女性上位

うちの猫は代々女性上位だ。
小柄で女王タイプのお母ちゃん猫に小心な息子。
おっとりして臆病なお兄ちゃんにきっつい釣り目の妹。

コタツがセットされて大喜びで潜りこんだお兄ちゃん猫の後から、気の強い妹が続いて入った。テーブルの脚がゴンと鳴り天板がバコンと動いて、お兄ちゃんのアメショーが追い出された。
子猫の時に一緒のツグラに寝ていたのに仲良くコタツで丸く眠れぬものか。

家じゅうの一番居心地が良い場所、夏なら涼しく風が来ないところ。冬ならあったかく静かなところ。今日も寒いのでこたつの中は一等地である。妹の紫音が天下を取ってコタツで長々と紐状で伸びている。

この子は子猫の時に、頭がいい天才猫かと思った。うちに来て自分の名前とパタパタ(猫じゃらし)という言葉をすぐ覚えたので歴代では一番賢い子じゃないかと思った。しばらくしたら化けの皮がはがれた。

自分の欲望だけに素直である。
遊んで欲しいときはパタパタを咥える。近づいておばちゃんの腕をトントンする。抱かれるのは死んでも嫌。膝には乗らない。
ところがオフィスでデスクトップを起動させると、キーボードを踏む。踏ん張って動かない。ちぎって捨てても床からよじ登ってくる。ずりずりとモニターに体をこするので、重たいブックエンドが落ちて、床に避難させていたアンティーク風ランプを割った。大損害である。

優雅な肢体から想像ができない程食い意地が張っていてアメショーのご飯をとるのがうまい。ものすごいスピードで自分のお茶碗からご飯を3分の2食べる。それから隣で食べているアメショーに近づく。

アメショーはいつもおっとりと味わいながらご飯を食べるのだが、舌なめずりしている妹が近づくと食欲をなくしてベッドルームに逃げてしまう。
紫苑はお兄ちゃんのお茶碗に顔を突っ込んで、たっぷり残ったご飯を全部平らげる。それから自分の茶碗に戻って残り3分の1を食べる。アメショーの倍ご飯を食べるのに痩せてスレンダーだ。運動量がすごいせいもある。全身筋肉でできてますねぇ、と獣医さんが感心してた。

リビングのキャットタワーでアメショーが寝ていると、小柄な紫音がのっそり近づいてどけという。アメショーは抵抗もせずにシオシオとタワーを降りてベッドルームのキャットタワーに落ち着く。くつろいで毛づくろいしているアメショーに、紫苑がまたやってくる。とどけという。お兄ちゃんはうろうろと家をうろついて落ち着ける場所を探す。うちで唯一のソファの下でぺったりと寝ていることがある。あまりにもしつこく紫苑が付け回すと、たまに切れる。

伏せ耳で妹にとびかかりトムとジェリーごっこが始まる。オフィスからリビング。リビングからベッドルーム。ものすごいスピードで紫音が逃げ、床が鳴る。紫苑がついにリビングのおばちゃんが寝そべっているコタツテーブルに逃げ込んできて、お兄ちゃんに追いつかれて首をかまれる。
ギャウンと紫音が一声鳴くと、おじちゃんもおばちゃんもお兄ちゃんアメショーを叱る。

お嬢様が止めてって言ってるじゃないか。鼻息荒いお兄ちゃんアメショーは、ベッドルームに引き上げてふてくされて横になる。アメショーは紫苑を本気噛みしているわけではないが、紫音はわざと大げさに悲鳴を上げる。困ったときだけはお嬢さんになる。その他の時は王女様だ。女王は?無論おばちゃんに決まってる。とにかく紫苑は家中が自分の縄張りだと思っている。

アメショーの天(テン)は不憫な子だった。
うちに来た時からウイルス性の風邪をひいていて、耳の感染症も頻繁にかかるので病院に行くことが多かった。一時期、感染症が重篤になりすぎて熱が42度まで上がって抗生物質の注射と服薬では収まらず、このままでは助からないと思ったおばちゃんが、大丈夫か、病院に入院しようかと言ったら、おばちゃんの目を見て一声「ニャン」と鳴いた。

天はうちに来た時から風邪気味で声が出なかったからほとんど鳴かない子で、声を聞いたことがなかった。獣医に連れて行って、注射では助からないから点滴でお願いしますと2日入院させて、大枚が飛んで行った。

成長期にそんな病気がちだったから、自分の名前を呼ばれても反応しない。ちょっと頭が悪いかもしれない。鳴かない子だが、治療でも暴れないしおっとりして獣医には評判がいい。天ちゃんは、すごくいい子です。去勢手術の前には、キャリアでぐうぐう寝ていたそうでクリニックでは「大物」と呼ばれている。

写真写りがやたらいい。いつ写しても絵になる。紫苑は、、?
紫苑は写真に写らない。動きが速すぎてブレしか撮れない。たまに撮れると、ラクダかロバに似ている。写真をお向かいのおばちゃんに見せたら、嫌だ、ほんとにロバみたいと言われたからやっぱりロバに似ているのだ。

天はそこそこ健康になったがやっぱり今でも鳴かない。
妹から逃げてベッドでくつろいでいるところに、おばちゃんがそっと近づき、手のひら全体でゆっくりお腹をさすってやると股を広げてゴロゴロいう。気持ちがいいと、左手がパーに開く。開いた水かきのところに指を突っ込んでモミもみするとブッホと鼻を鳴らす。ウイルス性鼻炎で鼻の通りが悪くなったのだ。

一応、天はおじちゃんの息子、紫苑はおばちゃんの娘ということになっているが二人とも抱かれるのが嫌いだし、息子・娘の自覚があるかどうかわからない。
とりあえず今日も女性上位で紫苑の天下だ

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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1件のコメント

  1. 天ちゃんも普段は温和でも、堪忍袋の緒が切れての行動なんでしょうね。。この二匹の猫の毎日の様子が目に浮かびますが、可愛いでしょうね。。

    私の義兄も動物が好きで、猫を2匹飼っていて、ブリティッシュロングヘアのワルドと、雑種のマービンです。マービンは元々野良猫でした。どちらも雄なんですが、ワルドはおっとり箱入り息子で家の中でただゴロゴロしています。マービンは元野良猫なので、絶対に外に行きたくて、夜中に出ていって朝方まで帰ってこなかったりします。他にも3匹ぐらい本当の野良猫にも餌をやっていて、結局合計で5匹です。その5匹全員にチップを入れて、いつでも家に出入りできるようにしているそうです。ワルドが野良猫たちから攻撃されそうになると、マービンがその間に入って守ってあげているそうです。義兄の所は物凄く寒い所なんですが、その猫たちは寒さは平気なようです。

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