アーノルド

モールの前の管理会社のマネージャーはアーノルドと言った。汚らしい歯をした痩せたジジイで、スクルージはこいつがモデルだったのだと思う。

土曜日・日曜日になるとモールの裏を後手にひょこひょこ歩いていた。ジャネットによると土日はよくモールを見張りに来るという。ビジネスの中にはめったに入ってこない。

おばちゃんがビジネスを買うときに、モールの面接をしたのがこのアーノルドだった。
おばちゃんは面接用に作ったビジネスモデルのコピーを一部アーノルドに渡し、経営ポイントの3つの数字を説明していったが、アーノルドはろくに数字を見もせず興味が無さそうに傍らにうっちゃった。

面接をするだけでこちらは$200ドル支払っているのに。

面接の結果は2週間から3週間で知らせるから。とアーノルドとの会見は終わった。経済は好調でビジネス売買も盛んだったが、モール側のマネージャーがNoと言えば、売り手と買い手が売買に合意していてもテナントの売買は成立しない。

2週間たってもアーノルドからは連絡がなく、不動産エージェントにもコンタクトがない。向こうがもったいをつけているのは分かっていたが、売買を進めるにはこちらから連絡するしかなかった。

売り手も私もエージェントも3人そろってたまたま女で、売り手のオーナーがアーノルドに電話を掛けた。
「ヘイ、アーノルド。面接の結果はどうなの。私?私はテナントのミカコ(仮名)よ。3年間商売してるじゃない。忘れたの?」
するとアーノルドは新しい看板のイメージを今度はオフィスにもってこいと言うのだった。

管理会社のオフィスはすぐ近くだったのでアポを取って訪れると、くすんだオフイスの外には真っ赤なイタリア車が止まっていた。オフィスに一歩入ると、秘書とアシスタントがいるのにシンとして物音一つしない。

アーノルドとアポがあるのだがというと、秘書は怯えた目をしアシスタントはごくっと息をのんで、ボスは今グッドムードじゃないから。と奥を指さした。

アーノルドは一番奥のデスクにひっくり返り、なんとデスクに足を乗せていた。デスクの正面に来客用のいすがあるので、おばちゃんは椅子の背を引き寄せ座ろうとした。

するとジジイは「座るな!」と言ったのである。
来いと言ったのはアーノルドだ。私は聞き間違えたのかと思ってもう一度椅子に座ろうとしたら、ホームレスを追い払うかのように、座るな、看板のイメージを置いて出てけ。とシッと手で追い払われたのだった。

おばちゃんは憤然として出口に向かったが、秘書は知らんぷりアシスタントは下を向いたまま「アーノルドに逆らっちゃダメなんだよ」とささやいた。

この時の秘書はマリアとか言ったが、売買エスクローが開始した後に辞め、以後オフィスに電話を掛けるたびに違う名前の秘書が答えるのだった

アーノルドがさんざんもったいをつけてOkを出したときにはすでに7月に入っており、面接から2か月半たっていた。エスクローはオープンして、おばちゃんは会社の設立などで忙しかったが、突然アーノルドから電話がきて、テナントの補償金を上げると通告された。

理由としては、おばちゃんたちにビジネス経験がないことだと。エージェントだってエスクローがすでにオープンした後に、補償金を吊り上げるなんて、聞いたことない、と言う。

エスクローは売買金額で合意があり頭金もすでに支払われているから、ここで売買をキャンセルしても、おばちゃんの頭金は戻ってこない。絶対逃げられなくなってから、補償金を吊り上げてきたのは汚いやり方だった。

むろん、エスクロー会社だってそんな追加条件は聞かされていない。エスクロー書類は全部作成し直しになる。

アーノルドはEmailに答えないので、ファックスで秘書と何度もやり取りして追加の支払金額と支払方法を確認して、小切手で支払った。

その時までおばちゃんはパン屋のクリスがアーノルドにどれだけ嫌がらせをされたか、全く知らなかったのだった。

エスクローがクローズするまで、売り手のミカコとエージェントのタカコ(仮名)とおばちゃんの3人女はあれこれと連絡を取り合うことになる。

バンカメと戦う

アメリカで起こるトラブルは、電話一本でするすると直る、ってなことはまずない。
2回電話をかけてもらちが明かず3回でもどうだろう。
解決しない主な理由は、カスタマーサービスの人の質が低くてトラブル解決システムがきちんと動かないせい。

クレジットカードのカスタマーサービスは特にひどくて、バンカメ・カード事件は次のように起こった。
アメリカのクレジットカードの有効期間は短い。たいてい2年くらいだ。
当時持っていたバンカメBank of Americaがリニュアルしておばちゃんは新しいカードを受け取って
スーパーとか小売店で3~4回 使った後に、何気なくカードを見ると、
おばちゃんの名前と全く違っていた?

氏名であっていたのは、ラストネームの最初のアルファベット2文字。
なんじゃこれ!
おじちゃんのラストネームはスペルを並べると日本人に見えない。いつも行く銀行の窓口のおばちゃんは、
あなたの名前はフィリピンのタガログ語では「海」って意味よ。と教えられた。イヤ、タガログじゃなくて日本人だけど。
カードの赤の他人のスペルと似てるっちゃ似てる。

そのバンカメ・カード名義にびっくりしてすぐカスタマーサービスに電話を掛けた。
別人のカードを送ってきて、使っちゃったわ!あ~、私のカードは今どこよ。すぐキャンセルして。

あ~、ハイハイ、あなたのカードはまずキャンセルしました、と。
使っちゃったんですか~?
うん、90ドルちょっと使ったわ、ビルはちゃんと送って払うから。

で、カードのステートメントが届くと請求額が$0なんだね。どうなってるんだこれ。

で、また電話をかける。
あ~、カードが間違って届いて間違って使っちゃったから請求を送ってもらうはずだったのにチャージされていてないよ。
あ~、ハイハイ。忘れましたか?つけときます。来月払ってね。

次の月、また請求額がついてない。
電話をかける。
カスタマーサービス、間違って使われた名義人があなたを訴えると言ってます。
払わないとあなたを訴え、、、、、

だから最初から払うよって、言ってるじゃん。2月前から電話をかけてんじゃん、払うって、。
あれ、(記録を調べて)ほんとだ。じゃ、請求書送ります。
もう、いい加減にしてよ。何回電話をかけてると思ってんのさ。

次の月、請求書の請求額$0.どうなってんだこれ!怒!
カスタマーサービス:相手はdisputeして、払わないって言ってます。
おう、だから払うって言ってんじゃん。お前話を聞いてんのか?
お前じゃもう埒あかないから、スーパーバイザーと代われ。

スーパーバイザー:ポリシーを調べたところ、他人名義の支払いはできないことがわかりました。
なんだって?それがわかったんなら、なぜ説明しない。自分で使った分は自分で払うから。

スーパーバイザー:できません。他人のアカウントに支払いはできないんです。
おば:相手はdisuputeして払わないんだから、私が払うって言ってんじゃん。どうやったら払えるの?
スーパーバイザー:……………..

