アメリカでおいしいランチを食べるには

アメリカのランチは”アメリカ料理以外”が美味しい。

南カリフォルニアのレストランで数が多い料理店はたぶん
1イタリアン(含むピザ屋)
2番目は日本料理
3番目はメキシカン 
(おばちゃんの独断調べ)
どこにでもあるイタリアンでもおいしいかどうかは別。
Laguna Beachの人気のイタリアンに入ったところ、ベキべきに折られたカッペリーニが出てきたことがあった。忙しすぎてシェフがカッペリーニを真っ二つに折って、茹でたのである。その方が早く茹るから。

日本料理は、入る前に味を知っているし。どうせ、肉はメキシカンが焼いている。
メキシコ料理はどうか?おばちゃん、タコは胃が持たれる。

したがって、土曜日・日曜日のランチはイタリアンでも日本でもメキシカンでも、もちろんアメリカンでもないレストランに行く。

インド料理、中国、タイ、ベトナム、イラン。
それらの料理店を選ぶ際に、どこを見ればおいしい店が選べるか、コツがある。
入口のガラス窓から店内を覗くのだ。
もし、客の頭髪と肌色が明るい色だったら味はまずい

アメリカナイズされた甘い甘い酢豚。ぐたぐた煮たような野菜炒め。ぬるくて生臭いフォー。
窓がなくてドアを開けて入ったら、客がアメリカ人ばかりだった時は、間違えたと言って出てくる。

修業したベトナムのベトナム人が作るフォー。インド人がインド人のために作るカレー。
香辛料や辛さがなじまない場合もあるが、同国人が認める味。

同国人さえ寄り付かぬアメリカ人御用達しのエスニックは壊滅的な料理が出てきたりするのである。
観光旅行でアメリカ料理にへきへきし、日本料理にがっかりし、おいしいものを食べたくなったら
レストランの窓から店内を覗いてみよう。アメリカ人がいなかったら当たりだ。
 
客のほとんどがアメリカ人であるにも関わらず、美味しい店が1軒だけある。
それはダンナがベトナム人、カミさんがタイ人で(もしかして反対かも)ベトナム料理の店だった。

ニューポート・ビーチのパシフィックコーストハイウエイ沿いを1ブロック入る。店内にアジア系客はほとんどいないがメニューはベトナム系である。フォーはリトルサイゴンのフォー屋では絶対お目にかかれない、或いはベトナム人ならこれはフォーではないと怒るかもしれない。

フォーは、シンプルな白のスープ皿に入って供される。スープはあくまでも澄んで雑味がなく、ヌードルは申し訳程度。フォーというより、英語でNodle Soupである。むろんスープ・スプーンが付いている。

絶品。フォーが昇華されて究極のコンソメヌードルとして全人類が喜ぶ味、ただし、ベトナム人は除く。何故ならフォーはお母ちゃんが作ってくれて、わしわし食べてきた家庭・故郷の味ーーから遥~かにアウフヘーベンしてしまっているからだと思う。

悲しいかな、この店には致命的な欠陥があるのである。ビルの1階なのだが、もともとアパレルのブティックだったようで店内にトイレがない。

まず、トイレに行きたいとサーバーに申し出て、鍵をもらう。ドアを開けて、ビルの外に出てから端っこに付いている階段を降り、地下の駐車場のトイレに行って帰ってこなければいけない。女同士でおしゃべりできない。デートに使えない。

多分今頃は常連のリッチなアメリカ人がスポンサーになって、もっとまともな場所に店を出しているかもしれない。

おばちゃん、就職をめざす

あれは2002年か3年か、おばちゃんは就職を目指したことがあった。ローカルのコミュニティ雑誌にウエブデザイナーの求人広告があったので、ふとその気になった。そこそこの給料が提示されていたし。

履歴書を書きそれまで作ったウエブをプリントアウトして面接の予約を取った。会社は商業地区でも割と新しい高層ビルの上部にあった。エレベーターを降りると、その階の総合受付があり、おばちゃんは名前を言って、面接する会社の担当者を待った。

