日本永住帰国前夜・・・ビジネスを畳むには

南カリフォルニアで成功したビジネスオーナーの先人がかつて言った。

“アメリカで個人事業をしていて年老いたらビジネスを畳み日本へ帰国すると言っていた人で本当に実行した人はほとんどいない”。
世話になったおばちゃんたちが帰国のあいさつに伺った時の話である。

アメリカで起業をすることはできる、資金計画根性があれば。
起業はできるがビジネスを畳んで撤収することの方が難しい。何故か?

ビジネスはビジネス契約があるからである。
一言でいえば経営する事業所のリース契約。
日本のリース契約は知らないが、アメリカの場合、テナントを借りるためには分厚い契約書にサインする必要がある。契約書にサインする側に都合のいいことは何も載っていない(たびたび書いているが)

リース期間の終わらないうちに中途撤収するなら、ペナルティ条項目として残りのレントの全額支払い義務などのがあるのは当たり前。リーマンショックの前ではレントの期間は10年単位が普通だったが、起業してわずか数年で失敗しても撤収するために残りのレントを全額かぶれば莫大な借金しか残らない。これを避けるにはリース途中でビジネス営業権を誰かに売るか(起業コストはとても回収できない)、リースが切れるまでしがみついて赤字経営を続けるか、どちらかしか撤収のチャンスがない。

たとえ起業してビジネスがうまくいっていたとしても、ビジネスオーナーに非可逆的な健康障害が起きた時にはやはり進退の危機になる。頭、目、腰、手足のどれか一つでも機能しなくなったらビジネスの存続は難しい。

交通事故で2年後に半身不随になった人、仕事中に脳梗塞で亡くなった人。末期がんが発覚した人など。たとえ亡くなってしまっても契約のペナルティは関係者にかぶさってくるのでビジネスの継続はおろか、リース残りの期間は赤字が積みあがっていくだけになる。

おばちゃんは起業してから様々なビジネスのオーナーが病気や事故や経済の変化によって没落したり、追い詰められたり、そしてリーマン不況ではたくさんの夜逃げオーナーを見た。

だからビジネスが軌道に乗った後に常にビジネスをどのように終わらせるか、撤収するか、で頭を悩ませていた。日本側に売りビジネスの広告を出したこともある。

ビジネスを売ることは起業することより難しい。
買い手に魅力のあるビジネスか、買い手が経営していける汎用性のあるものか、あるいは魅力的なロケーションか。売るタイミングも非常に重要。リーマンショックのさ中には営業権はタダでもいい,リースの引継ぎだけが条件という売りビジネスがあふれていた。不況では売れるものでも売れないのだ。

安全に撤収するためにはそれまでちょくちょく延長したリースの切れ目を狙うしかない。
おばちゃんたちのリースが切れる日時はわかっているので、ビジネスのクローズを決めた。夫婦二人で話し合って日本への帰国も決めた。

アメリカで私たちができること、やりたいことは全力でやった。だから日本に帰国してもいい。それからリースが切れるまでの1年半のタイムスケジュールを決めた。今度は閉業のために手順を踏んでいったのだ。

家という不動産も買う時より売るときの方が難しい。
幸いリーマン不況の影は遠くなって、その時カリフォルニアの不動産業界は売り手市場だった。物件が払底していて誰もが家を欲しがっており、家はリストに載ってからたった1日で売れた。買った時の3倍の値段だった。それからアパートに引っ越し日本帰国のために家財道具も最低限に減らして暮らした。

冒頭の先人の関係者にジャンクの買取、整理の専門家がいたのでビジネスで必要だった器具や処分できるものは処分した。これを買う時にいくらしたか、などと考えると始末はできなくなる。十分役目は果たして役に立った、だから処分した。

築いたビジネス、3年かかって取得した永住権、16年住んだ我が家、お客、友人、黄金の気候。
四捨五入すれば30年、アメリカを十分楽しんだと思う。人生の第三のフェーズは終わったのでおばちゃんたちは日本に帰国した。

SNNやニュースを見ていると、わが同胞はアメリカで頑張っている。
かつての同業者もまだ現役だ。コロナのパンデミックのなかでどれほどビジネスに苦労したか十分すぎるほどわかる。
アメリカでは病気・事故・老齢・時勢の変化、どれか一つに襲われてもビジネスの継続に大変な苦労が伴う。コロナも収束して健やかな老後を過ごされんことを祈ってる。

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ジャネット広報局

おばちゃん危機一髪

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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