おじちゃん 免許を取る

おばちゃんは車が必須の地方都市で生まれて免許は18の時からある。一方おじちゃんは東京でずっと働いていたから免許を持っていなかった。
日本で結婚をした当時からおばちゃんは運転手。カリフォルニアに移住しても運転手。

公共機関が発達しているニューヨークとか都市部を除いてカリフォルニアで運転免許を持っていないということは、移動の自由と移動の能力がない。扶養家族の子供と同じような存在になってしまう。

家と職場、学校、習い事、スーパーですら歩いて行ける距離でないことが多い。就学中の子供が2人いるアメリカの平均的なママは一年間に2万5千マイル運転距離があるという。

子供が自分で運転してくれるようになるのは楽になる反面事故を起こしゃしないかと気が休まらない時期でもある。

おばちゃんだって体調が悪いときはある。この国で生きていく限り免許は不可欠なことは分かっていたが解決を先延ばしにしていたのだね。そろそろ言い訳ができなくなった2003年、おじちゃんに免許を取ってもらうことにした。

ペーパーテストは日本語もあるのものの二世が訳したのか「てにおは」がおかしくてテストの設問自体、これは禁止と言っているのか行為を肯定しているのか、どっちかわからんという魔の設問なのだった。

特訓したのでペーパーはパスした。
ペーパーをパスすると日本の仮免と同じく路上で練習運転ができる。ただし免許を取って確か10年の運転歴があるドライバーが同乗しなければいけない。StudentDriverと書いてルーフにガムテープで張っ付けておっきな駐車場でヨタヨタ練習できるわけだ。

幹線道路は50マイルでビュンビュン走ってるし、いきなりそんなところに出たら夫婦で玉砕してしまう。警備員がいそうもない駐車場で一通り曲がれるようになったら、個人のドライビング・スクールでしごいてもらった。

プロなので本番の実地コースを全コース知っている。坂道駐車や車線変更をここはポイントというところを練習してもらって受かった。おじちゃん40歳すぎにして初めて免許を手にした。

ああ、おばちゃんの本当の受難はここからである。毎朝おじちゃんが車の運転席に、おばちゃんは助手席に。通勤コースを同乗して、この辺から進路変更しておけとか、ここは減速してとか、なるべくおじちゃんを刺激しないようにクチクチ教える。

おじちゃんはどうしてもハンドル操作が甘いので、カーブの時などつい手を添えてぐいんと回してしまう場合もある。会社に到着して、おばちゃんが乗って帰ってくる。夜は迎えに行っておじちゃんが運転する。2か月やっておじちゃんが一人で出勤するようになった。携帯を契約して持たせた。

朝出勤したあと20分は電話がかかってくるのじゃないかと気が気ではない。30分経つとたぶん無事についたんだと思う。帰宅の時は帰るコールがあってから15分過ぎにはリビングの窓からパーキングに車が入ってくるかどうか覗く。

そのうち、胃がシクシク痛むようになった。喉の奥が酸っぱい。寝るときは足を曲げて横に寝る。ああ、気持ちが悪い。おばちゃんはかかりつけ医に予約を取った。
How can I help you today?と診察室に入ってきたドクターに
「実はね、ドクター変に聞こえるかもしれないけれど、ウチの主人がこの前やっと運転免許を取ってね、毎日運転するようになったのよ。毎日無事に帰ってくるか心配で心配で、胃がキリキリと痛むんですわ。」
すると
「おぅ!わかるよ」
「わかります?」
「わかるさ、ウチの娘が16でこの間免許を取ったんだ。お互い頑張ろうな」
と制酸剤を処方してくれた。

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