アイ子ちゃん

アイ子ちゃんは当時無職だった。ダンナは学生だった。一人息子のジョージ君を日本語学校へ行かせるため停留所でスクールバスを待っていた。
同じくお子さんを持つ日本人駐在員の奥様と出くわすので当然皆さん同じ日本人としてご挨拶をなさる。日本を代表する会社の駐在員の奥様方であった。

「○○○商社の〇子でございます。」
「xxx商事のx子でございます。」
「△△△産業の△子でございます。」
アイ子ちゃんは困って
「無職のマッセルでございます。」

ご主人は確かに無職で学生であったが、バージニアから生まれ故郷のカリフォルニアへ、ロースクールの最終学年を終えるために戻ってきたところだった。

アメリカの教育制度のありがたいところで、年齢制限がない。勉強したいときにいつでも学校に戻れるのは素晴らしい制度だと思う。30過ぎても40過ぎても努力すれば人生の仕切り直しができる。

そもそもアイ子ちゃんとご主人は日本で知り合って日本で結婚しご主人は短大の教師、アイ子ちゃんはビジネスを経営していた。自然災害で地元の経済が落ち込んだのがきっかけで、ご主人の生まれ故郷カリフォルニアに移住することにした。

アイ子ちゃんはビジネスを売ったので、経済的には困っていなかった。
ご主人にこれからどうしたい?と聞いたら学校に戻って弁護士を目指したい、というのでダンナを応援することにした。その時で二人とも40を過ぎていた。

弁護士の旦那と結婚したのではなく、旦那を弁護士としてプロデュースした人。

私が当時バージニア州にいたアイ子ちゃんとどのように知り合ったかと言うと、掲示板であった。法学のクラス関係でどうしても2年ほどバージニアの大学で単位を取りたいというご主人とバージニアに2年ほど暮らしていた時に、周りに日本人はいない。

日本語を書けるWindows98があったのだが調子が悪く診てもらえるコンピューターショップもなく、それでも趣味のWebページを日本語で作りたい。アイ子ちゃんがが海外在住者用掲示板に質問を書き込み、カリフォルニアの私が読んで返信したのがきっかけ。

膨大なメールのやり取りでアイ子ちゃんのWebは完成した。同じころご主人のバージニアでの法律クラスの単位も無事に取れて、カリフォルニアに帰ってくる?!と報告があった。

カリフォルニアが故郷だとは全く聞いて無かったので、驚いたが、もっと信じられなかったのはアイ子ちゃんも私も同年代でさらにアイ子ちゃんの家がウチから5分だったこと。

アイ子ちゃんの家転がし


アイ子ちゃんの得意は家転がし。
大阪商人で不動産屋だったお父様の代わりに学生の時代から家作を管理していたから、不動産の目利きは確かだった。本業は色々変わったが家転がしは余技。

そもそも彼女には家は一生に一度の買い物とか、終の栖とかの観念が無かった。家族の構成が変わるとか仕事の通勤に便利かどうか価値として上がりそうな家を買い、価値が上がったら売る。気軽に転居して資産として住替えていくもの。

これから発展する土地で人口が増える街ならねらい目。人気の場所でも高くなりすぎた物件は手を出さない。築。古かったり売りにくいから。

アメリカで最初に買った家はタウンハウスだった。バージニアに行っている間にタウンハウスは人に貸し、OCに帰ってご主人のジョンがバーイグザムをパスしたので、今度は内陸に家を探し始めた。

内陸の法律事務所からジョンにオッファーがあったから。OCのタウンハウスは買ったときの2倍の値段で売れて、それを頭金に内陸に一軒家を買った。

モデルハウスってわかるだろうか?デベロッパーが購入者に内覧させるためモデルとして建て公開している家。分譲が終わるとモデルハウスが最後に売り出され、新築なのに相場より安い。まあ、嫌がる人もいるから。ジョンはいずれOCにまた戻るつもりなのでアイ子ちゃんはお買い得のモデルハウスを買った。

経済は上り調子でローンの利率は下がり反対に家の価格は上がっていった。
2007年から2008年には経済は完全バブル化し家の売買は過熱化して、アイ子ちゃんの頭の中で警報が鳴り始めた。バブルはいずれはじける。
2009年には自分で家を売って売買書類の処理はダンナのジョンにやらせた。家は買ったときの2倍近くになっていて、同じ通りの物件の中では最高価格で売り抜けた。

そのあと、リーマンショックで家の価格は3分の2に落ち、住人はローンが払えず、銀行は裁判所にフォークロージャ―の手続きをするのだが、件数が多すぎて裁定まで1年かかるありさま。

アイ子ちゃんはまたOCに引っ越してきてバブルのはじけた後の築浅一軒家を買った。子供が巣立ったらもう一段ランクの高い住宅地に買い移って”あがり”だそうだ。

おばちゃんの住所録のアイ子ちゃんの欄は何行もある。家と家の間にアパートにも住んで住所が何度も変わるので、住所録をキープするのが大変!

K国のマッサージビジネス

おばちゃんは、一時期同じモールのK国ビジネスに困ってしまったことがある。

いつものように最初はジャネットから噂を聞いた。新しくできたマッサージ・ビジネスがどうも怪しいというのだ。ジャネットだって立ち仕事で肩も凝るから、たまにはマッサージを受けたい。それで、ちょっと行ってみようと並びのテナントを覗いてみたそうだ。ジャネットが本気でマッサージを受けたかったのかどうだかと思うのだけど。

どうも入り口から受付への構造雰囲気が排他的。受付から後ろはドライウォールで天井から床まで仕切られていて、さらに内部にも通路が仕切られていて受付からのぞけないが、2つか3つキュービックがありそう。薄暗くて開放的とかWelcomingなムードではない。

待合室にすでに一人いたそうで、ジャネットが料金を受付に聞いていると、中から異様な雰囲気が流れてくるのだという。なんか、怪しいんじゃなくて、妖しい空気が。引っ返してウチに来るとほっぺたをピンクにしてな~んか変よ。あれはおかしい。

どうおかしいの?
普通のマッサージじゃないわね。Sexialな空気がする。
え~っ、この健全なモールでSexialなサービス??
そんなサービスを管理会社のロナルドとフレッドがよく許したね。
Sexialかどうか言わなかっただけじゃない?

