隣のパン屋のクリスが焼くのはペストリーだったので基本甘い。
クリスはオーストリーの出身。甘さの基準が違うのだった。アメリカ人とヨーロッパ・オーストリーの甘さの基準は似ていたと見えて、パン屋は結構流行っていた。
甘くないのはクロワッサンとハム&チーズのクロワッサン・サンドイッチだけ。
ハム&チーズは一つ食べるとものすごく胸焼けがしたので、クリスちゃんにクロワッサンでもなく甘くない普通の食パンを焼いてくれない?と頼んだら「うちはペストリーショップだから」と真っ向から断られた。
朝、仕事にやってきてお隣でコーヒーを買い、なるべく甘くなさそうなシナモン・ナッツロールとかラズベリー・チーズとかを選ぶ。おじちゃんと半分こして食べる。シナモン・ナッツロールは焼いたばかりでクルミがまだサクサクしていた。やっぱり甘くてクルミがこぼれるほど入っている。
パン屋は6時半に開店する。朝の早いアメリカ人が朝食にペストリーを買っていくので、おばちゃんが出勤するころにはずいぶん数が少なくなっている。ラズベリーチーズは甘すぎなかったが、隣の隣ヘアサロンのサラがやっぱりこれを好きで、先にサラにラズベリーチーズを買われてしまうと、あとはねちょっりと甘いブルーベリー・マフィンかバナナマフィンくらいしか残っていないのだ。
ビジネススタートした時点では甘いペストリーが朝ごはんなんてとうんざりとしていたのに十年もたつと朝ご飯はペストリーかドーナツ、と体質が変わってしまった。
日本風の朝ごはんという文化と観念と習慣が完璧にぶち壊されてしまったのだ。
まず第一にハンディ。糖分が高いので食べるとすぐ目がぱっちりさえてくる。ペストリー一つで胃にたまらない。日本に帰ってきてもセブンの菓子パンの種類がすごく豊富なので幸せ。山に軽トラで売りに来る移動パン屋さんがあって、そこのアンドーナツが一口サイズで甘すぎずにドンピシャ。
でも、日本で朝ご飯の代わりに甘い菓子パンを食べると、なぜか後ろめたい。やってはいけない背徳の習慣のような気がする。
そういえばアメリカで背徳の食生活というと、アイスクリームのガロン食いという女の子がいた。
日本の洗面器より深いバケツサイズのガロン(3.7L)のアイスクリームを抱えて食うという荒業。
アジア系にはたまにラクトース不耐性がいるのだが、その不耐性を耐性にする何とか錠剤がアメリカにはあるので、それをポリポリかじってからバニラアイスをどんぶりいっぱい食べるという知り合いのご主人もいた。
おばちゃんも実はミルク不耐性があって、生のミルクは350cc以上飲めない。アイスクリームは調子がいいとどんぶりいっぱいイケる。
ガロンサイズのアイスクリームはコスコならあるとおもうが、あれは確実に太るからなぁ。ハーゲンダーッのチョコクランチーバー・ダース入りを毎晩食べると、2パウンドくらい太るね。
あまり大ぴらに言いたくない生クリームの絞り出し缶。シュワワ~と絞るやつ。
缶を振ったら天井を仰いて口に生クリームをガーっと絞る。泡だから意外と触感は軽い、息はできないけど。
パクっと口を閉じると、クリームがのどを滑り降りてしまう。これは姿がやばいのであまり人に見られたくない。もともと甘いもの好きではなかったのになぁ。クリスのせいで、すっかりイケない人になってしまった。
隣のベーカリーのジャネットおばちゃんは、ここのショッピングモールの私設・広報局だった。先代のベーカリーが、現オーナーのクルスに売る時、ジャネットも付いていた。