熱い人

中伊豆で園芸用の土を買い来年の春用のマーガレットの苗を買って、でもおじちゃんはいい葉物の苗がないという。
三島の園芸店で買ったブロッコリーは一番元気がよくて三島のお店に寄りたいという。

三島の園芸店は敷地の半分がメダカ屋さんになっていて、えらく高そうな金銀のメダカがひしめいている。あとから来たお客さんが店主らしいおっさんにパンジーやビオラはまだないの?と聞くとおっさんはオヤッということを客に言った。

奥さんね、ほかの店ではビオラがもう出てるのは知ってるの。あるのよ。でも俺は売らないの。なんでかっていうとまだ気温が高いのよ。いまビオラやパンジーを買うと1週間で2倍に伸びちゃうよ。冬の花は気温が20度を切らないとダメ。だからうちにはまだないの。

おばちゃんは2人の会話を背中で聞いていてふう~んと思った。2週間前にビオラを植えちゃって、ひょろひょろを伸びた
茎を見るととても来年まで持ちそうになかったから。

おじちゃんの白菜の苗をお会計してもらうときに思い切っていろいろ質問してみた。

おば:パンパスが欲しいんだけど。

おっさん:パンパスの植え時は、春だぁ。

おば:じゃあ、春に買う。

おっさん:仕入れてもいいけど根つくかどうかわかんないよ。修善寺から三島までだいたい同じような気温だけど、
5度を切ると根つかないかもしれない。ダメなものはダメなんだね。土地には土地にあった植物があるんだ。

おば:なるほど。

おっさん:それとね、昔と気候が違っちゃったのよ。夏の気温が半端なく高くて、、。生活も変わっちゃったのよ。今の若い人は共稼ぎでやっと家を買って、庭に庭木を植えてももう手入れができないでしょう?

夏の庭は暑すぎて水もやれないし。だから、庭を造る人がいなくなって年間で2000店園芸店が閉店してるのよ。うちも昔は売り場が倍の広さだったんだけど、縮小したのよ。

おば:(は~ん、それで半分メダカに宗旨替えしたんだ)じゃあ、気温が高くなっちゃってるから、冬のお花はいつ買ったらいいの?

おっさん:11月だね。11月になったらいろいろ入るから。

おば:私はヒューケラがすごく好きなんだけど、うちの庭にはどうしても元気よく育たないの。どうしてだろう? かんかん照りがだめだから垣根の根元に植えたの。

っさん:土壌でしょう。ヒューケラは木の根元に植えたがるのよ。みんな。でも木の根元っつうのは根が張ってるのよ。ヒューケラが根を伸ばせないのよ。

おば:!なるほど!
(20年物の満天星ツツジの根元は根が張りまくってておばちゃんは浅くしか植えられなかった。)

おば:でもうちの庭は西日がかんかんに当たるので、日影がいいとおもったから。

おっさん:ヒューケラはね一ぺん根つけば、西日くらいへーき。土壌が大事なのよ。

おばちゃんは、今までの疑問がぱ~っと溶けて植物を熱く語るおっさんに目を見張った。

おばちゃんはこれまでなん十株というヒューケラを買い、写真に映えそうな苔の生えた溶岩石の根元だの、桜の根元だの、シダと苔が張った山際だのに植えてきてことごとく失敗して枯らしてきた。

園芸店でヒューケラを買い足してそのたびに、また、そいつ?とおじちゃんに嫌味を言われながらそれでも私はヒューケラが好きなのよ、さし芽で増やそうと2年頑張った。庭のどこかできっと育つはず!!!と懲りずに植えてきた。

親父の代から数えると、60年園芸店をやってるという。気候と社会が変わっちゃって園芸への情熱を半分メダカに移さざる得なかったおっさんに敬意を払って、おっさんの店に通うことにしよう。

実をいうとメダカも好きだ。
おじちゃんとおばちゃんは結婚した後に5年以上熱帯魚に入れ込んでいたから。

春先に植えた時と3分の2のサイズになってしまったヒューケ。アジュガを半分抜いてヒューケラのナーゼリーにしてみた。

ここは山の土じゃなくて園芸用の土でできてる場所なので、多少日当たりは悪いけど回復してくれると信じたい。

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