留学生あるある 恋愛と永住権

おばちゃんはこれから世界に羽ばたこうとしている若者の夢を壊すつもりもなければ、勇気をくじく意図があるわけでもない。どちらかと言えば、おばちゃんのこのブログを読んで異国の地で墜落や沈没せぬよう励ましのつもりである。

日本の最新ファッションはOCでもわかる。日系スーパーに行くと、その時々の日本の最新ファッションに身を包んだ留学生がいるからだ。ある時はみんなチロル帽みたいな帽子をかぶり、リュックを背負って底が厚い靴を履いた女の子が見られた。
ある時はショーツに黒いタイツでつま先をㇵの字して唇を突き出した女の子がいた。
元々曲がった足をㇵの字にすると、さらに姿勢は悪くなってただでさえ見苦しいスタイルがますます醜い。

この国では、小っちゃくて可愛い女の子を喜ぶひ弱でオタクな男はいない。いやん、と身をよじって上目づかいでシナを作っても、寄ってくるのは同じくスタイルの悪い日焼けでくすんだ駐在員だ。

なんだか勝手が違うから、ひらひらのスカートをやめ染めた髪も褪めるままに、化粧も変わり意思表示をはっきりし、気が強くなって現地化してゆく。

留学生は、語学学校からカレッジさらにユニバーシティとトランスファーしていかねばならない。現地の語学学校は最初こそ目新しいが、やっていることと言えば日本でもやった文法やイデオムであったりするから、ダレてきて休む。

休んでも学校は何も言わないからバイトに精を出したりする。学校としては、全生徒が出席するととても教室が足りないので、
適当に休んでくれた方がありがたい。留学生ビザをキープするためには語学学校に所属し、学校が発行するI-20に金を払わねばならない。留学生は大切なお客さんなのである。

志高く目的をもって来た留学生ばかりではない。おばちゃんが聞いた一番情けない例はバイトも見つからず部屋を追い出され、語学学校に泣きついて(経営者も日本人だったから無下にできなかったのかも。)

学校が経営する他分野のビジネスに留学生を雇った。食べさせて住まわせて働かせて給料はなし。何のことはない、無料の従業員を飼っているようなものだ。異国で生活していく最低限の才覚がない留学生なら、おばちゃん、「日本へケエレ」と思う。

日系人の家に間借りして、禁止されているのにボーイフレンドを連れ込んで追い出されたり、夏休みにルームシェアの仲間が一人帰り家賃増加分がなくて貸してクレクレ

DUIで捕まって違反記録を消すのに弁護士費用がなくてクレクレ交通違反でポリスに止められ、文句を言ったらペッパースプレーを掛けられた、、、あるある。

めでたく語学学校を出て多少英語に自信が付きとりあえずカレッジに入る。留学生の授業料は、アメリカ人の7~8倍に設定されている。クラスによっても授業料に違いがある。年間の必要ユニットを取得するには何クラス取ればよいか?自分のゴールを達成するための最短最低費用のクラスはどれだ。自分の懐具合と、カリキュラムをにらめっこである。

おばちゃん、麻雀はやったことがないが、上がりにはいろんな「手」があるそうね。上がるだけを目的にして、安い牌だけ集めても大した報酬になるわけではないそうな。

当たり前だけど、自分の後半生がこのクラスに左右されるわけだから何の手で上がるか考えようよ。誰もが取れるCommnicationの手は安いよ。

恋愛と永住権

おばちゃんは、金髪に惚れるなと若い子に教えていたが、アメリカ人と結婚して永住権(グリーンカード)を取ったとしても
グリーンカードはアメリカで安住して暮らしていけるパスポートではない、と繰り返し言った。

ビザしか持っていない間は、安心して滞在できて仕事を選べる永住権が欲しくてたまらないが、永住権を手に入れたとしても、永住権が食と職を保証してくれるわけではないのである。

手に職をつけること、スキルを身につけること。看護婦は職が安定しているし、会計士も固い。文章能力が高いならパラリーガルもねらい目だ。

結婚することと、自分の能力を磨いてスキルをつけキャリアを積むことは別物だ。
結婚したからといって、スキルもいらない日銭を稼げるだけの仕事になぜ流れるのだろう?誰でもができる仕事はすぐ見つかるが、すぐに無くなる仕事でもある。

リーマンショックで一番先に夜逃げしたのは、ネイルサロンだった。たった1か月のネイル・スクールで身に付けられる技術で一生食っていけると思うのがおかしい。

あなたが仕事を首になっても家や車のローンを助けてくれる親や親族はこの国に誰もいないのだ。学校に戻れるうちに戻れ、と。

兵隊さんと一緒に学ぶ

簿記には全く興味はなかったが、将来のために登録した夏クラスは首尾よく取れた。
ところが、どうもクラスの場所が分からない。
コミュニティ・カレッジの住所と違う。学生課に聞いたら、やっぱり学校内ではなくて。近くの空軍の施設の中であるのだそうだ。

