紫音

ラクダと呼ばれた紫音

おばちゃんの弱点は猫だ。
10月に天が亡くなってから、紫音の鳴き声は半端でない。
おじちゃんがトイレに行ったと鳴き、ベランダに出たと鳴き、おばちゃんがキッチンに行ったと鳴く。

午後4時になると、テレビの前に出てきて明後日のほうを向いたまま鳴く。紫音の鳴き声は、道路からも庭からも聞こえる。この子が初めてさかりがついた時の鳴き声も、夫婦二人でうろたえるほどうるさかった。山中の雄猫がウチの家に寄ってくるのではないかと本気で心配した。
さらにこの子の運動能力の高さ。運動量。体全体が筋肉でできているようなムチみたいな細見の体。ジャンプ力は半端でない。

この猫種が今の日本で人気がなくなったのがわかる。とても街中の集合住宅で飼える猫ではない。最初は兄弟猫で来てもらおうかと考えていたのだけど、そうしなくてよかった。家がボロボロになるところだった。

その子が午後4時になると鳴く。
力いっぱい鳴いてアタシをかまえと。
ごはんはいらない。遊べ!
猫じゃらしで2時間。人間様は飽きてしまう。休憩!とコタツに潜ると紫音はキッチンに行く。
カウンターに飛び乗って、置いてある猫缶のフタ、プラスティックのスプーンをお手玉して床に落とす。小さくて動かしやすいものはみな落とす。

こらっ、とおコタから叱るとリビングに戻ってきて鳴く。猫じゃらしを目の前まで咥えてきて落とす。遊べ。もう、お父ちゃんもお母ちゃんも飽きちゃった。コタツで寝なさい。
いや~~と鳴く。ほとほと疲れてしまう。

紫音はさみしがり屋の種なので単独飼いはそもそも想定してなくて、アメショーの天と同時にお迎えしたのだが、その天が亡くなって遊び相手も、話し相手も、猫仲間も無くなった紫音はストレスの塊。悲しいのはおばちゃんたちも同じ。一体どぉ~したらいいの?

紫音の性格ははっきりしている。妥協は許さない。嫌いなものは嫌い。やりたくないことはしない。自分が世界の中心で自分への愛を叫ぶプリンセス。

おばちゃんはそういう性格が嫌いではない。前のナナちゃんも性格は似たようなものでキツかった。そういう猫を好んで飼ったのはおばちゃんなので、自業自得なのだが。

単独飼いすべきでない詩音をこのまま一猫生を一人で生きさせるのは忍びない。
で、かかりつけの獣医さんは地域の保護猫を引き取っている方と猫を紹介してくれた。相性としては去勢の男の子のほうが良いというので、月齢が低い6か月の男の子をお試し同居で預かってきた。

白キジの保護猫を連れてきて、用意していたケージに入れると詩音はものすごいヒステリー。
ケージにかけた毛布の下から”おぼっちゃん”(性格がいいのでそういう名前だった)の一部が見えるとヒスる。ものすごくイラついているのがわかる。
ご飯を食べる量が減って、キリキリ走り回りお昼寝も全くせずたまにケージに寄って行って中をうかがう。興奮しきっていて精魂尽きたのか夜になったらおじちゃんの枕もとで爆睡した。よほど神経が張っていたのだろう。

次の日も同じ。
とにかくぼっちゃんが家にいることが許せないみたいだ。
ぼっちゃんは保護猫のお母さんが生んだ猫で兄弟5人のうちたった一人の男の子だったせいか、兄妹うけがよくおっとりといい子に育った。

とってもいい子。何匹も猫を飼ってきたおばちゃんたちが、一目ですなおでいい子だとわかる子。多分紫音以外の猫となら問題なく同居で暮らして行けたのではないかと思う。

紫音の鳴き声はマックスで、3日目にはおばちゃんたちの神経も擦り切れてきた。
紫音はもうボロボロ。イライラでソファーの背やカウンターに飛び乗ったり腹立ちまぎれにおもちゃに噛みついて振り投げたりする。嫌いなものはキライなんだと思う。
長く同居して慣れるというより神経が擦り切れることになるのではないか。おばちゃんたちが予想した反応とは違う。
天ではないからダメなんだろう。

もっと月齢の低い子猫だったらどうだっただろう。
しかし今は冬なのだ。子猫がわらわらと生まれる季節はまだ3か月も先である。
おばちゃんたちは疲れてしまった。どうしていいかわからない。おぼっちゃんがかわいそうなので、チュールと猫鰹節をつけて保護舎に返した。これだけいい子ならきっと里親が見つかるだろう。

おじちゃんに肩のり

というわけで紫音もおばちゃんたちもへとへとである。
買い物の帰りに百均に寄ったら、おじちゃんがゼンマイ仕掛けのネズミを買った。ネズミがフロアを走りだすと、紫音がびっくりしてソファの下でスタックしたネズミを捕ろうと必死。気に入ったみたい。しかしゼンマイ仕掛けはすぐ切れる。絨毯の段差が登れなくて止まる。
そこでラジコンのネズミを探して買った。届いたころには紫音は半分飽きていた。
タスケテくれ。春はまだ先。
書き忘れたが、紫音は肩乗り猫である。おじちゃんとおばちゃんの左肩は紫音につけられたバーコードでいっぱい。

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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1件のコメント

  1. 紫音ちゃんはとても綺麗な猫ですね。性格もお姫様のような感じなんでしょうか。

    でも、ネズミとか万が一お家に来たりしたら、やっつけてくれるだろうし、ネズミもよりつかないだろうから、良いのではないでしょうか。

    私の義母も義兄の猫を二匹預かっているんですが、ソファ-でテレビを見ていると二匹が右と左で義母の体に頭を載せて寝ているそうです。

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