ジョイスと知合ったのは、カレッジのグラマーか英作文のクラスだったと思う。
アジア系が多いクラスで、韓国系と台湾系がグループを作り、頭は悪くないが性格が悪そうなグループだったので、おばちゃんは輪には入らず、一人で机に座っていた。
ジョイスは常に遅刻してくるので、私の隣くらいしか席が空いておらず、自然と話をするようになった。彼女はその当時でOCにはすでに20年くらい住んでいたと思う。達者にしゃべるのでなんで今さらグラマーなんか取るんだろうと、思った。
英語が達者にしゃべれるのと、ちゃんとした英文が書けるのは別の能力らしい。
たしかバーバラ・ボクサーが副社長を務めていた保険会社でしばらく働いていたそうだが、ミーティングの後にリポートを書いて出せといわれて、書くのがものすごい苦痛だったのだそうだ。
それで、学校に戻ってグラマーでも取ってみようかということらしかった。
だって、あなたペラペラしゃべれるじゃない、そのまま書けば?と言うのだが、なんか構えてしまい文章にならないのだそうだ。
超おしゃれな教師のマッディ・ベンソンから、エッセイの書き直しを7回もさせられて、うんざりしてジョイスに愚痴をいうと、金持ちマダムの台湾系には愛想がいいのだそうだ。
ジョイスによると、クラスが終わった後に台湾系マダムに取り囲まれて、社交クラブのような会話を交わし、マッディの方からマダム夫の職業を聞いたりするらしい。それで金持ち風のマダム生徒には作文にも意地悪な批評をしないという。
おしゃべりをしてて来週の宿題を聞き漏らしたりするので、家に帰ってくるとまたジョイスから電話がきたりする。レストランに行ったり、お互いの家に行ったり長い付き合いになった。
一言でいえばガールズ・トークである。
ジョイスはセレブ大好きゴシップも好き、ブランド好き。旦那もイケメンで、女のプライドと面子をものすごく大事にしている。
おばちゃんは頭の中にちっちゃいおっさんを飼っているので、ジョイスが語るガールズの半分もわからなかった。お互い全く性格が違うので、見栄の張りようもなくおばちゃんは見え透いたお世辞を絶対言わなかったので、彼女は空振りすることが多かったかもしれない。
だって、ねえあたしはいくつに見える?って聞かれたところで子供を4人も生んで下の子がそろそろ中学生なんだから、年相応に見えるねと答えるのだから、ジョイスは不満だったろう。
おばちゃんはとにかく将来に向けて、アカウンティンングやコンピューターのクラスをとるようになったのだが、ジョイスは過去にアカウンティングに挑戦して、玉砕したらしい。
ねえねえ、収入はcreditで増えればプラスでしょ?費用はdebitで増えればマイナスでしょ?
お金で考えればね。でも数字だけで考えるとDebitでもプラスになるし、アカントによってはcreditでもマイナスだし、先生がラテン語でcredit左側debitは右側という意味だから、借りとか貸とかの意味を考えないほうがいいんじゃない?
と言うと、自分には理解できないトリックが私に理解できるのがすごく理不尽で不満のようだった。
Excelのクラスをとると、ねぇrelative cellとAbsolute cellとどう違うの?
Absolute cellはuniqueな特定のセルのことでrelativeの場合はどこでもいいのよ、計算式をコピーしていくときに便利だから。
だ・か・ら、relativeって何なのよ。
ねえ、中国語でもエクセルの参考書があるでしょ?中国の本屋さんで売ってない?と言うとおばちゃんより英語が達者な自分がなんで、中国語の参考書なんか今更読まないといけないんだって、憮然として口を利かなくなる。
ジョイスから電話がかかってきて、あそこで会いましょう。ねえ聞いてほしい話があるの。
ねぇ、聞いてこの頃デービッドの帰りがすごく遅いの!
