アリスの穴

Alice In Wonderland

アメリカにはアリスの穴というのがある。不思議の国の不思議の穴。
おばちゃんが勝手に名付けた。

不思議の国のアリスがおっこちた摩訶不思議なトラブルの穴である。
日常のそこここに開いており落っこちると大変な目にあう。どうしてこんなミスが起きるのか腹が立って抗議をしようとしても誰のミスかわからない。何故自分に起こるのかもわからない。何もしないと事態は悪化するし無垢の本人がなぜか時間と忍耐力と金を費やさないと解決しない。自分以外のミスが原因なのに誰も謝らない。

なんで私がこんなことをしないといけないの?抗議の声を上げても周りの人は、さりげなく視線を外すだけ。
ああ、あるよねこんなこと。とりあえず自分ではなくてよかった。他人はほっと胸をなでおろす。

●例えば、50万ドルが差出人不明で自分の銀行口座に振り込まれるが、振り込み人不明だから銀行に口座凍結をされて自分の預金さえ引き出しができなくなる。

●永住権を持っているのに移民局がデータベースの個人記録をビザからグリーンカードへ書き換えるのを忘れてビザが失効して身分がイリーガルになっちゃったとか。

●車のローン付き売買契約を銀行がやったのだが、所有者の書き換えを忘れて、たまたまポリスが車のプレートをスキャンをして盗難車扱いされてしまい目の前で車を持っていかれてしまうとか。

●家の手抜き工事を修復するはずなのにガレージの壁に穴をあけられてしまうとか。

●ガソリン車なのにガスステーションの従業員がフルサービスを申し出てディーゼル油を給油されて車が動かなくなってしまうとか。

●行ったこともない遠方の街での駐車違反の罰金請求が来るとか。

●病院の支払い請求書が前の住所に送られてしまい不払いで債権回収会社Collect Agencyに債権が回されてしまい取り立て絵の電話がくるとか。

とにかく何気ない日常でいつもの生活が続くはずなの突如ぽっかりと地面に穴が開いていて落っこちてしまう。

怒りのあまり憤然と電話をかけまくっても担当者が捕まらず、手紙を書いても返事が来なくて弁護士の力を借りないと解決しなくなるまでこじれる。まったく自分は悪くないのに。

郵便局の窓口で「いったいどうしてくれるんだお前らのせいだ。お前らがやったんだ」とお兄ちゃんが頭から湯気をだして怒っていたのを見たことがあるが、きっと大事な郵便がアリスの穴に落っこちてダメになったのかもしれない。

だからアメリカの郵便局なんか信用してはいけなくて大事な書類はFedex かUPSにすればよかったのだ。
窓口のおばちゃんは謝れと言われても自分のミスじゃないと思っているので謝らない。窓口でもめても待っている行列の迷惑になるばかりだしミスの犯人さえわからない。文書で追及しても返事が返ってくるのかさえもわからない。

I need to talk to your supervisor.と叫び続けないといけないのもこんな時である。責任者を呼びつけても何がどうして起こったかは分からないのである。誰も責任を取らず降りかかった災厄は何日か何週間かpain in the assとなってキリキリと痛むのである。これがアメリカ

アリスの穴がアメリカにはどこにでも開いている。便利なサービスにも便利でないサービスでも、超金持ちでも貧乏人でもシステムに開いた穴にすっぽりと落ちる時がある。

坂本龍一さんがニューヨークの病院で検査結果を伝えられていなくて治療が遅れたことを非常に憤慨なさっていた。もっともであると思う。

検査室かドクターかそれともチャートやメッセージを伝達を頼まれたナースがチャートを忘れたのかもしれない。えらいことを忘れるもんだ。でも起こるのである。
偉大なるアーティストの深刻な病の場合なのに穴に落っこちてつくづく運が悪かったとしか言いようがない。

おばちゃんが日本に帰国して5年たった。
アリスの穴には出くわしていない。一度だけクレジットカードの金額のケタを入力し間違えられた時に取り消しと再入力があったが、その場で訂正をしてくれて担当者は気の毒なほど憔悴していた。


かつて現役だったころおばちゃんは自分でもお客の金額を間違えてキャンセルしたことがあるので何とも思わない。People do mistakes, so don’t you? 
従業員が20ドル前後の売り上げを2万ドル(ぼ~っとしてて2回同じ数字を入力した)で切ってしまったときはヤバくてキャンセルが大変だった。

日本では山の家のエアコンの取り付けも作業員は予約時間に来てスムース に取り付けられたし、洗濯機の買い替えの場合もトラブルのカケラもなく済んだ。光ケーブルの設置も滞りなくインストールされた。夢のようだ。


この国のトラブル値はものすご~く低くて日常生活はストレスがなくて本当にスムースだ。修羅場がやってこない。一年に何度も修羅場やがけっぷちに立ったことがあるおばちゃんにしてみると平和すぎてボケそうだ。


突然のけたたましい電話で、
「ねぇ、聞いて。うちのキッチンのカウンタートップが壊されたの!」
「へぇ?またなんで?」という会話がなくなってしまって刺激がなくなりすぎたかな、と近頃思ったりする。

アリスの穴がない日本に乾杯!

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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1件のコメント

  1. 仰る通り、海外の生活では間違いが多かったりスム-スに事が運ばなかったりでストレス多いですね。私自身も今、健康保険のカ-ドが何故かキャンセルされていたので、また写真をスキャンしたりして申請して面倒な事になっています。

    大抵の事は間違いがあっても我慢できますが、医療に関してだけは困ります。なので、やはり医療は日本が一番安心できるように思います。坂本さんの件は知らなかったのですが酷いですね。

    サービスを受ける立場としては、日本は楽です。お客様は神様ですから。。でも、逆に自分がそのような職種で働くとすると、日本は完璧を求められるので、きつすぎると感じるかもしれません。例えば、自分がス―パ-のレジで働くとか、タクシ-や運送業の運転手として働くとかは欧米のそれよりも大変なのではないでしょうか。しかも他の国々よりも賃金は低い。実は、最近日本に一時帰国していたのですが、あるデパ-トで、中年の男性が大声でお店の人に文句を言っているのを二度見かけました。どちらのケースも、物凄い大声で、Situationでした。あのような状況だと、欧米だと逆にセキュリティーの人を呼ばれてしまうのではないかとも思いました。日本と欧米の中間あたりのサービスでいいのかもしれないなと思ったりもします。

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