伊豆路

“木曽路はすべて山の中”と藤村は書いた。

伊豆路は半分山の中。
駿河湾に突き出した伊豆半島はぐるりと海に囲まれていて、どこでも海~!と言いたいところだが、千葉や湘南の海岸のように長い砂浜が続いているわけではなく、気が向いたところで車を止めて海風に吹かれる、つ~のは難しい。海は絶壁の下。伊豆半島は海から険しく立ち上がっている地形なのよ。錦ヶ浦なんか、飛込の名所だったわけだし。

135号線は上下一車線でシーズン中はよそ見していると、渋滞に突っ込む。10メーター下の海に降りられる場所がほとんどない。
東の熱海からぐるりと半島をめぐる135号線は下田あたりまで延々と海岸線を走る。これは悪くない。旅情もある。カーブが次から次へと表れて、カーブを抜けると新しい景色が現れる。

伊豆半島で海水浴場は3つか4つしかないという。135号線を延々下田まで走ると、カーブを抜けたら有名な海水浴場だという入江が不意に現れる。隠れ里のお砂場のようだ。U字型のちっちゃな砂浜は右から左までよく見渡せる。たまたま角度と浅瀬があって奇跡のように砂がたまった貴重なお砂場。

どこもちまちまとしたこじんまりいた風景なので、半島をぐるっと一周してみたいと野望を抱くのも当然ではないか。熱海から下田へはよく走るわけだから、反対側から一周してみようと思い立った。

観光地図を開いてみると一目でわかることがある。
伊豆半島を蝮の頭とすると下を向いている左のエラ?(蛇の顔にエラがあるかどうかこの際おいて)には海岸線ぞいに幹線道路がない。何故無いか?という理由は考えなかった。

コロナで人交わりが限られてて地元の人と話す機会もあまりなかったから。
伊豆半島を西から一周するには首の付け根の西の起点を沼津として海岸沿いを東に向かって走ればよいではないか?幹線道路が一部内陸を走るにしても地元の生活道路はあるに違いない。

人の言うことを聞かず、まず自分でやってみるおばちゃんの性格が災いしたのである。道がないはずがない。蝮の左のエラあたりをGoogle地図を拡大してみると、ほ~らご覧海岸線を輪郭のように白い道路があるではないか。

おじちゃん、今日は伊豆半島を西からぐるりと走ってみるのよ。
おやつと飲み物を積んで、沼津から西に走り出したのである。

右手は海、左手は山。こちらのルートも西回りと同じようにちまちまとカーブが多い。駿河湾の波は穏やかではあるが、いきなりど~んと海が深くなっているので海の藍色も濃い。

ひなびた漁師町の風情。左の山は駆け上がっているので海沿いのわずかに平らな土地に家が建っている。そう、たぶんこれが原因なのだろう。海と山に挟まれて太い道路を造らず、住んでいる人も海岸沿いにちんまりとあるだけなので観光地としても発達するのが難しかったのかも。

美浜まではなかなか順調だった。波打ち際にあった町営の食堂も、新鮮なアジたたき定食はアジがプリプリで安かったから感激した。

それから17号線は不意に山の中に入ってしまって海の気配も感じられなくなった。高い山の中を走っているのである。海岸線を走るはずが山の中でナビのマップも一本道の線がず~っとあるだけ。一本道だけが映っているマップ。走るしかないではないか。


伊豆半島巡りなのに延々と山の中の一本道。センターラインなんかない。海はどこなんだ、どこに行くんだと言い続けてたまのカーブで茂みの切れたところから空が見えたりする。

はるか下に海岸がちらちら見え始めて、土肥温泉かしらと思いつつなかなか下に降りていかない。道はまた登りになったりぐにぐにと曲がりくねってやっと下り。こんなアクセスの悪い温泉に客がよく来るもんだと思ったら、清水港からフェリーで直接来られるのだという。なるほど。ついでに沼津港にも寄ってほしい。

土肥温泉から先は17号線が136号線と名前が変わって、また山に入ってしまった。
この辺からおばちゃんはやっと理解してきた。

伊豆の山は意外と険しく山襞が深い。海に近い平らな場所に集落ができる。次の集落は次の山襞の海岸沿いにあって、海沿いに道をつけるより、いったん山ん中に上り最短距離で山を走って、次の谷で次の集落に降りるという原理が分かってきた。

つまり海・集落―登り・山道を走るー下りー海・集落
はは~ん。観光道路というより生活道路だ。山以外何も見えないし。

沼津を出てからもう4時間近く走っているし、この先に恋人岬とかあるらしいが依然山を登ったり下りたりで、帰りも同じ時間ドライブにかかると思うといい加減走るのが嫌になってきた。


意気地なしと言われようが、暗いなじみのない山道を走る危険は冒したくない。戸田漁港まで引き返して帰ることにした。戸田漁港からは蝮の頭の頂点・修善寺まで向かってまた山の中である。

伊豆半島の東回り一周のはずが4分の1ほどでギブアップした。地元の人に聞くと一泊して一周するものだという。土肥温泉から回り切れなかったのは棚田で有名な松崎町。一番近い駅から歩いて6時間というキャッチの売りのモンキー海岸だ。

西伊豆は電車も走っていない。太い幹線道路もないこの辺から下田までは人のいる集落の付近だけ海に近づく136号線。人があまり行かないのは、行かないのではなく行けないのだ。理由があるのだと身に染みたドライブでありました。
それでも松崎町とモンキー海岸は一度は行ってみたい。

mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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1件のコメント

  1. 伊豆は景色が素晴らしいんでしょうね。私は、あちらの方面では箱根神社に時々お参りに行っていたぐらいなんですが、湖があってとても綺麗でした。熱海は写し方によっては、モナコの風景に似ていると言う人もいましたが、一度ゆっくり行ってみたいです。

  2. 雲見は海と富士山が綺麗ですよ。
    しょうふう亭は小洒落た民宿。
    お魚が食べきれない位ど~んと出て来ます。
    伊豆は何処に行って何を食べても美味しいですね。ハズレ無しです。

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