デービッドは不動産エージェントである。おばちゃんの家の売買もデービッドがエージェントをやってくれた。手数料を友達価格で1%くらい負けてくれるんじゃないかと期待したのだがきっちり3%だった。
なんでもオフィスに新しい女の子:ビビアンが入ったらしい。エージェントの勤務時間はあってないようなもので、客の都合でいくらでも伸びる。
デービッドが遅くなるからと言われて、ベッドルームに上がって待っていると、ガレージがあく音が聞こえ、そのあとリビングでデービッドが話している声が聞こえるのだという。それでベッドルームから出て、階下を覗くとデービッドが若い(ジョイスよりは)女と親しげにおしゃべりをしているのだという。
11時過ぎに、同僚・上司の家のリビングに入り込むか?ジョイスはカッカと血が上った。夜も遅いし、パジャマだしとにかく早く帰らないかとイライラしたという。
中国女は藪をたたきまわったりしない。そのままズバリと問い詰める。
ねぇ、あの女は誰?ーービビアン。
なんで家まで連れてきたの?ーー 帰り道の途中でコーヒーでも飲むかと思って、。
何をあんなに親しげに話していたの?ーー 仕事と会社の話、。
あなたどう思っているの?ーーー同僚
デービッドは台湾軍のパイロットだった。若くて輝かしいイケメンだった。
ジョイスも若くて美人のうち?だったので、自分の求て婚者としてはデービッドは及第だったのだが、簡単にOKして安い女に思われても悔しいので、じらしてじらして追っかけれやっと落ちたふりをしてプロポーズを受けた。
中国男はまめだ。
全部とは言わないが、デービッドは夢見る女の子のジョイスの期待に訓練されたのか、誕生日にはカードを贈るし結婚記念日には映画のようなサプライズをするし、ジョイスのロマンティックな女のプライドとメンツを十分満たしてきたのだったが、なんせかつての美貌のジョイスも50を過ぎたし、デービッドだって相応の年だったし、
ちっとばかし、若い女性と刺激的なおしゃべりだってしたくもなるだろうな、とおばちゃんは思ってた。
ジョイスは全く納得していなかった。
それからジョイスの呼び出しは、ビビアンのとデービッドの話題に限られてきておばちゃんは正直うんざりした。
ねぇ、聞いて!あんただったらどう思う?どうしたらいいの?
夕べもビビアンはデービッドとおしゃべりをしていて、
ジョイス:He was flirting with her at the downstairs.
おば:はぁ?He was floating with her at the downstairs?
ジョイス:No, not “floating”. F・ l・ i ・r・ t ・i・ n ・g He was flirting with her!!!!!
その頃の愛読書はJames Herriotだったので、おばちゃんはflirtingなんて単語とは無縁だった。牛や犬はflirtingしないからな。学校では習わなかった単語を沢山ジョイスから教わるのだった。
ねえ、あなたは私の立場だったら、いったいどう思う?
どうしたらいいの?
両手を胸の前で広げるので、その拍子にワインとかサングリアとかのグラスを倒す。
Oh!っつって、ナプキンでぬれたテーブルを拭きながら、
うちのおじちゃんは、ビビアンなんか連れてこないしFlirtingする根性なんかないから。
どうすればいいかと、聞かれたので、こうすればどう?と答えたのだが余計火を注いだみたいで
ジョイスは返事なんかまったく聞いてなくて、ひたすらビビアン、ビビアンと呪いの呪文のように繰り返すので往生した。
デービッドはこのごろMaking love してくれないのよ、と女のメンツをかなぐり捨てて憤懣をぶちまけられると、おばちゃんにはお手上げだったのである。
最近、「ライトはつく?」コピペを見つけて、これだ!と思った。
おばちゃんは、解決法を提案するんじゃなくて、ひたすら聞いてあげてジョイスに共感すればよかったのか?
でも「Sorry for you」なんてもし言っていたら、プライドの高いジョイスは絶対憐れまれたと思って許してくんなかったと思う。
男なんて馬鹿だ!と言っておけばよかったのかな。
