ケンカの達人 ジョイス

アメリカで戦い方を教えてくれたのはいろんな人だった。なかでも親友のジョイスは、アメリカ人にどんなふうに交渉すればいいか目の前でお手本を見せてくれたときもあった。当て逃げのアメリカ人を通せんぼして止めたのも彼女だった。

ジョイスは客家系の台湾人である。中国人がケンカをするとき、相手のしゃべるのを聞きながら自分もしゃべり、双方同時にしゃべりながら言い合いをする。相手もジョイスもしゃべるのを止めない。自分がしゃべっているのに、相手の言うことを聞いているの?聞いてる、とジョイスは言った。
中国人は特殊だと思う。

普通のアメリカ人も同時にしゃべり倒して言い合いをしているのはよくある景色だった。相手のしゃべることをたぶん聞いてはいるが理解していない。
おばちゃんも、何度も相手と言い合いになった時があり、その中でふと相手が何を言っているか聞こうとして、自分のしゃべりを止めると、、負ける。

150センチあるかどうかの小柄なジョイスが、大きなアメリカ人に一歩も引かず、相手の矛盾をつぶしていきついには相手が黙ってしまうのだった。

私がかかりつけ(PCP)ドクターにアポを取りたいのだが、電話をしても受付で予約がいっぱいで2週間先になると言われてしまった。と愚痴をこぼすと、ジョイスはもう一度電話をしてこう言えと言った。If somethinge happen on me, Dr. A is all responsible under the law.私が教わった通りに秘書に言うと、秘書はエマージェンシー料金を25ドルもらうがいいかと聞き、次の日に予約をねじ込んだ。やれば、できるじゃないか!

とにかくPushせいと言われた。色んな所で、いろんな人がPUSHしろ言った。物事を動かすためにはPushが必要。
Fightともいわれた。この場合のファイト/戦う は物理的に争うことではなくて、自分の立場を明確にし自分の立場をサポートしてくれる意見や証拠や人を固めて、正義のラインを自分の方に引き寄せること。

保険の査定や契約違反や交通違反で捕まった時や行列に横入りする奴をはじき出すときも戦う。戦って決着がつかなければ、法廷に行って解決が気に入らなければ、結局コブシでカタつけるいると言うのもまたアメリカだった。

遅刻の達人

ジョイスは約束の時間が守れなかった。”貴方が来れる時間に”って約束するのだけど、約束の時間に間に合ったことがなかった。サンフランシスコで1度、ラスベガスで1度、飛行機を遅らせたことがあるからたぶん治らないと思う。

渡米して最初の年にESLで知り合ったのだが台湾系の客家だった。その時点で彼女は20年ほど住んでいたので、英語のおしゃべりに不自由があったわけではなく、文法がダメとか英文が書けないとかの自覚があったみたいで、カレッジの作文クラスや文法のクラスをとっていた。ただし、ファイナルまで受けてクラスを終了することはほとんどなかった。

何故かというと彼女の親戚たちは学校の試験時期などお構いなしに訪ねてきて、そうするとジョイスは親戚のおもてなしが最優先になってテストをほっぽらかす。学校の事務局からはこれ以上ドロップするクラスが増えるともうクラスの登録さえ許さないと最後通告を受けていたが、どれほど止む得ない理由があったかと窓口で力説するので事務の方が根負けするのだった。

電気ガスなどのユティリティの支払いは請求書を受け取って期限までに支払えないので、ガス電気水道アソシエションなどすべてのハウスホールドにかかわる支払いの窓口(地上オフィス)の場所を知っていた。

期限当日に請求書をもって窓口まで行くから約束のレストランで待っていて彼女が走ってくると、まず、なぜ遅れたのか事情を15分は聞かされる。誠実な人柄で信義に厚いのだが、時間と納期だけは守れない。

旦那デービッドの愚痴やガールズトークなどおばちゃんの英会話は彼女で鍛えられたようなものだった。レストランでご飯を食べ2時間おしゃべりをしてそれ以上テーブルを占領するのも申し訳ないから外に出て、駐車場で立ち話で話していると、アメリカ人のティーンががやがやと側を抜けてファーストフードに入り、出てきたら同じティーエージャーが同じ場所に立っておしゃべりを続けている私たちにあきれて、女ども早よウチ帰れ!と言われた。

ある時はショッピングモールのフードコートで待ち合わせ、さんざんおしゃべりをして周りのテーブルにも人がいなくなり、モップを持ったジャニターが掃除を始めても動かず、でも膀胱の方が満タンになってきたので二人で御手洗いに行ったら用をたしている間にトイレも電気が消された。

フードコートにはもう誰もいなくて無論電気も消えていた。キャー怖い!と私が言うとジョイスは前はどこそこのモールで閉じ込められたと言っていた。出口の鍵はまだかかっていなかったので助かった。

家族とか親族とか友達にはとことん尽くす。アメリカ人に理不尽なことを言われたら、こう言いかえせとかこう戦えとか、アメリカで生きていくためには何をわきまえて何をすればならないのか教えてもらった。ただ、時間は守れなかったけど。

