アーノルド

モールの前の管理会社のマネージャーはアーノルドと言った。汚らしい歯をした痩せたジジイで、スクルージはこいつがモデルだったのだと思う。

土曜日・日曜日になるとモールの裏を後手にひょこひょこ歩いていた。ジャネットによると土日はよくモールを見張りに来るという。ビジネスの中にはめったに入ってこない。

おばちゃんがビジネスを買うときに、モールの面接をしたのがこのアーノルドだった。
おばちゃんは面接用に作ったビジネスモデルのコピーを一部アーノルドに渡し、経営ポイントの3つの数字を説明していったが、アーノルドはろくに数字を見もせず興味が無さそうに傍らにうっちゃった。

面接をするだけでこちらは$200ドル支払っているのに。

面接の結果は2週間から3週間で知らせるから。とアーノルドとの会見は終わった。経済は好調でビジネス売買も盛んだったが、モール側のマネージャーがNoと言えば、売り手と買い手が売買に合意していてもテナントの売買は成立しない。

2週間たってもアーノルドからは連絡がなく、不動産エージェントにもコンタクトがない。向こうがもったいをつけているのは分かっていたが、売買を進めるにはこちらから連絡するしかなかった。

売り手も私もエージェントも3人そろってたまたま女で、売り手のオーナーがアーノルドに電話を掛けた。
「ヘイ、アーノルド。面接の結果はどうなの。私?私はテナントのミカコ(仮名)よ。3年間商売してるじゃない。忘れたの?」
するとアーノルドは新しい看板のイメージを今度はオフィスにもってこいと言うのだった。

管理会社のオフィスはすぐ近くだったのでアポを取って訪れると、くすんだオフイスの外には真っ赤なイタリア車が止まっていた。オフィスに一歩入ると、秘書とアシスタントがいるのにシンとして物音一つしない。

アーノルドとアポがあるのだがというと、秘書は怯えた目をしアシスタントはごくっと息をのんで、ボスは今グッドムードじゃないから。と奥を指さした。

アーノルドは一番奥のデスクにひっくり返り、なんとデスクに足を乗せていた。デスクの正面に来客用のいすがあるので、おばちゃんは椅子の背を引き寄せ座ろうとした。

するとジジイは「座るな!」と言ったのである。
来いと言ったのはアーノルドだ。私は聞き間違えたのかと思ってもう一度椅子に座ろうとしたら、ホームレスを追い払うかのように、座るな、看板のイメージを置いて出てけ。とシッと手で追い払われたのだった。

おばちゃんは憤然として出口に向かったが、秘書は知らんぷりアシスタントは下を向いたまま「アーノルドに逆らっちゃダメなんだよ」とささやいた。

この時の秘書はマリアとか言ったが、売買エスクローが開始した後に辞め、以後オフィスに電話を掛けるたびに違う名前の秘書が答えるのだった

アーノルドがさんざんもったいをつけてOkを出したときにはすでに7月に入っており、面接から2か月半たっていた。エスクローはオープンして、おばちゃんは会社の設立などで忙しかったが、突然アーノルドから電話がきて、テナントの補償金を上げると通告された。

理由としては、おばちゃんたちにビジネス経験がないことだと。エージェントだってエスクローがすでにオープンした後に、補償金を吊り上げるなんて、聞いたことない、と言う。

エスクローは売買金額で合意があり頭金もすでに支払われているから、ここで売買をキャンセルしても、おばちゃんの頭金は戻ってこない。絶対逃げられなくなってから、補償金を吊り上げてきたのは汚いやり方だった。

むろん、エスクロー会社だってそんな追加条件は聞かされていない。エスクロー書類は全部作成し直しになる。

アーノルドはEmailに答えないので、ファックスで秘書と何度もやり取りして追加の支払金額と支払方法を確認して、小切手で支払った。

その時までおばちゃんはパン屋のクリスがアーノルドにどれだけ嫌がらせをされたか、全く知らなかったのだった。

エスクローがクローズするまで、売り手のミカコとエージェントのタカコ(仮名)とおばちゃんの3人女はあれこれと連絡を取り合うことになる。

ボブは25歳だった

ボブのおじいちゃんは2012年に亡くなった。
ウチのオープンからの守護天使みたいなお客さんだった。最初は前立腺がんが発覚し最新レーザーで手術した。治療のすばらしい成功例として、病院のプロモーションビデオに撮られたんだ、と自慢していた。

その1年後のフォローアップで胃癌が見つかった。転移ではなく単発の胃癌だった。頬っぺたはつやつやとピンクでとてもガンを抱えているように見えず、たまたま居合わせた外科医もあの人なら助かるよ、と断言するくらい元気に見えた。

当時注目されていた免疫を高めるという評判の海藻のサプルメントを買って、ボブに飲むように渡した。ウチの子が一人ボブの家に間借りをしてボブの一番のお気に入りだったが、胃がんが発覚した頃にはすでに卒業して日本に帰国してしまっていた。

ボブは代わりにカンボジアの留学生に部屋を貸したが、今度の子はヒトミほどフレンドリィーじゃないよ。ほとんど部屋から出てこなくて、話もしない。ヒトミはいい子だった、今どうしてる?と私に聞くのだった。

ボブは抗がん剤を始め、食欲が落ちた。
病院の抗がん剤治療って、すごいんだよ。患者がずらずら~と並んで、あんたはこのカクテルこの人はこのカクテルって、流れ作業みたいに射つんだ。ボブ、サプルメントを忘れずに飲んでね。

ボブは年のせいで膝も痛めてウチまでドライブしてきても、車からでるだけで3分もかかるようになった。この役立たずの膝め。とうとうボブはドライブをあきらめ、車を寄付してしまった。

ボブ大丈夫?生活に不自由はない?
すると、近くに住んでいる娘が、出勤前に寄ってスープだとかキャセロールだか置いてって、夕方また寄るんだ。看護婦の訪問もあるしな。

ただ寒くなってきてリビングにいても足が冷えて傷むんだ。私は使っていない電気毛布をボブに持って行った。

ある日、ボブの好物をもって家を訪れると、ボブは友達らしい男の人と話していた。やぁ、これは古い友達。俺はロングタイムケアホームにトライしてみることにしたから。

娘がな、ロングタイムホームがあるから行ってみないかと言うんで。ずっと行きっぱなしじゃなくて、ちょっと試しに1週間とかな。

たぶんボブはその時、もう自宅に戻ってくることはないと覚悟があったのかもしれない。友達ともお別れのつもりだったのかも。

ボブはもともとニューヨークの出身だった。結婚もニューヨークにいる時。ウチのカミさんがcheatして離婚したんだ。息子と2人の娘がいて、娘二人はカリフォルニアの近くに住んでいる。孫のヒューイは娘の子だ。