払えといったり、払おうとしたら払えませんと言ったり。延々と6か月ももめた。

決定的におばちゃんが切れたのは、払えというカスタマーサービスにぶつかったときに、銀行のバンカメの窓口で払えます。と言われOK,分かった家から近いバンカメの支店でこれから支払うから、店長に電話をかけておけと、支店の名前と住所と電話番号をいい、これから行くから。

バンカメの支店に着いたら、支店長にもちろん電話は来てないわ、クレジットカードとはそもそも組織が違うので、カードの支払いはできませんとマネージャーに言われ、カンカンになった。カードのカスタマーセンターのスージーだかナンシーができるといったんだよ。

それでとうとう堪忍袋の緒が切れて、おばちゃんはジオシティにバンカメ用のページを作って、最初の事件の発端から、カスタマーサービスの回答を時系列で並べて当のカードのアップ写真を載せて(名前とナンバーはバッテンで消したが)。

URLとページのコピーを同封して、カスタマーサービスに手紙でガンガン送った。バンカメは、おばちゃんにはっきり説明もせず事態はうやむやに終わった。

働く人の質は低いが、バンカメは使いやすい銀行なのだ。
オンラインバンキングも、何も知らなくても直感ですいすい振り込みも支払いも操作に悩むことなくできる。

ところが、自分の有利なようにコロコロポリシーを変えるという癖がある。
ビジネスをスタートした後、便利で近かったのでもう一度口座を開いたおばちゃんに、最低預金限度額minimum balanceを何度も変えて煮え湯を飲ませたのだった。

最低限度額はいくら?$0です。本当に?本当です?
今だけで将来は変わるんでしょ?いいえ、Forever$0です。キリッ!
って言ったんだよ。

それで1年後に、銀行から手紙が来て、来月から限度額は$100になります。限度額を下回るとペナルティで1月$15の口座手数料を頂戴します。

嘘つき!2回やられた。

サブプライムのババをごっそり掴んでリーマンショックの大不況でバンカメは大きな痛手をこうむった。
アメリカ政府の援助を受けて生き延びたのだった。
税金で生き延びたのにシレっと口を拭って、相変わらず好き勝手なビジネスを展開していたが、
Heartland だかHeartfordだかの保険会社と提携をして、毎月ステートメントに保険のパンフレットを
同封して送ってくるようになった。

あんまり評判のいい保険会社でもないが、補償額のわりに掛け金が極端に安いし、同封の加入申込用紙にチェックマークをいれるだけ、切手もいらない返信用紙に同封して送り返すだけの
超~お手軽さについつい、ひっかかって事故賠償保険月掛け4ドル?に申し込んでしまった。

アメリカの場合は印鑑なんて必要ないし、銀行印ももちろんないし、バンカメが提携しているので、
バンカメの口座から引き落としだから、面倒なことは何もない。
日本の申し込みが面倒なのとは対照的ね。

そんで、保険加入で半年くらい経った後にHeartlandから手紙が来た。先月の引き落としができてません。
先月分のお支払いをlate fees遅延の罰金’と一緒に送ってください。

おばちゃんは唖然とした。銀行引き落としなのに銀行が何で引き落とせなかったの?
残高はあるのに。限度額も勝手に上げて、$100ドルを下回ることはないのにさ。さらに遅延金を私が払うの?それは筋が違わなくない?
バンカメのミスを私がしりぬぐいするの?

あほと違うか、 電話でHeartlandのカスタマーサービス 電話をかけて、バンカメに来月2か月分を引き落とすように言ってやって。

Heartlandのカスタマーサービスに文句を言っても、そういう処理はできないんです。小切手で引き落とし不足分と遅延金をHeartlandに払ってください。
むかむかして保険なんか怒りでどうでもよくなっちゃって、おばちゃんはHearlandに苦情の手紙を書いた。

Hearlandさんへ、バンカメがミスしたんですね。銀行口座自動引き落としができないような銀行と提携したんですね。late feesをとるならバンカメから取ってね。

そもそもサブプライムで大やけどして国の税金を受けて生き延びたような銀行と手を組んだ、あんたが間抜け。バンカメのミスはバンカメに責任を取らせて。バンカメから遅延金を払わせられないようなら、保険をキャンセルしてね。
バイ!

イラニアン・ケバブ

土曜日のランチによく行っていたのはイラニアン・レストラン。
店を一歩入った途端かおるサフランのにおい。

メニューは一通り試したけど、好きなのはソリターニ。肉とコメ。
牛ひき肉にスパイスを混ぜて味付けは塩だ。それを金属の長い串にガマの穂のように巻き付けて
グリルで焼く。もう一種類はやはり牛肉でブリスケッットかヒレあたりではないのかと思うのだが、
切れ目のない長い肉を串に刺して焼いたもの。筋も脂身も口に触らなくて柔らかい。

その2種類の肉が串を抜いてバスラミックライスの上にど~んと横たわっている。
付け合わせは焼いたホールトマトだけ。肉と米。

この米がまたひじょ~に軽い。どのくらい軽いかというと一度くしゃみをしたら、コメが吹っ飛んだくらい軽いコメ。その米が大皿に多分どんぶり2杯くらいの量。Rice of Bedという。

細長いバスラミックライスは、つやつやしてて一粒一粒油でコーティングされていて、軽く塩味がついている。白いコメの1割くらい黄色くサフランで染まったコメが混じっている。

テーブルにはイラン産の赤バジルの粉末がボトルであって、アクセントが欲しくなると軽く振りかける。もう、日本の振りかけの”ゆかり”そっくり。塩が入ってないだけ。
何度も言うけど、肉と米。

そのほかには、おじちゃんと”ザブトン”と呼んでいたイラン風のパンと”生の玉ねぎ”がある。
肉のひき肉のシーカカバブを一口食べ、柔らかいほうのブリスケットを食べて口が脂っぽくなったら、
半切りになった別皿の生の玉ねぎをナイフでくしに切る。

フォークで食べると雰囲気が出ない。左手に生玉ねぎをつまんで右手にフォーク。肉と米をフォークですくって、合間に左手の玉ねぎをかじって口直しをする。

おばちゃんは、ムダな教養がありすぎるからついつい旧約聖書を思い出してしまう。
モーゼに連れ出されたユダヤの民が砂漠で食べ物を嘆くシーン。エジプトでは肉を食べ玉ねぎをかじって腹いっぱい食べたのに、ここ砂漠には肉も玉ねぎもない!