パン屋のビジネスは朝が早いアメリカ人のために朝の7時からあけ、昼過ぎの3時にはもうドアを閉めて店に来る客はもういない。中では次の日のパンを仕込み、ベルギー人のパティシエが誕生ケーキやウエディングケーキを作っているのだ。夕方から夜にかけて、モールの雰囲気がけしからんことなってもパン屋の客は関係ない。

そのうち、夕方にモールの駐車場におっさんが乗る車が増えてきた気がする。マッサージやの右隣は洗濯屋で6時を過ぎるとあまりピックアップの客もいなくなる。左はメールサービスでインド人のマイクが一人いるだけ。

嫌だなぁ~。K国人のオーナーはテナントの誰にも開店の挨拶をしてこなかったので、名前もわからない。そのうち、女の名前と電話番号だけのサインが幹線道路からモールまで2~3本道路わきに突き刺してあった。

電話番号で検索をかけてみたら、モールのマッサージ屋でドンぴしゃ。
さらにビジネスサーチでとんでもない書き込みが引っかかった。なんと、アメリカ人のおっさんがこのマッサージ店の入店料金から、Extraのけしからんサービスの値段まで紹介していたのだ。

マッサージ嬢の名前はXXXXでフレンドリーな彼女の手を取って自分のXXXに、、なんて念を穿って書いとるんだわ。XXXのサービスはチップで50ドルあげればやってくれるよ。

何してくれとんねん、健全なモールで。この書き込みを読んで変な客が増えたらどうしてくれるん?
書き込みは一人じゃなかった。おばちゃんはページのURLを管理会社のフレッドに送って何とかすべきと言った。
するとフレッドはK国マッサージがどんなビジネスを展開しているか規制する気はない、と言ったんである。

さよか?
この健全なCountyではSexialサービスは違法だと思ったが、あんたが何もしないならポリスに通報するがよいかと書いたら、どうぞと返事が来た。

おばちゃん、これを書いた今、もしかしてフレッドにしてやられたのではないかと気が付いた!
私にポリスに通報させて手を汚さずに摘発させ有無を言わせぬ証拠を作っておいてから、モール側のポリシーに違反したとしてビジネスを追い出しにかかる。

くっそ、ユ〇ヤの悪知恵よ。
ローカルポリスにリポートをしたあと、しばらくしてマッサージやのオーナーが変わった、またK国だが、。閉鎖的な玄関はリモデルされて、健全なマッサージ屋に生まれ変わった。

今度のオーナーは50近くのおばはん韓国人で、リーマンショックで客が減ると、ビルの周りを歩いきながらぶつぶつ言っている。
あんた、何してんのさ?と聞くと
この店を買うのに大金をだしたのよ。一体どうしてくれるのよ。独り言をいいながらビルの周りを何週も歩くのだった。
知らんがな。

ガバメントが使うフォント

おばちゃんがコンピューターを教えついでにフライヤーや看板のデザインで小遣いを稼いでいた時、Photoshop とIllustratorがあっても、デザイン素材とフォントは必要不可欠だと痛感した。

アメリカの商業デザインはスポーツ業界に使われるフォントとか、エンターテインメント業界用のフォントとか
フォント自体に用途別のイメージがあって、おしゃれなブティックの看板に間違ってもPlaybillなんて使わないのね。
逆に言えばPlaybillをタイトルに使えば、学校のスポーツのお知らせとか学校の催しものだとかすぐわかるわけだ。フリーフォントも色々あるから、ダウンロードしてデザイン時用にストックしておく。

さて、Helveticaというフォントがある。
印刷業界に革命を起こしたフォントと言われ、その端正なフォルムは公文書にも多用される。例えばアメリカ政府とか。州政府とか。

移民局、労働局、税務署、州政府などがHelveticaを使うわけだ。
もちろん、太字、斜体、ライトなど様々な変形があるので、例えばカリフォルニア州税のTaxReturnフォームがすべてHelveticaが使用されていることは、普通の人はあまり気が付かないかもしれない。これらのフォントセットはむろん購入できる。

おばちゃんは、毎月消費税を州政府に申告し納めなければならなかった。
今はオンラインだけど、ビジネスをスタートしたときは申告フォームが「紙」だった。
紙のフォームは当然おばちゃんが数字を書き、それも売り上げ、税抜き売り上げ、税、州のローカル税%税金額など、電卓を片手にポチポチと(5)から(1)を引いて
(6)に記入し(8)にトータルを書く。(8)と(3)の数字が違ったら計算が間違っているのだ。

計算が合っていたら控えにコピーを印刷する。日本の年末調整みたいな書類が毎月あるのだと思って。たかがフォーム一枚記入するのにおばちゃんの昼寝の時間が潰れるのである。

電卓で計算するのが面倒くさくて仕方なかった。そこで州のフォームをじっくり見たのである。あら~?全部Helveticaだわ。太字にライトがあるけれど。

そこでおばちゃんは知恵を絞った。計算が面倒くさい、Excelを使えばいいんじゃね?フォントはHelveticaで、用紙はLetterサイズで。ガバメントのフォームの余白は0,5インチと大体決まっているのだ。

おばちゃんは州税フォームを作った。本物の紙の上に自作を重ねて、下からライトで照らすとテキストボックスの枠の太さだとか、長さに微妙なずれが分かるので、修正していけばいい。

お昼寝を何日かつぶして完成した。印刷したExcelシートを本物の上に重ね下から光を当てるとフォントもフォームのコラム線もピタリと重なった。お~ほっほ!

Excelシートには最初の税込み売り上げ数字をタイプするだけであとは自動計算する。2枚印刷して1枚はウチのコピー。
毎月の消費税申告は1分で終了した。本物の申告用紙はフォントに歴代コピーずれがあって汚い。
おばちゃんの方がよっぽどキレイ。

パン屋クリスの受難

ウチの隣のパン屋のクリスはオーストリアの出身で、重たい英語を話す痩せたとっつきにくい男だった。ジャネットがおまけで付いているパン屋を、前のオーナーから買うと、ペストリーだけでなくカスタムオーダーの誕生日ケーキやウエディングケーキで売り上げを伸ばした。

私が朝、コーヒーを買いに行って商売の愚痴をこぼすと、

:業者のデリバリが午後にあるはずだったのに、来なかったんだよね。
クリス:It’s nomal
:車の中がぐちゃぐちゃなんだよね。
クリス:It’s nomal
:もう、忙しくて家のことをやる暇ないのよ。
クリス:It’s nomal
:寝る暇がない
クリス:It’s nomal
:ねぇ、クリスあんた一体いつ寝るの?
クリス:After retire

このクリスは、モールの管理会社のイエスマンだった。7年前にパン屋を買った最初のころに、管理会社のマネージャーだった業突く張りのアーノルドに、マネージメントについて軽く文句を言ったら、とことんいじめられたのである。
そ~れはもう、猫が栄養失調のネズミをなぶるように。

テナントを買収するときは、モールとのリースを買い取るという意味でもある。
リースの残りが短ければ、店舗の評価額は安くなる。買収してから自分で新リースを取得しなければいけないからだ。新リースを取る場合、大抵家賃は値上がりすると覚悟した方がいい。

クリスがパン屋を買ったとき、リースはほとんど終わろうとしていた。新リースはすぐもらえるとクリスは考えていたのだが、相手は人品卑しいアーノルドだった。

入ってきたばかりのクリスに意見されてヘソを曲げたアーノルドは新リースを拒否したのだった。契約書にあるMonth to Month月毎・契約に移行できるという条項を逆手にとって、マンス トゥ マンスでなんと7年も引っ張ったのである。

疲労困憊してゆくクリスなすすべもなく見守るジャネットある日、パン屋に大家その人が現れて、受難の日々は終わった。

クリス自慢のクッキーを無料でサービスして、アーノルドの無法をせつせつと大家に訴えたのである。な~んにも聞かされていなかった裕福な地主2世で現役の弁護士はアーノルドに新リースをくれてやるようすぐさま命令したのであった。

