アメリカの医療

洗礼

病院のベッドにヘロヘロで横たわっていた時、備え付けのテレビが映していたのは、オームに突入している警官だった。不吉だと思った、こんな時に。

そのあとに流れたのは、医療ミスのニュースで右モモを切断するはずが、左を切断されてしまった。こういう右左の取り違えはよくあるのですね。だから、自分の疾患が左右のどちらかだったら間違っている方にこんな風にバッテンをしてWrongSideと書いておきましょう。レポーターがマジックをもって、自分の足にバッテンを書いていた。 縁起でもない。

おばちゃんは脱水とメタボリック・アシドーシスを起こして、救急病院に運ばれたのであった。直接の原因は膀胱炎と日本製の膀胱炎治療薬のせいであったが、飲みすぎで肝臓の数値はかなり高くなっていたらしい。

バイタルとられて血液検査の結果を見てERのドクターは処置室に飛び込んできて「なんでこんなに飲むんだ!」と無礼なことを叫ぶので、おばちゃんもかっとなり、
「曰く言い難し!」と言い返したら、カルテに反抗的と書かれた。

患者が死にそうでないとわかったら、アメリカの病院では必要なコードをつけて転がしておくだけである。その晩は日曜日・母の日で救急病院も大忙しであったから、おばちゃんは廊下の端っこのベッドで転がされていた。


脱水がひどいので一日補液をしたほうが良いからと個室に移れた。おばちゃんは渡米3年目でアメリカの医療制度をまだよくわかっていない。そんなときにテレビに映ったのがニュースがオウムと医療過誤。

アメリカの病院のガウンというのは、なんというか人間の尊厳を覆う衣料ではなかった。コットンでできた半そでのかっぽう着みたいなもん。後ろはひもで結んであるだけ。ガウンの下は素っ裸。大柄なアメリカ人のおっさんが超ミニの水玉のかっぽう着で、IVのスタンドを持ちながら廊下をガラガラ歩いてくのが見えた。後姿はお尻丸見えである。

そのうちERで私に怒鳴った担当医がやってきて、膝を立てろだの、右わき腹が固いだと言ってお前知ってるかガンマGTPが900越えだとかぬかすのである。おばちゃんのアシドーシスのきっかけは膀胱炎だったのだから、抗生物質を処方してくれと頼んだら、なんということか、退院した後にかかりつけに見てもらえと。おばちゃん憤然であった。

退院してかかりつけ(Primary Ccare Physician)に電話しても混んでいれば予約がいつになるかわからない。なんつー血も涙もないドクターか。

夕食はナースが注文を取りに来て、メインディッシュはチキンか魚かチョイスがあるのであった。運ばれた夕食は、昔の映画で出てくるような大きな半円形の銀色の覆いがかぶさっているのであった。味はそれほどまずくない。星は3点。

浮袋ほど大きい点滴を2袋も打たれて、B12の無痛化されてない注射をお尻に討たれた後、退院となった。退院の前にはまたナースがやってきて、
ディナーのパンは付けました?朝ごはんの時のコーヒーはお代わりしました?おばちゃんは、こまケェな?と退院したのであった。

1週間後、血液検査ラボやガス検査室やらERドクターやら病院やらから、請求書が続々と舞い込み始めたのである。この請求書がいつ止まるのか、おばちゃんは真っ青になった。

アメリカの健康保険

おばちゃんは何故いろんな請求書がラボやERのドクターや病院から別々に来るのか分からなかった。ナースの看護費も別で請求が来るのか?救急病院に入院したのだから、病院が一括して請求するのではないか?

救急車料金も別だった。救急隊員からサイレンを鳴らすかどうか聞かれた。鳴らすと高くなる。

距離のマイレージもかかる。健康保険と提携していない救急車だと、保険でカバーされない。病院の入院費は一晩700ドルだった。

明細にBedpanレンタル1.50ドル。こんな単語を目にすると思わなかった。
まさかと思って辞書を引いて単語確認したけど、私はおまるは使わなかった。ナースの間違いである。
いつ、治療費の全貌が分かるのだろう?

最終的に医療費の総額は$2700となった。う~~ん。う~~ん。おばちゃん、補液されて寝てただけである。ビタミン注射が一本である。膀胱炎も治療してもらえなかった。

アメリカの健康保険は100も200もあり、制度もHMOやPPOは1回聞いただけではさっぱりわからないほど奇々怪々である。

似ているものとしては車の任意保険かもしれない。まず、補償限度額があり、自己負担の免責額があり、免責額が高ければ、月々の保険料は安い。
保険の提携ネットワークがあって行ける病院と行けない病院がある。どこでも行ける健康保険は高いと思ったらいい。

会社で加入する場合は会社が保険料をある程度負担してくれる。保険料を決めるのは年齢と健康状態である。同じ保険会社で若いころからずっと加入していて保険をあまり使わない健康体なら掛け金があまり上がらないので、
転職しても会社の保険に加入せず、自分で保険を払う人もいる。

転職先の会社がどんな健康保険を入れるか、どんな医療サービスがあるか予想がつかないしまた、万が一持病があって今の会社の保険なら加入後に発病として治療が効くが、別に新加入する場合、既往症として治療お断りという事象が発生する。保険加入自体がお断りということもある。

会社がつぶれて保険が無くなったとか、子どもが成年に達して掛け金が変わるとか、もう、とにかく色々あるのである。健康保険がないときはどうするかというと、現金プログラムをやっている病院クリニックもある。
病気の時だけいって、現金で払う。高すぎるならあきらめる。
この無保険の問題は長年アメリカ社会の課題であって、ヒラリーも皆保険を実現させようとしていたができなかった。