読んだ当時のおばちゃんは、なんで玉ねぎ?まぁ、煮込みにするなら玉ねぎもいるかも。と思ったのだが、。シーカカバブの焼き肉は、生の玉ねぎのほうがうまい。

ちくわみたいに真ん中に穴が開いたひき肉を食べ、コメを食べる。
軽いコメは箸なんかでは面倒見切れないほどサラサラなので、ホークですくって食べる。軽いからどんぶり一杯分くらいは女でも食べられる。ブリスケットを食べ玉ねぎをかじる。

金曜日の夜に来ると、ベリーダンスのショーがあって、シンドバッドの冒険に出てきそうな衣装:ブラとスカートとたくさんのアクセサリーを付けた、とても40以下に見えないイラニアンのおばさんが髪を金髪に染め、それでもウエストラインはかなり絞っていて、腰をくねらせながら客席の間を踊る。

腰のスカートに5ドル札を挟むと、片頬で笑ってくれて腰を10回くらい振ってくれる。10ドル札だともう少し長くテーブルの周りをまわってくれる。日本からのお客さんを連れて行くととても喜ばれるレストランだった。

飲み物は発酵したヨーグルト。
甘みを付けたヨーグルトは後味を引くが、この発酵したヨーグルトは塩味がついていて肉料理にはさっぱりして飲める。一度発酵しているので、ソーダのようにプチプチと炭酸風味だ。おじちゃんは嫌っていたがおばちゃんは好き。

肉とコメという嫌われる要素がない料理なので、いろんな民族から好かれ、イラニアンスーパーのコーナーにも、シーカカバブコーナーができて、長い行列待ちだった。

同じケバブを食べようと思ったら東京までいかないとだめなのかしら?

ここでおばちゃんにちょっと脱線させって。
おばちゃんは英文科だから、英文学における聖書みたいなクラスもあって、新約も旧約も読んでる。
いろんなバージョンがあるが一番読みやすく面白かったのは文庫で出てる小説:旧約聖書。
エジプトで生ぬるく暮らしているユダヤの民をモーゼが脱出させる「出エジプト記」だ。

ユダヤの民に危機感をあおり、約束の地に民族を連れ出すモーゼ。民族の大脱出。連れ出したなら一直線にイスラエルに向かえばよいのに、モーゼは何故かシナイの砂漠をさまようのだわさ。

食うものもない砂漠でモーゼは神に祈り、天からマナ(パン)が降ってくるのだね。毎日マナを食ってれば生き延びられるのだが、そこでエジプトですべての財産を捨てさせられて身一つで逃れてきたエジプト生まれのユダヤ人がぶつくさ文句を言うわけだ。

この砂漠には肉もなければ玉ねぎもない。毎日同じマナばっかり。

やっぱり、食いものの習性はしぶとく残るのさ。
中には貧乏性がいて、明日マナが降らなかったらどうしようとか、今日降ってきたのをたくさん集めてためておこうとかね。

人間性の問題だからだから、おばちゃんもやりそうだ。貯めたマナはカビが生えて腐っちゃった。それでモーゼが怒るわけだ。神はちゃんと約束してマナを降らせるのに、神を疑ったってね。

モーゼのおっさんは、自分の民に相当手を焼いたんだね。信じられないのは延々とシナイの砂漠をさまようのね。40年だっけ?来る日も来る日も。

これが日本民族だったら、

「拙者モーゼは神に誓ったので、この命にかけても主らを約束の地に連れ申そうぞ!できなかったら、この皴腹をかっ切って詫びる」

とか言っちゃって土下座して、死に物狂いで日本人団を連れて砂漠を横断したにきまってる。
そんで、日本生まれがイスラエルの地に着いて、ああでもないこうでもない。日本ではこうだったとか、文句をたれまくって、イスラエルの統一国家誕生の大きな妨げになったに違いないわ。

モーゼはのらりくらりとうるさい仲間をかわしながら、砂漠を延々とひっぱってエジプト生まれがくたばっていくのを冷静に待った。連れ出した当の仲間が一人一人死んでいくのを待つのだね。

この信仰とか論理と鉄のメンタルがすごいね。日本民族は絶対できない。
自分がエジプトから引っ張り出した張本人なのに、仲間が砂漠で死に絶え、砂漠で生まれた神を信じる子供たちの民だけになってから、蜜と乳が流れる約束の地に入場した。

おばちゃんが恐ろしいと思うのは、モーゼが自分の民の絶滅計画・選別を決めたのはエジプト脱出の計画の当初からだったのか?
それとも砂漠をさまよっていた間に結論に至ったのか?
計画当初からだったなら、恐ろしいね。

民族と信仰と国家いう大きなものをコントロールするために壮大な計画を立て自分の民の選別をしていく。死んでいく人間からはモーゼなんか詐欺師じゃん。

ただ、大きなピクチャーから見れば、ユダヤの神を信じるユダヤの民の純粋を守ることとユダヤの国を建設するためには必要な戦略だったと。

こういう子孫がアメリカでも繁栄している。金融界、法曹界、不動産業、政界、宝石業界。名前の語尾がバーグ、スタイン、ゴールド、シルバー、ランドとかがついていれば子孫。

割と目先のことに熱くなり感情で動きやすい日本人は、個人の人間を殺しても民族を守るという大きな視野はないのじゃないだろうか?
まぁ、日本人のヒーローは感情的で自己犠牲が好きで、体力と気力が持たず早々と死んじまうから。
個の日本人がこのユダヤのネットワークにぶつかったりすると、て~んで歯が立たなかったりする。
当たり前か。

お客様は神様じゃない

ある朝、いつものようにコーヒーを買いに隣のパン屋に寄って、ジャネットがマグにディカフェを入れてくれる間に
ぼ~っと正面の壁を見ていると、メニュー表の上にプレートが貼ってあった。
We reserve the right to refuse service to anyone

なんだか穏やかでないから、ジャネットにあれは何?と聞いたら「ああ、Right to refuseね。あまりひどいお客さんは
うちにはいないけど、念のため」ふう~ん。

おばちゃんは自分のユニットに帰って、さっそく調べた。アメリカのサービス業の普通のポリシー宣言だ。うちは誰であってもお客にサービスしない権利があります。キリッ!