クリスはこの教訓を身に刻み、以後アーノルドだろうが、ローランドだろうがフレッドだろうが、管理会社のいうことにはなんでもYes 月末にテナントでは一番に家賃を送るのであった。

おばちゃん 時効の分だけ懺悔する

おばちゃんがリタイアをしてからだいぶ経つけど、お客も従業員もまだ現役かなぁ。遠い目。時効になった分だけ懺悔する。

一番の図々しい客は”初めて来てやったからまけろ、オマケをつけろ”といったメキシカンの2人組。
次は、”俺は年寄りだからシニアだからまけろ”と言った台湾人。あんたが”年を食っているからと言って、どうして私がディスカウントをしないといけないのか?”と、おばちゃんが目をじっと見て言ったらくじけて撤収した。

オープンしてまだ間がないときお客が電話オーダーの商品をピックアップに来て”これはオーダーの品と違う、俺はこれじゃないのが欲しいんだ!”でも電話を受けたのはおばちゃんで、絶対商品に間違いはない。客と言い合いになり、客が捨て台詞を吐いたのでおばちゃんもカッとなってそのレシートを丸めて

客にぶつけてやろうとしたら、おじちゃんが後ろから私の挙げた腕をつかんで、次いでおばちゃんの両肩をがしっと羽交い絞めにした。その間に客が悪態をついて外に出て行ったので、レシートをぶつけられずに誠に残念だった。とても客商売のオーナーにあるまじき振る舞いでした。
反省はしていませんが、やっと白状できてすっきりしました。

ローカルのフリーペーパーにディスカウント広告を出しました。店のチラシの金額を書き間違えて$1.50高く書いてしまいました。お客さんが手に取ったチラシを見て、あれ?おかしいな、という顔をした時に値段が間違っているのに気が付きました。アサちゃんにお客さんを任せて、チラシの金額を書き換えてプリントしなおし、お客さんの気がつかない間にこっそりチラシをすり替えました。

ウエブとキャッシャーの金額も書き換えて証拠を隠滅しました。
あれ、確か金額が違っていたはずのような?という顔のお客さんにどうしました?としらばっくれました。反省はしてますが、後悔はしてない。

昼寝の時に英語で電話がかかってきたら「No English」と一言
言って電話を切りました。眠かったんです。ごめんなさい。

C国人が電話予約をすっぽかし次はその旦那が別の電話番号でしれっと予約してきてあまりに腹が立ったので、出禁にしました。
店のWebのヘッダーにお客の名前と電話番号を2つ、しばらく晒しました。ウチ、AdSenceを張ってたのでトラフィックがあったと思います。
10年以上たっているので、時効ですよね?

〇山さんの目と鼻が整形だと噂を広めたのはおばちゃんです。マーちゃんが日本に行ってきてお土産と女性セブンを持ってきてくれて、雑誌は店に置いていたら、〇山さんが女性セブンの美容整形の広告をびりびり破って
持っていき、次に来た時に目と鼻が新品だったので整形だって広めてしまいました。もうみんな知っているから、無罪ですよね?

ドイツ育ちだと言うC国人がドクターのコンフェランスに来たといい、お会計でカードを出してきたけどDeclineされておばちゃんは、別のカードかキャッシュを出してんか?とゆうたら、お財布をホテルに忘れてカードはこれだけでキャッシュは”無い”と言いよるんですわ。

ドイツなまりの英語を話すC国人などという珍人やったけど、大陸産のC国人と同じように、ぐいぐい対応してしもうたんですが、ドイツ育ちのせいか真面目やったんです。

でもアメリカでカード一枚だけ、エマージェンシーのキャッシュも
持ってない。カードのカスタマーセンターに電話を掛けたら、ドイツ時間の夜中でカスタマーサービスがお休みなんや、言いよるんですわ。

カードのカスタマーサービスって24/7dayと違いますのん?電話が繋がれへんってドイツのカードカスタマーサービスあれへんのと違います。
ホテルに帰ってキャッシュを持って来てくれへん?金持ってきたら携帯電話を返すからと、携帯をカタに取りましてん。ちょっと、イケズすぎました?

もっと酷いのはどこで自白したらいいですか?

リタイヤ後はプログラミング

おばちゃんはつくづくプログラミングが出来ればなぁ。とSharpのキャッシャーを嘗め回しながら切望したのだよ。Sharpのキャッシャー内部のメモリには商品のPriceLookUpTableや税の設定、トランザクション・ジャーナルなどのデータが保存されている。

このSharp、腹が立つことに2種類のトランザクションのカウント・ナンバーが組み込まれて、例えて言うと性質は車のマイレージ・カウントと同じなんだ。つまり1つは製造後からの通しナンバーね。キャッシャーがチ~ンと鳴ると数字が一つ大きくなる。こいつは電池を抜いて、全部初期化をすると0になるがそれ以外変えられない。チ~ン で一つ。Shit。
もう一つのマイレージはその日のトータル。集計をして印刷をすればカウンターはゼロに戻る。

もし、トランザクションを同じマシンで打ち直せば?マイレージ1のカウンターがチーンと鳴った分だけ回る。昨日の終わりのナンバーと今日の初めのナンバーは続きでなければIRS(税務署)が気が付く。

IRSというのはポス(キャッシャー)の印刷レコードを信じていて信頼が厚い。書き直せないことになってるからさ。隣のパン屋のクリスもレジからは凧の足みたいなレシートがとぐろを巻いていて、ギフトショップのブランドンのとこも長いレシートのしっぽが出てる。

業務が終わった時にキャッシャーを集計モードにして「ENTER」をパンチすると、印刷レシートがシュルシュル出てきて、おばちゃんは疲れた手で紙を巻いて充実した一日の営業が終わるわけだ。

Sharpはシリアル接続でWindowsXPに繋がっている。付属ソフトをいじり倒すとデータのトランスファーができることが分かった。キャッシャーからコンピューターのSharpのディレクトリ¥DATAに内容がコピーされる。ほう?
マイレージカウンター1は手が出せない。どこに格納されているかもわからない。

おばちゃんは全く同じSharpのキャッシャーをもう一台買った。(なんでや?キャッシャー1が壊れたら業務ができへんやんけ?)ウチのリビングに転がっている自作コンピューターに接続し、1台目の”DATA”を2台目のSharp¥Dataに上書きするとあ~ら、不思議! キャッシャー2がキャッシャー1そっくりになった。

面白いね。あたしって天才!
もちろんこのキャッシャー2も書き換え不能のカウントナンバーがある。チ~ン!

仕事のSharp1をジェーン、予備Sharp2をマイケルとする。おばちゃんは、商品値段や新製品をしょっちゅう変えるので、LUテーブルも編集する必要があるのだ。ジェーンを変更したらマイケルも更新しておく。

なんでや? 仕事のジェーン1のケーブルをネズミがかじって使いものにならへん日があるかもしれんやろ!そしたらマイケルをすぐ差し替えられるやんけ!

