小説・Kちゃん

登場人物は現世で息をしているいかなる人類とも全く関係しておりません。架空の駄文です。

K世「ねぇ、Kちゃん。明日ママはお昼からお休みだから二人でランチしましょうか?」
K「いいね、ママ」
K世「会社に近いから恵比寿駅で待ち合わせしましょう?」
K「うん」

恵比寿のレストランで
K世「Kちゃん、何がいい?」
K「う~ん、これは何かな、なま、なまショウ?なまが焼き? てん、てんなんだろう?」
K世「あら、Kちゃんどうしたの?」
K「これなんて読むの?なまがやき?」
K世「あら、いやだKちゃん、ショウガ焼きじゃない。それは天婦羅」
K「これをショウガ焼きって読むの?変なの。」
K世「変って、Kちゃん、、」
K「だって、ママ、僕小学校までしか日本語を習ってないじゃん。知るわけないじゃん。」
K世「そうね、Kちゃんは英語でお勉強したんですもんね。
あれ、でも恵比寿って読めるのよね。日本で生活しているから漢字は自然と覚えるのね。Kちゃんはやっぱり頭がいいから。」

K「ママ、駅名はみんなアルファベットが書いてあるんだよ。これからは英語の世の中だから、日本語なんか読めなくていいんだ。日本語なんか読めなくてもアナウンサーがいるじゃないか。」

K世「そうよね、Kちゃんは英語ができるんだから日本語なんか読めなくてもいいのよね。あら、でも日本の大学はどうしたらいいのかしら?やっぱり、入学試験は日本語で書いてあるのよね?Kちゃん、日本語が読めなければ日本の大学はどうしたらいいの?」
K「ママ、大丈夫だよ。帰国子女枠で入ればいいのさ。俺って頭いいだろう?」
K世「まあ、Kちゃん。そのとおりよね。頭いいわね。」

K世、Kちゃんが帰国子女~♡ 帰国子女の単語にうっとり。
「じゃあ帰国子女枠を狙いましょう!」 

K君、ICU教養学部に帰国子女枠で首尾よく入学
K「あ~、かったりい。日本の大学ってかったりいわ。漢字ばっかりじゃん。漢字って画ばっかりあって書くのが面倒くさいし、読み方がたくさんあるし。こんなん書いてられっかよ。英語なんか26文字しかねえのに。
そういえば、あいつがおんなじクラスを取ってたからレポートを写させてもらおう。俺ってやっぱり天才!」

教養学部だし、教養があればいいんじゃん。おれ英語読めるしさ。日本の大学、ちょろいし。ほ~れ、出席してレポートを出してれば卒業ができるから、教養学部だし。

日本語が読めなくて教養学部卒業でも、M子と付き合ってれば就職はバッチシ。
ちゃ~んと三菱UFJが用意されてんじゃん。ほら俺ってビッグだから。

三菱UFJ
K:やっべ、法人営業部だって。俺、何をしゃべればいいの?
営業用の資料を読み込まないといけないじゃん。
あちゃ、なんじゃこれ。漢字だらけじゃん。
辞書を引くのがかったるい。辞書を引いても経済用語ってさっぱりわからんわ。和英で引いたらいいんか?俺は英語ができるんだ、英語で言えよ。英語で!

Kの教育係
あ~K君、これはA社の去年の財務表だから読んどいて。
K「ざい・む表? かな。かす?かり?なんだこれ?」辞書、辞書!
たい、たいしゃく?なんで“たい”って読むんだ?たい・しゃく・たい・しょう・ひょう? 
舌が回らねえな。なんだよこのじゅげむみたいな日本語は!英語で言えや。和英辞書。Financial Statement の一つでBalance Sheetsだと。Balance Sheetsか、よく聞くじゃん。
で、なんて意味?