日本の小売業は「お客様は神様です」だ。これはキモチわるい。誰がそんなことを言い出したか、昭和生まれのおばちゃんは実は覚えている。

演歌歌手の三波春夫が広く広めた。ファンサービスの言葉だったんだよ。
彼がファンに媚びるのは勝手だが、このフレーズが日本でどんどん独り歩きして、日本の小売業・サービス業にまで広がってしまった。

お客というものは媚びて持ち上げてヒザまずくとどんどん冗長するものだ。結果、日本の小売業・サービス業は客にへりくだって、客自身は神様のように思い上がり、サイトに星をつけずに罵詈雑言を書いたり、するとサービス側は委縮してさらに這いつくばり風評を異常に気にして客を腫れ物に触るように仕える。

おばちゃんは、ばかげた風潮だと思う。
お客は神様ではない。お客と店は対等だ。そもそもお客と店は物品やサービスを介して相対するものであってどちらが神様か奴隷かという関係ではない。

アメリカでもウオールマートのおっさんがが「Customers are always right」というフレーズを大々的にぶっ放したが、
(オリジナルの発言者ではない、三波春夫と一緒)アメリカ社会では必ずしも賛成されていない。

理性的な判断だと思う。
日本のようにいったん大勢が決してしまうと流れに流される社会とは異なり、アメリカ社会というのは極端な意見はチェック補正能力が働くようである。

さて、とんでもないことを言い出す白人のお客やこれまたC国人などと日々戦っていたおばちゃんはこの
Right to refuseがスト~ンと胸に落ちた。力強い味方

おばちゃんはさっそくサイン屋にプレートを注文して、カウンターのよく見える壁に掲げた。このプレートはサービス業の護符だ。プライドだ。十数年の営業期間のうち、おばちゃんは何回かプレートを指さしてモンスターが退店した。

日本に帰ってきて小売業がお客様は神様です!と言っている割には客に便利がいいことはあんまりしようとしないことに
これまたおばちゃんは頭をひねった!

だって、醤油ラーメンと塩ラーメンが同じ値段でソフトクリームとセットなのは醤油だけなんだよ。おばちゃんは塩ラーメンとソフトクリームのセットがいいからセットを塩に変えて?と頼んだら、ウチは醤油だけがセットにしてるんです、だって。
醤油も塩も作る手間も値段も一緒よ?チェーン店なのにバカじゃないかしら?

ーーーここでちょっと閑話休題
おばちゃんは、融通の利かなさの原因をある程度推測できる。
① メニューを書き換えるのが嫌。
② レジに打ち込めないから困る。
スモールビジネスではレジに大規模ポスシステムをなかなか入れられないんだね。費用がかさむから。
あるいは一番単純なポスシステムを買う。ポスの設定は最初の一回業者がしてくれて、あとの変更は現場では
わかんないやつしかいない。

そうでなければ単品のレジを買って紙の伝票で処理するんだ。こういう小売店は頭が悪くてレジのLookUpTableをきっちり作り上げる人がいないのよ。

LookUpTableというのは、レジ機器の内部に物品のリストと値段を表にし記録させておくのよ。だいたい2000品ぐらい余裕で設定できるのよ。

だからフードコートのレジはキーの101をたたくと、醤油セット890円とレシートが出るのだね。塩セットを102に追加すれば解決じゃない。

物品の名前や金額を変えようと思ったらレジの数字ボタンをたたいて、気が狂いそうになりながら1字1字名前を編集し金額を変えたりする。そんな面倒くさいことはやりたくないって?バカみたい。

コンピューターと接続して、LPテーブルを編集すりゃいいのよ。たいていのレジはコンピューターとつながるから。紙のメニューは1回印刷屋で書き直すと3万はかかる。プラスティックのメニューならもっと。

でも、そういう客の好みとオーダーの幅を理解してレジに客の好みを追加していけば、客にも喜ばしく、売り上げも上がるのに、な~んにもできない無能の経営者が言葉だけはお客様は神様という。客がわがままだという。
それは違うよ。とおばちゃんは言う。

マーケティングは小売業の基本だ。客の好みが売り上げに直結する以上、
客の好みを把握してより広い顧客を獲得する。そのためにオプションとチョイスを選べるようにする。レジの編集ができなくて、なにが経営か?レジの売り上げ記録というのは思いがけない発見があるものだ。

レジとメニューくらいなんとかせい。そうすればセットものの追加なんて、自由自在にできるようになる。店も売り上げアップでWin客も好きなものが買えてWin
ーーーーーーーーーーー閑話おしまい

お客様は神様です、と言いながら客の便宜はあんまり払わないのが日本の小売業、サービス業だ。

AliExpressのほうが日本の小売業より融通が利くよ。いったん開封したら返品不可なんて、日本のルールは
おかしすぎる。XXXXオーヤマさんとか。返品されたらロスになるって?そんなこたぁない。

返品絶対不可だとお客さんは怒っちゃって戻ってこない。だから返品は初期不良と一緒にFactory Refurbish
(自社工場で点検修理で完成品としてまた出荷する)として安く売りゃいいのよ。

あのダイソンでさえやっている。購入客は返品できてWinFactory Refurbishで安く買える客がいてWin
売り手もロスがでなくてWin

とにかく日本の商業:小売り、サービス業というのは変な歪みがある。過度にへりくだったりイケ高だったり。
おばちゃんは力強く言いたい。お客とお店は対等よ

Costco コスコ

おばちゃんが渡米したときはPrice Club(プライス・クラブ)と言っていた。従業員がローラースケートで巨大な店舗の中を走っていた。ウソやおまへん!

ホントにびっくりして、こんな巨大な倉庫をてくてく歩くのはスケートじゃないと間に合わないよね、
おばちゃんだってローラースケートが欲しいと思った。滑れなかったけど。

プライス・クラブはその後合併してCostco (発音はコスコ tは無性音) となった。事故が多いので従業員はローラー・スケートから自転車になった。
(これはウソです)

普通のブランド製品が大量に安く売っているので消耗品を買いに行くのだけど、カートに山盛りでまさに買い出しだった。
一番丈夫なキッチンペーパーのBauntyとScottのトイレットロールでカートの半分は埋まり、アローヘッドの2ダースの飲料水と2ケースのバドワイザーを買うと軽かった当時のおばちゃんにははカートが重すぎて押すのが大変だった。

肉とチーズとCrestの歯磨きやら積んで入口から出口のサプルメントまで延々と歩かないと買い物が済まないし、
週末のレジ待ちの行列は半端なく長い。Costcoに行くのは間違いなく買い出しで力仕事だった。

おじちゃんはCostcoのアボカドが一番品質がいいと言って買うのだが食品はポーションが大きすぎて、ウチはクロワッサンもブルーベリーマフィンも横目で見るだけ。せめて半ダースだったらいいのに。

ただ、ペストリーとスイーツ売り場に”タライ”サイズのFlanがあって、おばちゃんはプリンが好きなのでいっぺん食べてみたいと思っていてずっと目が離せなかった。

ある時すごく疲れていた時についにFlanを買った。アメリカのパーティサイズ。直径30センチを超えるくらい、高さは5センチ。日本のプリンよりもっと濃厚で甘くて金属のスプーンでも差して倒れないくらいの固さのフラン。

