町医者とワクチン

先週コロナ・ワクチンの5回目に行ってきたんだが、相変わらず町の会場はどうでもいいような整理要員を大量に配置していて、また一本予算をつぎ込んだのだろうと思われた。
問診表も同じ形式で、日本語の構造を利用して官僚がひっかけ問診質問を用意している。

・アナフィラキシーを起こしたような重篤なアレルギーがありますか?


ないわ~、医療機関でこんな質問はあり得ないわ~。
ポイントが「アレルギー」か「重篤」か「アナフィラキシー」かよく誤解するように書いてあるよね。

おばちゃんはいつも、重篤の文字を線で消して、持っているアレルギーをリストで書く、これも意味ないね、と思いながら。

考えてもみなはれ。
過去にアナフィラキシーを起こしたことがある人は、第一回目のアナフィラキシーが起きるまで、アナフィラキシーは起きたことがなかった人。ドクターであろうが本人であろうが、アナフィラキシーはいつ起きるか、起きてから初めてわかること。
誰もがアナフィラキシー予備軍かも知れない。

すでにアレルギーを持っている人は、アナフィラキシーを起こすリスクが高いかもしれないから、おばちゃんはアレルギーのリストをいつも書くのである。

私はリスク持ちですからと「告知」してワクチンを受ける意思を示している。問診票を確認したドクターはリスクのあることを見て、読んで、知って、その上で接種をしてよいと自分の名を書くわけだ。

先週のドクターは80歳すぎであろうかと思える総白髪で、アレルギーリストを指さしながら、「こういうのは違うんでね。いいね?」と無知で愚かな一般人を諭すように問診票にサインした。

おばちゃんはいつだか、求人サイトをチェックしていて、役場が接種期前に1時間1000円で求人をしているのを見つけてしまったが、接種場に一日座っているこのドクターの日当はいくらであろうか?と考えた。

医者というのは激務であって、日曜・祭日に休まないときつい。ワクチン接種場の問診医などは小遣いが稼げても、バリバリ現役の医師は応募しないに決まっている。しからば、第一線を退いた引退間近の内科医か、どうしても教育費を稼ぎたい子供がいる40代50代の勤務医か?
おばちゃんは前者の医者と見た。


今回も接種を済ませてアナフィラキシーも起こさず生きているわけだが、夕べ寝る前に“あっ”と思った。

実は、さかのぼるちょうど1年前の1月におばちゃんは町のクリニックを受診した。
クリスマス・イブに雪苺娘を食べて悶絶して、きっと胆石だから切ろうと決意した。切腹せずに腹腔鏡で切るために’専門医を探したら、3つの病院が上がってきた。外科の評判などを読んで、総合病院に予約の電話を掛けた。

ところが、予約ができない。
紹介状がある患者しか診ませんという。おばちゃんは縁もゆかりもない地に引っ越してきたので、地元の医療事情など皆目わからない。日本の医療状況もよく知らんかったが。

それで予約電話の事務に、私はXX町に住んでいるのだが、あなたの腹部外科のドクターはどこの紹介状なら受け付けるの?とダメもとで聞いてみた。
XX町ならXXXXクリニックです。

なるほど、XXXXクリニックで紹介状を取ればよいのか。おばちゃんはさっそくXXXXに電話した。年内はもう押し詰まっていたので、新年早々に予約を取ったが、クリニックでは「いつでもいいのよ。なんなら今日来てはどう」などと人恋しそうだった。


正月のお飾りが取れる前に、XXXXクリニックを訪れると、広い駐車場に割と立派な3階建てのビル。田舎によくある住居兼用の町医者ビルであった。

駐車場はガラガラ、待合室も人がいない。後から入ってきた後期高齢者のお爺は町からのワクチン接種はがきをヒラヒラさせて、窓口の白衣のおばさんと話していた。
その他の患者は誰もいない。

すぐ診察室に呼ばれ、頭が真っ白な大柄の医者がいた。
椅子に座ってもなぜか医者の視線はおばちゃんの右肩の後ろあたりに据えられていた。
「おなかが痛くなりまして。特にとんかつとか、生クリームとか、脂分、コレステロールが高いものを食べると、30分ほどしてみぞおちが痛むんです。痛み止めを飲むと若干和らぎます」

おばちゃんが症状を説明すると、爺医者は左のデスクに置いたカルテに覆いかぶさりながら顔だけ振り向いて、ただし、視線は絶対合わせることなく、
「あなたの症状は聞いていると、糖尿か、すい臓か、胆のうだと思われるけど、ここには検査機械がないのでわからない。私は何もできんのよ。」と言うのである。
「機械がないからね。」
この間、さっき窓口にいた白衣の看護師は50年連れ添った古女房のように、爺から一歩下がって後ろで爺の言葉にひとつずつ頷きながら控えていたのだった。

おばちゃんは聴診器一つ取り出さない爺にあきれたが、爺には紹介状をもらうつもりなので、
「ぇ?それは困ったわ。私はどうしたらいいですか?」すると
「ここじゃ、検査できないんでね。検査をしないといけないんだが、xx総合病院とかXXXセンターとかだとやってくれるから。」

おばちゃんはXX総合病院の名前が出てきたので、シメタと思い
「そうなんですか。検査をしないといけないんですね。でもどうしたらいいんでしょう?」と重ねて言うと爺が
「では、紹介状を書いてあげましょう」おばちゃんは感激した体で「あ、紹介状ですか?ありがとうございます。ではXX総合病院でお願いします。」

紹介状のあて名はすばらしく達筆。XX総合病院 腹部外科XXX先生 とボールペンなのに墨痕淋漓と言いたいほど立派だった。
診察料込みで1610円。

患者と目を合わせられない医者とは何だろう。先代の父医師の時代は多分、町の先生様で名士だったのかもしれない。患者がない待合室をすぎて、いったいどうやって食っているのだろうと頭をかしげながら、そういえば町の広報や高齢者検診、その他ワクチン接種プログラムには必ずクリニックの名前があるのを思い出した。なるほどねぇ。

で、コロナ・ワクチン接種の時にいた白髪のドクターはもしやXXXクリニックのあの人ではなかったか?と思い当たった!

覚えていないのか?
と聞かれれば、実はおばちゃん人の顔を覚えるのは苦手である。
客商売をやってたんだろう?と言われれば、いや~、すんまへん。
どっちかと言えば、おばちゃんはコンピューター・オタクで、患者と目を合わせられない先生寄りの人間である。つけ刃の笑顔で無理やり十数年小売業をやった。生活がかかってないと人の顔が覚えられない。町で次に出会ったらわかるかなぁ?多分、覚えていない。

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