町のイタリアンと味のクオーテーション

日本の地方都市で切実に求められるのは、ハンバーグが出てこないイタリアンと昭和でないパン屋さん。
山の上のレストランのスパゲッティは普通だったので、町のイタリアン・レストランも普通だと思った。三色の国旗が掲げてあれば、イタリアンだと思うよね。

田舎のレストランは女子会かママ会が多いのか、スパゲッティがあって、ハンバーグランチがあってオムライスが出てくるのである。

いつ見ても駐車場がいっぱいなイタリアン・レストランでスパゲッティを頼んだら、
「アルデンテなんで、早く食べてくださいね、伸びるから。」と言われて驚いた。蕎麦屋じゃあるまいし。

食べると芯があったのである、ポキポキと。
固い。モソモソする。生まれて初めて、ポキポキする芯があるスパゲッティを食べた。

さらに驚いたことには、ほんとに時間がたつと伸びるのである。芯があったくせに腰がなくなってクタとなる。

目を丸くして芯があるよ、伸びるよ。
おじちゃんは私がパスタをオーダーすると凄く嫌な顔をする。パスタのゆで加減について文句を言うので、また始まったかと。

しかし、このスパゲッティは問題外。
Laguna BeachのArt Festivalの最中のビーチのレストランで、カッペリーニを頼んだら、真っ二つに麺をへし折ってゆでられてそれもフナフナでくっつきあった麺が出てきて、殺意が沸いて以来。

何か非常な誤解があるのである。この日本の地方の町では。
多分「アルデンテ」という単語がキーだと思う。

都会の人が集まる料理の激戦区から遠く外れたこの町では、アルデンテという言葉が料理の教科書とは別に独自に独り歩きしたに違いない。

麺の中心に糸一本を残して茹で上げて「アルデンテ」で、ソースと絡めて麺に完全に火が入る、デュラエモリナなら。

ところが、このスパゲッティはお客のテーブルの上でアルデンテなのだ。じゃあ、キッチンでゆで上げたときはマッチ棒くらい生があったのか、。それはちょっと、いや大分違うだろう。

麺のクオリティも相当低い。スーパーで売っているあの赤い包装のマ〇ー、純粋日本製の小麦粉スパゲッティだと思う。

青い包装のディラセモリナ粉でできたパスタなら、ここまで身を持ち崩してフナフナになるはずがない。

だけど、アメリカのレストランではフナフナ麺が出てきたではないか?
そのとおりである。あれは、バイトをしている女の子に理由を聞いた。

営業時間が始まる前に一遍ゆでておくのだそうだ。それでオーダーが入ったらもう一度茹でる。アメリカ人はアルデンテなんて気にもかけずフナフナで十分だから。ちゃんとしたイタリアンは最初からキチンとゆでる。

あまりにもショッキングな経験だったので、あちこちの3色の旗が出てるお店に行ってみたが3回に2回ポキポキのマ〇ーが出てくるので絶望した。どうしてサ〇ゼリアにできて、町のイタリアンにできないのだろう?

話は、脱線するが
おばちゃんがサイゼリアをほめるのは、これ以上原材料を落としたらみすぼらしくなるお料理を、ギリギリ手前で踏みとどまって、
最大公約数の満足をさせる味付けへ変身するサーカスみたいな芸が成功しているから。
サイゼリアが作り上げたこのビジネス・モデルがすごいと思っている。

値段が今の2倍なら奇跡のサーカスではなく、やる気のないただのファミレス。アメリカに持ってきても、人件費材料費など諸費用の点で絶対に日本と同じにできないので、今のところ日本だけで咲いている世界で一つの花?

味と値段のクオーテーションがある。
クオーテーションが正しければ、客は満足する。えっ?そんなものがあるの? うん、おばちゃんが今作った。

例えば普段に食べるS店のペペロンチーノがワンコイン500円とする。
有名シェフが厳選したイタリア直輸入のスパゲッティとオリーブオイル+日本の最高級のニンニクを取り寄せて、腕によりをかけて作ったA店のペペロンチーノ2500円とする。

A店2500円はS店の500円の5倍だ。味も純粋に5倍おいしいかというと、5倍にならない。
一流店でも2.5倍くらいではないか。これが5倍なら本当にすごい。おばちゃんは、常連さんになる。

ところが実際の味の倍数はせいぜい2~3倍。これはおかしくないか?
値段の半分は純粋に味を構成する素材以外の付加価値から成り立っている。

シックな店の雰囲気・内装、こぎれいなウエイター、広告費、シェフの生活費に付加価値分が回されるから。

おばちゃんは、お正月の番組の「格付けチェック」を見るのは2回目だったけど、あれを見れば人間の「舌」なんて店の雰囲気とメニューの能書きで何とでもなるとよくわかる。

このクオーテーションの倍率が正確であれば、人の満足は大きくなる。
人が普段行くS店のメニューPを基準にして、別の店の味が2倍増しで、値段も2倍に近ければかなり上出来。

今日は付加価値(ゆったりした雰囲気)にお金を払いたいと思えば、C店。
クオーテーションは技術サービスのビジネスでも使えるから、基準の店を決めれば、エステやネイルサロンに自分が一体何にお金を払っているのか、本体の技術か付加価値か?一遍見直してみると賢い消費者になれるのではないか。

サ〇ゼリアに戻ると、何の能書きもない当たり前の素材で当たり前のシェフが料理して、7割の客に8割の満足を与える芸がすごいのだ。おばちゃんは料理をほめていない、芸をほめている。

ここは地方都市だけど、美味の国、日本に帰国してきたのだ。ハンバーグが出てこなくてキッチンでアルデンテのスパゲッティが食べられるイタリアン・レストランがどこかにあるに違いない。おじちゃんと捜索中である。

カラムとは俺のことかとカラム言い

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