ロングビーチのキャット・ショー

ロングビーチのコンベンション・ホールは、入口でアドミッションを支払い、ホールに入ると見たことがない景色が広がっていた。

会議用の細長いテーブルの上に猫の横長ケージが乗ってそのケージが先頭のステージまで波のように続いている。CFA主催のキャット・ショーで今日のメインはスフィンクス。入口で白人のカップルが2匹のスフィンクスを出場登録をしていた。

ケージの中にいる猫様はスフィンクスだけではなかった。長毛や短毛、図鑑で見られる様々な猫がケージの中で鳴きもせずすましていた。

そのケージたるやまた目を奪わんばかりのフリルとレースときらびやかな色の奔流だった。他の猫を刺激せぬよう覆いをかけるように推奨されていたせい。

本物の家よりゴージャスに両開きカーテンの縁はフリルで飾られレースで二重になっているもの。
あるいは猫の毛色に合わせた淡い色でドレープをたっぷりとったサテンのカーテン。

おばちゃんは後にネットで調べて、この猫のケージのカーテンを専門で作るカーテン屋さんがいて、一作1200ドルから2000ドルもすることを知ってひっくり返った。

参加者は99%の白人。
女性が圧倒的に多いがカップルでの参加もある。おじちゃんとおばちゃんは人生初の光景に圧倒され、きらびやかなケージの合間の通路を口を開けながら歩いた。お猫様は皆きちんとお座りしている。

実際の審査の呼び出しがあるまで自分のケージが控室だ。ケージの前でスチール椅子に座った白人のおばちゃんが人間用の瓶入り離乳食をスプーンで掬って猫様に差しだし猫様はスプーンから女王様のように召し上がっていた。

鳴かない、動じない、怯えない。長毛の猫様はブリーダーの白人婆さんがブラシで毛並みを整えるのに余念がなかった。

長毛の猫は見たことがないほど純白でチカチカ光っていた。次のケージも猫様は静かに座っていた。
ベンガルだったかもしれない。おばちゃんは短毛の猫が好きなので、白人のおばちゃんにどこからいらしたのと聞くとアリゾナから、と。長いドライブが大変じゃない?そうね、でもこの子達は訓練しているから。

後にテレビの番組で猫のブリーダーストーリーを見たが、ブリーダーはキャットショーに出すために、子猫の時からでっかくうるさいフーバーの掃除機をわざと猫のそばで動かしたり、鍋やフライパンの底を麺棒でガンガンたたきながら猫を追い回す光景が映った。

怯えたりびっくりしてリングから逃げ出したりしたらそれだけで失格になってしまう。普通の家猫よりもずっとタフで動じない猫たちに育つのだ。野良猫を保護して育てたおばちゃんにはとても信じられない世界だった。

日本から連れてきたニャーにゃんに死なれてしまって、おばちゃんは何か月も動けなかった。
フリーウエイをドライブしているとふっと涙が出てくる。ニャーにゃんが生まれてから離れたのは一時帰国した10日間だけ。その家族がいなくなってしまった。心配したおじちゃんが頼んだのか、日中に友達が花をもって尋ねてきたりした。

日本のように野良猫がその辺を歩いていたりしない。コヨーテに食われてしまうから。アニマルシェルターに行ってみたけど、その時にいた若い保護猫は気難しくて単独飼いを推奨されていておばちゃんたちの要望とは合わなかった。もし、シェルターに引き取りを希望したとしても外国籍の私たちは譲渡の順位は随分低かっただろう。

ニャーにゃんは典型的な日本猫だったけど、顔が三角で耳と目が大きかった。おばちゃんにはこのタイプが刷り込まれていて長毛が混じったり丸顔の猫は別の動物のように見えた。

ナナちゃんの健康診断とIペットショップと提携の獣医に連れていったらそこの先生が当のブリーダーだったナナちゃんが3か月で風邪を引いてペットショップから診察を頼まれた時も、偶然この獣医のエリザベスが診ていた。ナナちゃんを褒め、もしキャットショーに出せば絶対チャンピオンが取れる子よと言う。

おばちゃんたちは家族が欲しかったので、チャンピオンが欲しくて飼ったわけではない。
でも褒められて悪い気がしなかったので猫雑誌を買ってみた。そこに全米のキャットショーのイベント・スケジュールやブリーダーの広告がわんさと載っていたのであった。おばちゃんたちはロングビーチのキャットショーに来てみた、どんなもんかと。