お客というのは値段表に紙を貼って書き換えたり、修正液で塗り替えたりして値段を上げると、ムカッとする。値段を上げやがって!と。レシートも値段表もSleekで修正などと影もなくきれいなレシートだと値上げしても案外気が付かないもんだ。ここまでいいぃ?

おばちゃんは、同じ仕事をするのが嫌いなの。だから、昔っから字が下手なの。お習字が嫌いなの。わかりきっている作業を、なんで?何度も繰り返さないといけないのか?
そんなわけで、毎年2月になる前にジェーンを眺めながらう~ん、エディターが欲しいなぁと真剣に思う。

知り合いの台湾人のエミーさんがプログラマーで、聞いてみたことがある。

おば:ねぇ、エミーさんこのSharpをクラックしてエディターを作れない?
エミー:言語のソースはわかる?
おば:言語がわかんないとダメ?
エミー:ソースを見せてくれれば何とかなるけど、なければ私には無理。ウイルスソフトを作っているような人ならできるよ。
おば:そっか、残念。プログラミングを勉強していつか自分でエディターを作れるようになるかなぁ?

一日の業務が終わったらエディターを立ち上げてトランザクションを編集する、Refundや打ち直しの跡もない綺麗なトランザクションを印刷をする。美しい仕事よ!

人間のモチベーションとは意外なところから湧いて出るものだ。おばちゃんは割と根に持つタイプなので、商売をやめた今でもエディターの夢はあきらめていない。何年学校に行ったらいいの?

素人経営者の告白 ビジネスシュミレーター

21世紀が始まってすぐおじちゃんの会社が日本に撤収すると決まった。
おばちゃんは独立のためにビジネス・モデルを設計し始めた。何せおばちゃんは1つの店舗を経営したことは一度もないので。

ビジネスはロケーションそれは事実だが、いいロケーションは店舗もレントも目玉が飛び出る価格。おばちゃんたちには到底手が届かない。では、うちの資金で可能な手ごろな物件は一体どのへんなんだ?

エクセルをひっぱたきGoods of Sale 物品コスト、原価率、月のレント、人件費を変数にし予想セールの金額を変えて入力していく。逆にセールの額を一定にして、原価率、人件費を変えていく。客単価を5ドル刻みで変えて入力し、予想される一日の売り上げをシュミレートする。
税引き前利益NetIncomeがどれだけ残るか、損益分岐点Break Even Pointはどこか?

具体的な数字としておじちゃんの会社が仕入れていた当時のインボイスやバイト先のインボイスも経費の参考にした。テナントの広さによって冷房費Utilityはどのくらい変わるんだ?

今日はこのショッピングモールと決めて、空きテナントがあれば、モールの管理会社かリアルターに電話をして、レントとNNN(管理費トリプルネット)の数字を聞く。魅力のあるテナントは内検をさせてもらう。

内見したテナントもシュミレートしてみる。1年の間、ビジネス・モデルのシュミレーションを繰り返しおばちゃんはある方程式を発見してしまった。おったまげた。おばちゃんは日本の経営の本は一度も読んだことがないし、英語ならあるけど)

ビジネスのオーナーが損益分岐点について誰かが何かを言っていることも1度も聞いたことがなかった。が、おばちゃんが発見したのは月のレントと損益分岐点には明確な方程式が成り立つのだった。レント/月 × 7.5=売上額=損益分岐点

レントが相場より法外に高い/低い でない限り7.5倍が分岐点だった。
レントの7倍の売り上げでは経営はまず赤字になるのだった。

おばちゃんのビジネスは物品の小売りだから、おばちゃんが設計したシュミレーターは人件費が高いサービス業や、原価が高い小売には違う変数が必要だが、設定次第で別のビジネスにも応用が利くビジネス・シュミレーターなのだった。

おばちゃんはこの定理の発見をおじちゃんに勇んで話したのだが、はかばかしい反応がない。リアルターのタカコもそれで?って反応。ビジネスを始める前に、儲かるか赤字かわかるんだよ?すごいと思わない?
お前ら知的興奮って味わったことがないのか?こういう時、おばちゃんは深~い孤独を味わってしまう。

まあいいや、。とにかく原価が30%を超えたり、人件費が30%を超えたりすると、おばちゃんのビジネスでは趣味になってしまう。

おばちゃんたちに払えるレントもこれで分かった。客単価も目安がついた。日本人客のトラフィックが見込めるロケーションに物件捜索範囲を狭めてGoだ。

1年後、実際営業を始めてみると方程式は正しかった。仮定の客単価も売り上げもシュミレートに近かった。あたしって天才! おじちゃんからも褒めてもらったことがないので、おばちゃんは自分で褒めるしかない。

さらに、1枚目のシートにビジネスモデル、2枚目にはキャッシュフローをリンクさせる。
手持ちの資金(銀行預金)の数字を入力しておけば、月末の売り上げを入力すると、キャッシュフォローが表示され資金がどれだけ増えたか?あるいは赤字なら何か月後に資金が枯渇するか一目瞭然、カリフォルニアの陽の下に明らかになってしまうのであった。

静かな客

おばちゃんは小売業で、働いたことがなかったから、売り上げで出てくる数字がわかんなかった。開業前シュミレートした数字とだいたい額が同じなのだが、「意味」が分かんなかった。

どういうお客さんからこの数字は上がってきたのだろう?うちのお客さんはどういう人なのだろう?おばちゃんは分析することにした。

単純だけど原始的な方法で。お客さんを見る。
伝票にチェック項目を書く。人種、白人、アジア系、日本人、日系人、国際結婚かどうか支払い方法、現金かクレジットか伝票の売り上げ額、客の単価、客の利用頻度特に重要だったのは最後の2つだ。

あたりまえだけどお客に使用頻度は聞けない。おばちゃんがお客の顔を記憶して頻度を分別するのだ。週に1,10日に1,2週に1、3週に1,1月に1などと。

一日の伝票にチェック項目を書き込みスプレッドシートで分類集計していく。これを2か月続けた。そしてまた結果におったまげた。なんじゃぁこりゃ!

2か月の集計があらわしていたのは、週に1回買うお客さんが総売り上げの3分の1を占めていたのだ。へぇ~~?1番静かで文句を言わず、客単価は高くないけど毎日の売り上げを上げてくれるお客さん。
なるほど!Silent Majority

この分析のおかげで、おばちゃんは自分がどういう客層にどんなビジネスを展開すべきなのか、どの層のお客さんを大事にしなければいけないのか経営の方針が明確になった。

巷の話で聞く:テレビで紹介されたショップが大人気になって有頂天になり2か月後には閑古鳥が鳴くというパターン。
テレビにつられてきた客のリターン率は?元の客層は?
おばちゃんは確実に言えるが、年に一回来る客は、週一回の客より声がでかい。ホントに物理的に声が大きいのだ。比喩ではない。Silent Majorityは静かに来て静かに帰る。

もう一つ大きな発見は、クレジットカードの売り上げだ。クレジット・カードの売り上げは現金売上より必ず5%多い。現金を握って買う人は予算以上の商品は買わない。ところがクレジットカードの客は5%だけ気と予算が大きくなる。
ただし、C国人は別。
そして、単価が80ドルを超えるとほとんどクレジットカードになる。
ただし、C国人は別。