息子はどうしたのと聞くと、妻と別れた時に妻側と暮らしていたが、どう掛け違ったのかボブにいろんなトラブルを持ち込んでしりぬぐいさせるのだった。

重い口調で、息子は飛行機が好きで免許を取って飛行機に乗るが趣味だが、中古のセスナを買って払いきれずにボブにボブに泣きついてきた。離婚の時に見捨てられ親としてしてくれることもなかったのにセスナの残金くらい出せと。一度きりじゃなくて、ローンが払いきれずに最後はボブに押し付けてくる。

息子の話題が出たのは一度きりで、それ以降は娘の話や孫のでき。テキサスに行ってしまったヒューイの話をぽつぽつとした。

次の週から、ボブにメールを送っても返事が来なくなった。前は、頻繁に面白画像だの面白記事だのメールでやり取りしていたのにパタッと返事が止まった。

ボブはラップトップはもっていなかったから、娘がデスクトップをホームにもっていけるのだろうか?返事がないまま夏に入り、ある夜の明け方。夢を見た。

金髪で若いがっしりした体格の青年が両手を肩で広げて(ボブは肩幅は広くない、むしろ華奢)
Hi, M  I’m 25 now. Who am I? とおどけて言った。
ボブだ!すぐわかったよ。と目が覚めた。
ああ、ボブは死んだんだ。

しばらくしてボブの孫のヒューイが友達とやってきた。一時期風船みたいに太っていたが、もとのサイズに戻っていた。ボブは亡くなったのね?
ヒューイはうなずいて、夏に亡くなった。やっぱり。
おばちゃんは夢の事を話すと、ボブらしいや。きっとボブならやるね。

家は売りに出されていてZillowで家の中の写真を見ることが出来た。家具は処分されてもう何もなかった。返事は来ないけど、たまにボブにメールを書いた。
RIP

K国のマッサージビジネス

おばちゃんは、一時期同じモールのK国ビジネスに困ってしまったことがある。

いつものように最初はジャネットから噂を聞いた。新しくできたマッサージ・ビジネスがどうも怪しいというのだ。ジャネットだって立ち仕事で肩も凝るから、たまにはマッサージを受けたい。それで、ちょっと行ってみようと並びのテナントを覗いてみたそうだ。ジャネットが本気でマッサージを受けたかったのかどうだかと思うのだけど。

どうも入り口から受付への構造雰囲気が排他的。受付から後ろはドライウォールで天井から床まで仕切られていて、さらに内部にも通路が仕切られていて受付からのぞけないが、2つか3つキュービックがありそう。薄暗くて開放的とかWelcomingなムードではない。

待合室にすでに一人いたそうで、ジャネットが料金を受付に聞いていると、中から異様な雰囲気が流れてくるのだという。なんか、怪しいんじゃなくて、妖しい空気が。引っ返してウチに来るとほっぺたをピンクにしてな~んか変よ。あれはおかしい。

どうおかしいの?
普通のマッサージじゃないわね。Sexialな空気がする。
え~っ、この健全なモールでSexialなサービス??
そんなサービスを管理会社のロナルドとフレッドがよく許したね。
Sexialかどうか言わなかっただけじゃない?

パン屋のビジネスは朝が早いアメリカ人のために朝の7時からあけ、昼過ぎの3時にはもうドアを閉めて店に来る客はもういない。中では次の日のパンを仕込み、ベルギー人のパティシエが誕生ケーキやウエディングケーキを作っているのだ。夕方から夜にかけて、モールの雰囲気がけしからんことなってもパン屋の客は関係ない。

そのうち、夕方にモールの駐車場におっさんが乗る車が増えてきた気がする。マッサージやの右隣は洗濯屋で6時を過ぎるとあまりピックアップの客もいなくなる。左はメールサービスでインド人のマイクが一人いるだけ。

嫌だなぁ~。K国人のオーナーはテナントの誰にも開店の挨拶をしてこなかったので、名前もわからない。そのうち、女の名前と電話番号だけのサインが幹線道路からモールまで2~3本道路わきに突き刺してあった。

電話番号で検索をかけてみたら、モールのマッサージ屋でドンぴしゃ。
さらにビジネスサーチでとんでもない書き込みが引っかかった。なんと、アメリカ人のおっさんがこのマッサージ店の入店料金から、Extraのけしからんサービスの値段まで紹介していたのだ。

マッサージ嬢の名前はXXXXでフレンドリーな彼女の手を取って自分のXXXに、、なんて念を穿って書いとるんだわ。XXXのサービスはチップで50ドルあげればやってくれるよ。

何してくれとんねん、健全なモールで。この書き込みを読んで変な客が増えたらどうしてくれるん?
書き込みは一人じゃなかった。おばちゃんはページのURLを管理会社のフレッドに送って何とかすべきと言った。
するとフレッドはK国マッサージがどんなビジネスを展開しているか規制する気はない、と言ったんである。

さよか?
この健全なCountyではSexialサービスは違法だと思ったが、あんたが何もしないならポリスに通報するがよいかと書いたら、どうぞと返事が来た。

おばちゃん、これを書いた今、もしかしてフレッドにしてやられたのではないかと気が付いた!
私にポリスに通報させて手を汚さずに摘発させ有無を言わせぬ証拠を作っておいてから、モール側のポリシーに違反したとしてビジネスを追い出しにかかる。

くっそ、ユ〇ヤの悪知恵よ。
ローカルポリスにリポートをしたあと、しばらくしてマッサージやのオーナーが変わった、またK国だが、。閉鎖的な玄関はリモデルされて、健全なマッサージ屋に生まれ変わった。

今度のオーナーは50近くのおばはん韓国人で、リーマンショックで客が減ると、ビルの周りを歩いきながらぶつぶつ言っている。
あんた、何してんのさ?と聞くと
この店を買うのに大金をだしたのよ。一体どうしてくれるのよ。独り言をいいながらビルの周りを何週も歩くのだった。
知らんがな。

クリスマス・ペイント

12月に入るとウエスト・コートにペイントの染みだらけのTシャツを着た白人のおっさんが現れる。

ヘイ!今年もシーズンだね?アンタのドアはいつがいい?
ヘラルドは毎年、時だけやってきてテナントの正面のガラスにクリスマス用のアクリル絵を書いて金を稼ぐのだった。

アクリル絵の具は赤・緑・白の3色だけ。山、モミの木、サンタ、鈴、雪など決まりきった単純な絵を書く。ある年はウチの子が、おばちゃんこの絵にいくら払ったんですか?$20ドル。
え~、私ならタダでもっとうまく書いてあげるのに?アンタ、クリスマスシーズンは忙しくて、ウチに来ないじゃん?

