二つの故郷

「私が帰る二つの国」 ドウス・昌代(文春1985年)が昭和の末に出版されて
当時のおばちゃんも読んだ。40年近くたっても日米にまたがる人間の事情はさほど変わっていない。

確かにアメリカには次々に日本のビジネスが進出している。現地日本スーパーは日本の品ぞろえに近い商品が並んでいて100均だってできたから、物に関しては不自由ない。なんだったら楽天から転送経由で好きな物を買えばいいし。

不自由がないと言いつつ、選択肢がないのも事実。
南加の日本スーパーの売り場は、いまだに魚売り場がどこでパンがどのコーナーだったか思い出せる。何十年も通ってたわけだから、うんざりしていた気分も同時に思い出す。一番嫌だったのは、アジの干物。日本から冷凍で運ばれたアジの干物は、焼くとどうしても不快な冷凍臭があって、鼻に一撃くる。あれだけは嫌だ。It’s enough!

日本にも家が残っていて、好きな時に2国の家を行き来すのが“いいとこどり”の一番贅沢な2国の味わい方なのだろうが、庶民は働かねばならんのである。

稼いで税金を払って暮らす国と、たまに帰る(あるいは行く)国の日本。いいとこどりどころか、リップ・バン・ウインクルみたいのも珍しくない。子育てだって忙しいし。家族分のチケットを買えば一財産になるのである。
そうそう行き帰りできるかっての。

生活のために働いていると、あっという間に15年は経つ。
15年経つと、子供はアメリカのこどもに育って、日本の従妹とかおばあちゃんに会いたとかも言わなくなるし、日本語の敬語も無理かもしれない。結局自分一人で実家に帰る、骨休めのつもりで。

昔の友達はスケジュールを合わせてくれてうれしい。何から話していいか、生活の違いを面白おかしくべらべらしゃべると、楽しんでいてはいてくれるが、気が付くと彼女の生活とは全く無縁な別世界の話で上滑りしてるな、と心が寒くなる。

何が寂しいか言えば、日本の親友とは、アメリカで起こる問題は相談のしようもなくなってしまう。アメリカで起こるトラブルは起こる理由も処理の仕方も、日本の友達には理解の範囲外だから、愚痴をこぼすにも同感も得にくい。
この辺で40代の後半だ。

アメリカに帰ると、ああ、家に帰ってきたと思う。
けれどこの国が心の底から自分の国とは思えない。端っこにいさせてもらっているだけ。なんでも話す親友はこっちにもいる。同じ外国にいる仲間だから問題も共通で相談もできる。

生活に流されるとまた10年経ってしまう。
まだ、50代でも若いつもり。40代の延長だから。でも60代を過ぎるとリタイアは射程距離に入ってくる。体力的に不足は感じないけどあと何年このままでいけるか?60代後半になったら、健康に不安が起きたら?医療費がネックだなって。

おばちゃんたちの場合は、ビジネスの区切りがよかった。続けるとなるとまた10年契約になる。パートナーのどちらでも何かあると二人で生きるのが大変になるから。自分たちと猫が老後に安心して暮らせる隠れ家を用意しなきゃと思った。

日本移住の手配は大した問題ではない。売り手市場なら家はあっという間に売れる。
問題は心の始末のつけ方。

負ける気がする。日本に帰るのが負けた気がする。アメリカの社会でず~と戦ってきたから。負けたくないって。せっかく取った永住権を捨てることになる。

実際に帰国してみるとなんか肩の荷が下りてしまった。戦わなくていいのがこ~んなに楽だったのか。おばちゃん、いったいどんだけ戦っていたんだよ。と戦わなくなってから初めてずっと戦っていたんだと気が付いた。

アメリカに帰りたいか?と聞かれれば帰りたい。でも、アメリカには黒い土でできた庭と畑がない。四季がない。伊豆の穏やかな芳醇な自然にからめとられてしまって、この庭と離れるなんてできないと思う。

もう、私たちは人生の第三コーナーを回って、ホームに向かってる。
コレステロールの多い食事をしていたから、おばちゃんたちの寿命は、日本の平均余命よりきっと短いと思う。
どこの国でという問題ではなく、最後のゴールに向かってどんな走り方をするかが問題なの。


mikie@izu について

海外在住何十年の後、伊豆の山に惹かれて古い家を買ってしまい、 埋もれていた庭を掘り起こして、還暦の素人が庭を造りながら語る 60年の発酵した経験と人生。
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1件のコメント

  1. いつも更新を楽しみにしてる。
    >負けた気がする。
    とんでも無い。こんなに解り易くて楽しい文章を書く、mikie@izuさんが負けた気がするとは。
    いっそ小説かコラムでも書いたら如何だろうか?
    KK問題については、どこの週刊誌や情報よりも解り易く、丁寧に説明されてる。二人の小室のネーミングも洒落ててピッタリだ。

    コロナ禍で我々国民は税金を払い、高いガソリン代を払い、諸処値上げに付き合いこれからも暮らして行かなくてはいけない。

    お手ふりと宮廷費をしっかり貯蓄し、困れば我々国民の財布を当てにする、元宮妃と働かない旦那(もしくは働いて頑張ってるフリが上手い旦那)
    先々も周りの人間は苦労が付き纏うだろう。が、二人の小室はお構いなしだろう。
    遠い海の向こうで、周りの人間に細い目をつり上げ怒鳴りつける様相が容易に想像出来る。
    この一件でA宮は廃位でもよい位に思う人は多かろう。いい加減にして貰いたい。