つぎ行こ!
そん・えき・けいさんしょ、お~読めた。簡単じゃん。
税引前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失
あ~、目がちかちかしてきた。漢字ばっかりだから。俺はやっぱり普通の日本人より英語ができるからこういうものがあってないんだ。Profit & Loss Statementほらな。英語なら簡単だろう!Depreciationってなんだろう?

Kの教育係:
センパ~イ、あいつは一体何なんですか?教えてもわかってるのかわかってないのかさっぱりわかりません。あいついったいどこの大学を卒業したんすか?
上司:あ~、K君か?ICUの教養学部だ。
教育係:ICU? 教養学部? ICUの教養学部がこんな銀行でなにしてんすか?
上司:知らん。俺に聞かんでくれ。上から押し付けられた案件だから。K君には触らんでいい。

2年後 三菱UFJ法人事業部
部長:K君は今月付でやめることになった。部長以下、バンザ~イ

奥村総合法律事務所
所長「本日からパラリーガルとして働いてもらうことになったK君だ。
英語が堪能で優秀な人なので、よろしく指導してやってくれ。」

K「よろしくお願いします。」
先輩パラリーガル「こちらが資料部で民法、刑法、商法と法律別に分かれています。弁護士の先生方が必要な資料ですのでリクエストがあったら揃えて渡してください。こちらは契約書や訴状のテンプレートです」

K「・・・・」
げんこくだっけ?そ・に・ん?そにんって読むの?どっちがPlaintiff?
またかよ。わけのわかんない漢字を使いやがって。

K、デスクに転がっている六法辞典を手に取る。
えっ?ひらがなが載ってないじゃん。漢字だらけじゃん。アリンコみたいな黒いのがみっちりつまってんじゃん。これ、中国語だろ。日本語で書けよ。
あ~、頭いてぇ。目が滑る。

俺は本来パラリーガルじゃなくてあっちにスーツを着て仕事をしている弁護士がふさわしいから。所長も彼女の親も俺があっち側になるべくおぜん立てしてるから、こんな仕事は俺の仕事じゃないんで、いずれは弁護士!
やっぱ~俺って天才だよな。今日はM子と待ち合わせ!

お待た~。夜学さぼっちゃった。ほら、M子だって喜んでるし。一橋のビジネスローを取ったら、ニューヨークで弁護士になることになってるから、楽勝。学校はかたちをつければいいのさ。

弁護士「K君、この間の資料が間違っていたから。」
K「あ~、はいはい、さーせん」
俺はゆくゆく国際弁護士や。お前ができない英語ができるからイエ~イ。ニューヨークに行ったら本気を出す。

F大学LLMコース
M子のとうちゃん差し回しのニューヨークの現役弁護士たちが俺に付きっ切りで教えてくれるんだぜ。やっぱ、俺ってビッグだろう!M子愛してるよ。

なんか、アジアンが学校をうろうろしてんな。メディアかもしんね。俺クラスで質問しちゃお。目立っちゃう。ほ~ら、俺流ちょうな英語をしゃべってんだろう?日本人は英語をしゃべるだけで弱いからな。

6月:やった、卒業した。おっしゃ~弁護士試験受けたったった!
あんま、わかんなかったけど、なんとかなるっしょ。やることはやったかんな。そろそろキメないと。M子愛してるよ。

10月一時帰国
なんかウルサイおじさんがいっぱいいるから役所にキメたほうがいいな。
「Kです。はい、手ごたえがありました。」ーーほう、さすがですね。安心しました。

ほ~らな、。ちょろいぜ。あと2日後に試験発表だけど、これだけキメればいいよね。あとは結婚!けっこん!

今日は本番。
10月26日
私はM子さんを愛しております。
いぇ~い。俺ってかっこいい?決まった?

私はM子さんを愛しております。
Kすごろく、あがり!

