アメリカで起業する

アメリカの移民はスモール・ビジネスが多い。
なんでか?
アメリカの企業が雇ってくれないからだ。英語に訛りがあって、米国の大学卒でもなく、正体も分からないからだ。だから、移住者は自分でビジネスを始める。
屋根屋、洗濯や、大工、電気屋、レストラン、ヘアサロン、不動産屋、会計士、弁護士。

客から考えた場合、
同じ日系人のビジネスなら騙されないという安心感がある。いい加減なことをすれば、狭い日系コミュニティですぐ噂が広がるし、多少高めでも行くのである。アメリカでスモールビジネスを起業すると、同胞は客として見込めるのだ。

永住権を取得していて技術があって資金があるなら、アメリカで起業をすることはさほど難しくない。一番簡単なのは、すでに稼働しているビジネスを買い取ることだ。

ショッピングモールを観察して洗濯屋でも、これ!といったビジネスが欲しければフラワーショップでもギフトショップでも、不動産屋が売買を仲介しいてくれる。

自分の手持ちの資金でビジネスの規模が決まる。
10万ドル、20万ドルの規模なら小売店のパパママで経営するビジネスの経営権が買えるだろう。
流れを書いてみるなら
まず、自分の資金で手が届くビジネスを見つけたとする。不動産エージェントに連絡し、相手オーナーに買いのオッファーを出す。相手からカウンターオッファーが返ってくる場合もある。
買い手売り手双方が金額に同意したとして、次のテージはモールの審査だ。

モールの管理会社が新テナント候補の審査をする。むろん審査を落とす場合もある。資金・資産不足、経験不足など。
インタビューの予約を取り、(審査予約で申請料を取るモールも多い)自分が経営することになるビジネスモデルを作成してインタビューでプレゼンテーションをする。

事務能力・スピーチ能力に自信のない人は会計事務所とか弁護士に代行を頼むこともできる。小売り・サービス業を開業しようという人間が事務能力とプレゼンテーションの能力がないとは、はなはだビジネスの将来が頼りないのであるが。

審査には資産状況、学歴、職歴の開示が必要なのは言うまでもない。アメリカでの逮捕歴や交通違反でもDUIなどの違反が出てきてしまうと、ビジネス・ライセンスが下りない場合がある。

モール側の審査が通れば不動産売買の仲介会社Escrow会社が間に立ち、売り手と買い手の双方に売買のアサイメントを指示してくる。

買い手はエスクローが支持してきた手続き:会社の設立、営業名称の登録、ビジネスライセンスの取得、銀行口座の開設などをこなしていく。

連邦は州のライセンスを取るのにさらに面接があったりするわけだが、必要フォームに記入して提出するだけのライセンスもあるし、辛抱強くこなしていけばライセンスは取れる。時間が多少かかるライセンスもある。

営業に必要なライセンスがすべて取れたら、次は実際営業をするテナント内部のリモデルの計画を遂行する。業者に必要な見積もりを出し業者の選定をし、営業開始日からさかのぼって施工の予約をる。

言語能力?そんなものはできるのが当たり前のこと。

言語能力だけあって実務能力がなくてもこれまた困るのだが。日本で生活している中国人、ベトナム人イラン人、が何ができて何ができないか?
他国で生きていくために何が第一に必要か彼らを見れば答えがわかると思う。

アーノルド

モールの前の管理会社のマネージャーはアーノルドと言った。汚らしい歯をした痩せたジジイで、スクルージはこいつがモデルだったのだと思う。

土曜日・日曜日になるとモールの裏を後手にひょこひょこ歩いていた。ジャネットによると土日はよくモールを見張りに来るという。ビジネスの中にはめったに入ってこない。

おばちゃんがビジネスを買うときに、モールの面接をしたのがこのアーノルドだった。
おばちゃんは面接用に作ったビジネスモデルのコピーを一部アーノルドに渡し、経営ポイントの3つの数字を説明していったが、アーノルドはろくに数字を見もせず興味が無さそうに傍らにうっちゃった。

面接をするだけでこちらは$200ドル支払っているのに。

面接の結果は2週間から3週間で知らせるから。とアーノルドとの会見は終わった。経済は好調でビジネス売買も盛んだったが、モール側のマネージャーがNoと言えば、売り手と買い手が売買に合意していてもテナントの売買は成立しない。

2週間たってもアーノルドからは連絡がなく、不動産エージェントにもコンタクトがない。向こうがもったいをつけているのは分かっていたが、売買を進めるにはこちらから連絡するしかなかった。

売り手も私もエージェントも3人そろってたまたま女で、売り手のオーナーがアーノルドに電話を掛けた。
「ヘイ、アーノルド。面接の結果はどうなの。私?私はテナントのミカコ(仮名)よ。3年間商売してるじゃない。忘れたの?」
するとアーノルドは新しい看板のイメージを今度はオフィスにもってこいと言うのだった。

管理会社のオフィスはすぐ近くだったのでアポを取って訪れると、くすんだオフイスの外には真っ赤なイタリア車が止まっていた。オフィスに一歩入ると、秘書とアシスタントがいるのにシンとして物音一つしない。

アーノルドとアポがあるのだがというと、秘書は怯えた目をしアシスタントはごくっと息をのんで、ボスは今グッドムードじゃないから。と奥を指さした。

アーノルドは一番奥のデスクにひっくり返り、なんとデスクに足を乗せていた。デスクの正面に来客用のいすがあるので、おばちゃんは椅子の背を引き寄せ座ろうとした。

するとジジイは「座るな!」と言ったのである。
来いと言ったのはアーノルドだ。私は聞き間違えたのかと思ってもう一度椅子に座ろうとしたら、ホームレスを追い払うかのように、座るな、看板のイメージを置いて出てけ。とシッと手で追い払われたのだった。

おばちゃんは憤然として出口に向かったが、秘書は知らんぷりアシスタントは下を向いたまま「アーノルドに逆らっちゃダメなんだよ」とささやいた。

この時の秘書はマリアとか言ったが、売買エスクローが開始した後に辞め、以後オフィスに電話を掛けるたびに違う名前の秘書が答えるのだった

アーノルドがさんざんもったいをつけてOkを出したときにはすでに7月に入っており、面接から2か月半たっていた。エスクローはオープンして、おばちゃんは会社の設立などで忙しかったが、突然アーノルドから電話がきて、テナントの補償金を上げると通告された。

理由としては、おばちゃんたちにビジネス経験がないことだと。エージェントだってエスクローがすでにオープンした後に、補償金を吊り上げるなんて、聞いたことない、と言う。

エスクローは売買金額で合意があり頭金もすでに支払われているから、ここで売買をキャンセルしても、おばちゃんの頭金は戻ってこない。絶対逃げられなくなってから、補償金を吊り上げてきたのは汚いやり方だった。

むろん、エスクロー会社だってそんな追加条件は聞かされていない。エスクロー書類は全部作成し直しになる。

アーノルドはEmailに答えないので、ファックスで秘書と何度もやり取りして追加の支払金額と支払方法を確認して、小切手で支払った。

その時までおばちゃんはパン屋のクリスがアーノルドにどれだけ嫌がらせをされたか、全く知らなかったのだった。

エスクローがクローズするまで、売り手のミカコとエージェントのタカコ(仮名)とおばちゃんの3人女はあれこれと連絡を取り合うことになる。

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