クリームドリュブレに近い濃厚さなので、おじちゃんと二人でスプーンを持ちよーいドンで巨大な容器のフランを両側から攻略した。

3日目くらいに胸やけがしてギブアップした。3分の1くらいしか食べられなかった。あれがもっと小さなサイズだったらもっと頻繁にCostcoに行ったのに。

返品文化

買った商品がDefect(欠陥品)や動作しなかったわけではなく気に入らなかったという理由でも購入後30日の間にレシートをもっていけば大抵はリファンドか商品を取り換えてくれる。

ホリデーシーズンの後はカスタマーサービスに長い長い行列ができる。送り主がギフト用のレシートを同封してくれるので購入店にもっていけば好きな商品に取り換えられるからだ。

おばちゃんはTargetで安い扇風機を買ったが羽がペナペナで力がなかったので返品しに行き、代わりに加湿器を買った。
加湿器をしばらく使い、水のタンクの掃除がしにくいのでまた返品に行ってヒーターに取り換えた。季節は寒くなっていたので。

アメリカ全体に返品OKの”返品文化”が行き渡っているので、例えば日本の会社のように、”売買は常にファイナル・セール、初期不良品以外は返品不可”などとポリシーを規定すれば、アメリカ人から総スカンを食らってビジネスが立ち行かないことは明らかだと思う。

日本製のテレビや電化製品だってアメリカ国内で販売されている限りどんどん返品できる。

知り合いはDVDを買って堪能するまで見た後、ケースにビニールを再包装して(彼は仕事で包装する機械を持っていた)見なかったことにして返品していた。

パーティ用のドレスを買ってプライス・タグを取らずに人から見えないように内側に押し込んで、パーティが終わったら帰しに行く人。

口紅を半分も使ったのに気に入らないから別の色に取り換える人。

アパレルの日本向けオンライン・ショップ立ち上げて、商品がもし売れなかったら購入したショップに返品しようという企画していた知り合いもいた。実現はしなかったけど。

実現しなかったのにはちゃんとした理由があって、商品の仕入れがTargetなら年間の?返品金額が1500ドルに達するとブラックリストに載り購入ができなくなるという裏情報があった。

その情報が正しいのか都市伝説なのかは確かめなかったけれど、返品を想定してオンライン・ショップはさすがにやりすぎだと思う。

返品文化の弊害は第一に小売業の利益を圧迫する。いかに返品率を下げるかというのはアメリカ企業の頭痛の種だと思う。
Pain in the assと言うやつ。
ただ、アメリカ人でもかつて経営者Harry Gordon SelfridgeがCustomer is always right.とか言っちゃったもんだから、今さらアメリカ人の返品文化を別の方向へ修正するのはものすごく困難だと思う。
日本では”お客様は神様”と言うやつ。

返品文化の弊害は消費者自体にも跳ね返ってくるわけで、90年代から2000年前後、売り場の商品で箱に開封したあとが有れば返品された商品で、大抵ねじなどの部品が一つ二つ足りなかったり、故障していたりしてた。

だから商品を選ぶときは開封の後があるかどうか確かめて、商品が売り場で最後に残った一つだった場合は買ってはいけない。大抵カスをつかむから。

日本に帰国して寒い日本の冬のために猫用のヒートパッドをオンラインで購入したら、電気ケーブルがいやに短く
ナナちゃんが匂いを嗅いだだけで近寄りもしてくれなくて使えなかったから、ア〇〇スオー〇マに返品したいと連絡したら、開封しました?と質問されそりゃ、開封しますよ。使えるかどうか開封しないと分かんないじゃないですか?
そうしたら、一度開封したら返品不可です。と切り口上で以降返事がなかった。

おばちゃんは開封はしたけど使用はしてないのよ。商品としては何も棄損していないのだけど。
日本人は開封すると商品が穢れるとでも恐れているのかしらね。
日本の小売店のお客様は神様じゃないわ。ほとんど返品ができないから。

南カリフォルニア郊外の自然

ハミングバード

可愛らしくて美しいハミングバードはよく飛んでいたの。
蜂鳥と言われるくらいだから、甘い蜜を吸う。だからくちばしの長いハミングバードのために甘いシロップが入ったフィーダーを軒下に吊すの。

ハミングバードは赤と黄色が好きだそうで、吸い口は赤と黄色の花を模したプラスチックよ。
粉ジュースみたいなシロップを水で溶かしてフィーダーの胴体部分に入れてハミングバードが来るのを待った。

小っちゃいわよ。
小柄なものは100円ライターくらい。褐色や緑っぽい色や、日本の玉虫の羽みたいなメタルグリーンもいるから。鳥の鳴き声とは違うんだけど、ジジっとか、バチッとか音を立てるので、ハミングバードが来たなってわかるの。長~いくちばしをフィーダーの花に差し込んでホバリングしながら蜜を飲んでるの。

ちっちゃなハミングバードのさらにちっちゃな卵も見たことある。おばちゃんの小指の爪より小さかった。フィーダーが釣り下がっているのを覚えてくれて頻繁に来てくれると嬉しかったわぁ。

写真に撮るのはすごく難しかった。携帯なんてない時代だから、フイルムカメラを用意しておいて逃げないように素早くドアを開けて撮るのは不可能に近かったわよ。

動く宝石と言われて羽ばたきが撮れるような写真はものすごい値段がつくと言われてたこともあった。

ジャカランダ

ウチの目の前にも一本ジャカランダの木があって、家を買ったときにはまだ2メートルにも足らず、花も申し訳程度にしか咲いていなかった。帰国の前にはいつの間にか駐車場の屋根を超す高さに育っていてシーズンには空と地面が青く染まるようになっていた。

店の子の一人のアパートは植栽がジャカランダだったから、5月6に尋ねたときは、びっしりと花を咲かせたジャカランダアパートの敷地中に咲き誇って青紫の霞がかかったようになっていた。

落ちた花は地面を青紫と淡い青のグラデーションの絨毯を敷きつめたようになっていた。花にはかすかに甘いような香りがあって梢の花を摘み取ると、蜜よりももっと粘性の高いヤニみたいな粘りがあってこすっても落ちなかった。葉はねむの木に似ていて風によくそよいぎ、6月の微風にはさやさやと葉擦れがした。

カリフォルニアの初夏は気温が高くなることはあっても湿気が少なくて木陰は気温が下がるから、
肌もサラサラして過ごしやすい。ホントにスコ~ンと音がしそうなほど晴れた空、どこまでも青く澄んだ空。

カレッジに続く道路は中央分離帯に植えられたヤシの木が何キロも続いている。多分シティでも昔に植えらたと思われるヤシの木は手入れが行き届いていて一番太くたぶん根元は1メートル近く、高さは30メートル以上で、天辺のクラウンも大きく形よくティでは一番立派だったと思う。

