トム・ガール Tom Girl

おばちゃんが協調性のない性格に育ったのはヨシハル君のせいじゃないかと思うの。
近所に同じような年ごろの子はヨシハル君くらいしかいなくてヨシハル君は私より小っちゃくてスピードが遅かったのね。おばちゃんはせっかちで待ってられなかったから一人で遊ぶようになっちゃったのよ。

タモをもって田んぼの水路にタナゴを掬いに行ったり。暗渠には小魚が集まるのよ。ドジョウなんて雑魚だから。婚姻色がでたタナゴが宝物だったから。すごくキレイなの。

大きい池の場合は手が届かないので裏の竹藪から竹を切って物置に落こってた浮きをつけて、餌はどうしていいか分かんなかったから、駄菓子屋さんに買いに行ったの。売っていなかったわ。

タナゴは捕まえたあと、水槽に入れて飼うんだけど淡水魚は水が流れている環境じゃないと自然の美しさが褪せてしまうのね。池があるといいなぁって。それでおばちゃんは玄関の坪庭にスコップで穴を掘った。そして父から叱られた。

上のお姉ちゃんたちは相手にしてくれないし、隣の敷地の従弟ももう高校生になってて小汚い
男の子みたいなちっちゃな従弟には興味が無くてオートバイを乗り回していた。
バイクっていいなと思ったのよ。好きなところにどこへでも行けるじゃない。行動の自由があるってすごいわよね。

保育園の時からみんなで一緒に行動しないといけないのがイヤだった。良く脱走して隣の小学校のプールの基礎の下に逃げたわ。絵本もかくしてあったし。目の前の田んぼのオタマジャクシを見てる方が幸せだったし。

ヨシハル君も遊び相手にならないし、お姉ちゃんたちも相手にしてくれないからおばちゃんは本を発見した。文字の読み方は教わった記憶がないの。一人で本を見つけた気がする。一冊の本に一つの世界が詰まっていて衝撃だった。

自分の知らない世界、川の向こうや山の向こうの世界。おばちゃんは小学校の図書館でせっせと本を借りだした。少年少女世界文学全集なんて繰り返し読んだわね。偉人伝は避けた。1冊読んだらつまんなかったんですもの。

不運な境遇にも負けず親孝行しながらコンナ偉大な人になりました。なんて馬鹿じゃねぇ、気持ち悪いし。

16歳になるまで長かったわ。原付の免許が取れるのが16歳高校生。高校生がバイトできる時代でも環境でもなかったからおばちゃんはまだ我慢するしかなかった。その代わりにバイクの雑誌を買って研究した。どのモデルがカッチョいいか?原付の免許はこっそりとった。

大学。念願の一人暮らし。
最初の夏休みに車の免許も取ったからもう車なら公道も走れるの。初めてのバイトをして少~しづつ貯金をして2年目の秋についにバイクを買ったの。

一人でバイク屋さんに行って、下見をしておいたスズキのマメタンを指さしてこのバイクをくださいって。
背もたれのシーシーバーを特注で付けてね。納車の日、ヘルメットを片手にバイク屋さんに行って
残金を払ってキーをもらったのね。

それでおばちゃんは思い切ってバイク屋さんのお兄さんに、どうやって運転するんですか?って聞いたの。だってバイク雑誌にはエンジンのかけ方が載ってないから。

おばちゃんの運動神経はいいのよ。
野っぱら駆け回ってたから短距離と障害物競争は1番よ。学校も自転車で通ってたしね。バイク屋さんでエンジンのかけ方を教われば、アパートまで帰れた。駐車場は近くに借りたし。

バイクの運転テクニックというのは自分で転んで覚えるしかなかったわ。昭和の末に女の子がバイクを乗ること自体がまれだったから、同好の女子は存在しなかったの。大学では幻のスズキと言われていたらしい。

その当時おばちゃんにとってバイクとは移動の手段の中で好ましい乗り物であって、バイク人生とかバイク文化を目指していたわけではなかった。バイクの運転技術とか性能とかそれほど興味が無かったしね。バスとか通勤電車のように他人と接することがない一人で風の中を移動できる快適さが快かったの。

何がやりたいのかまだモヤモヤとして形になってなかったわ。もっと広い世界に行ってみたかった。
学校とクラスメートとサークルとバイトの世界。自分とは少し違うけど変数の内に収まるタイプの人々。一度ナニナニ方面ナニナニ風タイプと定義されると、その定義に合うように一生懸命努力する人と人生。

な~んか違うんじゃないかな。
なんだかよく分からないけど卒業して結婚して子供を産んでという一般コースはどうしても魅力的に思えなかったの。

おばちゃんの父は長男で、3人女の子が続いた4子がまた女の子だったから、子供のころからお前が女の子だったらと言われ続けて育ったのよ。これは地方のご先祖さまのプレッシャーを考えると、父も母も大変だったと思う。渡米してからこういう女の子をトム・ボーイならぬトム・ガールTomGirlと言うんだと知ったわ。

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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