ヘラルドは、いつも間口の大きなテナントから書いてゆき、夕方はウチが最後になる。終わるとしばらく世間話をして帰ってゆく。
いつの年だったかは、隣のモールのテーラーに絵を書いたとき、現金の代わりにカスタム・オーダーのスーツを一着もらったんだと。すごいだろうと自慢をしていた。

が、おばちゃんはジャネットから件のテーラーの噂を聞いていた。
なんでも隣のモールのオーナーがショッピングモールの全面改装を計画し、駐車場を広げるためにテーラーの建物(モールの敷地に飛び地で一軒だけ建っていた)を取り壊す予定だったのだが、このテーラーがガンとして出ていかず家賃を供託して頑張っていた。

おっさんがもらったスーツは確かにカスタム・オーダーだったが、オーダー主が取りに来なかった何年も前のヤツだ。

おばちゃんが飲み物を出すと、ヘラルドは腰を落ち着けて今度結婚したんだ。例のチャイニーズの女の子だっけ?そう、その彼女と中国からインポート・ビジネスも始めたんだ。

俺はナイトスクールでナンとかの学位を取ったから、上海の大学に呼ばれてるとか、50近くのおっさんの妄想だか夢だかわからん話を語るのだった。ソーダを飲み干すと、古いぼこぼこのシボレーに乗って帰って行った。

うちのウェスト・コートがリモデルした後は、管理会社のフレッドからクリスマス・ペイントを禁止するレターが来て、その年からおっさんの仕事は無くなった。

おばちゃんは、ヘラルドには悪いけど、ほっとした。
クリスマスの飾りはすぐ外すと寂しいので、だいたい年内いっぱいはそのままにする。そして新年の休みが明けて、最初の仕事がこのペイントはがしだから。

このアクリルペイントというやつは、溶剤で落とすのも時間がかかるのだ。
おばちゃんが溶剤で溶かしてこすったら、色が混じった汚い絵の具がガラスに広がってしまい、全部落とすのに溶剤の瓶が一本使うし、空ぶきまですると軽く2時間はかかってしまう。

新年初めに、2時間早出して絵の具落としなんてうんざりするのだ。
せっせとタオルで落としていると、パン屋のクリスが”何やってるんだ。アクリル絵の具はスクレーパーでこすり落とした方がいいよ”と。

クリスマスの25日の夕方から正月の7日過ぎまで、毎年長い休暇を取るクリスも、新年初営業の時には早めに来て、絵の具を落とす。溶剤ではなく、スクレーパーでカリカリと削り落とすと早いという。

おばちゃんもスクレーパーを買ってきて削り落とすのだが、ヘラルドが落とすところまでやってくれるならもう20ドル支払っていいのにと、いつも同じことを思ってた。

ヘラルドには気の毒だが、中国相手の輸出入りで、尻毛抜かれずに儲かるならこんなクリスマス・ペイントみたいな出稼ぎにもならない仕事をするよりましだろうから、頑張ってほしい。

ガバメントが使うフォント

おばちゃんがコンピューターを教えついでにフライヤーや看板のデザインで小遣いを稼いでいた時、Photoshop とIllustratorがあっても、デザイン素材とフォントは必要不可欠だと痛感した。

アメリカの商業デザインはスポーツ業界に使われるフォントとか、エンターテインメント業界用のフォントとか
フォント自体に用途別のイメージがあって、おしゃれなブティックの看板に間違ってもPlaybillなんて使わないのね。
逆に言えばPlaybillをタイトルに使えば、学校のスポーツのお知らせとか学校の催しものだとかすぐわかるわけだ。フリーフォントも色々あるから、ダウンロードしてデザイン時用にストックしておく。

さて、Helveticaというフォントがある。
印刷業界に革命を起こしたフォントと言われ、その端正なフォルムは公文書にも多用される。例えばアメリカ政府とか。州政府とか。

移民局、労働局、税務署、州政府などがHelveticaを使うわけだ。
もちろん、太字、斜体、ライトなど様々な変形があるので、例えばカリフォルニア州税のTaxReturnフォームがすべてHelveticaが使用されていることは、普通の人はあまり気が付かないかもしれない。これらのフォントセットはむろん購入できる。

おばちゃんは、毎月消費税を州政府に申告し納めなければならなかった。
今はオンラインだけど、ビジネスをスタートしたときは申告フォームが「紙」だった。
紙のフォームは当然おばちゃんが数字を書き、それも売り上げ、税抜き売り上げ、税、州のローカル税%税金額など、電卓を片手にポチポチと(5)から(1)を引いて
(6)に記入し(8)にトータルを書く。(8)と(3)の数字が違ったら計算が間違っているのだ。

計算が合っていたら控えにコピーを印刷する。日本の年末調整みたいな書類が毎月あるのだと思って。たかがフォーム一枚記入するのにおばちゃんの昼寝の時間が潰れるのである。

電卓で計算するのが面倒くさくて仕方なかった。そこで州のフォームをじっくり見たのである。あら~?全部Helveticaだわ。太字にライトがあるけれど。

そこでおばちゃんは知恵を絞った。計算が面倒くさい、Excelを使えばいいんじゃね?フォントはHelveticaで、用紙はLetterサイズで。ガバメントのフォームの余白は0,5インチと大体決まっているのだ。

おばちゃんは州税フォームを作った。本物の紙の上に自作を重ねて、下からライトで照らすとテキストボックスの枠の太さだとか、長さに微妙なずれが分かるので、修正していけばいい。

お昼寝を何日かつぶして完成した。印刷したExcelシートを本物の上に重ね下から光を当てるとフォントもフォームのコラム線もピタリと重なった。お~ほっほ!