この道とパシフィックコーストハイウエイをドライブするのはいかにもカリフォルニアと思われて快かった。

気候が変わると、爽やかな空気に心持も変わって明るい色彩の服を着たい、袖のない服がいい。襟元もあまり閉めたくない。

ヤシの木の根元の緑の芝生でゴロンとしたいと思うのだがこれだけはちょっと、お勧めしない。
乾燥している土地なので近づくと芝生はちょっとハゲちょろで、犬のXXXXの臭気がしたりするから。

草枯れる

ゴールデン・ステート州の気候は最高よ。カリフォルニアの夏の季語の一つは「草枯れる」
7月末を過ぎると毎日スコ~ンと青い空が広がり、まばらな雑草はチリチリと枯れ上がる。

フリーウエーから見える丘はまっ黄で夏の到来である。ヒートウエーブが襲ってきて唇は乾いて割れ鼻の穴も痛い。洗濯したジーンズを乾燥機に入れ忘れてうっかりベランダに置き忘れたりすると3時間後にはオブジェのように乾燥して固まっている。

雨なんか間違っても降らない。

ブッシュファイアー

こうなってくるとちょっとした不始末や雷で火事が発生する。ブッシュファイアーである。
93年?だかの時はひどかった。

大学の裏まで炎が迫ってきて、朝から灰が降り続け町はきなくさい臭いに包まれていた。

大学の裏の丘は火事の照り返しで赤く、テレビのニュースではそばの高級住宅地から住民が続々と避難してきて警察は住宅地の入口道路をブロックしてしまうのだった。

ペットのキャリアが見つからなかったのか、それとも動転するペットをキャリアに入れられなかったのかペットをカーペットでぐるぐる巻きにして逃げてきた住人もいた。

灰が降るアパートに一人、おばちゃんは真剣に避難を考えた。
炎がもっと近づいてきたらニャーにゃんをキャリアに入れ、おじちゃんの会社に避難しよう。

ところがおじちゃんが仕事から帰ってくると、会社のオフィスはすでに共同経営の会社の副社長一家が避難しているという。夜が明けると、消火隊は大学に迫りくる炎にバックファイアーを放射し炎の前線は燃えるものが無くなって止まった。

毎年夏のブッシュファイアーは慣れっこになってしまったが、2015年を過ぎて、干ばつはますますひどくなった。おじちゃんは町の東側の山の上にある湖で釣りをするのが楽しみだったのに、毎年岸が後退して水を追っかけて10メートルも下がらなけばいけなくなり、浅くなった水に藻が大量繁殖して、お魚さんも水を求め一番深い湖の真ん中に避難してしまった。

岸からの投げ釣りにはもう藻しか引っ掛からなくなった。2年前は30センチを超えるブラウントラウトやレインボーが釣れたのに。次の年には釣り場は閉鎖された。寂しかったね。

アソシエーション

おばちゃんが住んだOCの町はどの通りも絵葉書のように美しかった。
ヤシの木やジャカランダの街路樹にトリミングされた緑の芝生。

落葉樹はそれほどなかったが、道路はローラー付きのバキューム車が定期的に清掃する。商業エリアと住宅地は厳密に分かれているので、車で走ると様々な色やデザインの商業看板が道路沿いにあふれたり季節商品の旗がはためいたりすることはったくない。

おばちゃんが後にビジネスを立ち上げる時も、看板の大きさデザイン素材など、シティの規格にあっていないと申請が却下される。好き勝手に旗や看板を出すことは出来なかったし、公共の道路に何かの看板を出すことは公式にはほぼ不可能だった。

きっと信じてもらえないかもしれないけれど、おばちゃんが住んだコミュニティが外観の修復をしたとき、ドアも外側を塗り直すから、希望の色を3種類から選ぶように通知が来た。

カリフォルニアのランチスタイルの建築で屋根はオレンジがかったレンガ色、外壁はオフホワイトだったので、それに合わせるドアの色は:モスグリーン、テラコッタ、白。自分の好きな色を塗る選択肢はなかった。

前庭に植える植栽もコミュニティが選んだ植物がリストになっていて、その中からしか植えられない。
家の外の構造に手を加えるのは許されていなかった。

最初に引っ越した時に玄関にスクリーンドアをつけ、窓の外にラティースを立てかけ朝顔を植えようとしたら、アソシエーションからラティースを撤去せよと通知が来た。

3メーター近いラティースをホームセンターからウチのセダンで運ぶのは大変だったのに!ニャーにゃんをフロントデッキで遊ばせるのに、デッキの入口にペット用の柵を取り付けたら、いつ見られたのかそれも撤去せよと通知が来た。
アソシエーションの規則は住んでいるうちにだんだん厳しくなり、家に何かを追加するような変更を行うときは、
まず、アソシエーションの申請書を取り寄せ、変更する場所と追加の施工の内容と設計図をつけ、左右隣お向かいの4軒のOKをもらって、申請料200ドルをつけてアソシエーションの許可を取ること。
に進化した。

ウチはホリデーのしつらえはそれほど奨励されていなかったので楽だった。
知り合いの家のアソシエーションは、ハロウイーン、サンクスギビング、クリスマスは必ず前庭にホリデーのデコレーションをすることの規約があって中々大変だった。

外見を美しく整えること。そのためには色も規制し絵葉書ができるくらいに美しい景観が誕生するね。厳しいアソシエーションの規約があるコミュニティは外観が美しく保たれて結果財産価値も低下が食い止められる。

美しい家、美しい街路、美しい街を作るにはシティの規制とコミュニティの規制の上で、住民一軒一軒が
アソシエーション費用を毎月払うことで成り立っている。

アソシエーションが嫌で何も規制が無い住宅地に住むと、それぞれの家は好き勝手に色を塗り構造を変え通りの統一感は全くなくなりなんとなく”荒れ”が感じられるようになる。

すると敏感な白人層が逃げ出し、次に買って住む人は外観を気にしない傾向があって、ますます手入れをしなくなり”荒れ”が加速するようになり、ついには不動産価格が落ちてスラムとは言わないが低い下層が住む通りになる。

住人の肌色がだんだん濃くなるという傾向もあるのが事実だ。

おばちゃんが伊豆で家を買ったとき、環境保全費があって月額が高いね!と聞いたら年額だと!びっくりした。

OCの町の2か月分だった。その金額でこのコミュニティを美しく維持できるのだろうか?
雑草を刈り街路樹をトリミングし、ゴミ捨て場を清潔に保つ。これら最低の環境を整えるには費用が掛かるのだ。

自分の門の中だけをきれいにしても街並みは美しくならない。
日本の家も屋根の色と壁の色を3種類くらいに制限して商業用の看板は建物の外壁上だけに(飛び出さない)とどめるようにすれば、ぐちゃぐちゃした日本の街の外観も随分変わるのじゃないかしら。

黒瓦に白壁の伝統的日本の町並みと言うもなかなかすがすがしい光景だと思うわ。

パンツの話

米国で暮らして衣類で困ったことは、下着だった。パンツがでかすぎる。

おばちゃんの身長はアメリカでも中の上で不自由しなかったが、お尻はアメリカ人の広大なヒップには及びもつかない。黒人のおばちゃんなど、腰のくびれはしっかりあって横にもさらに”後ろ”にも張り出していて、まっすぐ立っていても腰の後ろにテラスができて缶コークの一本でも置けそうである。

90年代の初頭は小さなアジア系が少なかったので、下着もSサイズは見つけるのに苦労した。
困って子供用を試してみたことがあるが、おしりの頬っぺたはよいのだが、ウエスト部分が狭すぎた。

子供サイズと広大な大人サイズの中間がない。日本人の先人に聞くと、アメリカ人の女の子は子供だと思っていても、ある日突然大人の体サイズになるのだという。本当かぁ?