30そこそこの細身のお兄ちゃんが現れて、会社の一室に招き入れられた。お兄ちゃんは、おばちゃんが差し出した履歴書をざっと見ウエブのプリントアウトを見、ウェブ制作はどこで勉強しましたか?
と聞くので、
独学です。というと、
ああ、独学ね。Htmlは書けますか?と
Dreamweaverを使ってますが、
ウチは手書きなんですよ。
えっ?タグを手書き?
そう、みなメモ帳に手書きで書くんです。できます?
でも、手書きなら色の指定はどうするんですか?
Photoshopのカラーパレットで色コードをコピーして書きます。

はぇ?いちいちPhotoshopのカラーパレットでコード調べて
書いて、テーブルはtr td tr tdとチマチマ書くのか?
バカじゃね?と密かに思った。

ウチの会社が何を作ってるか知ってますよね?と言うので
はぁ、ポルノサイトですよね。
そうです。とお兄ちゃんは何故か憂鬱そうに言った。
もしかして、人に自慢できないウエブを作ってるからせめてのプライドとしてメモ帳でタグ手書きなんだろうか?

ウチの始業時間は朝の7時半なので大丈夫ですか?おばちゃんは朝の爽やかな空気の中で、裸の局所にせっせとモザイク処理をしている自分を想像した。
う~ん、10時くらいからなら平気なんだけど。おばちゃんは早起きが嫌いなのだった。

ひとまず面接は終了し結果は追って通知ということで、おばちゃんは部屋を退出した。数多いオフィスは人の出入りも活発で、一番印象的なのはワーカーの年齢が若いことだった。
20代かせいぜい30代。
こんな商業地域にそこそこレントの高そうなオフィス、世間はまだまだ不況の波が残っているというのに、ポルノ業界は不況知らずで活発に動いている。おっさんの性欲は不況に関係ないし、世の中裸で食ってく業界は強いなぁと感心した。

帰り道に行きつけのコンピューター・ショップに寄り社長のトムさんに、
ねぇ、ポルノ業界って儲かるね。二人でやらない?と聞くと
う~ん、あそこは不況知らずみたいなんだけど、
あの写真とか動画の仕入れはどうすんでしょうね?
あ~、そうよね。おんなじ写真じゃ飽きちゃいますものね。ポルノの卸業ってあるのかしらん?
でも、たとえ儲かったとしてもウチの娘に聞かれたら答えられないですよ。ダディの仕事はなあに?って。
そっか。
さっきの会社の従業員が若いのは、子供がいないせいか?なんとなくわかったような気がしておばちゃんは帰宅した。

アメリカの罰金 交通違反チケット

おばちゃんは寝坊してコミュニティ・カレッジの駐車場に着いたときは生徒用のパーキングはほとんどいっぱいで、ぐるぐる回っていても空きが見つからなかった。他にも同じようにうろついている車があった。
やぁ、困った。
事務局に近い方のパーキングは空きがあった。やったねと車を入れようとするとそこにはFacult yOnlyと書いてあった。15~16台入る駐車場に一台くらい生徒が止まっていても分かるかな?分からないよね?1クラスだけだし。

クラスが終わって帰ってくると、フロントには見事にParking Violationのチケットが貼ってあった。
やっぱりダメかぁ。
おとなしく罰金を払った。校内をぐるぐる回っているセキュリティの車にはスキャナーが積んであって、教師や事務員のナンバーをすべて登録してあり、パーキング・ロットに駐車している車列のライセンスナンバーをさーっとスキャンするだけで違反車がピックアップできるのだそうだ。知らんかった。

ところがある日、サクラメントから駐車違反の通知が来た。まったく足を踏み入れたこともない市よ、それも違反場所は大学。
ノーティスには心当たりがない場合は、車の登録証のコピーを同封して送り返せとある。
おばちゃんは頭をひねりながら登録証をコピーして、サクラメントには行ったことがなくて、違反時のX日X時には別の場所にいた。と手紙を書いた。