Excelシートには最初の税込み売り上げ数字をタイプするだけであとは自動計算する。2枚印刷して1枚はウチのコピー。
毎月の消費税申告は1分で終了した。本物の申告用紙はフォントに歴代コピーずれがあって汚い。
おばちゃんの方がよっぽどキレイ。

ネットで底引き網

WordPressもまだ存在していなくて、サイトの丸ごとコピーが簡単にできた時代の話。

モールの管理会社からテナントはガチョウか羊のように扱われてとことん搾取されてて憤懣がたまってくると、
なんぞないかなと思ったりする。

最初は管理会社の名前を検索し、B2B用のSNSのリンクをたどっていってローランドの子会社や別会社を見つける。管理会社のウエブを丸ごと底引き網で取り込んでみる。取り込んだファイルをじっくり調べると面白いファイルが見つかった。

おばちゃんも時々やってたが知り合いに何かファイルを送るとか、相手のITスキルが低いときにナンだカンダと指示するのが面倒で、つい自分のサイトにUpしてここにあるから見てねとか、ここからコピーしてねとか言ってしまう。
誰もプライベートのファイルに興味はないだろうし、Upしたままサイトのファイルは消すのを忘れてそのまま残っていたりする。

多分管理会社のウエブのファイルもそんな過程で残っていたのだろうけど、おばちゃんには十分面白かった。
何故って、そのファイルは不動産管理のマニュアルだったのよ。

多分業界のセミナーなどで使われるテキストだったのだと思う。ローランドもフレッドも業界の30年選手だったから。

モールのテナントを選ぶ時の基準とか、.com企業の見るべきポイントとか(たいていは選ぶな!)弱小テナントとパワーテナントの契約条項の違いパワーテナントを増長させない手法とかいじめてテナントを追い出そうとする場合、仕返し(retaliateって書いてあったわ)されないように気を付けるポイント。とか。

おばちゃんは、ほ~んと思った。つくづくテナントを家畜扱いしてるよね。人間扱いをしてるのは、パワーテナントだけかぁ!隣のパン屋やイタリアンも弱小テナント扱いかよ。腹たつわ~。

ふと、ロナルドが扱いに気を付けるようなパワーテナントってどこだろう?と思ってしまった。

底引き網資料を調べると一番でかい物件モールは大小 120店舗のビジネスがあり、その中でも一番でかいビジネスは「スーパー」だった。

誰もが知ってる南カリフォルニアのあの高級スーパー。このスーパーのマネージャー相手なら、ロナルドもヘイこらするのかしら。
「また、雨漏りかよ。うちは高級品を売ってて客層も一番いいんだ。雨漏りがするようなビルを貸しやがって、イメージを落としたらどうしてくれる? はよ修理せいや!」
修理メンテ担当のフレッドがすっ飛んで行くのかしらん?このパワーテナントが出ていくからとゴネたら、ロナルドもフレッドも真っ青だお!

おばちゃんは、楽しくなってマニュアルの作成者名を管理会社の名前に、形式主語をWeに書き換えセミナーを思わせるようなセンテンスを削った。
すると、テナントならだれが読んでも腹を立てて憤慨する高圧的な管理会社の裏マニュアル文書が出来上がった。

社内の裏文書が間違ってスーパーに送られたら面白そうだが?そういう間抜けな秘書もアメリカにいっぱいいるしぃ。
でもおばちゃんは秘書じゃないしぃ、ここの会社のレターヘッドは超!特殊だしぃ。

この会社のレターヘッドはフォントも特殊なので、多分ロゴのデザインはMacだ。
紙はナント!透かし入りの高級紙!で繊維が長くもったりと和紙のような重量感がある紙。会社のロゴはエンボス加工で浮き出しなんだよ。
金かけやがって。

こんな細工をする印刷会社は周囲100マイルでも限られてるから!おばちゃんはとりあえず裏マニュアルを完成して、すこしうっぷんを晴らした。

高級紙でレターヘッドをデザインする

高級紙でレターヘッドをデザインしてみたい!と、ふと思った。ヘッジファンドが投資状況をクオーターごとに富裕層顧客に報告するような重厚感があるレター。

まず、紙を探すんだ!
透かし入りの高級紙!で繊維が長くもったりと和紙のような重量感がある紙。
紙を透かすと打ち込みに紙モデルの名前が透けて見えるようなそんな紙。

大きなショッピングモールに紙専門のショップができたからって、勇んで乗り込んでみても、コンテンポラリーな最新IT企業が使いそうなブルーグレーやモーブのインテリジェント、シャープな感じの紙があったりする。
でもこれじゃないんだね。
もっと古風でアメリカの昔かたぎの感じがする固い会社のイメージがほしい。

すると、意外にも高級文房具を扱う文房具屋さんの片隅に売られていたりする。そっか、昔から営業している老舗だもんな。同じ製品モデルのラインでサイズ10の封筒も買っておこう。

次はフォントね。
見本にしたいようなサンプルレターを高解像度でスキャンして取り込んでみる。で、オンラインで似たようなフォントを探す。Adobeやフリーフォントにも捜索範囲を広げて探してみる。

似たようなフォントがあったらセットでダウンロードして。一文字だけ似ていても、セットで見るとハネや止めの太さが違うのがわかるからね。スキャン画像の上にダウンロードしたフォントで、同じ文字をタイプして見よう。

フォントの幅や文字間隔が変えられている場合があるから、ちょっと伸ばしたり太字にしてみたりつぶしてみたり、背景のオリジナルのフォントとぴったり重なったらビンゴ!だ。やっぱり思った通りマックだ。
マック標準搭載のフォントじゃねぇ?
このサンプルのフォントが好きだからねこれを使うことにしよう。

レターはフッターもあるからフッターのフォントも探そう。こっちはそんなに凝ったフォントは使わないはず。
ただのHelveticaだわ。フォントが見つかってラッキー。

フッターのインクの色、これはどうしようもないのよ。印刷屋さんが使っているインクセットと市販のプリンターインクの色は違うから。
何回も印刷してサンプルと比べて色を調整していくしかない。プリンター・インクは印刷したてと、乾いてからは若干色が変わるから、乾燥した時を想定して色を調整してね。

黒はましなんだが、気取ったブルー系の色インクは難しい。でも、見る人が還暦近くだったらあんまりわかんないかも。1ミリ角の文字だし。

肝心のロゴはサンプルの左右上部からの実測してキャンバスにとりあえず置いてみよう。
色は気にしなくていい。だって、エンボス加工するんだもん!