観光地の熱海でも現金取引のみという店舗があって、キャッシュを持たないおばちゃんはほんとに困ってしまった。手数料を取られるからいやだ?
手数料は一番高いAmexで3.5%だが、それでもクレジットにすれば売り上げが5%増えるので、引き算しても1.5%売り上げが増える。Amexみたいな傲慢な会社と付き合わなければ、普通2%-2.5%前後で済む。

ベテランの経営者は知識と経験で知っているのだろうが、経営素人のおばちゃんは自分で分析してこれらがやっとわかった。

言語の混線

アメリカで仕事をするということは基本複数言語で生活するということになる。客には英語、従業員にはスペイン語と日本語と英語。仕事中の言語は聞く、話す、書くというFunctionで3言語が入り混じることになり、この最中に混線が起きる。

客の注文は英語で聞き英語で答えてメモが必要なら英語か日本語でとる。
この時、英語でメモを取った方が後の作業に楽なものと日本語でメモを取った方がいいものと異なる場合ががある。英語で聞いて英語でメモを取るのが一番楽で間違いが少ない。

英語で聞いて日本語でメモを取る時にバグが出やすい。頭ん中の言語線がなんだか英語をひょいと間違った日本語で「書く」。自分は間違った自覚がない。
もう一つは日本語でも英語でも聞いてそれを復唱する時に間違った単語を「しゃべる」手は別の単語を「書いている」

いつだか従業員のマー君が、「おばちゃん、おばちゃん、違いますって!」と私を制するので何かと思ったら、おばちゃんは英語単語をしゃべりながら全く別の日本語を「書いて」いたという。おばちゃんは全然自覚がなかった。

本人は釈然としないのよ。自分では正しい単語をしゃべっている/書いていると思っているので。

この言語の混線は従業員の誰でもたまにあるので、もし、本人が間違った自覚が無くても2人以上の証人がいる場合は「言語の混線間違い」と認定することにした。認定したところで混線が減るわけではないが、誰の混線が原因かを明らかにするだけで、職場全体のストレスが多少減る。

もう一つは、ちょっと違う種類の混線だが、おばちゃんが英語の「Government」 を日本語に翻訳しようとするとGoverment=幕府で変換してしまうのでおばちゃんはいつもバ・バ・幕府でどもってしまうのだった。
何故Government=幕府なのか理由は分からない。海外生活で「政府」という日本語は一番不要な単語だったからかもしれない。

追記:どういうことか考えてみたのだけど、
30年近くアメリカに住んでいると、日本政府の政策やニュースや政府自体がどう成り代わっても、海外生活者にはほとんど何の影響も与えない。日本語で「政府」と発音する必要さえないので、不要になってしまったと思われる。

ポンコツ従業員

Don’t scream at me!
とマネージャーは言ったけど、これが叫ばずにいられるかって。客のオーダー表を無くしたのは一体誰なんじゃい。日本では考えられないことが起こるんである。

おばちゃんはビジネスのオープンに向けて発注した機器の納期を何か所かに順番コンファームしていたのである。
ベトナム系や中国系の場合、返事は軽いが仕事はいい加減なので直前でまた確認を取らないと納期に配達されるか確証がない。

アメリカ系の大手チェーン店はまだ仕事がしっかりしていたが、命令系統の中に仕事ができない奴が入っているとどうなるかわからない。カタログを見て機械を決め店舗に現在在庫はないけれどオーダー表にモデルナンバーと連絡先を書けば取り寄せると店員は言ったのである。

おばちゃんはバインダーに挟まれたスペシャル・オーダー表に記入した。ぺら一枚の紙だったがそれまでに20以上のオーダーがすでに書き込まれていたそれがひと月前。

なのに店舗に確認の電話をしたら、スペシャルオーダー?それなんのこと?知らない。聞いてない。分からない。だったので、おばちゃんは激怒して
”マネージャーを出せ”と叫んだのであった。マネージャーが出ると、オーダー表を誰が管理してたのさ。私のオーダーは1週間後に必要なんだから。

そしたらマネージャーが
”私が無くしたんじゃないのよ。怒鳴らないでよ。”
あなたがマネージャーなんだから責任を取ってよ!
分かったわよ、マネージャーの声が裏返っていた。

おばちゃんだって怒鳴りたくは無い。店員を問い詰めても金輪際解決しないし、マネージャーに変わった時点で不満(怒鳴る)を表明しておかないと、後回しにされる。
なんたって私の他に同じ事情の客が20人はいるのだから。修羅場の時には静かな客ほど対応は後回しだ時と場合によって怒鳴るというのは解決の一番の早道だったりして。

アメリカの会社と言うのは問題の塊だったりする。従業員の能力に差がありすぎるのである。一握りの有能な人材が、無能と普通を引っ張って会社が成り立ってる。信じられないかもしれないが郵便局で簡単な掛け算・暗算ができないのが窓口にいるから。
数学のテストでは電卓持ち込みOKで九九を覚えていないアメリカ人はごろごろいるから。

人材会社?のスキル判定のためにいろいろなテストがあるがこんなテストもある。
・アルファベット順にファイリングをします。
・次の5つの名前のファイルをABC順に並べてください。
な~んてね。アルファベットの順番が分からないという人がいるわけ信じられないかもしれないが。

アメリカ人の自己評価だけはすごく高い。スペイン語とフランス語の挨拶くらいしか知らないのに語学できますと平気で言っちゃう。仕事ができるだろうと思っていると、とんでもないポンコツが混じっているの。

で、マネージャーは次の日に電話をかけてきて機械は探したのでXXの店舗あったから。行ってピックアップして。どうやら彼女は有能の方だったようだ。当たり前だけど、ごめんなさいとか申し訳ないとか謝罪は一切ない。
やればできるじゃん。

おばちゃん危機一髪!

もし、ウエスト・コート・シリーズが映画化されるとしたら、おばちゃんは吉田羊でおじちゃんは伊原剛志がいいかな。NHKの「ふたりっ子」はKTVで放送されたので、芸能音痴のおばちゃんも見ていた。伊原剛志のファンよ。ウフフ、還暦過ぎおばちゃんの妄想。

さて、店舗を経営しているあいだ、修羅場というのはいくつもあった。その中でも最大級がガス事件

ビルが倒壊する!?

