前略、越後製菓 様

もと日東製菓の「味千両」を販売してくださってありがとうございます。
なんというか、老舗の一家のお父ちゃんが放蕩して家業をつぶして一家離散のところを越後製菓が2代目の息子を引き取って養ってくれているようなありがたさというか、。

「味千両」は私の生まれ故郷に工場があり、子供のころから親しんできた大好きなあられです。
遡ること50年前、うちの中学校では夏休みにフィールドトリップとして山奥のキャンプ場で2泊3日のキャンプをする伝統がありました。ボーイスカウトの厳しいおっさんの罵倒と叱咤指導のもとにキャンプ設営が終わったころから、天気がおかしくなり夜半に入ると近づいてきた台風の暴風雨圏に入ったのか、大変な吹き降りでテントも吹き飛びそうになりました。

生徒は雨風と不安で眠れませんでしたがそれは教師も同じだったようです。深夜まで論議を重ねてキャンプは中止の結論を出したようで、翌朝に全員撤収の発表がありました。

キャンプ場はゴロタ石ばかりで眠ろうにも背中が痛く飯盒炊爨のご飯はひどい味。撤収が決まってうれしかったのですが、1年生230人の接収バスがありません。
帰宅予定は3日目の午後なのですから、一日早い撤収にバス会社も配車ができなかったようです。なんと徒歩で中学まで帰宅行軍ということになりました。

季節は夏なので八甲田山のように生徒がばったばったと死んじまうことはなかったのですが、何せ山奥で有名なキャンプ場なので里まで50Km以上はあったはずです。
クラス別に2列縦隊で山から徒歩で降りて来たのですが、急な撤退で飲み物食事も十分でなく前夜は暴風雨で生徒もほとんど寝てません。

朝からとぼとぼ歩き続けながら午後の3時ころにはみな疲労困憊していました。
教師がここで休憩、と指さす場所は工場敷地でした。川沿いの広い敷地に大きな岩が転がっていて、そこに生徒がてんでに座り込みました。きゃしゃで体力がなかった私はひざから下が熱をもって足がだるくてたまりません。工場には日東製菓の大きな看板が見えました。

ここがあの「味千両」と「サラダあられ」のちの「サラダ・セブン」を作っている工場なんだと思いあたりました。
もしかして、工場長が台風でキャンプを中止し徒歩で帰宅せねばならないかわいそうな生徒たちを気の毒に思い、元気づけに「味千両」あられでも配ばってくれるのではないかという私の「卑しい」希望はもちろん実現せず、230人を快く休憩させていただいただけで日東製菓さんに今でも感謝しています。

その後私は大学で横浜に出て東海圏から外れると「味千両」は関東のスーパーには売っていないのがショックでした。あられロスです。


ほろほろと崩れ程よい塩加減で袋を開けると止まらなくなる究極のあられが「味千両」。それがいきなり人生から消滅してしまって私は非常に絶望しましたが、割と好きな物に執着するタイプなので、その代わり「サラダあられ」があって救いになりました。

結婚してアパートにまぎこんできた野良猫の息子も、サラダあられの「醤油味」がお気に入りでした。平成になったばかりの頃、思い立って猫ともどもカリフォルニアに移住しました。

どんな日本食が手に入るかわかりませんでした。
まともな日本食がなくても、おばあちゃん自家製の紅ショウガか、ふりかけの「のりたま」があればとにかく食える。思い切って丸美屋食品に手紙を書いて、カリフォルニアでも「のりたま」が手に入るかどうか問い合わせたのですが、返事がきませんでした。
んで「のりたまふりかけ」と「サラダあられ」を引っ越し荷物として送りだしました。

心配したものの日系スーパーはありました。サラダあられもありました。ただし在庫が切れるといつ入ってくるかわかりませんでした。売り場にあったら買う。そこが勝負です。


日本から肉製品の輸入は禁止なので、好きだった日本のソーセージのシャウエッセンも食べられず、そのうちシャウエッセンの味も忘れてしまって、どうでもよくなった2010年前後、お菓子売り場に忘れもしない黄色とオレンジの袋「味千両」があるではないですか?

夢かと思って2袋買って帰って、奇跡の入庫なのにたった2袋を買って私は何をやっとるか?とまたスーパーに引き返して売り場の「味千両」を全部買い占めました。 次にいつ入荷するかわからないから。
それっきり2度と入荷しませんでしたが、。

買い占めた「味千両」がなくなると名残惜しくてパッケージの日東製菓の住所を切り取りました。次の日休憩時間に日東製菓のお客様相談室相手に、自分がいかに昔から「味千両」が好きで愛してきたかを切々としたため、航空郵便で日本に送ったのでした。返事は半年ほどたって忘れたころに来ました。

平成が終わるころ、帰国して静岡に落ち着きました。
「サラダあられ」あるいは「サラダ・セブン」はスーパーにあったりなかったり。オンラインでいろいろ調べてみるとなんと!日東製菓がなくなったと?!バブルで投資に失敗したらしい。オンラインで「サラダセブン」を買いあさりました。

ある日地元のスーパーでレジに並んでぼんやりしていると、レジ横に特設!越後製菓コーナーがありました。赤が特徴の越後製菓のラインの中に黄色とオレンジのデザインの「味千両」 があるではないですか?迷わず全部買い占めました。

袋の裏の製造会社を見てみると越後製菓となっていました。
越後製菓があの日東製菓の「味千両」を拾って保護していた!
捨てる神あれば拾う神あり。ありがたや。

私の勝手な想像ですが、こんなんではなかったでしょうか。
老舗の日東製菓さんはバブルの投資に失敗して、会社の清算という苦渋の決断を下した。が、その製品プロダクトラインすべてを閉鎖・廃版にするには社長はじめ工場長、事務員に至るまで身を切られるようにつらかったに違いない。


殿、せめて「サラダあられ」と「味千両」だけは生す手立てはないものでありましょうか?

同業他社の皆様、卒爾ながら情けをかけてはいただけぬか、
越後製菓、武士の情けじゃ。手を挙げてくだされ、弊社がお引き受けいたそうぞ。
かたじけない。しからば ここな「味千両」のレシピと工場長を新潟県に、、、、。
工場長、(涙、涙)われら日東の遺志をついでたもれ。
かしこまってござる、長として一生をかけ「味千両」を守りぬく所存。
恐惶敬白
~~みたいなことがあったのかもしれない。

それからは私はオンラインで「味千両」を12袋箱買いして非常に満足であります。再び巡り合った「味千両」は50年前と同じようにほろほろと口の中で砕け軽くて繊細なあられの傑作なのでした。
ただし、塩が昔と少し違う気がする。

越後製菓様、
「味千両」は「まま子」のような存在かもしれません。越後製菓コーナーに味千両が置いてあるのはまれ。あっても売切れればほとんど補充されません。生産量が少ないのかもしれません。よその子ですから。それでも老舗の粋を引いた直系の製品ですから末永く生産をつづけてやってください。
お願いです。

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