重厚じゃない?また印刷してみる。そいで、サンプルの上に自前の紙を載せて下からフラッシュライトで照らしてみよう!
ぴったり合った?
この瞬間好き!ぞくぞくするよね。

もう一度サンプル印刷をして、あとは高級紙とファイルと一緒に印刷屋にエンボス加工を頼むだけだ。

なに!嫌だ?在庫の紙でしたい?エンボス加工なんて面倒くさい仕事は量がないとダメだぁ?
お前ら根性ねぇな。この芸術的なぴったり合った職人技術の傑作をエンボス加工で仕上げしたいと思わないのかよ。
ダメだ。アメリカの印刷屋は根性なくて。

ペニー・セーバーと詐欺師

たぶん全米だと思うのだが、Penny Saverという広告雑誌があった。今もある。
企業広告、クラシファイド、個人の「売ります・買います」などが一冊にまとまったフリーペーパーだった。1ペニーでも安いものがいい、安けりゃなんでもいいというしみったれ、訂正 価格に敏感な人が見る広告紙だった。

おばちゃんがビジネスをスタートして、しばらくたったころ、急に貧乏風アメリカ人婆さん軍団が増えたことがあった。ぺらぺらのワンピース、でっかいプラスチックのネックレスきつい香水。客単価は最低に近かった。

日本人顧客からはペニーセーバーに広告を出したのね。頑張ってねと言われた。
ウチの客層とは違うので、ペニーセーバーに広告を出す気は全くなかったのだが、客によるとウチのビジネス・リビューが載っているのだという。
それでか!
おばちゃんはふに落ちて、でも安くて下品な客が増えては商売にならんので、この雑誌には近寄らないようにしようと誓った。

それからしばらくして、知らない相手から小包が届いた。請求書(Invoice)も入っていた。宛名は間違いなくウチだったので、開けてみると壁にかけるプラーク(盾)が出てきた。プラークには例のペニー・セーバーの記事が物々しくはめ込んである。プラーク自体のクオリティは悪くないのだが、ペニー・セーバーの記事はアメリカ人記者の間違い知識が書いてあり、ウチとしてはこんなものを壁に飾っては笑われてしまうのである。

そして、次の週だったか小包と同じ差出人フロリダの広告会社からまた請求書が来た。
こっちは:プラークはオーダーしていないこと、記事の内容が正しくないのでプラークの受け取りは拒否することを書いてフロリダの会社に送った。

また請求書が来た。ご丁寧にOver dueのピンクの紙に印刷してある。会社に電話をかけて、オーダーしていないこと、支払わないこと、引き取り拒否することを言うとハイハイと言って電話が切れた。

今度はウチのファックスに請求書が来た。”止めろ”とこちらからファックスを送り返すと、さらに請求書ファックスが来た。

プラークは店に飾れば客寄せにもなるから、普通のビジネスオーナーは根負けして支払うのだろう。ただ、おばちゃんは絶対払うつもりはなかった。知り合いの弁護士に相談すると、Better Business Bureau 略して BBBに訴えればいいという、タダだし。

オンラインのクレームフォームを記入しておばちゃんのクレームはオープンした。BBBは民間のビジネス・トラブル仲裁機関だ。トラブルが発生したら相手のビジネスにクレームをファイルし、BBBが双方の申し立てを開示し最終的な判断をする。

フロリダの会社は反論をポストした。それによると、X月X日午後7時半ごろおばちゃんのビジネスに電話をし、プラークの紹介をしてオーダーを受けたのだという。
その証拠に、会社の電話明細にはウチ店との通話記録が載っている。とおばちゃんは、かっと頭に血が上った。確かに、金曜の一番忙しい日の一番忙しい時間に電話を受けた。ウチは、電話では何にも契約せんよ。記事は間違っているから要らんし、と言った記憶がかすかにある。

おばちゃんは、再反論するあんたの会社の電話明細にウチの電話番号があったとしても、それは私がオーダーしたという証拠にはならない。と返事を載せた。

すると相手は、X月X日午後7時半にわが会社はそちらのオーナーXXXミカコと会話をしたのは間違いない事実である。彼は間違いなく商品をオーダーした。と

おばちゃんは、その瞬間勝利を確信した。何故ならオーナーのXXXミカコはウチの”前の持ち主”で、おまけに彼「He」ではないからだ。

名簿会社というのはたぶん全世界にあるのだろうが、ウチが営業を開始した後も、なぜかウチのビジネスは前オーナーの名前のままになっており、それが依然としてデータとして売買されているらしい。
なぜわかるかというと、ウチにその間違った宛名のDMがしょっちゅう来るからだ。

フロリダの会社もペニー・セーバーにはオーナーの情報が載っていなかったので、名簿会社から買ったのだろう。ところが、オーナーの名前は間違っていたのだった。

おばちゃんは、再度反論をポストする。アンタがオーナーXXXミカコと話したというのは間違いないか?

フロリダ:間違いない。
おばちゃん:残念だね。ウチのオーナーの名前はXXXミカコではない。それは前オーナーである。
フロリダ:・・・・・・
おばちゃん:XXXミカコは前オーナーで現在はサン・ディエゴで新規ビジネスを展開している。サンディゴのビジネス・エンティティで確認されたい。最後にXXXミカコはFemailである。
フロリダ:・・・・・・
おばちゃん:貴社から送られたプラークを保管している。至急引き取られたし。引き取りに来ぬ場合は保管料を請求する。
フロリダ:・・・・・・
おばちゃん:保管料はらえ!

おばちゃんは完全勝利して、溜飲をさげたのだが、このあと、さらに後日談がある。

1年かそこらして、フロリダの検察局から手紙が来たのだ。この広告会社に対するクレームが多く、検察は捜査を開始したが、ウチの会社はどんな被害を被ったか、あるなら詳細を知らせよ。と.

おばちゃん損害0である。
プラークは大掃除かなんかの時に捨ててしまった。

パン屋クリスの受難

ウチの隣のパン屋のクリスはオーストリアの出身で、重たい英語を話す痩せたとっつきにくい男だった。ジャネットがおまけで付いているパン屋を、前のオーナーから買うと、ペストリーだけでなくカスタムオーダーの誕生日ケーキやウエディングケーキで売り上げを伸ばした。

私が朝、コーヒーを買いに行って商売の愚痴をこぼすと、

:業者のデリバリが午後にあるはずだったのに、来なかったんだよね。
クリス:It’s nomal
:車の中がぐちゃぐちゃなんだよね。
クリス:It’s nomal
:もう、忙しくて家のことをやる暇ないのよ。
クリス:It’s nomal
:寝る暇がない
クリス:It’s nomal
:ねぇ、クリスあんた一体いつ寝るの?
クリス:After retire

このクリスは、モールの管理会社のイエスマンだった。7年前にパン屋を買った最初のころに、管理会社のマネージャーだった業突く張りのアーノルドに、マネージメントについて軽く文句を言ったら、とことんいじめられたのである。
そ~れはもう、猫が栄養失調のネズミをなぶるように。

テナントを買収するときは、モールとのリースを買い取るという意味でもある。
リースの残りが短ければ、店舗の評価額は安くなる。買収してから自分で新リースを取得しなければいけないからだ。新リースを取る場合、大抵家賃は値上がりすると覚悟した方がいい。

