おばちゃん、就職をめざす

あれは2002年か3年か、おばちゃんは就職を目指したことがあった。ローカルのコミュニティ雑誌にウエブデザイナーの求人広告があったので、ふとその気になった。そこそこの給料が提示されていたし。

履歴書を書きそれまで作ったウエブをプリントアウトして面接の予約を取った。会社は商業地区でも割と新しい高層ビルの上部にあった。エレベーターを降りると、その階の総合受付があり、おばちゃんは名前を言って、面接する会社の担当者を待った。

30そこそこの細身のお兄ちゃんが現れて、会社の一室に招き入れられた。お兄ちゃんは、おばちゃんが差し出した履歴書をざっと見ウエブのプリントアウトを見、ウェブ制作はどこで勉強しましたか?
と聞くので、
独学です。というと、
ああ、独学ね。Htmlは書けますか?と
Dreamweaverを使ってますが、
ウチは手書きなんですよ。
えっ?タグを手書き?
そう、みなメモ帳に手書きで書くんです。できます?
でも、手書きなら色の指定はどうするんですか?
Photoshopのカラーパレットで色コードをコピーして書きます。

はぇ?いちいちPhotoshopのカラーパレットでコード調べて
書いて、テーブルはtr td tr tdとチマチマ書くのか?
バカじゃね?と密かに思った。

ウチの会社が何を作ってるか知ってますよね?と言うので
はぁ、ポルノサイトですよね。
そうです。とお兄ちゃんは何故か憂鬱そうに言った。
もしかして、人に自慢できないウエブを作ってるからせめてのプライドとしてメモ帳でタグ手書きなんだろうか?

ウチの始業時間は朝の7時半なので大丈夫ですか?おばちゃんは朝の爽やかな空気の中で、裸の局所にせっせとモザイク処理をしている自分を想像した。
う~ん、10時くらいからなら平気なんだけど。おばちゃんは早起きが嫌いなのだった。

ひとまず面接は終了し結果は追って通知ということで、おばちゃんは部屋を退出した。数多いオフィスは人の出入りも活発で、一番印象的なのはワーカーの年齢が若いことだった。
20代かせいぜい30代。
こんな商業地域にそこそこレントの高そうなオフィス、世間はまだまだ不況の波が残っているというのに、ポルノ業界は不況知らずで活発に動いている。おっさんの性欲は不況に関係ないし、世の中裸で食ってく業界は強いなぁと感心した。

帰り道に行きつけのコンピューター・ショップに寄り社長のトムさんに、
ねぇ、ポルノ業界って儲かるね。二人でやらない?と聞くと
う~ん、あそこは不況知らずみたいなんだけど、
あの写真とか動画の仕入れはどうすんでしょうね?
あ~、そうよね。おんなじ写真じゃ飽きちゃいますものね。ポルノの卸業ってあるのかしらん?
でも、たとえ儲かったとしてもウチの娘に聞かれたら答えられないですよ。ダディの仕事はなあに?って。
そっか。
さっきの会社の従業員が若いのは、子供がいないせいか?なんとなくわかったような気がしておばちゃんは帰宅した。

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