土曜日の午後、仕入れが終わってフリーウエイを下っているとおばちゃんの携帯が鳴った。管理会社のフレッドだった運転中だし10分ほどでモールに着くからおばちゃんは電話を取らなかった。ウエスト・コートに着くとまず隣のパン屋にコーヒーを買いに行った。

ジャネットはいなくて、クリスが神妙な顔をしておう、来たか。フレッドからもう話は聞いた?と言うので何が?というと大変だよ。ガス漏れ!お宅からガス漏れだって。

おばちゃんはぽか~んとしてガス漏れ?!実は、その朝の7時クリスがパン屋をオープンした時にはクリスには分からなかったけど、ペストリーを買いに来る客が、店に入るとガスくさいガスくさいと言うんだって。それでクリスがガス会社に電話をして、エマージェンシー班が派遣された。

クリスのユニットからももちろん臭ったが、検知器で調べると漏れ箇所はどうもパン屋ではないらしい。ウチのユニットから漏れているらしい、と。ガス会社はとりあえずウチのガスの元栓を閉めて、クリスは管理会社のフレッドに電話をしたというわけだった。

はぁ、事件はだいたい金曜か土曜に起こるのだ。ガス漏れなら今夜の営業は無理でたぶん日曜日も修理が来ないから週末はこれで終わった!と絶望した。

ウチのユニットに戻ってガス会社に電話をし緊急班はやってきた。ウチのガス管はユニットの裏から建物に引き込まれ天井裏を通って玄関先まで施設されている。ガス会社のおっさんは元栓を開けて、ピカピカする検知器を手に裏口から入ってきた。

そして天井を向いてこの辺が怪しいとスト―レージで言った。この辺?
そうだ、この検知器の数値だとかなりの量が漏れてる。
ガスの元栓はもう一度締めるのでプラマーを呼んで修理してね。

ちょっと待って!ガス管の修理もしてくれるんじゃないの?ガス管なのになんでプラマー(水道屋)なのよ!!!えぇ?
アメリカでは水道屋がガス管の修理をするんだよ。

Shit!こんな土曜日の午後にどこの水道屋が働くかよ。マークだって来ないかもしれない。

マークは管理会社のフレッドがウエスト・コートのテナント御用達しとして新しく選んだプラマーだった。珍しく誠実で料金もぼったくりではなかった。ただ、土曜日の2時に来てくれるかどうか。ところが奇跡のようにマークは捕まったしすぐ来てくれた。

ガス屋はこの辺だって言うの。おばちゃんはスト―レージの天井を指さして、マークは見てみよう。脚立に上って天井のパネルをずらした。フラッシュライトを取り出して、くらい天井裏を照らした。

マークがうわぁ~と叫んで脚立ががたついた。どうしたの?
俺は嫌だ、こんな怖ろしいこと。脚立を転げるように降りると、
俺は帰る!いつクラッシュするか、怖ろしい。こんなことできるか、、、。
と逃げかかるマークをおばちゃんは必死両手で押しとどめて。
まって、待ってどうしたの?落ち着いて!なんなの一体?

するとマークは、ガス管は切断されてるんだ。それも建物の「梁」が落ちてきて切断した。建物の横の一番長い梁が落ちて、建物の壁と縦の柱の間は繋がってなくて、すき間から外が見えると!

クラッシュする!となおも逃げようとするマークを押しとどめて、待って、マークそんな大変な事は報告しなきゃいけない。私がフレッドに説明するよりもあなたが説明して!私じゃムリ。ね、あなたが電話したほうがいいのよ。

マークは少し落ち着いて、分かった。俺が電話を掛ける。おばちゃんは店舗の電話を持ってきてマークに差しだした。マークは管理会社のフレッドに自分が見たものを説明した。電話の向こう側のフレッドも報告に凍ったよううだった。フレッドはすぐ来るって。サンディエゴからなら最短でも50分はかかる。2時半過ぎだった。

マークはフレッドが到着するまでどこかに避難し(当たり前だ)フレッドは4時に到着した。マークから報告を受けると自分でも脚立に上り、懐中電灯で落ちた梁と歪んで外が見える壁と構造を見て、よく日に焼けた白人が白っぽくなって裏路地に出た。アーキテクトを呼ばないと。


建築家は6時に来た。

おばちゃんたちとマークは、フレッドが建築家に避難命令を出さなくてもいいのか?と聞くのを息をひそめて聞いていた。

それはそうだ。土曜日の夕方で本屋も美容院もエクササイズも客がいて営業しているのだ。建物がクラッシュして死人怪我人がでたら、間違いなくモールのオーナーと管理会社は告訴される。何十となく。

地獄の窯のふたが開いてごうごう燃える火が見える。建築家は顔をこわばらせて大丈夫だと言った。本当か?本当に避難(Evacuate)させなくていいんだな? 建築家は、ただ、緊急に応急処置が必要だと言った。
大工がいる、それもすぐに。

建築家とフレッドがまた電話をかけ始め土曜日の夕方だというのに、大工のクルーが一そろい集まった。7時だった。

緊急招集

アメリカ人がたった4時間で緊急事態に集合するなんて想像もつかなかった。それも土曜日の夜7時に。

フレッドと建築家と同じく大工の監督?が梁が落ちてしまった築40年の木造2階建て商業ビルをどのように応急処置を施すのか、おばちゃんとおじちゃんは目立たないように隅で息をひそめていた。

だって、ウチの運命はどうなるのよ!ウチが突っ込んだ開業資金は潰れっちゃったら回収できないじゃない。

建築家はジャッキ・アップだとフレッドに言っていた。ジャッキ・アップ?!
この一階に12もテナントが入ったビルの柱をジャッキアップ?
男たちの集団は薄あかるい裏路地で動き始めた。おばちゃんもおじちゃんも昼過ぎに到着してから何もたべていない。でも空腹も喉の渇きも何も感じなかった。

一時間後に資材が集められ緊張した男たちは口を利かずに動いていた。8時過ぎにはフレッドは帰ったようだった。

おばちゃんたちは帰る決心も付かず、裏口を開けっ放しで作業しているのだから、ほっといて帰ることもできないし。崩壊しそうだったビルの戸締りをして意味があるのか考えると頭がおかしくなりそうだった。

11時にも12時にも作業は終わらなかった。1時過ぎにもう今夜出来ることは全部終わらせたと建築家が言って、疲れ切った男たちは口を利かずに引き上げた。緊張と疲れで無感覚になっておばちゃんたちもウチに帰った。

現場にいたというのに何をどのように処置したのか全く分からなかった。避難命令を出さず、建築家も大工も応急修理が終わったというなら、ウチの営業はできるのだろうか?

いま天井裏に起こっているDisasterは、天井板を閉めて目をつぶれば、一部の人間しか知らず天井板から下は日常が広がっているのだ。おばちゃんは日常の端に立っていいるのか、地獄の窯のフタの上にいるのか見当がつかなかった。

営業再開

怖いのでおばちゃんは日常の端に戻ることにした。マークは切断されたガス管の修理をしていない。明日は日曜日で誰も仕事をするはずがない。と言うことは明日は営業中止。火曜日にマークを呼んでガス管を直して、ガス会社に元栓を開けてもらって、フレッドと協議して果たしてビジネスを再開できるか?