リング

そしてとんでもない世界があるもんだと圧倒された。並みいるケージの先頭にはリングがいくつかあって、そこにはブリード専門のジャッジがいる。スフィンクス、ヒマラヤン、ベンガルそして、無論ドメスティック(家猫)もあった。

まずジャッジがスタンバイしていたケージから猫を取り出すとステージの上に置いて、骨格、顔立ち、シッポの長さ、毛並みの色、瞳の色などそのブリードを特徴とする要素をチェックしていく。

特徴がそろっていればOK。次には猫じゃらしを取り出し、猫の反応を見る。怯えたりジャッジにかみついたりひっかいたりしたら合格はもらえない。猫じゃらしにじゃれついて猫らしい反応ができた猫は合格。

ジャッジがお腹の下に手を入れてお猫様を差し上げて合格!と宣言すると、リングの真ん前に5席ほどギャラリー席があって、そこに陣取った白人のおばちゃん、おばちゃんの友達がきゃーエミリーmy sweet heart!とパチパチ拍手する。
ジャッジは猫をケージに戻してケージに布のおリボンをつける。ケージにはすでに赤のおリボンが3つ黄色のおリボンが2つついていたりする。

ブリーダーで獣医のエリザベスによると、並みのおリボンを10個獲得すると、チャンピオン・リーグに出場する資格ができるのだという。チャンピオンリーグで5個おリボンが溜まるとグランド・チャンピオンに出場権ができる。

ウチのアルフレッドがグランドチャンピオンを取るのは大変だったと言う。キャットショーは全米を巡回して土曜・日曜日に開催される。まず猫のエントリー費用がかかり、他州の場合は泊りがけで土曜日曜をつぶして連れて行かねばならない。並みのおリボン10個とチャンピオン5個を取ってさらにグランドチャンピオンを取る費用を考えると総額いくらになるだろう?

おばちゃんはグランドチャンピオンなどというお猫様やお犬様が世にいることは知っていたが、何か並みにないExtraodinary/卓越した何かが猫にあって賞を獲得したのかと思っていた。猫や犬がブリードの特徴に収まっていればおリボンは取れるようだ。

ただ賞をとるにはまず飼い主が並外れた情熱と費用がいる。世の輝やけるグランドチャンピオンの賞は、飼い主がExtraordinaryな情熱と金を費やしたという勲章である。あなたの猫や犬だって美しくて可愛い。
ニャーにゃんだって可愛かった。無冠のチャンピオンだ。ただ、ショーに出ていないだけの話。物珍しさにおばちゃんたちはもう少し探検することにした。

リングにはいろんな猫種がいた。ギャラリーが多いのは当時の人気のブリードだった。
ベンガルとかロシアンブルーとか。椅子が足りないので後ろに立って、Oh, loveryだのMy girlだとワンピースのおばさんたちが甲高い声援を送っている。Domestic Cat家猫のリングは家族で応援してた。It’s an american family.つぅ感じのファミリー。

ケージの列の間で誰かがCat out!と叫んだ。猫が逃げたらしい。
テーブルの下を駆け回ったらしいがすぐ捕まった。Cat out of the bagと言い回しを思い出してなんだかおかしかった。

猫専属カメラマン

一通りリングを回って展示エリアに来るとそこには撮影テントがあった。猫専用のポートレート撮影カメラマンがアメリカン・カールの撮影をしているところだった。
おばちゃんたちは観察した。テントの中に小高いステージがありブルーグレーのサテンが敷き詰めてあった。背景は少しブルーが強いサテン。

お猫様はポーズを取り、カメラマンはフロアにしゃがんでカメラ目線を欲しかったのか、なんと左手に猫じゃらしをつかんで背中に回し、猫じゃらしの先っちょを自分の頭の上に出して、振った。猫がカメラマンに視線を向けると、右手で撮影スイッチを押して一丁上がり。1枚700ドルするようだ。すごいわ、猫専属のカメラマンで生活できるなんて。

こうしてプロが撮影したポートレートをCFAの猫雑誌に載せる。2004年度グランド・チャンピオンとか。次のコーナーは猫のおもちゃ、キャットタワー、キャットフードなど猫グッズが一杯。
おばちゃんたちは記念に猫じゃらしを一本買って帰ることにした。

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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