生き延びる

アッコちゃんが窓の外を見ながら、ぽつんと言った。
「ああ、あのアスファルトを均している人だって、資格や技能を持ってて仕事をしてるんだよね」

外の駐車場はアスファルトの敷直し最中でローラー車両に乗ったメキシカンが熱いアスファルトを均しているのだった。駐車場が半分使用不可能なので、客は来ず暇だった。

おばちゃんは、アッコちゃんが言うことが痛いほどわかった。好きな国で生きていくためには、何か技能がいるのである。

好きな仕事か、やりがいがあるのとか、そうでないのとか、、そんなこと以前に、ちゃんと雇われてお金がもらえる仕事が必要なのである。雇ってもらえる技能、仕事がもらえる技能。安定して暮らしていける仕事。

アッコちゃんは多磨美の卒業だったから、フォトショップもイラストレーターも扱えるのである。デザイン関係ならどうなのよ。と何時か聞いたことがある。
「私くらいの才能はその辺にいくらでもいるんです」

アッコちゃんはその後ウチをやめ、サポートしてくれる会社を見つけて、グリーンカードを取った。アメリカのビジネスの新陳代謝はとても早い。時流に遅れてた会社、時流を見ていない会社は消え新しいビジネスは生まれるが、いつまで持つか誰も知らない。

親方日の丸にすり寄っても、本家の長い不況のために営業所を縮小したり、いつ完全撤収してもおかしくない。ヤマハも人を減らし、リコーは突然アトランタに移転をした。家を売ってついてこれない従業員は首。

そしてまさか、世界のトヨタがテキサスにヘッドクオーターを移転するなどとカリフォルニアの従業員は誰も想像もつかなかった。日系社会は動転した。家を売ってテキサスに引っ越すか、やめるか。外地の将来はいつも真っ暗。先は読めない。

グリーンカードは取れたけど、アッコちゃんは結局接客業を選んだ。
人が好きなのだ。コロナのパンデミックの中、死んだほうがまし!くらいの苦境に立たされたことは想像できる。できれば逞しく生き延びていて欲しいと思う。

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