クリスがパン屋を買ったとき、リースはほとんど終わろうとしていた。新リースはすぐもらえるとクリスは考えていたのだが、相手は人品卑しいアーノルドだった。

入ってきたばかりのクリスに意見されてヘソを曲げたアーノルドは新リースを拒否したのだった。契約書にあるMonth to Month月毎・契約に移行できるという条項を逆手にとって、マンス トゥ マンスでなんと7年も引っ張ったのである。

疲労困憊してゆくクリスなすすべもなく見守るジャネットある日、パン屋に大家その人が現れて、受難の日々は終わった。

クリス自慢のクッキーを無料でサービスして、アーノルドの無法をせつせつと大家に訴えたのである。な~んにも聞かされていなかった裕福な地主2世で現役の弁護士はアーノルドに新リースをくれてやるようすぐさま命令したのであった。

クリスはこの教訓を身に刻み、以後アーノルドだろうが、ローランドだろうがフレッドだろうが、管理会社のいうことにはなんでもYes 月末にテナントでは一番に家賃を送るのであった。

イタリア系アルゼンチン系アメリカ人・ロミオの悲劇

ジャネットのおばちゃんが一番張り切るのは、事件の時である。朝、いつものようにコーヒーとペストリーを買うと、ジャネットが、ねぇ、昨夜は何時に帰った?気が付かなかった?
私は何を?
ABCニュースでもやってたのよ?ヘリがこのモールの上を飛んでたでしょう?そういえば夕べ7時半過ぎに、ヘリが空を飛んでいてうるさいなと思った覚えはある。

大変よ!ジャネットが大変な事の割には、目をキラキラさせて興奮している。
イタリアンに強盗が入ったのよ!へっ!

強盗は6時ごろイタリアンに入って、一度席に座った後、立ち上がってトイレに行き、帰ってくるときにフロアマネージャーを後ろから羽交い絞めにしたのだという。それから客席の全員を銃で脅して、財布と時計を出させて奪って逃げた。

モールから1分でフリーウエイの入口という立地で強盗には仕事をして逃げやすい場所であった。

うわぁ!である。
オーナーのロミオは近くの町でで20年近く営業していたが、モールが全面改装で、泣く泣く立ち退きになり引っ越してきて新装開店した直後だった。

ロミオは戦後にアルゼンチンに渡ったイタリア人の子孫でアルゼンチン・ワインと牛肉がお勧めというひねったイタリアン・レストランである。

私は戦慄した。
お気に入りのレストランで身ぐるみはがれて、恐怖の体験をしたお客は金輪際戻ってくるはずがない。不運が続く可愛そうなロミオ。

ジャネットのおばちゃんは、見て、County Registerの記事よ。このモールを襲った後、フリーウエイに乗って次の出口でファーマシーを襲ったんですって。

そういうジャネットは、ウチがオープンする前に2回ホールドアップに会っている。

隣のベーカリーは客が絶えないので、儲かっていると狙われたのだろう。だけど、コーヒー一杯2ドル、ペストリー1個$1.60-2ドルでキャッシャーに入っているのは小銭と、クレジットカードの売り上げレシート紙で強盗にとってはタダの紙だ。
アメリカ人が支払いをするのは90%クレジットカードである。キャッシャーの現金が期待できないので、強盗も客の財布と時計をかっぱらうまでに落ちた。効率が悪いと思う。

 
ロミオは悲劇はさらに続く。

生バンドを入れたりして苦労して盛り返したところでリーマンショックが襲い、それはうちも含めて社会全体が苦しんだのだったが、1セントも家賃を負けないというユダヤ人の管理会社・大家に対抗するためロミオの息子はうちらテナント連合をまとめて大家との交渉のきっかけを作った。

それから2年後に息子はあっけなく交通事故で亡くなった。嫁のテレサは残ってレストランを助けていた。

リーマンショックから立ち直りかけたら、今度はショッピングモールがリノベーションをぶち上げ、またもや経営に大打撃を食らった。

工事車両や資材がパーキングに置かれると、客の駐車スペースが半分になり、ランチ時などは客がスペースを探してぐるぐる回りあきらめて出ていくのが見られた。

リノベーションも生き延びて1年もたった後に、突然管理会社のローランドがランドオーナーの人気取りか完成オープニングをやるという。1年もたった後に、客からはどこが変わったの?と聞かれるのに、今更いったい何を祝うというのだろう。

管理会社のロナルドがテナントのミーティングを開けというので、ロミオがダイニングを解放した。朝食用にドーナツやパン屋の提供のクロワッサンなどを盛り付けて、客用のコーヒーをサーブして、
Well, well well, I couldn’t expect such hospitality!と
くそロナルドがお世辞半分、だが迷惑そうに褒めた。

モールの改装工事は無事終了し非常に喜ばしい。不動産業界誌にぜひオープニングフェアの記事を載せたいと思うし、載せればさらに地域の活性化につながるし、そのために大家自身も費用を負担する計画とぶち上げた。

集められたうちらテナントは大家が金を出すなら、それに乗ってもいいが、いったいどんなオープニングフェアをやるんだ?
ロナルドは、みんなでアイデアを出さないか?毎週集まって計画を煮詰めようではないか?と耳には快いことを言った。

滑り台はどうだ?人気ロックバンドの演奏は?ビンゴとか、モール全体を風船で飾り付けて、フードトラックを出すのは?大家が金を出すなら、まぁニギヤカシは否定はしない。来週またアイデアを検討しようと次回にいだ。

次の週になると、大家が出す予算は3000ドルと知れて、それじゃあ人気のロックバンドを半日拘束で消えるし
いろいろ出されたアイデアも予算の関係で、あれもダメ、これもダメ、やれそうなプランを残していくとロナルドはアイデアを出したテナントにそのマネージメントを任せようとした。

お前は何をやるんかい?
お前が管理会社の社長で言い出しっぺのロナルドなのにオープニングフェアのマネージも、時間と体を使って当日の催しのプログラムも参加する気がないのも明らかになってきた。ミーティングには不穏な空気が漂う。さらに、ローランドは爆弾を落とした。

せっかく客を集めるんだから、それぞれのテナントが目玉のサービス、目玉のディスカウントをするように。

ミーティングのテナントはえ~?!である。ギフトショップのブランドンが憤慨して、ロン、うちの商品はただでさえギリギリくらいすでにディスカウントをしてあるんだ。これ以上の値引きは無理。