背景を追加 ———————————————————————-
実をいうと、おばちゃんはもう日本語が書けない。
キーボードがあれば日本語の文章は打てるが、紙とペンではもう日本語の文字が書けない。手が動かないからだ。帰国してから自分の名前と住所は書く練習した。

日本語で文字を書くという習慣がなくなって何十年も経つと、手が動きを忘れてしまう。
漢字などと高度な知識の問題ではない。ひらがなが危ない。
特に「な」「の」「ぬ」「ね」の文字はどっちの端がくるっと回るのか怪しくなってしまうのだ。
「じゃが芋」と日本語で手が戸惑うよりpotatoと書いたほうが早い。

それはアメリカで暮らしていた周りの日本人もみな同じだった。
メールに難しい漢字を使わないでください、わかんないですからとか。
同じ漢字圏出身の台湾人のサマンサやジョイスでもやはり数年で中国語が書けなくなった。書かないでいるとさらに文字を忘れて書けなくなってしまう。

使う習慣のない能力は数十年といわずに、数年で廃絶してしまうのだ。言語として英語の能力がものをいうアメリカ社会であったから、日本人が日本語を書けなくなってもなにも生活に問題はなかったのであるが、。

最初にK君の学歴と経歴を見たときに、それは行き当たりばったりで彼は一体何を目標に教育を受けたのかさっぱりわからなかった。
彼の教育は英語圏で英語をもとに生きていく為にはまるで中途半端。
日本社会で日本人として生きていくには壊滅的。

いったい誰がこんな教育をしたのか、まるでめちゃくちゃだ。

アメリカに暮らしている間に、日本人が様々な年齢の自分の子供を連れて移住してくるのを見た。小学生の子供を連れて移住する人。中学生を連れて移住する人。大学から移住した留学生。アメリカで子供を産み育てるひと。それらの様々な年齢の子供に現地で日本語教育を施したかどうか、親がそれを手伝ったかどうか。

子供の年齢や母国語の教育課程を観察すると言語教育の完成度によって、その後の外国語(この場合は日本語)能力に大きな違いがあるのがわかる。

また母国語が母国語として根付いていない年齢で言語圏が変わると、どちらの言語でも「本」を楽しんで読む習慣がない子供が多くなる気がする。どちらの言語でも文章を書く能力が低い。聞いてペラペラとしゃべることはできるのだが。
うちの子はおしゃべりばっかりで、という知り合いのお嬢さんは聞いていれば確かに日本語のおしゃべりである。だが、漢字熟語や日本語の素養がわかる単語は出てこない。

日本でインターナショナルスクールに子供を入れる親は卒業後に母国に連れて帰るか、母国で大学教育を想定していると思う。

ところが自分の「あこがれ」だけで、日本人のKをインターナショナルスクールに入れてしまった。母国語である日本語の教育は家庭でどれだけサポートされたのだろう?
K君の英語の優勝論文を読んで高校生の作文と評されるのも彼のちぐはぐな教育の結果ではないだろうか。多分どちらの言語でも彼は高度な論理を文章として展開することができないのかもしれない。

母国で生活するにもかかわらず母国語の教育をしないという言語教育はとんでもなくいびつでると同時に母国に適応できない人間を作り出す最短の道かもしれない。

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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1件のコメント

  1. 例え10代の頃からずっと日本の学校が英語で更にF代のLLMとJDを出ていても、外国で教育を受けた人のNYBE合格率はかなり低い云々の記事が週刊誌には出るんですよね。海外の人たちは特に、彼の教育は日本のではなくて英語の方が得意なのをわかってないので、外国人だから難しいのだろうぐらいにしか思っていないみたいです。

  2. 桐島洋子氏の長女かれんさんが、「自分は日本語も英語もできるが、
    深いことを考えようとするとどちらの言語でも足りない。
    だから、子供たちにバイリンガル教育を施そうとは思わなかった。」
    と書いていたのを読んだことがあります。
    桐島家とK家の家庭環境の差や母親の知性の差を考えると、
    K君はもっと壊滅的であり、自身で気付くこともできないのではと
    思われてなりません。

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