    あの二人に春は無くとも、
    冬の寒さは春に花々が乱れ咲き、鳥が鳴きそして人々が外に集う為にある。
    春は未だ未だ遠いが、mikieさんのお庭は綺麗だろうな。
    拙い話しだが、いつも楽しく読んでる。

    将来の見通しも無いまま渡米したんだ。あの二人にとってビザはピザ位に軽いものだろう。
    しかも自分で買いに行かずデリバリー。
    ピザ切れで帰国に大いに賛成だ(笑)

  2. 私も、ジュンさんが仰るように、Mikieさんのブログ記事は分かり易く楽しくて、本やコラムにまとめられるといいと思います。例えば、週刊新潮などにコラムを持つとかされるといいなと思います (ビザの事も教えてあげて下さい)。

    本当に、仰るように海外から帰ってくると昔からの友達はいつでも会ってくれるんですが、話がかみあわないと言うか、昔のようには話せません。でも、ネットで日本のニュ-スはほとんど見ているので、私がそれを話はじめると、皆びっくりして、「何でそんなに知っているの?」 なんて驚いていました。KM問題については、皆ほとんど知りませんでした。それ程興味ないのかもしれませんね。

    私は2年に一度は一時帰国するんですが、主に人間ドックや胃腸内視鏡検査の為です。保険はきかないんですが、昔からかかっている腕のいい医師がいるし、看護士さんも丁寧だし、これは日本の方がいいです。私が住んでいるところは、アメリカのように医療費は高くないし、日本よりも安いくらいなんですが、なかなか名医にたどり着くのが難しいし、先ず主治医に行ってそこから各診療科を予約とか面倒なんです。少しの風邪ぐらいでは病院には行きません。救急はタダだし、保険で診療費はほんの少しで、眼鏡も(保険によって)カバ-されますが。50才を過ぎると色々な検査(胃腸や婦人科系)を受けるように通知がきますが、それもタダです。でも、夏のバケーション(冬のスキ-シ-ズンも)の期間はいい医師はほとんど残っていないとか、あります。兎に角、急に病院に行きたいと思っても予約が大変です。

    私にとって、医療は日本の方がいいんですが、日々の生活では不安が少しあります。先ず住居、暖房の事、食事でお肉屋やチ-ズバタ-が好みの物がないか高すぎ、有機野菜が身近にない、景観をあまり気にしない地域が多い、食洗機オ-ブン洗濯機など海外のようなものが普通の値段で買えるか不安。。ぐらいです。テレビのドタバタ番組も気になりますが、それは見なければいいだけなので。。これらは私が一人で不安に思っているだけで、日本に居る方々は、そんな事全然問題ないよ、と思われるとは思いますが。

    これから先、夫が退職したらもっと日本と半々の生活をおくれれば最高なんですが、そのためには貯金して余裕を持つようにするしかないと思っています。

  3. りんどう

    記事のアップありがとうございます。私もこちらのブログの的確な考察と穏やかでありながら的を得た、そして時にユーモアを交えた文章をいつもとても楽しみにしています。皇室関連のブログは多くあり、それぞれが工夫された発信ですが、こちらの文章は自分も落ち着いて考える機会を与えて頂いているように感じます。煽られるような怒りの感情は自らを毒するともいいます。まだまだ続きそうな小室夫妻の問題。冷静に、息長く見ていきたいと思います。(それでも怒りは湧いてきますが)

    在米中は日系スーパーで買った納豆がカチカチに凍っていたのを見て日本に帰りたくなりました。豆腐は現地の美味しい豆腐屋さんがありとても助かりましたが。また、美味しい紅茶の茶葉を見つけるのが大変だった事を懐かしく思い出します。美味しいコーヒーは沢山あるのに・・・
    勿論、今はもっと簡単に見つかるのでしょうね。また、安くて美味しいファーマーズマーケットは大好きでした。

  4. 永住権で生きてる邦人の思いを代弁してくださって感謝です。もちろん皆さん全員ではないでしょうが、リタイアという地点がちらついてきた頃から『どちらが自分の祖国なのか?』は頭によぎる問題だと思います。まさに私がここ数年考え始めた事でした。

    悩む問題はやはり医療ですね。去年こちらで腹腔鏡ロボットで手術を受けたのですが、日本で受ければ1週間の入院のところを日帰りだと言われていて本当に大丈夫なのか悩みました。やはり術後しんどくてその日には帰れることが出来ませんでした。術後忘れた頃にビルが来ました。おおよそのEstimateは聞いていましたが、なんと倍の金額、そして1泊入院諸々加算されて約$9000でした。個人の医療保険は一番高いプランを払っているのにもかかわらず、です。大企業やガバメントの保険でないとこんなもんなんですよね。しかも毎年2割づつ保険料が上がる!老いてきてだんだんあちこち支障が出ても、医療費は高い、主治医以外はいつも予約がいっぱいですぐに診てくれない!と、愚痴ってしまい申し訳ありません。

    どこの国でという問題ではなく、最後のゴールに向かってどんな走り方をするかが問題←ずっしりときました。
    私も記事を楽しみに拝見しています。

  5. りんどう

    日本の医療も専門性の高い病院と地域の開業医との連携が密になり、システムは上手く機能しているように思います。大きな病院の予約管理も進化して3時間待ちの3分診療も昔話になりつつあるのでしょう。個人的には「高齢者医療費限度額」制度は優れているかなと思います。年金などの所得に応じて設定される限度を超えた窓口での支払い額が後から返還される制度で、一度市役所窓口で申請しておくだけで良かったと記憶しています。勿論、対象は医療費のみですが(差額ベッドや食費は含まれません)、周りでも高齢の親の手術の支払い額が高額だったので助かったという話を聞きます。

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