するとロナルドはどんな商品・サービスをディスカウントするかそれぞれのテナントに任せるので来週までに考えてミーティングで発表するように、とそそくさと引き上げた。

実際オープニングフェアの日が来ると、こっちは新商品無料配布の準備(すべて自腹)で忙しかったから、
モール全体のプログラムを見ている暇もなかった。

驚くべきことにロナルドが管理会社の従業員とその子供らを引き連れて、院長の巡回のようにテナントをひとつづつ訪れて偉そうにうなづくのだった。
お前は何もやってないだろう!オープニングフェアはしけた花火のように終わった。

しばらくしてイタリアンの前にクレーンが止まり、屋根のエアコンディショナーの解体と引き下ろしを始めた。
人生をあきらめたかのような感情がなくなったロミオが皆にいうには、ロナルドが手紙をよこして、店のエアコンディショナーを点検した結果、据え付け後20年を経過して老朽化しているので危険防止のため、撤去して新エアコンをつけるよう要求してきた。

新ユニット本体の料金で5000ドル以上かかり、クレーンなどの据え付け費用はまた別。踏まれて蹴っ飛ばされて殴られて、襟首をつかまれてまた殴られるような、コテンパンの目にあってもロミオは従ったようだ。

秋におばちゃんもロナルドから手紙をもらった。ビルと駐車場の改装は終わったが、実は公共部分の駐車場のランドスケーピングをやり直す。その費用として、共有部分の%に応じてテナントに割り振る。分割にしてやるから3か月で払え。

おばちゃんは何かの間違いかと思った。
リノベーションの時にすでに駐車場も直し、植栽もマグノリアを新たに植えたのだ。さらに何の工事が必要というのか。アスファルトの引き直しは3年に1度はやっている。アスファルトにしても金額が高すぎる。

おばちゃんは手紙をもったまま、隣のパン屋に行って、クリスに聞いた。
クリス:ああ、あんたのとこにも来たか。
おば:3か月かけて4000ドルを払えと。
クリス:うちはあんたんとこより広いからもっと行く。
おば:そうだね。公共部分の費用をテナントが持つなんて、おかしくない?私は弁護士に聞くわ。

ジャネットが出てきて、ダンス教室も弁護士に相談するって言ってる。なにせ、ダンス教室はテナント2つ分ぶち抜きの1万scfに近い。その次に大きいのがイタリアンだ。ロミオも弁護士に相談するという。

新規のヘアサロンや検眼医などうちを含めて全部で7つのテナントが納得せず、弁護士に契約書をかざして相談した。パン屋のクリスは別。いつもいい子のイエスマンは10年リースをロナルドからもらっているので、逆らう気はない。

朝、パン屋に顔を出し、
ねぇ、ダンス教室のローヤーはなんて言ってる?うちのは金曜日の夜しか時間がないって。
ジャネットは、聞いて!とんでもないことになってるわよ。
ダンス教室が弁護士に契約書を渡したときは、「共有部分は大家の費用で直すもんだろう。テナントに費用を請求するなんて聞いたことがない」と笑って受け取ったという。

ところが、次の日電話をかけてくると、この契約書では勝ち目がない。この契約書は大家がなんでもできるようになっている。

その次の日もジャネットに聞くとほかのテナントの弁護士もやはり、勝ち目がないという。こんなスキがない契約書を見たことがないって。普通はここまでやらないって。

あまりにきつすぎるリースを作ると、テナントに嫌われてビジネス誘致に苦労する。経済が好調になってきたのを見越して、テナントの弱った羊を取り除いて、若く元気がいい羊に取り換えようと企んでいるのではないか?


大家はマリーナデルレイにヨットのロットがある現役の弁護士で、父は引退した判事。不動産の契約書としてユダヤ人の法の専門家が練りに練った鉄壁の契約書を前に7人の弁護士は全員匙を投げた。

その頃は、メールでテナント同士が連絡を交わすようになっていたた。

オープニングフェアの準備のために、ロナルド自身がメールの交換を推奨したからだ。オプトも嘆いていた。洗濯屋も愚痴をこぼしていた。
イタリアンのテレサとダンス教室のマークが一番憤慨していて、ぜ~ったい、払わない。うちはレントを供託するから。
踏んづけられつづけたロミオがついに堪忍袋の緒を切って憤然と立ち上がった。テレサとロミオは本気で法廷闘争をする気だった。

テナントはいずれも小売業だ。自分たちの生業が成り立つのは、客が払ってくれるから。ところが、不動産業の成り立ちは違う。

金を払ってくれるのがテナントであるにもかかわらず、卵を産むガチョウか家畜の牛のようにテナントを扱う。
We are livestocks. We are treated like cattles.

ロナルドの会社の客はテナントではない。会社のお客はただ一人、ランドオーナーである。
ランドオーナーを喜ばせるために、オープニングフェアを催し、ランドスケープの費用をテナントから吸い上げる。

ロミオとテレサは法廷闘争のために供託を積み上げ、おばちゃんは腹いせに檻に入った七面鳥と
それを狙うライフルを持った百姓ロナルドの漫画をテナントのメールにCCで流すのだった。

おばちゃん 時効の分だけ懺悔する

おばちゃんがリタイアをしてからだいぶ経つけど、お客も従業員もまだ現役かなぁ。遠い目。時効になった分だけ懺悔する。

一番の図々しい客は”初めて来てやったからまけろ、オマケをつけろ”といったメキシカンの2人組。
次は、”俺は年寄りだからシニアだからまけろ”と言った台湾人。あんたが”年を食っているからと言って、どうして私がディスカウントをしないといけないのか?”と、おばちゃんが目をじっと見て言ったらくじけて撤収した。

オープンしてまだ間がないときお客が電話オーダーの商品をピックアップに来て”これはオーダーの品と違う、俺はこれじゃないのが欲しいんだ!”でも電話を受けたのはおばちゃんで、絶対商品に間違いはない。客と言い合いになり、客が捨て台詞を吐いたのでおばちゃんもカッとなってそのレシートを丸めて

客にぶつけてやろうとしたら、おじちゃんが後ろから私の挙げた腕をつかんで、次いでおばちゃんの両肩をがしっと羽交い絞めにした。その間に客が悪態をついて外に出て行ったので、レシートをぶつけられずに誠に残念だった。とても客商売のオーナーにあるまじき振る舞いでした。
反省はしていませんが、やっと白状できてすっきりしました。

ローカルのフリーペーパーにディスカウント広告を出しました。店のチラシの金額を書き間違えて$1.50高く書いてしまいました。お客さんが手に取ったチラシを見て、あれ?おかしいな、という顔をした時に値段が間違っているのに気が付きました。アサちゃんにお客さんを任せて、チラシの金額を書き換えてプリントしなおし、お客さんの気がつかない間にこっそりチラシをすり替えました。

ウエブとキャッシャーの金額も書き換えて証拠を隠滅しました。
あれ、確か金額が違っていたはずのような?という顔のお客さんにどうしました?としらばっくれました。反省はしてますが、後悔はしてない。

昼寝の時に英語で電話がかかってきたら「No English」と一言
言って電話を切りました。眠かったんです。ごめんなさい。

C国人が電話予約をすっぽかし次はその旦那が別の電話番号でしれっと予約してきてあまりに腹が立ったので、出禁にしました。
店のWebのヘッダーにお客の名前と電話番号を2つ、しばらく晒しました。ウチ、AdSenceを張ってたのでトラフィックがあったと思います。
10年以上たっているので、時効ですよね?