もし、アリバイの証明をせよと返事が返ってきたら、クレジットカードの使用レシートが使えるかな?とか、考えていた。アメリカではいろんなことが起こるため、レシートは捨てない。10年くらい保管するから。
サクラメントはそれっきり何とも言ってこなくて、結局ライセンスプレートのスキャンミスだったのだと思う。

ある時、別のショッピングモールに行こうとフリーウエイにのったら、途中で分岐の道路ができていてあれ?こっちだっけ?と乗り入れたらToll Road有料道路に出てしまい、あれ、困った出なきゃぁと思うのだが有料道路だから脇道にでたら料金所があってゲートがあった。バーは開いていた。

この道路は新しくてETC対応ではないようだし困ったのはゲートに人がいないのだ。窓口にはコインを入れる穴が開いた料金箱があるのだがあいにくコインが一枚もないし、いくらだかも書いてないし

クレジットカードのスリットもない。どうしろと言うのよ。おばちゃんは車から降りて料金所を見てみたがいないところに魔法のように人は湧いてこない。諦めて車を出したのよ。

そうしたら、2週間後に違反通知が来た。25セント支払わなかったので、25ドルの罰金だそうだ。
さすがにむかむかするから手紙を書いて、突然見慣れない道路ができて間違って入ってしまった。
支払おうにも人がいなかったので私のせいではない。すると、できたばかりの道路なので今回は勘弁してあげる。と返事が来た。

コインもなかったけど人もいなかったのよ、ひどいじゃない?と友達に話すと、ゲートにはセキュリティカメラがついているからコインがなかったら洋服のボタンでも毟って料金箱に入れりゃよかったわよ、クオーターに見えたよね、と。

アメリカの罰金


フリーウエイには一番左のレーンがカープールで2人以上乗車していると走れる。右の走行車線すべてが渋滞でもすいすいと走ることができる。人形を助手席に乗せてこっそり走ろうとしてつかまったりすると罰金だ。

日本と違うところは、同じことを2度やると、2度目の罰金は倍になるところ。一度のレッスンで学ばない頭の悪い人には罰金が多くなる。良い学習システムだと思う。

交通違反だけでしょうか? いいえ!
罰金倍々システムは他の法破りにも適応されるのですね。例えば、雇用法・労働法違反、所得税法違反とか、、、。アメリカに新規に進出する日本企業は右も左も分からない状況だと簡単に引っ掛かったりしてしまう。

住居手当と通勤手当を本給と別に支給して税務署から指摘されたりして。
最初の1回は”知らなかったんですぅ。”で税務署も引き下がってくれる。労働法違反はもっと早い。従業員が労働省に報告するので、通報が多数あったりするとすぐ指導が入る。

あるいは最初の1回目で従業員から少額裁判を起こされたりするから。具体的に言うと、日本の会社が起業するとする。
現地従業員を募集するわけだが日本から来る管理職クラスの人材が英語とアメリカの社会制度に精通しているかと言うと、そうではない。

大抵は現地アメリカ人を直接部下に雇う度胸も英語力もない。現地マネージャーとその下に日本人・日系人を雇うなら言葉が通じるので日本から来た管理職も仕事(本社との連絡)ができるというわけだ。

現地のコミュニティ雑誌に従業員募集広告を出すと、現地日本人コミュニティはxxxxが開業することを知る。友達や友達の娘が面接に行く。周りの知人の輪もそれを知っている。そういう状況下、はやくも面接でボロを出す会社がいる。

”5時で終わりなんですが5時半まで残ってもらうと思います”面接相手が日本人なので、日本社会にいると錯覚してサービス残業などをほのめかすわけ。

労働法では休憩を入れて1日8時間、週に40時間を超えた時間についてはオーバータイムで時給は150%にしなければならない。現地の日本人はすべて知っているが、日本から来た立ち上げスタッフは違反を気にしていない。