月曜日に顔を出して隣のクリスに大雑把に事情を説明した。クリスはいつも夕方4時過ぎには自宅に帰り、夜は何回もパンだねのガス抜きと仕込みをするのに戻って来るから土曜日の夜の作業は知っていたと思う。

うちとパン屋は壁をシェアしているので、本格修理となればクリスにも当然管理会社から連絡があるはずだ。


フレッドは必要な情報も出し惜しみするタイプだ。おばちゃんなどの言葉に訛りがあるような移民を内心ではバカにしているので、まかり間違っても自分からテナントの心配を解消してやろうなんて親ごころは無かった。いつも命令を上から下すだけだった。

火曜日の午後にマークに来てもらって、折れたガス管をつないでもらった。マークが言うにはガス管の切断原因は建物の梁なので、大家の所有物だから、マークの修理代は大家から出るとフレッドから言われたという。

ふん、当然よね。フレッドは本格修理はプラニング中なのでまだ発表できないという。どのくらい待つのか聞いたら、2週間待てと。

傾いて崩壊するかもしれなかったビルの一階で、応急修理のジャッキアップをして本当に安全なのだろうか?人を入れて営業してよいのだろうか?
考えると危機感でしびれたようになり、思考が停止してしまうのだ。恐怖心を押さえつけて日常の端にしがみついていることにした。

水曜日に出勤してガス屋を呼んでガスの元栓を開けてもらった。午後からやっと営業が再開できた。土曜・日曜と火曜に水曜の午前中。この間が営業不能だった。事業保険を使って休業補償を申請するのだ。

保険屋と戦う

原因は明らかだからおばちゃんは強気だった。保険の査定人はいつも人を詐欺師のように扱う。何にも仕事をしない代理店のジェフを切って、日系の保険屋に変えたにも関わらず、保険屋は保険屋だった。

申請フォームを送るからそれに記入して返送しろと。返送すると、休業補償の算定をするために過去3か月の売り上げとタックスリターンのコピーを送れと言ってきた。おばちゃんはメールに添付してすぐ送った。

補償額が決定したので知らせると査定人エミリーから返事が来た。
少ない!土曜日・日曜日が入っているのに少ない。計算してみると週末も平日も平均して査定しているのが分かった。なめられているね。

すぐエミリーにメールを書いた。アンタの査定に納得できない。ウチのビジネスはエンターテインメントである。週末の売り上げは平日の倍か3倍だ。土・日は土・日の平均で平日は平日の平均で支払うべき。例えば、あなたがテロリストの爆弾で吹っ飛ばされたとして、指を失ったら、親指と小指を同じ金額で査定するのか?

エミリーは不承不承あんたの主張を認める。査定はやり直して金額はまた通知する。ただ、二度と下品が例えはしないように。一体どこが下品かしら、ねぇ。


また工事現場だよ。
大規模修復でモール全体が工事が終わったと思ったら今度はおばちゃんのユニットと隣のパン屋が工事現場になる。二つのユニット共有の壁を裏口に近いところで3メーターほどぶっ壊し、本格工事の作業用のワークスペースとなる。邪魔になる器具はすべて撤去せよと命令が来た。

撤去する器具がおばちゃんのビジネスに必要なのかそんなことはフレッドと管理会社にはどうでもいいのであった。営業ができないのであれば、それはそのビジネスの都合であって、事業保険などに請求すれば?管理会社としては大家の財産であるビルを守るために必要な処置を取るだけ。

疑惑の保険エージェント

朝出勤すると、ジャケットをスト―レージに仕舞い、ちょっと身を乗り出すとぶち抜いて丸見えになったパン屋の奥スペースが見える。パティシエのベルギー人がいるのでハイとあいさつをして、クロワッサンはまだある?一日中ベーカリーの甘い匂いがウチのユニットにも漂うのだった。

不自由で腹立たしい4週間が終わって修復が済んだ。どうやら地獄のフタは開くことがなく日常が続くようだ。フレッドではなく管理会社の社長のローランドが一人の男を連れてやってきた。

おう、元気か!これは俺の兄弟で保険屋だ。修理が終わったビルの査定に来た。なに、写真を何枚か撮るだけだから。

ふう~ん。
自分の兄弟が火災保険の引き受けをし、損害の査定もできれば、さぞかし便利だろうね。

おばちゃんはスタートアップの時、ユニットの営業許可を取るためシティの建築部に行って、構造のリモデルはしないことでユニットの使用許可を申請した。

ペイントくらい塗り替えるかもと口を滑らせたら窓口のお兄ちゃんが「壁のペイントの厚さはXXミリまでだったっけ?」と、なん十冊もある規格ブックの一つを開こうとしたので、慌てて止めた。

いや、ペイントは塗り替えないし。全然変えずにやります、と。隣にはブループリントを持って並んでいる申請者の列があった。建築物の構造を1ミリでも変更する場合は、窓口に申請書を出して規格に合った変更かどうかしらみつぶしに調べられ、ダメ出しをされればブループリントを書き直し。

大規模工事なら、中途でシティのインスペクションが入り、パスした場合に次の工事過程に進める。梁の修復工事が始まってからシティのインスペクターは一度でも来ただろうか?

おばちゃんたちは9時半に出勤するので、もしインスペクターが朝に来た場合は分からない。隣のクリスなら5時からパンを焼き始めるから絶対見逃すはずがない。

ローランド達が帰ってから、隣のクリスに声をかけてねぇ、この修理ってシティに申請しなくてもいいのかしら?シティのインスペクターって来た?

インスペクター?一度も見てないよ。ふぅ~ん。おかしい。
おばちゃんたちは情報から遮断されていたから何をどうするということもできず日常が戻ってきて忙殺された。

しばらくたったある夜、自宅に帰った時にドアに名刺が挟まっていた。California Insurance Fraud Investigator裏を返すと手書きで”JohnSmmith帰ったら電話をくれ。

”そそっかしいガバメントのエージェントが番地も確認せずドアに挟んでいったものだろう。ウチはJohnSmmithじゃないし。おばちゃんは貴重な名刺の端を爪で挟んで大事に仕舞った。to be continued

トリスタンとミコ

うちのビジネスにはトリスタンというメキシカンがいて、物静かでよく働いてくれた。

ビジネスを始めたあと、思ったより忙しく手が足りなくなったのでスペイン語と英語で求人広告を書いて、メキシカンが多く住むアパートの近くに張ったりした。問い合わせがあるのだが、どうも採用までたどり着かない。
おじちゃんもおばちゃんも休みが取れず疲れ切ってしまって、
どうしてもフルタイムがもう一人必要だった。

するとトリスタンのほうから飛び込んできた。いきなりドアを開けて「仕事無いけぇ~?」おばちゃんは、これは神のお導き!と気づき
「ようおこし。まぁ、こっちゃへどうぞ」とトリスタンを導き入れ捕まえた。
「いつから働ける?」
「週末だけなら」
「さよか、ほな来週待ってるでぇ!」

平日は他のビジネスで働いているので、週末だけ働くという。しばらく働きを観察していて、おじちゃんに使えるかどうか聞くと、何とかなるだろうとの返事。頃をみて、
「なぁ、トリスタン。あんた別のところでいくらもらってるねん?」
「2000/月で毎年$50ドルずつ昇給する約束アルヨ」
「ほう、さよか。ほなうちもおんなじだけ給料をあげるし、+αでフルタイムで週末まで、どや?」
「シ、セニーョラ、ムチャスグラシアス Si señora. Muchísimas gracias!」契約成立である。