オバマ・ケア オバマの健康保険

オバマが政府の保険を作ったが、さらに問題を産んだだけだった。健康保険に入れない低所得者層に政府が補助をするのだが、その補助額が支援として所得税の対象になる。また、政府の保険に加入しなければ、罰金Penaltyをとる制度などと非難轟轟だった。

それでも施行された保険制度は、3年目にもなると政府の補助を足した後も掛け金が初年度の3倍にもなり、さらに、払えなくて加入できない所得層が出てきた。何故なら、今まで保険に加入できなかった層が医療サービスを一気に使い始め、病院はたまらず保険会社は掛け金を吊り上げたのであった。

仕事があって、会社が保険をいくらか補助してくれてでも、癌になったら医療費で家が一軒無くなる。と言われていた。

アメリカの治療費用

アメリカの健康保険がいろいろあって掛け金も違うと、で、一体治療値段はどうなんだ?と思ったあなた、鋭い質問である。

治療の値段はピンキリである。

例えば、おじちゃんの咳が止まらないので保険で受診してレントゲンを一枚撮ったら診察料込みで$80であったと、。別の病院で別の機会にキャッシュで払う現金プログラムだったら$50だった。

交差点で追突されて、救急病院で診察を受けレントゲンを撮った。この場合、交通事故なので相手の保険にレントゲン一枚$1200請求された。

脳のCTスキャンをするかどうか、現金プログラムだといくらか聞くと$2000 保険を使うと$200から$400
知り合いが腹部の腫瘍で手術をしたとき、CTスキャンの料金だけで病院から保険に請求された金額は$10,000。

知り合いは癌の手術で保険カバー後の、支払額は$70,000だった、いい保険だと聞いていたのだが。別の知人は胃潰瘍の手術で$20,000保険が違えば同じ治療同じ手術でも違う値段になってしまう。医療の定価がわからない。

さらにアメリカの法律では、救急搬送された患者に対して、医療を拒否することができない。
救急医療の金額は、現金プログラムや保険を使った費用の20倍だと思ったらよい。盲腸炎で救急搬送、手術なら$30,000を超えても不思議はない。つまり、救急は目玉の飛び出る金額になるよっと。

知り合いは、自動車事故で救急搬送された。車は炎上して全損するような事故。ところが、金を持っていないので病院に払わなかったという。$ゼロ!確かに払わなかったが、信用度はなくなった。車のローンすら組めなくなる可能性がある。病院は医療費を取れるところから毟り取るという図式が成り立つ。

だからアメリカ人は風邪ひき程度では病院に行かない。子どもが健康で病気一つしないから、掛け金がもったいなくなる親はいる。長く健康で保険に入らなかったとしても、いざ保険に加入しようとしたとき、無保険であった年月が長すぎると、何か病気を隠してると考える保険会社はある。

アメリカで医療費を抑えるためには、安定した会社に勤め、健康保険の半分を払ってもらいバランスの良い食事とエクササイズを欠かさず、定期的に健康診断をして予防を欠かさないこと。これが一番安上がりである。

病院の会計はタフでなければならない

タフでなければ生きていけない。あれはいつだったか、救急病院で診察を受け、経過観察のため、1週間後に再受診した。支払いは後日請求書を送るということで待っていたのだが、2通同時に着いた。小切手に1通めと2通めの請求額を合計した金額を書き、小切手の右上には請求書にあった私の患者ナンバーを覚えに書き郵送した。

2週間後、病院から再度請求書が来た。
小切手の処理が遅くて、会計がいれちがいで再度請求書を発行することはままあるのでほうっておいたが、2週間後また請求書が来た。うざいので、病院に電話をしてすでに支払った旨を伝えると、会計はもらってないという。
そんなわけはない。
ちょっと待ってろと、銀行のステートメントを確認すると、間違いなく当の小切手は現金化されている。

すると相手はアカウントのXX1は支払われているが、アカウントXX2が未払いなので支払えという。
”あぁ?アカウント1も2も合計した金額を払ったろ?”
会計:んにゃ、あんたは小切手にアカウント1と書いたからアカウント1に全額入れた。
おば:”んだあぁ?! アカウント1に全額入れて、2に未払いってバカか!じゃあ1の余分を2に入れればいいだろうが” すると
会計:”会計はそんなやり方はできない。とにかく未払いのアカウント2を払え”
おば:今から病院に行く(ババアそこで待ってろとは言わなかったけど)腹が立って腹が立って。


銀行のステートメントをもって、救急病院の地下牢のような暗い会計部に行くとデブで人相の悪いババアが二人いた。とにかく、電話で言ったことを繰り返し、そっちで処理しろというとがんとして拒否する。

だったら、アカウント1の払い過ぎの分を今返せ!そしたらそれでアカウント2を払う。するとババアは返金は本部のテキサスしか扱わないので返金はできないという。一度金を握ったアメリカ人から金をとり返すのは大変なのだ。

おばちゃんは敗退して帰った。
テキサス本部の病院の会計部に手紙を書き、払いすぎたアカウント1の余剰分の返金を要求した。無しのつぶてだった。1月後に債権回収会社CollectionAgencyから電話がきた。病院から未払いのアカウント2が回収会社に回されたのだという。

心底ん~ざりして、加入している健康保険のカスタマーサービスのマネージャーに電話をして、事情を説明するといいわ私が交渉してあげるという。

それからしばらくして、マネージャーから電話があり、「うふふ、解決したわ!」と報告を受けた。

どんなふうに解決したの?と聞くと、あっちが使った同じ債権回収会社に、私が支払いすぎたアカウント1の回収を頼んだのだという。うまい!座布団1枚。

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