面接の日本人や、あるいはすでに採用になった従業員がアメリカルールを親切に教えるつもりで労働法違反になりますよと教えると、”そういうことを言う人はウチには要らないので、明日から来なくていいです。”と言っちゃったりするのである。

アメリカの会社には労働者の権利が書かれている労働法のでっかいポスターがあって、雇用主が違反をした場合は通報すべき電話番号が書いてある。このポスターは従業員全員がよく見えるオフィスの壁に貼らねばならない。貼らないと罰金。

こういう社会でサービス残業の強要をしちゃったxxxxはレジがすべて黒人のおばちゃんになってしまった。”そういうことを言う人はウチには要らないので、明日から来なくていい”と言われて日本人と日系人がごっそり辞めて、最低限の日本人を指揮系統に残したら、レジの人間が足りなくなってしまったから。

XXXXは日本人すべてが知っている超有名企業である。XXXXXXの場合は送り込まれた立ち上げスタッフたちが自分の権利を教えられて反乱を起こし、立ち上げすら危なかった。

知り合いのXXX子ちゃんが立ち上げに加わった日本のXXは賢かった。管理者とマネージャークラスはすべて経験のある現地日本人を雇い、あとはすべてアメリカ人。

ただXXX子ちゃんがこぼすには、何回スモールコートに証人マネージャーとして立ったか分からないですよ。だって、アメリカ人従業員同士が自分の都合でシフトを交換して自分(マネージャー)にそれを知らせてこなくて、給料日の次の日にオーバータイムがついてない!って裁判を起こされるんです。
タイムカードをもって何回も裁判所に行きましたよ。

サービス残業を勘定に入れたうえで利益を出そうとするビジネスはビジネス・モデル自体が間違っているのである。時給を上げる時にそのモデルは破綻するのだから。

労働法違反の罰金は、一人に付き5000ドル。2回目なら倍。

蛇足だが、賢かったXXアメリカ旅行の時にXXを見かけて店内にはいったとしても、見えるものすべては英語。日本人も誰もいない。日本を思わせるものは会社のロゴにだけ。

アメリカのパンはなぜバサバサか

アメリカの食パンはガサガサである。
大手の食パンなどを買うと、生地が荒くて指が入りそうな穴がぼこぼこ開いてる。こういう食パンをトーストすると、舌と唇にささる。がっさがっさのバッサバサ。アメリカ人はこういうトーストを喜ぶ、クリスピーと言って。

外はカリッ、中はフワッじゃないのか。厚切り食パンは存在しない。ふわふわ超熟もご飯のようなモチモチなパンも存在しない。クリスピーが命。

しっとりキメの細かいライムギパンとかもない訳でもないが、、。そしてそれがケーキになると、もっと顕著になる。スポンジケーキが本当にスポンジでできてるんではないか?と食べながらケーキを観察せねばならない。シフォン・ケーキはまかり間違っても、フワフワではない。ぷよんぷよん。

なんでこうなるのか?
おばちゃんは世界で最初にクロワッサンの生地を自動で作る機械を作った日本の会社の駐在員に聞いた。この駐在員はベロ・メーターを持っている。

一口食べると、粉の配合が分かるというベロの持ち主。世界中のパン屋とみれば、買って食べてみるというパン道を究めんとする駐在員である。

彼によると、ピルグリム移民のむかしから、アメリカには収穫した小麦粉を細かく挽く機械がないのだという。荒い粉でパンを作るからこうなるのだという。

元々クリスピーが命だから、あるいはがさがさの荒い小麦粉の製品ばっかり食べていた結果、フワフワ・しっとりを受け付けなくなったのか、それは定かではないが、アメリカには小麦をできるだけ細かく挽こうという意思も細かく挽く機械を作ろうという意思もなかったんである。