トリスタンは無口なメキシカンだった。どういうことかというと泣かない赤んぼくらい珍しい存在なのだ。メキシカンといえばヒバリかスズメかというくらいにぎやかで囀りまくりあっという間に中国語も韓国語も覚えてしまい、謝謝とかXXハセヨとか黙れと言っても喋りまくる語学の達人か!くらいな人たちだったのに、ウチのトリスタンは静かだった。

「あー、マーム俺、シンコデマヨは来れないである。LAでデモあるヨ」
当時の大統領スモール・ブッシュが移民政策を強化して、怒ったメキシカンがLAでデモを計画していたから。
「さよか。シ、Ok」てな感じで日本語は無理でも英語は覚えるだろうと思っていたら、無口なぶん語学は苦手なのか5センテンス以上の英語は何年たってもなかなかしゃべれないのだった。

トリスタンも自分の語学下手を知っているのか、仕事場にスペイン語/英語辞書を持ち込んでいて暇なときに勉強をしていた。ある時、昼休みに休憩に行っていいよとというとトリスタンは辞書を忘れていった。

おばちゃんは何気なく辞書を見てみると、ペンが挟んであった。
何を勉強していたのかしらん?とペンのあるページをパタリと開くと下線を引いた単語が目に入った。
[rise]
おばちゃん、おう!思いましたね。
給料を上げてほしいんかい?
おばちゃんは、辞書をそっと閉じた。

ミコちゃん

ウチにはミコちゃんという子もいてこのミコちゃんもまた逸話の持ち主だった。面接のときにハキハキと返事をするので採用した。最初のシフトで自らメモ用紙を取り出し、おばちゃんのいうことをせっせとメモを取るので、これは仕事が期待できるな、と勘違いしたのだった。

ミコちゃんは生れた時から2本ぐらいネジがついてなくて、母親からはうるさいほど「お前は不注意」だからといわれて育ったという。新しいことを3つ聞くと最初の1つを忘れるので、メモ用紙は彼女の人生に必須なのだった。

くるくる動くのだが何故か空回りしていることが多い。黙って立ってろというと、頭の中の音楽を聴いているように膝や足が何かのリズムをとっていて、突然雀が飛び立つように動く。

メモ用紙や電卓やペンも頻繁に落とす。客からの預かり物を落として割る。掃除機を引っ張りすぎて壊す。製品を間違える。キャッシャーを打ち間違える。金額も間違える。釣銭も間違える。ありとあらゆる間違いをして、おばちゃんはこんな間違い方もあったのか?という目も覚める奇想天外な間違いを起こしてくれるので、そのしりぬぐいをする。

再び失敗をすることがないように操作マニュアルと業務システムを修正(ミコちゃん仕様)する。とにかくミコちゃんが直感的にすんなり業務ができたら、それは誰でも使える優秀なシステムで普通の新人なら楽勝だった。

ミコちゃんが意図してやっているのではないということはわかっているし、人手が少なかったからすぐ首にはできなかった。ガチャンと音がするとスイマセン!という謝罪が聞こえてミコちゃんなのだった。

ある日、ミコちゃんがシフトでないのに通りすがりで子供を連れて寄ってくれた。子供は5歳でミコちゃんよりしっかりしているように見えた。
ミコちゃんは横浜で高校を卒業して日本人の男性と結婚・離婚して、同じく離婚したお母さんと一緒にアメリカに来た。どういうことかというと、アメリカ人と結婚した知り合いの中国人が、日本にいたお母さんの写真を見せたらアメリカ男が乗り気になって呼び寄せ結婚したという。

中国人のお母さんはと結婚相手とは結婚するまであったことがなく(戦前ではないです21世紀の話)写真結婚みたいなの。そこにミコちゃんと娘がオマケでくっついてきた。

ミコちゃんの色彩センス/美的センスは割とよくて、キレイ目の色の服をスリムな体に合わせて着ていた。ある時は、レギンズとヘソ見せのホルターだけだったので、ミコちゃんこれからジムでも行くの?と聞いたら
いいえ、これは私の普段着です。

中国人の母の血のせいか、ミコちゃんの足はすんなりと伸びてまっすぐだ。
脂肪も全くついていないので、シャムネコのようにしなやかでエキゾチックである。この姿であちこち歩いたら男がよく釣れるだろう。中国人の母はそれを期待しててそのままにしているのかな?

ネイルなどの綺麗な作業は好き!といっていたから、美容系の仕事についたら才能が発揮できたかもしれない。本人はハーバードに入学してジャーナリストになりたいとか、保母さんになりたいとか言っていたが、、、。
ハーバードがどんな大学か知っているとは思えないので論外として、
娘が5歳まで生き延びられたのは、
①娘が丈夫、で
②ミコちゃんの娘で耐性があった、からだと思えるので、
生き物を預かる系とか病院系はやめてほしい。

そんなミコちゃんはトリスタンとシフトが被ることが多かった。

トリスタンを雇ってすぐにトリスタンの最初の子供が生まれて、洗礼とお祝いで一日休みが欲しいというので、おばちゃんは隣のパン屋にケーキをオーダーしてトリスタンに贈った。
その時はたしか25・6歳だと思ったが、その後カトリックのトリスタンは順調に子供を増やし、3人くらいになっていたかもしれない。

トリスタンは文句も言わず、相変わらず真面目に働いていたが、おばちゃんとおじちゃんの目の届かないところでは、他の従業員に割と偉そうな口をきいていたかもしれない。自分がナンバー3だと思っていた節がある。


おばちゃんとしては、よく働いてくれるし感謝していたのだが、ある日ミコちゃんから話があるといわれた。
ミコちゃんは、何度も何度も同じ仕事を繰り返すと、やっと仕事のパターンが体にしみこむようで、一旦そうなると決められたことはこなせるようになっていた。せっかく使えるようになったというのに、
ああ、嫌よこのパターン。辞めるの?

ミコちゃんから聞かされたのは思いもかけない話だった。私、トリスタンからストーカーされているんです。
はぁ!?
トリスタンが好きだって言ってきてスト―レージで抱きしめられてキスされそうになったんです?はぁ!? ウチのスト―レージでか?

それにうちの母と義理のお父さんと一緒に日曜の朝に教会に行くと、出てきたところでトリスタンが待ってるんです。おばちゃん、いったいどうしたらいいですか?

う~んう~ん。
色恋の話はおばちゃんに一番縁遠い話だ。正直、知らんがな。と言いたいが何か事故が起こっても困る。

ミコちゃんは独身だけど、トリスタンはカミさんがいて子供も3人いるし、オペラのような悲劇は起こりそうでもないが。とりあえず、ミコちゃん来週のシフトはお休みして。その間に考える。

考えたところで、
トリスタンの色恋を覚ます方法はおばちゃん知らんし、シャムネコみたいなミコちゃんに風呂敷をかぶしておくわけにいかんし。知り合いのビジネスオーナーに話して、そっちでミコちゃんのシフトを増やしてもらい、
うちはエマージェンシー以外入れないことにした。

ず~っと後になってそのオーナーから聞けば、ミコちゃんはそっちでもなんかやったらしい。何も着ていないようなしなやかな肢体を見せびらかして、誰かがへっついてきたみたい。
どうやらミコちゃんは、メキシカン・ホイホイだったようだ

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