直伝の餃子

ジョイスは客家出身で台湾経由でアメリカに来たから、ジョイスが作る餃子が中国人の伝統餃子だと断言はできない。ある時、夕食に招かれていたので時間に行ったら大慌てで準備中だった。若きおばちゃんは料理が嫌いではなかったので、一緒に作ろうと言って手伝った。

餃子の具や包み方は家それぞれの伝統があるのだという。ジョイスは白菜を微塵に刻んでいた。ボールの白菜を短い時間電子レンジにかけ、ギューッと水を絞った。
味付けの塩や調味料を入れた。(ここはよく見てなかった)ひき肉を混ぜて白ワインを少し足した。台湾だったら紹興酒なのかも。ネギも玉ねぎもニラもニンニクも入れない。

焼き方はフライパンで蒸し焼き、鍋貼だった。もしかして私のことを考えて、あえて鍋貼だったのかもしれない。出来上がった餃子は唐辛子ソースオイル?HotOilをつけて食べる。酢醤油は付けないの?と聞いたら酢醤油って何?とそういえばレストランでも酢醤油はないもんね、。

ジョイスはFreshなおかずはいつ作るの?と私に聞いた。FreshFoodsが分からない。いろんな角度から話して分かったことは、ジョイスは家族全員がそろっている日曜日に大鍋いっぱいのスープを作る。これが今週のスープ。それと何種類かのおかず。

で、次の日はスープを温めておかずを温めて、目先を変えてスーパーの蝋肉(チャーシュー)を買ってきておかずに追加したりするらしい。

はぁ、そうかそれで分かった。このさっきから何だろうと思っていた黒いチャーシューは何回目かにチンした中華スーパーの蝋肉(チャーシュー)だったのだ。私もよく買ったけど、買った当日は赤っぽいのね。何回かチンすると黒くなってくるのだ。

油の使用量も質問がかみ合わなかった。ジョイスは1月に30リッター缶を何缶使うの?と聞くのだが私は3~4か月に500ミリを1本使うかなぁ?と答えたりしてお互い質問が間違って聞こえてるのだと思っていた。ジョイスはその時下の娘が3人家にいたから5人家族で多分30リッターの油を2~3缶使っていたのだろう。


お互いの食文化が違いすぎて信じられなかった。だって、ほうれん草のお浸しは塩を一つまみ入れて茹でると言ったら、えっ?青菜は油を入れて茹でるものでしょう?と返事が返ってきてお互い驚いた。

ジョイスの家はきれいだったけど、この油の使用量のせいで中国人の住んだ家は買うものじゃないと言われていた。インド人のキッチンもスパイスが染みつくので同じく買うものじゃないと言われていた。

まぁ、ジョイスみたいに今週のスープとおかずを週末にまとめてお料理をするのがどれほど中国的に伝統的一般的なのか分からないけれど、二人でおしゃべりをして夜の9時に帰ってもジョイスはチンすれば家族に夕食を出せるわけでそれが女二人でゆっくりおしゃべりできる秘密だったのだろう。

純白のジャガー

ジョイスの前の旦那は台湾人で母親が宝石商だった。乗っていた車がジャガーで、ジョイスは何かジャガーに特別な思い入れがあるようだった。

中国人も韓国人もベンツ大好きなのに?ジョイスはあくまでもジャガー、白のジャガー。

デービッドが乗っていたのは古いホンダでジョイスはBMWだった。ホンダが限界になりとうとう真っ白なジャガーを買った。ジョイスのBMWはデービッドに下げ渡しになり、普段はジョイスがジャガーを運転していた。

ある時二人で旅行社に行ってバケーションの相談をして外に出ると、ジャガーの周りをポリスが取り囲んでいる。運転手はお前か?と聞かれデービッドがそうだと答えると登録証を出せという。

ポリスは登録証をパトカーに持ち込んで照会を掛けた。さらにポリスはこの車はお前の車ではないといい、押収するから車から自分の持ち物を出せといい、トランクも開けてテニス用具だとか荷物を全部下ろさせた。レッカー車を呼んで引いて行ってしまった。

その頃には、モールのにいた買い物客も野次馬になって眺めている。
デービッドは何を言ってもポリスに相手にされず恥ずかしさと困惑でわなわな震えていたという。物静かな人が、。

タクシーで家に帰って電話をかけまくると、ドジをやったのはローンを組んだ銀行だと分かった。ディーラーから買って名義変更を忘れたのだ。ジャガーを取り戻さねばならない。

真っ白な新車のジャガーはその時、ポリス御用達しの露天のジャンクヤードに放置されていて、引き取りに行ったときは、新車のボディに擦り傷がつき運転席はドロドロに汚れていたという。

デービッドは激怒してとにかくドジをやったのは銀行なので今月のローンは絶対払わないし傷ついたボディを何とかせい!と抗議していた。名義変更を忘れるのもアメリカよね。

先日、これまた物静かでホントにいいひとだったSさんが荒れ狂って一枚の写真を公開していた。家の中がハリケーンが通ったみたいにひっちゃかめっちゃかになった写真。
奥さんと一緒に家に帰ってきたらドアが開けっ放しで惨状が見えたそう。めちゃくちゃにしたのはFBIだった。隣の家と間違えて家宅捜索したんだって!

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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