本当でもウソでも、中間のティーンサイズはなかった。おばちゃんはポンと手を打ち、そうだアジア系が多いリトルサイゴンでも覗けばちょうどいいサイズがあるのではないか?

おばちゃんはリトルサイゴンまで遠征し、香港製のパンツを発見したのであったが、10年ほど倉庫で寝ていたのではあるまいかと疑うほど古臭いデザインで、「下ばき」とでも言いたい代物であった。

燃えよドラゴンに出てくる中国人娘が身に着けていてそうなパンツ。その後、時勢にそってビクトリアン・シークレットがアジアサイズを売るようになったので、不自由はなくなった。

日本に帰国してからは、下着ではないボトムのパンツに不自由している。おばちゃん、足が長いのですべてのボトムがちんちくりんである。

トールサイズのお店に行けば?といわれたが周囲50キロにはたぶんトールサイズ店舗はない。面倒くさいのでおばちゃんは、オンラインでアメリカ人サイズのボトムをオーダーしている。

駐在員の奥様会

ああ、怖ろしい。
おばちゃんは禁断の領域に踏み込んでしまうのかしら。伏字だらけになりそう。

おじちゃんの会社は商社でもなく独身社員とローカル社員だったので、もちろん奥様会などという怖ろしいものはなかった。

駐在員は長くても7年ほどで帰国するから、おばちゃんが永住権を取って一回りすると交友関係は同じ永住権者とローカルが中心になった。

友達のアイ子さんは駐在奥様に人気のお習い事を教えていた関係で、駐在の奥様たちと交友があった。日本を代表する一流企業の駐在員の奥様は何年かに一回奥様会を催すのだった。

アイ子さんはその中の一人、知り合いの奥様からどうしたらいいかしらと泣きつかれて困っていた。親睦を深めるため奥様会が今度あるのだが、その席で当然ながら自己紹介をせねばならない。It sounds normal. それで?と思うのだが

この自己紹介が大変なのだという。
自分のざっとした履歴:上の人の奥様より華々しいと大変!どのように”抑え”て紹介するか、会社の社員であるご主人とのなれそめエピソード!つまんないエピソードでは受けが悪い。

かといってロマンチック過ぎると”上の方”の妬みを買うかもしれない。つまらなすぎず華々し過ぎず、適度にユーモアを散らして自分の地位=ダンナの役職にふさわしい自己紹介を考えないといけないらしい。

服装バッグも上の人を超えてはいけない。アイ子さん、どうしたらいいでしょう?どんなエピソードを話したらいいのかしら。まるっきりのウソではバレるわよね?

かつての□コ□奥様会は、上座から下座まで地位順に席が作ってあったのだが、さすがに対外に聞こえが悪いと反省したのか、近年は席を決めるのにくじを引くそうだ。途中に軽いゲームを行って、さらに席替えをするのだそうだ。

ある情報によると、XXXの奥様会は集合時に席に座っていらっしゃった奥様は会社の上様のお局で、他の出席者が誰一人手を付けられないお茶と茶菓子をおひとりだけ悠々と召し上がっておられたそうである。

お局様は”卒業式から結婚式”とご自分の経歴を披露なさり、社会生活に穢れることなく、ひたすらご主人と会社のために尽くしてこられたことがご自慢であられたそうな。21世紀の時代に?!いくら席をシャッフルしようとも、”お局様”がどなたかは一目瞭然だったという。

○○○の場合はもう少し小規模の会社で割と皆さん庶民派で和気あいあいだったらしい。

X菱の場合は、超一流にも関わらず奥様会が無かった。
元社員の本人から聞いたが、かつてX菱奥様会でバトルがあったのだそうだ。奥様同士がご主人を巻き込んで会社を2分するような紛争が起きたそうで、以来ではX菱奥様会はご法度らしい。

深田祐介は奥様会や駐妻生活はあまり書かなかったけど、一流商社の△△△△の奥様によれば、ダンナは仕事・仕事・夜討ち・朝駆け・出張・出張で子供を抱えていて学校関係の手続きも自分でやり病気でも引っ越しでもダンナはあてにできず母子家庭と同じ環境なの!とこぼした。

商社マンの勤務は激務で、重圧のあまり同僚で気が狂う人も珍しくないのだ、とおっしゃっていた。△△△△の毎月の給与明細には、支給額の他に今月退職するとしたらあなたの退職金=金額が記載されているのだという。

日本に帰国したときに日本の教育に遅れないように日本語学校の宿題も付きっ切りになって奥様が教えていた。

ダンナは一流商社で働いていて頭がいいのは証明済みなので、子供の出来が悪ければ奥様の出来が悪いことになってしまう。奥様だって想像もできないほどの重圧にさらされていて無論壊れてしまう方もいる。アパートのドアから一歩も出られないようになって、こうなると日本に送り返すしかない。

奥様会ほどの大げさなものではなくても駐妻持ち回りのお茶会があって、今週はこの方、次はこの方とめぐっていく会社もあった。会社は奥方を現地の文化や学校で自分磨きをさせるために派遣したのではないので、現地交流禁止などとオフレを配布する会社もあった。

会社を一歩外に出ればただの知り合い、会社と配偶者は無関係といかないのが日本社会のややこしい文化であった。(アメリカでもあるが日本ほど支配が濃密でもない)

脳外科医が救急車に乗る

アメリカ人はすべて確定申告をしているという事実はあまり知られていないかもしれない。
年が明け2月が始まるとそろそろ所得税の申告時期だ。
おじちゃんは勤めていた会社が使っている同じ会計事務所に申告書類を作ってもらっていた。
だって、会社の従業員の給与業務を請け負っていた会計事務所なので、所得の資料は全部持っているわけだったし。

3年目にうっかりして一部の書類を会計事務所に送るのを忘れた。申告書類が届かないのでどうしたわけかおばちゃんが会計事務所に問い合わせ、ついでに早くしてねと催促してしまって、そうしたら会計事務所は完成した申告書類を送ってきてそこに手紙が同封しあった。