家の近くをドライブするとどこからでも見える大きなドームのある空軍ベース。
大統領が西海岸にやってくるときエア・フォース・ワンはここに降り立つ。かまぼこ型ドームは、規模がよくわからないほどデカく扉が開いていると、ヘリが飛びながら入っていくのだが、おもちゃのように小さく見える。

このベースの中で簿記のクラスは行われるのだが、最初の日はとても緊張した。ベースの入口は何も遮るものがない一本道で両側に関所がある。ゲートのバーが開いているので、そのまま通行する。帰りはゲートに車の列ができていた。おばちゃん、皆なんで止まっているか分からず、辛抱強く待っていた。

ゲートの直立不動の兵隊さんの横で、前の車がいったん停車しすッと出て行った。おばちゃんもとりあえず兵隊さんの横で止まる。それから車を出すと、兵隊さんの後ろにいたちょっと違った制服の兵隊さんが物凄い形相でわめきながらおばちゃんの車の前に飛び出てきた。

「なんでお前は止まらないんだ!」
おばちゃん、超怖かったが殺されてはたまらないので「だ、誰も止まれって言っていないよ?」
「お前間抜けか?こいつが止まれのサインをしてるだろうが!!」と直立不動の兵隊さんを指さした。

兵隊さんは、相変わらず直立不動でただし、左腕を斜め30度左下に差していた。
これが止まれ?そんなもん知るか。おばちゃん、ビビってたけどムカッついて

「サ・サ・サイン?それが止まれのサイン?
世界共通なの?私ボディサイン知らない」

エライさんは虚を突かれた顔をしてIDを見せろと言った。そしてぶっきらぼうに”行け”と言った。
おばちゃんは震えながら車を出した。ゲートで止められたのはそれ以降ほとんどなかった。

簿記のクラスの初日は50人くらいは入れる教室が満室で座れない生徒は、後ろで立っていた。私の前の生徒はどう見ても高校はでてます!兵隊やってます、というクールカットの襟足も青いお兄ちゃんなのであった。

観察すると、あちこちに兵隊さんらしいのが何人もいる。除隊したときに困らないように簿記を取るとしたら正しい判断である。

先生のテリーは複式簿記(Double Accounting)というのはなんでも2回記帳するのだ、2つの項目にまたがって記帳するとどっちかが間違ってもすぐわかるから。この2重記入が近代の会計を大きく変えたのである。

お前たちはこれから同じ数字を2つの項目に何度も何度も記帳することになる。DebitとCreditという二つの言葉で混乱せぬように。教科書とワークブックを用意して、チャプター1を読んでくるように命じた。

教科書は電話帳より厚くて重かった。ワークブックも同じお厚みがある。夏休みのたった6週間の間に、この教科書を全部済ませるのだ、できるか知らん。
チャプター1を読み通すのに辞書を引いたが、日本語辞書の経済用語はおばちゃんをますます混乱させた。


2回目の授業でテリー先生はDebit(借り方)Credit(貸方)という言葉に惑わされるな。
簿記では2つの言葉に英語の意味はない。ラテン語でDebit Creditというのは左側右側という意味だ。いいか、英語の意味を忘れろ。左側と右側だ。

なまじ英語の意味に囚われなかった(英語が染みこんでいなかった?)私はテリー先生の言うことを丸のみにするのだった。

クラスメートは軍人さんを含めてアメリカ人だったからどうしても丸のみにできない生徒もいた。
Debit借り方は ネガティブ借りじゃないか、どうして増えるとプラスになるんだ?Credit貸方はプラスなんだから増えればプラスだろ?なんで下がるわけ?
どうしても言葉の「意味」から離れられなかった生徒は最初の1週間でごっそり減った。

クラスの50席はところどころ空き始めた。テリーはものすごい有能な先生だった。教科書を解説して宿題を答え合わせしていく。生徒を指して行く。この答えは?次、この時のCreditは何を意味してる?次、、、。
次から次へ生徒を指して、生徒が分かりませんというと、何が分からないと質問し、口ごもるとすぐ次の生徒に飛んだ。1時間半の授業の間、緊張が途切れない。

宿題量もものすごい量で終わっておかないと、次の授業では置いてけぼりになってしまうので土日を全部つぶしてもワークブックをやった。テリーの言う通り、同じ数字を何度も何度も書くので人差し指はあっという間にペンだこができた。
毎週、生徒が減っていく。生徒が少なくなると、ますますテリーの質問が早くめぐってくる。質問に答えられてホッとすると前の席のお兄ちゃんの頭が目にはいる。

兵隊さんの頭の地図はすっかり見慣れて白人でもぶつけて怪我をすると、傷がハゲになるんだな。とか、うなじの白い肌にニキビができるとみっともないね。先週より増えたかも、とか。

ファイナル・テストの前になると、生徒はたった7人になった。もう、3分ごとに質問があてられる。
一秒も気が抜けない。最後の週のファイナル・テストが終わるとテストの点数なんかもうどうでもよくて終わってくれたことが嬉しかった。

おばちゃんは、このクラスのせいですっかり体力を使い果たし腱鞘炎と膀胱炎になってしまった。

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