そこへ、世界初のクロワッサン生地を作る日本の会社が製パン機械をいろいろ持ち込んできた。主に機械を買ってくれるのは、アジア系である。米食でフワフワモチモチ系が好きな民族。細かく挽いた粉で作る台湾系のシフォンはしっとりして日本と変わらないおいしさがあった。

機械でなくて、フワフワモチモチを別の方法で解決したパン屋があった。
ハワイに。King’s Bakeryという。

King’s Bakeryの袋の後ろに、ベーカーリーの起源が書いてあっておばちゃんは、とても暇なときに何気なく裏を返して読んでしまった。

ハワイの人はパンが次の日に固くなってしまうのが悲しかった。次の日も固くならないパンが食べたい。それでKing’sの先代は試行錯誤をして、次の日にも固くならないパンを開発したのであった。

King’sのパンは確かに固くならない。うっすらと甘い。ふわふわである。だから、おやつのようにパンを毟ってたべる。うちのおじちゃんの好物であった。

King’sの創始者はハワイの日系人である。カリフォルニア州に大きな工場ができて、フリーウエイから降りると目の前にある。

将来アメリカ人の指向が変わって、しっとり柔らかなパンが好まれるようになるとしたら、それは日本人日系人の努力のたまものかもしれない。

マイクロソフトを買う

1993年からおばちゃんはMicrosoftに煮え湯を飲まされていた。
不安定なOSはしょっちゅうフリーズしクラッシュし、OSをアップデートすると周辺機器のドライバーは全滅した。ソフトが使えなくなることは当たり前だった。誰も責任を取らない。

クラッシュしたOSの再インストールをコンピューターショップに頼み作業完了したデスクトップを家に持ち帰って、NetscapeをインストールしたとたんにWidnowsは再クラッシュして
コンピューターショップに後戻りした。1998年のことであった。

その当時、おばちゃんはOSの再インストールが自分でできず、1回$150の再インストール料金を払うのは、ホントに悔しかった。特に1日に$300ドルも払うとなると、恨みがたまってくる。おのれ、マイクロソフト。

コンピューターショップのFry’sやMicrocenterにはよれよれのTシャツを着た白人のおっさん達と
若い細っこいベトナムと中国系のコンピューター・オタクが、CPUとマザーボードの周りで、ぼそぼそ話しながら溜まっていた。

おばちゃんの目標はコンピューターの自作とOSのインストールである。それができるようになれば、コンピューターショップに修理代を泣く泣く払うことも無くなる。日本語化されたWindows95-98と英語版は言語の問題もあって英語のインストール・ディスクは役に立たず、日本語のインストールディスクが必要なのだが日系コンピューターショップの飯のタネであったから
一般には手に入らなかった。

おばちゃんはDOSの参考書を日本から取り寄せて、自力でインストールディスクを作ろうとしていたが失敗していた。

いつまで不安定なシステムを使うのかなぁ。マイクロソフトに振り回される世は変わるんだろうか?
なぁ、マイクロソフトはいつも見切り発車して新OSを発売して不具合が見つかった時にダメージ食らうのはユーザーなんだ。

アンタの国ではどうだ?と聞かれた。WindowsはローカライズしてもWindowsよ、
世界中のマイクロソフトは一緒。けっ、と白人のおっさんは吐き捨てた。

あれはZIPドライブが使えなくなったときか、それともサービス・パックのせいでユティリティソフトがダメになった時かおばちゃんは突如としてマイクロソフトを買うことにしたのである。

手にできる発券したマイクロソフトの株。
One Share.comだと、手続きを全部代行して株券を送ってくれる。アメリカでは生まれた子供や孫のために株券を贈る習慣があった。

自宅のオフィスの壁に届いた株券を掛けて、おばちゃんは「私は今日からマイクロソフトの株主だから!」ちょっとだけ、イライラが収まりマイクロソフトはおばちゃんの中で独善の傲慢な企業から、やんちゃでオタクなお兄ちゃんに変貌を、、、あんまり遂げなかった。

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