田舎の片隅で

隠れ家っていいな。
「ぽつんと一軒家」が人気なのも、人里から隠れて暮らす隠れ家みたいな雰囲気が好まれているのではないか。

おばちゃんは隠れ家が欲しかった。堤防に生い茂ったススキの枯葉の間にトンネルを作るとか、竹やぶに段ボールでツリーハウスを作るとか。わくわくするじゃない。人生一回りしてまた隠れ家を作ってみたくなったんだね、それが5年前。


理想は、座っていて必要なものはなんでも手が届くちっちゃい家。年を取って自分で掃除をすると思うと大きな家は手に余る。階段を上ったり下ったりするのが嫌いだから平屋。

家が小っちゃければ光熱費も少なくて済む。自分たちの身の始末だけで大変なので、お客さん用の寝具は一切置かない。そういえばうちは椅子がない。友達や親族が泊まる時には貸し蒲団を利用する。夫婦二人と猫が安心して暮らせるだけの家でいい。

畑は欲しかった。
田舎暮らしのテレビ番組を見ながら野菜くらいは自給自足してみたかった。
“ちょっとおじちゃん、ネギを抜いてきて?”、とか
間引いた大根で味噌汁を作るとかね。おじちゃんもおばちゃんもそれぞれの生家には畑もあったのだが、二人とも草取りさえしたことがなかった。

農業素人がいきなり土を耕して野菜の苗を植えたところでまともな収穫があるわけがない。野菜つくりはそれほどあまくなかった。最初の年はベランダにプランターを置いてトマトを植えたほうがましなくらいだった。

周りは自然だらけなので、おじちゃんの畑の赤かぶや大根の葉っぱに虫が押し寄せ穴だらけになる。ブロッコリーの葉っぱも葉脈だけになり、つぼみができるどころではない。虫に食われないように不織布で覆いをしても土が固ければ大根は育たない。

大根は下に伸びるのね、土壌が粘土質だとダメみたい。アスパラガスの根っこは畑の水はけが悪いので腐ってしまった。きゅうりの苗は少し育つと枯れてしまう。トマトはやたらと伸びる。

枝豆だけはバカ当たりした。2年目からは出来が悪いので、ビギナーズラックだったみたい。日当たりは悪くないけど、土がなんか違う。雨が多いのはどうしたらいいの?台風は手に余るわ。

おじちゃんはブックオフで野菜作りの本を買い、「趣味の園芸」を毎週録画して見るようになった。うちのトマトが丈ばかり伸びてあちこち這いまわるのは脇芽を取らないせいなのだった。
おじちゃんは“もったいない屋“で庭木もトマトの脇芽も一遍伸びたものは切りたがらない。切ったら可哀そうという人なので、大根の間引きをするのも嫌がった。

園芸本でもテレビの園芸王子もトマトの脇芽は取れ!というのでおじちゃんも学習して、やっとうちのトマトがまっすぐ立つようになった。園芸店に野菜の苗が出れば植え時なのだが、山は4度気温が低いのでしばらく待っていると苗が売り切れてしまう。

それはならじと買って植えると雨が降って気温が下がって枯れる。おじちゃんがリベンジで何度もきゅうりと茄子の苗を買って植えた。スーパーで茄子ときゅうりを買ったほうが安くて速かったかもしれない。

野菜が育てばふたりの暮らしにきゅうりの苗が4本だと、7月にはきゅうりだらけになってサラダで食べきれないのでぬか漬けにする。食べきれず古漬けになる。

2年前がそうだったので、きゅうりの苗は時期をずらして植えたらどう?と言ったところ去年は確かに時期をずらして苗を植えた!にも関わらず、実ができるのは全部同時期だった。何故だ?自然の不思議である。

5年たってだいぶ野菜が取れるようになった。白菜・キャベツは無理。これは難しいよ!
梅干しも作った。ヤギや鶏を飼ってみたいと思うのだがテレビ番組で見るより大きな障害がありそうだ。鶏を飼うときっとヘビが狙いに来る。きっと来る。
おばちゃんはこの動物だけは嫌いなので鶏はあきらめざる得ない。ベランダでチャボを飼いたいなと思うのに!

ヤギは草取りをしてくれるそうだが群れの動物なので、一頭飼いはさみしがって鳴くのだそうだ。ぽつんというほど1軒家ではないので近所迷惑になりそう。草刈り機代わりに活躍してもらうつもりでも、11月から3月初めまでは雑草はないじゃないか?冬の間は飼料を用意してあげないといけない。この間のようにおばちゃんが入院してしまうと、おじちゃん一人では大変になってしまう。生き物は猫と金魚以外に手を広げないほうが良いようだ。

理想は他からコントロールされない生活。
シティのレギュレーションを満たして、ランドロードの要求を満たして、お客のリクエストを満たして自宅のアソシエーションのルールを守って。とりあえずルールを守ればなんということもないのだが、相手が勝手にルールを変えてくる時があるのだ。おばちゃんは長い間戦って疲れていたようである。誰かからコントロールされない生活がしたい。

コロナで人交わりも制限されてきたので山の生活は静かである。おじちゃんとふたりの生活。雪が降った翌日はあまりにもシンとして世界が滅亡したのかと思った。

2年前に蒔いたお茶のタネからお茶の木が生えてきた!ので大事に育てて自家製お茶を飲んでみたい。死んだと思っていたイチジクは息を吹き返し今年一つだけ実をつけたので、あと10日くらいで食べられるかもしれない。
日本の田舎はあちこち森も深くて隠れ家にピッタリである。

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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1件のコメント

  1. お家で野菜も作ると言うのは最高ですね。でも想像するよりずっと難しかったり費用もかかったりするのでしょう。紫蘇やネギ、茗荷、バジルなんかが身近にあるといいな等と思ったりしますが、私には園芸関係は無理なので諦めています。お宅にイチジクがあるのもいいですね。ジャムにしたりしても美味しいし。私の地域では、今旬の果物はチェリ-、アプリコット、イチゴぐらいで、桃やメロンも少し出てきましたが、イチジクはもう少し後になります。

    話がずれて申し訳ありませんが、輸入食品で毎日を応援のYOUTUBEで、DMのKMの記事についているコメント欄がコメントを受け付けないようになっていると言うことでした。ネガティブなコメントがあって、何か指示があったのでしょうかね。

    https://www.youtube.com/watch?v=UWBp5i4yFk0

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