その手紙には:
給与所得だけのあなたの申告書を作成するのはわが事務所にとってはBrain Surgeon脳外科医が ambulance救急車に乗っているようなものだ。能力の無駄遣いなので、来年は別の会計事務所に行ってね?と書いてあった。おばちゃんは大いに不快になり、どうせウチはまともに控除も無い給与所得者よと拗ねた。

国民全員が申告するわけだから、安い申告サービスも沢山あった。どの町にも支店があるチェーンの申告サービスなどは30ドルくらいで出来る場合もあって、知らなかったとはいえ脳外科医に風邪ひき程度の治療をそれなりの料金でお願いしてたわけだから、まぁ、件の会計事務所の言い分も一理も二理もあるわけ。チェーン申告サービスはシーズン中は混んでいて予約が取りにくい。すぐそばにあってガスステーション並みに気軽なので何年かご厄介になった。

後に起業して、事業の申告をするときに紹介されたのは元IRS(税務署員)だった。
この会計士を使うようになって知ったことは、例のチェーン・申告サービスは一番間違いが多く、税務署からAudit(監査)を掛けられる数もダントツに多いのだと知ってまたびっくり。

彼女によると、税務署が一番目をつけるのは、ホーム・オフィス小企業。自宅をオフィスにして会社の経費として自宅のローンの半分とか3分の1などを会社の経費として申告している場合は、一番レッドフラグが立つのだという。

アメリカに会計士・税理士に関するジョークがある。

小学生:1足す1は? 2です。
大学生:1足す1は?  2です。
会計士:1足す1は?
    手をモミながら、いくつにしたいですか?

ウチの会計士は税務署員上がりなので、決算数字が税務署の注意を引かないように申告できますと言った。「監査保険」をつけてさらに50ドル料金を支払うなら実際監査が入った場合におばちゃんを煩わせることなく会計士がすべて税務署に対応することになっていた。おばちゃんは一度も監査に入られることなく幸せだったが、料金は脳外科医会計士の5倍以上だった。

ニコチンパッチで死にかける

おばちゃんはアメリカで2回死にかかった。
一回目はメタボリック・アシドーシスになった時。2回目はタバコで。

1回目の時、事件の遠い原因だったアルコールはすっぱりやめた。外国でシラフで生きていくのも大変なのに、酔っぱらいながら生き延びられない。だからやめた。

2回目のタバコはちょっと違う。おばちゃんはニコチン中毒という状態に倦んでいた。体も部屋も臭くなり、歯はシミがついて汚い。タバコを切らすのが不安。切れないように在庫を確保しておく。

そういう状態自体がなんかストレス。タバコを止められるなら、やめてみたい。そんな時ニコチンパッチが保険適用になった。

おばちゃんはその時のかかりつけのドクターに行って、ニコチンパッチの処方を頼んだ。
ドクターは処方量を決めるために、おばちゃんにどのくらいタバコを吸うのか聞いた。正直に2箱吸います、と申告した。

夫婦二人で吸うので、おばちゃんたちはスオッチ時計を男女用それぞれ。マルボロの電源付きキャンプ用クーラーボックス大。マルボロの寝袋3袋、おじちゃん用のマルボロキャップ。マルボロのリバーシブルジャケット男用。セブンスターの目覚まし時計など、2人のタバコの空き箱で様々なグッズが
集まってしまうのだった。

ほう?一日2箱も?それは量が多いですね。
XXXミリのパッチかな。

おばちゃんは薬局でニコチンパッチを受け取るとずっしり重かった。サロンパスを円形にして1.3倍くらいの大きさにしたものと思ってくりゃい。うゎー婆さんの膏薬かい。見えないように貼ろう。

寝る前に最後の一服を吸い、灰皿とライターを処分して休んだ。朝起きると枕もとのタバコの代わりに置いたニコチンパッチの最初の一枚を取り、肩に貼った。頑張ってくれよ~と肩をモミモミした。

おじちゃんを仕事場に送り届けてアパートに帰る途中。突然、尾底骨から何かが脊椎を駆け上がり脳で爆発した!同時に心拍が160くらいになり、視野が外側から欠け始めて
中心の30センチくらいしか見えなくなった。後は真っ暗である。

道路は幹線道路で3車線あるうちの真ん中レーンを60マイルで走っていて、前後左右側には同じく車が走っている。息が苦しくて前がよく見えない。ハンドル操作を間違えればどこかにぶつかる。
不運なことに一番右端のレーンはフリーウエイの登り口で右脇道に入れない。
フリーウエイの入口が過ぎたら車線を右に変更して交通量の少ない脇道へ入ろう。

ニコチンパッチのせいだと直感で分かった。貼ったままにしておけば心不全で死ぬか道路で爆死するだろう。ハンドルにへばりついた右手を離して、シャツの首から手を突っ込み
左肩からパッチをむしり取った。もし腰に貼っていたらおばちゃんは間違いなく死んでいた。
運転席に座った状態でぴったりしたジーンズの下に手を入れるのは難しい。

パッチを捨てても視野は戻らなかった。心拍も早すぎて呼吸が難しい。その状態で右レーンに移り
次の信号で右に曲がった。アパートまではとても持たない。手前のショッピングモールに入りパーキングで止めた。目が見えずハンドルに突っ伏した。

時間はわからない。ようやく視野が戻ってきて目の前には公衆電話があった。25セントを探してよろよろ車を降り、エマージェンシーだとドクターに電話をした。

ドクターにどうしたらよいでしょうと聞くと、ドクターも動転している。クリニックに来てください、というが、そんなことは無理だ。救急車を呼んだ方がいいですか?

ドクターは嬉しくないようだ。タクシーは呼べませんか?
いまこの状態でタクシー会社を調べ電話してこの場所を説明するのはムリだ。もうしばらく休んでアパートに辿り着き、ドクターに電話をかけてもらってアパートにタクシーを派遣してもらった。

どう考えてもニコチンのオーバードースだった。
おばちゃんは診療ベッドに横たわって点滴を射たれながら、赤んぼがタバコを1本食べれば死ぬし、
成人のニコチンの致死量ってどんだけなんだろうか?膏薬みたいなパッチは一体何グラムのニコチンが含まれているのか、とかこの治療費は払えないか、とか つれづれに考えた。

おば:ドクターにどうしたんでしょうね?
ニコチンが多すぎたように思いますが。
医者:でも、あなたは1日2箱吸うヘビースモーカーですよね?
   最強のパッチを処方しました。
おば:はぁ、確かに2箱吸いますが、
   マルボロはマルボロでも「ライト」を吸ってます。
医者:「ライト」って何ですか?知りません。
    僕タバコを吸わないですから。」語尾が裏返っていた。

おばちゃんは、もう消耗しすぎて「どっひぁ~ん!」とも言えなかった。

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