田舎暮らしと虫

おばちゃんの血液型はOである。
蚊から最も好かれる血液型らしい。5月の半ばから11月までは庭に出るときに絶対素肌を出さない。長靴とズボンの間に5センチでも隙間があって素肌が出ていると蚊かブヨに刺される。
それはもうおじちゃんから笑われるほど刺される。おじちゃんは無傷なので。

おばちゃんのお薬手帳は、虫刺され・かゆみ止めの軟膏の行列である。蚊、ブヨ、あしながバチ。ハチ毒にアレルギーがあるので、スズメバチに刺されたらサヨナラだと思っている。

平成の間乾燥したカリフォルニアで暮らしたから、日本の蚊やブヨに無縁で耐性がなくなったのだと思う。刺されるとはれ上がって痒みが引かない。ブヨに太ももを刺されたときは鏡モチのようになって歩くとこすれて痛たかった。股ずれとはこんな痛みかと理解した。
12月に庭でブヨに瞼を刺されたときも、おじちゃんに笑われた。右瞼がはれ上がって視野がふさがってしまって仕事を休んだ。だって右目が見えないから。

足の常在細菌のせいで蚊に刺されやすいと高校生の例の研究を読んだ後、足を洗ってから庭に出るようにしてみたが、足を洗おうが、山の野生の蚊は半端な虫よけスプレーや虫よけシールなどもものともしない。ガードが弱いところを狙ってくるのである。香取線香が一番効果的かもしれない。

山の蚊やブヨはどのように質が悪いかというと。
ネット付帽子をかぶり園芸用手袋をしていても、手袋の甲の部分がメッシュで手の甲の関節を刺された。指の股を刺されたときは「かゆみパッチ」をどう貼っていいか分かんなかった。薄い生地の作業ズボンはかがんだ時に、お尻の生地がピンと張ると刺される。生地がだぶっとしていると針が届かないのだ。レギンズなんか素肌と一緒。ぼこぼこに刺されるので気温30度を超える真夏でも厚めのデニムが推奨である。

2年目の夏、寝入りばなにおばちゃんの顔に天井から虫が落ちてきた。
悲鳴を上げて電気をつけ慌ててダイソンで虫を吸ったらカメムシだった。慙愧の涙である。ダイソンがカメムシの臭いで汚染されてしまった。おじちゃんが我慢できずにファブリーズを部屋とダイソンに吹き付けたら吐きそうになった。メロン系の匂いのファブリーズは絶対カメムシに使ってはならない。おばちゃんの遺言である。

猫を飼っていてつくづくよかったと思う。何故なら猫たちは虫探知機なのだ。
トムとジェリーをやっている2匹が何故か異様に静かで、寄り添って壁の隙間や床の1点を見ているときは要注意である。ティッシュかダイソンを持って近づくとヤスデだかムカデが見つかる。ゴキブリも潜んでいた。


この間、寝ぼけてトイレに起きたらトイレのドアに背を向けて、2匹が目をらんらんと光らせて洗面所のドアの隙間を見ているのでオカルトかとおじちゃんをたたき起こした。ゴキブリだった。ゴキブリは刺してこないがヤスデだかムカデは刺すらしいのでモジョモジョが見えると悲鳴を上げてしまう。

カマドウマは子供のころ好きだった。
もっこり背むしのような姿がかわいいではないか、おじちゃんがかまれて血を流すまでは。カマドウマに歯があるとは知らなかった。
ステンレスのバスタブにイモリ?(お腹の赤くないの)がステンレスを登れなくてジタバタしていた時は可愛かったね。おじちゃんに見せてから逃がしてあげた。

さっぱりわからないのは、家のどこからどうやって入ってくるのかわからないこと。イモリやカメムシが入ってこられるような隙間が無いんだけど。田舎に住む、山に住むということは自然とともに住むということで、自然というのは虫がたっぷり住んでいる場所だ。豊かな自然には豊かな昆虫が生息するのですね。


ふんだんに降る雨と豊饒な土地と虫は切り離すわけにいかないからね。今年はカンパニュラとジキタリスが思いもかげず絢爛と咲いたから見たこともないほどミツバチが花の蜜を吸いに来ていた。

ミツバチも人がちょっかいをかけなければおとなしく蜜をすって帰るだけ。山で養蜂をやっている人もいるらしい。この山地元産の蜜をセブンイレブンで売っていたから、瓶の何万分の1はおばちゃんちの花の蜜だと思うとちょっとうれしい。蜂蜜の味が嫌いなので絶対買わないけど。

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