〇山さんの目と鼻が整形だと噂を広めたのはおばちゃんです。マーちゃんが日本に行ってきてお土産と女性セブンを持ってきてくれて、雑誌は店に置いていたら、〇山さんが女性セブンの美容整形の広告をびりびり破って
持っていき、次に来た時に目と鼻が新品だったので整形だって広めてしまいました。もうみんな知っているから、無罪ですよね?

ドイツ育ちだと言うC国人がドクターのコンフェランスに来たといい、お会計でカードを出してきたけどDeclineされておばちゃんは、別のカードかキャッシュを出してんか?とゆうたら、お財布をホテルに忘れてカードはこれだけでキャッシュは”無い”と言いよるんですわ。

ドイツなまりの英語を話すC国人などという珍人やったけど、大陸産のC国人と同じように、ぐいぐい対応してしもうたんですが、ドイツ育ちのせいか真面目やったんです。

でもアメリカでカード一枚だけ、エマージェンシーのキャッシュも
持ってない。カードのカスタマーセンターに電話を掛けたら、ドイツ時間の夜中でカスタマーサービスがお休みなんや、言いよるんですわ。

カードのカスタマーサービスって24/7dayと違いますのん?電話が繋がれへんってドイツのカードカスタマーサービスあれへんのと違います。
ホテルに帰ってキャッシュを持って来てくれへん?金持ってきたら携帯電話を返すからと、携帯をカタに取りましてん。ちょっと、イケズすぎました?

もっと酷いのはどこで自白したらいいですか?

リタイヤ後はプログラミング

おばちゃんはつくづくプログラミングが出来ればなぁ。とSharpのキャッシャーを嘗め回しながら切望したのだよ。Sharpのキャッシャー内部のメモリには商品のPriceLookUpTableや税の設定、トランザクション・ジャーナルなどのデータが保存されている。

このSharp、腹が立つことに2種類のトランザクションのカウント・ナンバーが組み込まれて、例えて言うと性質は車のマイレージ・カウントと同じなんだ。つまり1つは製造後からの通しナンバーね。キャッシャーがチ~ンと鳴ると数字が一つ大きくなる。こいつは電池を抜いて、全部初期化をすると0になるがそれ以外変えられない。チ~ン で一つ。Shit。
もう一つのマイレージはその日のトータル。集計をして印刷をすればカウンターはゼロに戻る。

もし、トランザクションを同じマシンで打ち直せば?マイレージ1のカウンターがチーンと鳴った分だけ回る。昨日の終わりのナンバーと今日の初めのナンバーは続きでなければIRS(税務署)が気が付く。

IRSというのはポス(キャッシャー)の印刷レコードを信じていて信頼が厚い。書き直せないことになってるからさ。隣のパン屋のクリスもレジからは凧の足みたいなレシートがとぐろを巻いていて、ギフトショップのブランドンのとこも長いレシートのしっぽが出てる。

業務が終わった時にキャッシャーを集計モードにして「ENTER」をパンチすると、印刷レシートがシュルシュル出てきて、おばちゃんは疲れた手で紙を巻いて充実した一日の営業が終わるわけだ。

Sharpはシリアル接続でWindowsXPに繋がっている。付属ソフトをいじり倒すとデータのトランスファーができることが分かった。キャッシャーからコンピューターのSharpのディレクトリ¥DATAに内容がコピーされる。ほう?
マイレージカウンター1は手が出せない。どこに格納されているかもわからない。

おばちゃんは全く同じSharpのキャッシャーをもう一台買った。(なんでや?キャッシャー1が壊れたら業務ができへんやんけ?)ウチのリビングに転がっている自作コンピューターに接続し、1台目の”DATA”を2台目のSharp¥Dataに上書きするとあ~ら、不思議! キャッシャー2がキャッシャー1そっくりになった。

面白いね。あたしって天才!
もちろんこのキャッシャー2も書き換え不能のカウントナンバーがある。チ~ン!

仕事のSharp1をジェーン、予備Sharp2をマイケルとする。おばちゃんは、商品値段や新製品をしょっちゅう変えるので、LUテーブルも編集する必要があるのだ。ジェーンを変更したらマイケルも更新しておく。

なんでや? 仕事のジェーン1のケーブルをネズミがかじって使いものにならへん日があるかもしれんやろ!そしたらマイケルをすぐ差し替えられるやんけ!

お客というのは値段表に紙を貼って書き換えたり、修正液で塗り替えたりして値段を上げると、ムカッとする。値段を上げやがって!と。レシートも値段表もSleekで修正などと影もなくきれいなレシートだと値上げしても案外気が付かないもんだ。ここまでいいぃ?

おばちゃんは、同じ仕事をするのが嫌いなの。だから、昔っから字が下手なの。お習字が嫌いなの。わかりきっている作業を、なんで?何度も繰り返さないといけないのか?
そんなわけで、毎年2月になる前にジェーンを眺めながらう~ん、エディターが欲しいなぁと真剣に思う。

知り合いの台湾人のエミーさんがプログラマーで、聞いてみたことがある。

おば:ねぇ、エミーさんこのSharpをクラックしてエディターを作れない?
エミー:言語のソースはわかる?
おば:言語がわかんないとダメ?
エミー:ソースを見せてくれれば何とかなるけど、なければ私には無理。ウイルスソフトを作っているような人ならできるよ。
おば:そっか、残念。プログラミングを勉強していつか自分でエディターを作れるようになるかなぁ?

一日の業務が終わったらエディターを立ち上げてトランザクションを編集する、Refundや打ち直しの跡もない綺麗なトランザクションを印刷をする。美しい仕事よ!

人間のモチベーションとは意外なところから湧いて出るものだ。おばちゃんは割と根に持つタイプなので、商売をやめた今でもエディターの夢はあきらめていない。何年学校に行ったらいいの?

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